Fragmental Memoir ~魔法剣士と神官戦士~ 作:藤城陸月
今回ログ・ホライズンの二次小説を投稿しました、藤城と申します。
前書きで話したいことは尽きないのですが、取り敢えず割愛して、後書きに回します。
それではどうぞ──────
一話 白黒の街に色彩を
頬を撫でる、冷たい風。
目に飛び込んでくる緑。
耳に入ってくる、喧噪。
匂いは……強いて言えば、自然の匂いだろうか。
──────激しい違和感。
舌が乾く。ゆっくりと唾を飲みこむ。
…………どうやら、味覚は正常なようだ。
ほんの少しだが落ち着きを取り戻した。
そのまま、思考を巡らせることで焦燥や興奮を抑えていく。
──────味覚が(多分)正常ならば、恐らく五感はまともに働いているのだろう。
…………と、すると。
白と灰色の街。時折視界に入る髪はアイスブルー。
鼻に入ってくる、鼻の奥がツンとするような、乾燥した冷たい空気。
耳を打つ冷たさは強く、体ごと千々になって彼方に消えてしまいそうに感じられた。
何時の間にか──否、
「──────ここは、何処だ?」
深夜。畳敷きの六畳間。
適温に保った明るい自室でパソコンの画面を覗き込みネットゲーム───古参のMMORPG、〈エルダー・テイル〉───をプレイする。
そんな日常を送る、自他共に認める廃人ゲーマーな男子高校生。
そんな自分に唯一つ分かるのは、これから先そんな『日常』に戻ることが出来ない、という事があり得るという事だけだった。
見知らぬ場所、見知らぬ世界。僕は、僕たちは気がついたら其処に、その世界に居た。
爆発音。
近代的な武器、兵器によるものではなく、『元いた世界』にはなかった魔法によるもの。
目の前の〈冒険者〉の一団に放った〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉に因るもの。
溶岩の宝玉、と訳される〈
紅蓮の火球を放つ広範囲攻撃魔法。
その火球は味方を避けながら敵の間を跳ね回り、次々とダメージを与えていく。
その特長上、使いやすく、人気も高い。
特に、敵味方が入り乱れている場面では非常に重宝する。
──────例えば今の様に。
「テメェ!!〈冒険者〉の癖に〈大知人〉の味方をしようってかァ!!」
──────そう、今の様に一方的に襲われている人を助けたい時などに。
僕の信条は基本的に事なかれ主義だ。
一人の人間に出来ることなど高が知れているのだから。
関係ない事に首を突っ込んでも、自分にとって利益になることなど無い。
普段の、『日常』の僕ならば、抵抗できない人が、暴徒の集団に襲われていても無視をするだろう。
だが──────。
「──────あ、そっか。
大丈夫っすよ。そこのお兄さん。
〈
──────〈ディスインテグレイト〉。
指先から物質分解光線を放ち、命中した相手のHP残量に応じて即死判定を行う。
その光を軽薄な口調で話しかけてきた男に命中させる。HPの低い魔法職で、レベルが低め。その上、先の〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉を喰らい、HPを減らしていた青年は死亡──────肉体が消滅し、所持していたアイテムや金貨が落ちる。今回の様に〈冒険者〉が死亡した場合は最寄りの神殿で復活する。
「───覚悟は出来てんだろうなぁ。〈
「分かりやすく、行動で示したつもりですよ」
顔を真っ赤にしてこちらを睨むリーダー格の大男。
物分りの悪い奴の相手はしたくない、とでも言いたげな表情で返す。
「いいだろう。……散っっ々痛めつけて、装備を全部剝がしてから神殿送りにしてやるッッ!!」
恐らく〈
人数比だけで判断すると勝ち目はないだろう。
『日常』の僕ならば、諦める。
それ以前に、このような局面に至るような下手は打たないだろう。
だが──────。
連中の注意が逸れているうちに、襲われていた〈大知人〉たちは壊れた馬車の中に幾人もの子供を匿う。
──────だが、自分の慣れ親しんだゲームの世界でぐらい、恰好つけてもいいだろう。
勝ち目が有るのならば尚更だろう。
──────別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?
…………なんてね。
──────自分が何処に居るのか。
その疑問は右手に握った杖を見た瞬間に氷解した。
〈エルダー・テイル〉。
世界中に愛好者がいる、古参のMMORPG。
その世界での自分、リベクスの持っている杖に酷似しているそれ。
見下ろすと、薄い青のロングコートが目に入る。
髪の色は、画面越しに見慣れたアイスブルー。
それらの共通項は、今、この時、自分が慣れ親しんだゲームの───または、ゲームに類似した───世界に居る、という事を明確に示していた──────。
取り敢えずだが─────僕は幸い(?)にして、この手のジャンルの小説やアニメなどは、かなりの量を『嗜んで』いる。ならばこの後、自分がどのように振る舞えばいいのかはなんとなく分かる。
ならば──────
「メニュー!!ステータス!!ヘルプ!!マップ!!フレンド!!─────」
自分がどのような状況に置かれているのか、の確認だろう。
その一環として、まずはゲームだった頃のメニュー画面などを確認すべきだろう。
…………簡単には分からないこともお約束だろう。
閑話休題。
なんだかんだで、メニュー画面が見れるようになった。
次にするべきことは、更なる情報の獲得、
詰まるところ、連絡。
メニュー画面から『
アルファベットやスラヴ文字で書かれた者は飛ばす。
今回は日本語で記された者のみでいい。
ログインしている人の内、こんな状況でも話せるような人は上から──────
───むしろお前が狂戦士。
───自己主張しない人。
───…………メンヘラヤンデレ。
───ゴエモン=サン。
───若旦那。
───狂戦……士?
───眼鏡・ザ・腹黒。
───中つ国に帰れ。
───ハーレム野郎。
───方向性の違いにより解散。
───狐で巫女なおねーさん。
───我らがご隠居。
───すごく……おっきいです。
───ソーシハイニンさん。
───偶に目が怖い人。
「──────分かった。アキバもそんな感じなんだね。
また折り入って連絡するよ。
…………うん。分かった。
何というか、そっちも頑張って。
…………そっか。じゃぁまたね、姉さん」
まだまだ居るが、取り敢えずこんな感じ。
このゲームをする切っ掛けになった、『現実』での姉には連絡を付けた。
曰く、アキバの街も、此処───ススキノと同じような状況らしい。
取り敢えずだが、無事(?)は確認した。
ならば、次に話すべき人は──────
「──────何というか、久しぶり……かな?班長」
「──────まぁ、ざっとこんなもんかな」
右手に握った白銀の
「変形する、杖……を持つ、魔法剣士型の……〈
「ま、そういう事。─────というか大丈夫か?やったの僕だけど」
〈フリジットウィンド〉───極低温の突風を吹かせることで範囲内の敵を凍り付かせる───と〈クローズバースト〉───射程距離を犠牲に威力を大幅に高める。必要に応じてオン・オフを切り替えられるトグル型特技───の合わせ技によって全身氷漬けにされた〈
「…………さあ、な。とっとと、止めを刺しやがれ」
「ちょっと待ってね…………。よし、フレンド・リストに登録完了っ。えーっとデミクァス……覚えずらいからダニエルでいいや」
「おい……ちょっと、ま──────」
「えいっ」
愛用の長杖を
HPがゼロになり、体が消失する。
…………かなりグロい映像が見えた気がするが気のせいだろう。
正直、中々大変だった。
ダニエル(多分)たちが採った戦法は──────回復役、魔法職を含めた全員で突撃を行い、そのまま囲み込んで袋叩きにする、という物。
ゲームだったら間違いなく悪手であり、誰もやらない様な手段。
…………だが、ゲームの世界だったら勝てなかっただろう。
突撃し囲んで袋叩き、という戦法。
もしこれが、まともに特技を使えないから、という経緯の行き当たりばったりな物ではなく、計画的に行われた
そもそも、何もない平野で約十倍の敵に一人で勝つこと、それ以前に戦うことが先ずあり得ないのだ。
ダニエル(名称固定)の他に二三人ぐらいしか特技をまともに使えない上に、連携も何もないような奴らが相手だったからいいものの、もうこんな事はしたくないし、出来ないだろう。
その場を立ち去ろうとしたら、ふと先ほど助けた〈大知人〉の一人、馬車から飛び出てきた幼い少女と目が合った。
「──────治安悪くなっているという話は本当だなー」
遠くの空の下、異なる時間の下で。
襲い掛かってきたPKを『撃退』した彼ら三人は、『ドロップ』したアイテムを拾っていた。
作業の合間、作業を終えてから、街に───アキバに戻るまで……………………。
考えることに使える、時間は無限に近い。
彼らは憂いていた。
その上で、この現状を打破したい、と思いながらも、無力感に苛まれていた。
「──────彼らに対して、どうするのが正解だったんだろう」
そんな中で、魔術師の青年が呟いた。
それは偶然ではなく必然。
PKの一人を始末した時の感覚は消えることなく残っていた。
「──────仕方がない事だってことは分かってるんだけどね」
「まぁ、そうだろうな」
「気にすることは無い。自業自得、というものだろう」
魔術師の青年が続けた言葉に、白銀の
「まあ、ね。……ただ、皆ならどうしたかなって思ってね」
「皆なら、か。まぁ、負けることはまずないだろうな」
「そうだろうね。倒すか逃げるかするだろうし、倒したら…………問答無用で止めを刺しそうだなぁ」
「ま、そうだろうな。今この世界に居るメンバーで行くと……連中の強さぐらいなら、ソウジやカズ彦、リベやKRなら一人で何とか出来るだろうな」
「それもそうだね」
「〈
誰にも聞こえないように、小柄な少女は少し寂し気に呟いた。
──────どうしたの?××××。
──────べっ、別に何でもないぞ××っ。
──────本当か?××××。
──────××××いうなっ。
彼らと───かつて冒険を共にした仲間と───歩く道が交差するまで今少し。
──────儂ら老い先短い者はどうしてもらっても良いから、この子たちの命だけは勘弁してはくれないだろうか。
氷が解けてぬかるんだ地面に額を付けながら懇願する老人。
馬車の周りで馬車を、馬車の中を守るように取り巻く青年。
馬車の中からこちらを窺う様に見つめてくる何人かの視線。
そして、先ほど目が合った幼子は、目の前で頭を泥で汚しながら嘆願している老人が、僕と目が合った時点で馬車に連れ戻していた。
…………何と言ったらいいのか皆目分からなかった。
目の前が真っ白になるような感覚。
初めの一瞬は理解できなかったから。
其処からの数十秒は理解できてしまったから。
気が付いたら、膝を折り、頭を地面に付けていた。
「───この度は、誠に申し訳ございませんでしたっ!!」
全力の謝罪。
余りに混乱したが故の行動だった。
結果的にだが、余りにも必死だったことが伝わったのか、意思疎通が出来るぐらいになった。
──────〈冒険者〉に依頼をするときには必ず対価となる報酬が必要。
聞き出せたのは、ゲームだった頃は当たり前の事。
しかし、この状況では意味合いが異なる。
その上に、目の前で大量の〈冒険者〉を葬り去ったことから、非常に力を持った冒険者だという事が分かる。
要約すると、何を要求されるか分からない上に断れない、という事。
そのことを理解した僕は──────。
──────髪を結う紐を無くしてしまったから、代わりになる物を頂けないだろうか。
裾がくるぶしの辺りまである蒼銀のロングコートに身を包んだ長身の〈冒険者〉は、背中の中ほどまであるアイスブルーの髪を気にしながら望む報酬を告げる。
───このこと以外に報酬は求めない───
───髪を纏められるならどんな物でも構わない───
初めは耳を疑った〈大知人〉たちだったが、蒼い瞳に一切の陰りが事を理由に信用してくれた。
──────否、心の何処かで、彼らも信じたかったのだろう。
幼い子どもたちをあやす女性。
馬車の車軸を直す数人の男性。
そして──────手伝う〈冒険者〉。
出立の準備は順調に整いつつあった。
この程度依頼にならない、と〈冒険者〉の青年は報酬のことは後回しにして力仕事をこなしている。
ぬかるみを炎で強引に乾かす。
──────彼らが、ススキノから遠く離れた土地に逃げる準備は整った。
混乱の続く〈冒険者〉の街から逃げ出す。
彼らの選択は非常に納得できるものだった。
僕ら〈冒険者〉が『この世界』に来てから16日。二週間と二日──────。
何をしていいのか分からない、何をすればいいのか分からない、何をしてはいけないのか───分からない。
──────言うならば、〈冒険者〉は一種の暴走状態にある。
僕自身もその状態にある。
偶然にも、傍に相談できる『大人』がいることで、確認すべきこと───やる事が在ることで、多少マシになっているが、過行く日々を半ば漠然と過ごしている。
正直、大変つらい。
ススキノで、立ち上がる気力すらなくなっている人を見ると───。
溜まるばかりの鬱憤を、構うことなくまき散らす人を見ると───。
──────決して会う事の出来ない〈彼女〉の事を思うと───。
心が軋む音が聞こえてくるようだ──────。
「──────おにーさんっ」
「……うん?」
左腿の辺りに感じる質量。
腰の辺りから聞こえる声。
「──────どうしたんだい、おちびちゃん?」
さっき目が合った、ちっちゃい女の子。
身長は大体1メートルぐらいだろうか。
「ヒモだよっ。おにいさんが言ったんだよ」
「───そう、だったね」
「そーだよっ。……んしょ、んー」
麦わらで作られた紐を握りながら、一生懸命背伸びをするロリっ子。
非常に微笑ましい。
そのまま鑑賞したいような気もするが、顔を真っ赤にしている彼女に悪いので、先ほど乾燥させた地面に腰を下ろす。
小さな手が、髪の毛を不器用に結んでいる感触。
「──────よしっ。できたよ、おにーさん」
「うん。ありがとう」
立ち上がり、頭を撫でる。
ほとんど傷んでいない髪の毛は柔らかかった。
「あとね、おにいさん」
「なんだい?」
「たすけてくれて、ありがとうっ!」
そう言って、馬車に向かって駆けていく小さなレディ。
──────その一言が本当に嬉しかった。
馬車の側でこちらを心配そうに窺っていた〈大知人〉の人たちも、感謝を伝えてくる。
貴方がいなかったらどうなっていたか分からない。君のような〈冒険者〉が残っていて良かった。すっごくかっこよかったっ。本当にありがとうございました。このことは決して忘れません。────────────
当たり前の、ありふれた、言葉の数々。
その一つ一つが胸を打つ。
馬車が出発する。
中から手を振る〈大知人〉に手を振り返す。
馬車が西日に溶けるまで見送っていた。
その夕陽を見ながら、青年は自分のすべきことを心に銘記する。
そして、すべきことが一段落したら、この世界を歩き回ってみようと思った。
先ずは、今作を読んで頂いた事に感謝を。
読んで頂いて、面白かったのならこれほどうれしい事はありません。
今回に限り、原作キャラクターの名前は、伏字にしたり、誤魔化したりしました。原作を読んでいる方なら大体分かるかな、と思います。…………『中つ国に帰れ』さんは指輪物語で検索してください。
因みに、この作品のプロットはかなり前から(脳内で)作っていたのですが、書いて投稿するに至った切っ掛けの一つが、大河ドラマ『真田丸』の後藤又兵衛の台詞でウィリアムがデジャブったから、という割とどうでも良い事実を公開することで、シメとさせていただきます。(…………どういうことだよ)
・ キャラクターシート
▶ 名前:リベクス
性別:男 年齢(現実):17(高2)
身長/体重(設定):176cm/58kg
髪:アイスブルー/背中の中ほど 目:濃い蒼
イメージカラー:青・白・銀・(杖だけ)黒
▶ レベル:90
▶ 種族:ヒューマン
▶ 職業:妖術師(ソーサラー)
▶ HP:7,859
▶ MP:12,031
※ アイテムやサブ職業はネタバレ回避などの為省きました。
…………あ、次回もよろしくお願いします。