二度目の初恋を月の下で   作:檻@102768

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 書くのが大変に遅くなってしまいましたが、まずは挨拶を。
 前話を以て、本作は終わり。この後書きを以て完結です。

 ここまで読み進めてくださってありがとうございました!





後書き

 主人公は、型月をはじめとして、童謡や神話などの多数のエッセンスを用いています。

 ところどころの文言や人間関係具合には思い当たるところも多いかと思います。時にはかなり捻って二転三転してもいますが。

 

 原作の「彼」と違う姿勢で、けれど同じ行動や結論を導き出した魔術師の生き様、そして真逆の結末に至った物語を堪能して頂けたのなら幸いです。

 

 

 作中で語ったように、経験とは過去に刻まれた(おもいで)の別名ですが、それを悔やむだけではなく教訓にできるのも、変化を宿命づけられた人の本質でしょう。

 前回を踏まえて、過ちを繰り返さない為に『どうするか』。

 

 始まりが報われなかった過去を持つ二人ですが、始点は同じでも「繰り返さないよう手を引くか」それとも「望む結果になるまで努力(リトライ)するか」と、スタンスにおいても色々な意味で対極でした。

 

 

 そんな二人の馴れ初めは、主人公はプロトセイバーに押せ押せなあの愛歌の反転(うらがえし)なので、一筋縄ではいかない身持ちの堅さに。

 それに対する姫ですが、私の脳内では『恋する乙女は無敵の存在』という謎の認識があるので、アプローチそのものは彼女の方からになっています。

 

 

 最終話をご覧になった方ならお判りでしょうが、つまりは、本作の攻略対象(ヒロイン)は実は主人公の方だったのでした。

 

 

 

 

 

 

 今作のテーマは『表裏・反転・収束』、

 裏テーマは『誰かの願いの叶え方』でした。

 

 

 誰かの願いそのものだったから、自分の願いを持ち合わせていない二人。

 とうの昔に、叶ってしまった願いだから。それが何よりも尊かったから。

 

 愛の存在そのものが解らなかった姫と、

 愛される理由を無価値にしてしまう彼。

 

 そんな二人が結ばれた経緯は、大事な何かを引き換えにしたのではなく。

 つまらない何かに執着していた、そんな自分に見切りをつけただけ。

 

 

 作中で『人は期待を裏切る事しかできない』と述べましたが。

 

 その裏切りが()()()()()()()()()()()()()()()筈です。

 

 

 相手の望み通りのものを用意するのではなく。

 「愛を必要としていない」「価値を必要としていない」と、期待を超えたものを示すのは裏切りではあっても、決して悪いものではないと。

 

 

 そんな思いの結果が、欲した愛を放棄してでも手を伸ばした少女と、

 欲した相手が無価値になる事を飲み込んででも手をとった青年でした。

 

 

 

 

 

 

 『愛とはいいものである』――――……というのは、多くの哲学者、倫理学者で一致しています。文学作品でも、それ以外のスタンスを取っている作品は稀かと思います。

 

 愛の為なら、自分を他人を世界を時代を運命を犠牲にできる。

 どんなものでも引き換えにしてしまえる。

 

 そんな他の何もかもを(かえり)みない、いっそ暴力的なものが愛で。

 どれだけ他のものを切り捨てられるかが、その愛の強さの証明になる。

 

 

 昨今にはそんな風潮があるよう見受けられたので、今回はそれに一石を投じてみました。

 

 

 

 述べておきます。結ばれた二人の間に、愛はありません。

 恋し合っていても、想い合うものがあったとしても、決して愛ではない。

 

 でも、それはいけない事でしょうか。

 愛は、いかなる時も問答無用でよいものなのでしょうか。

 愛がなければ愛でなければ、それ以外のどんな繋がりも取るに足りないのでしょうか。

 

 

 私は、そうは思いません。

 

 言葉の意味は一つではない。

 何がどんな因果に繋がっているかなんて判然としない。

 想い合っていても一緒にいることを選ばなかった、月の裏側の物語(ふたり)のように。

 

 だからこそ、その離別あってこそ。

 『愛し合わずとも愛を引き換えにしてでも、共にある二人』の物語も、あってもいいと思うのです。

 

 

 それをハッピーエンドと呼ぶかバッドエンドと呼ぶのかは、皆さんのご自由に。

 

 でももしハッピーエンドと思ってもらえたのなら、こんなに嬉しいことはありません。

 

 

 

 それではこのあたりで筆を置かせて頂きます。

 重ねてご愛読、本当にありがとうございました!

 







 願いを叶える為に至って尚及ばないのではなく、そうであるが故に叶わぬ願いがある。
 恋に落ち、恋を堕とす。
 足りぬが故に欲し、足りるが故に埋没する。全く以てままならぬ。

 どんな理想も()()()()()()価値がある。
 財も永遠も高嶺の花も何もかも、手に届いた時点で唾棄すべき俗物へとなり下がる。

 神ならぬ身には、全能に及ばぬ万能すらかくも重たい。
 持て余すことしかできはしない。できそうに、ない。




 ――――だが。


 恋しいものが無価値になったからといって。
 それは取り立てて気にかける事はない。それは元より杞憂に過ぎない。







 初めから、この世の全てに”価値”などない。







 人の人生(しんねん)に優劣はなく、
 この大地に()(せん)はなく、
 あの星々に上下はない。



 あるのはただ、”()()を見出そうとするもの”だけ。
 尊き月のひとしずくも、(すく)い上げねば路傍の石と変わりなく。
 たとえ無価値に帰したところで、あるべき立場に収まっただけのこと。

 最初(はな)から無価値に恋い焦がれるも、
 恋い焦がれたものを無価値にするも、大差はない。

 所詮価値(うわべ)を彩るは全て陽炎。
 収めた(いれもの)が変わったところで、本質(なかみ)が揺らぐ理屈はない。



 されど。



 いつか終わると知って、(はかな)む事無く生を励むは無益ではなく。
 やがて枯れると知って、朽ちぬ宝玉より花を愛でるは不実ではなく。
 いずれ(かげ)ると知って、変わらぬ日より満ち欠ける月を想うは愚行ではない。

 誰も(おのれ)にとって無価値であろうと、それが愛でて悪い道理には足りえない。


 万能ならぬ完全たる、あの月の姫ですら人に惹かれた。
 相手の何かを欲したのではなく。相手に価値があったからではなく。

 ただ、それが嬉しかったから。




 ああ――――だから。




 所詮は誰にとっても、きっと。
 人に描く願いなんて同じもの。

 想い焦がれたものに(こいねが)う事なんて。
 想い焦がれたものと隣に居たい理由なんて。



 ただ、”相手と語り合いたいだけ”で、何の不具合があるのだろう――――?





 不朽である必要などない。月華は咲き誇り舞い散る様すら雅。
 たとえくすみ(いろ)()せようと、その(ちょう)(らく)を含めて愛でるのが(いき)というもの。
 そして真の名優とは、演じきった舞台を降り、地平線(ぶたいそで)に沈む様も含めて(おつ)なものこそ。


 ただ、ソレに焦がれるのは後回しだ。退場への拍手喝采はそれこそ幕引きまで取っておこう。

 今はただ、天幕に君臨する主役の舞踏に、ひたすら瞳を見開いていればいい。







 ――――天と地の、二つの月が満ちた(ぶたい)の幕はまだ、上がったばかりなのだから。










 月没の足音は(いま)だ遠く。


 終曲に至るまでの(トキ)を、誰もに惜しませながら、過ぎていく。



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