もしもの世界を生きる彼女と   作:マーマレードタルト

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白の領域防衛戦 wave下

絶え間ない黒の津波。一つ一つは脆く容易い相手だが、それも群れになれば話が変わる。1+1も延々と繰り返し続ければ百にも万にも届き得る。

 

そんな一瞬でも気を抜けば飲み込まれる荒波の中、アークス達は巧みに舵を取り戦闘を続けていた。

 

「オーザ、アドオガルとアヌシザグリの集団が行ったよ!」

「この程度!!」

 

飲み込もうと迫る集団にパルチザンを横に一閃。スライドエンドにより敵が消え去るが、倒しきれなかった敵がパルチザンを振り切ったオーザに迫る。

 

「しまっ…」

「大雑把。だからハンターは駄目」

 

背後から飛んで来た多数のフォイエが次々と叩き落としていく。マールだ。

 

「やっぱり私が居ないと駄目ね」

「ぐっ…頼りするぞ」

「任せて。その代わりしっかり守って」

「おう、任された!」

 

軍勢をオーザが注意を引きつけつつ削り、後ろのマールがテクニックで的確に撃破して数を減らす。言葉にすれば単純だが2人はこれを高いレベルで成し遂げていた。でなければ、アンジャドゥリリ後すぐに飲み込まれていただろう。

と、マトイは他人事のように思う。いや実際他人事であった。

クラリッサから放たれるイル・グランツは相性など御構い無しに敵を食い破り、ラ・グランツに至っては白い絵の具をぶち撒けたかのように敵を白く塗り潰す。敵が多い所へ行き、ただテクニックを繰り返すだけの作業。誰の助けも協力も必要ない、むしろ足手まといになりねない。それほどまでにマトイという“兵器”は完成されていた。

 

「こっちは殲滅完了。次はイオちゃん達のところかな」

『こちらブリギッダ。ダーカーの反応を確認しました。十分に注意してください』

『コフィーです。スクナヒメの封印陣はもうすぐ折り返しと行った所です。結界の方はまだ余裕があります。この調子でお願いします』

「ダーカー…」

 

ちらりとイオとアザナミコンビの方を見る。敵の数は多いが、防衛戦不慣れなイオをアザナミの適確なフォローしていることもあって安定しているとマトイは判断し、先行してダーカーを減らすことを決める。

 

「私が先行してダーカーを減らすよ」

「此方はカトリを背負ってでも、なんとかしよう」

「わ、わたくしを舐めないで下さいっ!このくらいー!」

 

デュアルブレードをブンブン振り回しフォトンブレードを飛ばし続けるカトリ。そんな未熟ながらも精一杯を尽くすカトリに満足しながら、撃ち漏らした敵を蹴り殺して行くサガにクスリと笑いつつマトイは、クラリッサを伴い大きく跳躍。ダーカーの群れの真上を取る。

 

「ダーカーを倒すのが私の役目…この力はその為の…!」

先ほどまでの惰性のような振り方ではなく、強くフォトンを込めてクラリッサを一振り。

クラリッサから光の雨のようにイル・グランツが降り注ぎ、ピッタ・ワッダ、パラタ・ピコーダ、ボンタ・バクタのような小型ダーカーを片っ端から浄化していく。辛うじてボンタ・ベアッダやマーダ・トカッタと言った中型ダーカーはなんとか体を維持はしていたが、それらも既に死にかけ。わざわざテクニックを使わずともクラリッサの殴打で倒せるレベルだ。

無論、一体一体殴り倒して行くような手間がかかるようなことはしない。もう一度イル・グランツを放てばそれでおしまいだ。身の内には溢れんばかりのフォトンがあるのだから出し惜しみする意味はない。

 

「大きなダーカーの群れは殲滅したよ。でも左右で抜けられちゃったから注意するように連絡お願い」

『了解しました。それにしても流石ですね……イオさんとアザナミさんが大型のダーカーに手こずって居るようです。そちらの援護をお願いします』

「任せて」

 

その量ゆえに浄化が間に合わずあちこちで黒いフォトンを吐き出すダーカーの死骸をその場に残し、再び跳躍。

同時に上空から戦況を見る。

 

大部分のダーカーはマトイが殲滅したが、流石に戦闘エリア全域を殲滅することは出来ず戦場はダーカーの黒の民が入り混じり苛烈さを増していた。加えて開戦からほとんど休息無しという過酷な条件も加わりアークス側は少し押され気味のようだった。

「封印陣の進行状況は?」

『九割といったところのようです。あともう少し頑張って下さい』

 

移動中もイル・グランツを放ち続けて片っ端から倒しているが、減った側同胞の死骸を押し退けて現れる後続に補完され、減っている気がしない。

それでもマトイは弱音を吐かない、吐いてられない。全部守ると決めているから。

 

「イオちゃん!アザナミさん!」

 

おもちゃ箱を積んで人形にしたような中型ダーカー、コドッタ・イーデッタ相手にイオ達は苦戦を強いられているようだった。

 

「マトイさん!こいつら倒そうとしたらちっこいのが邪魔してきて……あぁ、もう邪魔!!」

「塵も積もれば山となる、って言うけど…流石に積もり過ぎかなーとお姉さんうんざりしちゃう」

 

 

イオの矢に四肢を破壊され一時的に無防備なコアを晒したコドッタ・イーデッタを守るように大量の小型ダーカーが壁のように2人に押し寄せる。アザナミがカタナの刃を閃かせ瞬く間に大半のダーカーを切り捨て、イオの放つ無数の矢が射抜くがその奥のコドッタ・イーデッタには届かない。文字通り矢が通る隙間すら無かった。

 

「私に任せて」

 

イオの隣に降り立ったマトイは2人にレスタを掛けつつ、フォトンを込めたクラリッサをダーカーに向ける。

 

「光よ」

 

短い言葉と共にクラリッサから放たれた眩いラ・グランツはダーカーの壁を貫き、その奥で復帰を果たそうとしていたコドッタ・イーデッタのコアを跡形も無く消しとばす。しかしマトイはクラリッサへ更にフォトンを込め、ラ・グランツを維持したまま光の剣のように辺りを薙ぎ払い周辺のダーカーも纏めて消し炭にする。

 

「ふぅ…」

「さ、流石マトイさん……助かったよ」

「ううん。気にしないで!私、これくらいしか出来ることないから」

 

あはは、と照れたように笑いつつ進行状況を確認する。もうあと少しで封印陣が完成するようだ。

 

「あと少しだし、大変だろうけど頑張ろうね」

「マトイさんも気をつけて」

「うん、ありがとね」

 

再びイル・グランツをばら撒きながら跳躍。行き先はオーザー達やカトリ達、前衛組が戦っている最前線だ。

 

『こちらコフィー。まもなく封印陣が完成します。カタパルトを転送しますので帰還の準備を』

 

「了解。私は帰還の援護に回るね」

 

帰還用のカタパルトが転送され、リサ、アフィン達後衛から順に本陣へと帰還していくのをマトイは1人で援護する。と言ってもやる事は今までと変わらない。テクニックを放ち敵を倒すだけだ。

そうして前衛組が帰還するのを見届けてようやくマトイ自身もカタパルトで本陣へ帰還しようとして、ふと周りを見回す。

辺りはダーカーや黒の民モドキの死骸で溢れかえり、浄化が間に合わずにあちこちから黒煙のような黒いフォトンが立ち上っている。それはさながら怨嗟の声のようであり、見方によっては地獄のようだった。

 

「…それでも私にはこれしかないから」

 

誰かに言い聞かせるでもない言葉を吐き捨て、マトイも本陣へと帰還した。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

『皆の者、よくぞ耐えてくれた。なればこれに応えずして何がハルコタンの神か!見事果たしてみせようぞ!悪鬼を退ける封印陣……しかと刮目せよ!』

 

本陣に帰還したマトイ達がモニターで見たのは、黒の領域から大橋をも丸ごと囲む大結界だ。

 

『既に悪鬼どもは大結界にて捕まえた。後はこのまま封じるだけよ。此度の争乱はこれにて終い、とな』

 

スクナヒメが扇子をパタリと閉じる。瞬間、結界を叩く黒の民が、地を這うダーカーが、ことごとくが光に還り地に吸い込まれていく。

小型も中型も関係ない。そこにある邪悪なものを全て浄化していくスクナヒメの祝福だ。

 

惑星の外からハルコタンを見ているのなら、黒の領域全域が光輝いているのが観測できるだろう。

 

目も眩むほどの光も徐々に光量を下げて行き、遂に収まった時には全てのエネミーが消えていた。

シンと静まる本陣。

 

「終わった…んだよな?」

 

ポツリとアフィンが呟く。

まだ終わったという実感が無い者たちに対してスクナヒメが宣言する。

 

『此度の戦、我らの勝利じゃ!!』

 

勝鬨の声が上がる。

ホッとしたように座り込む者、感極まったのか踊り出す者、撃ち足りないと銃を撫でる者など様々だがその顔は笑顔が浮かべられていた。

 

 

こうして、これまでにも例を見ない程の大規模防衛戦はアークス・白の民の勝利に終わったのである。

 

 


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