沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第7話「沙織さん、牛と出会う」

ギリシャに観光に来ました。

 

もちろんシャイナさんと会う約束をしています。

 

生シャイナさんは初めてです。シャワーは忘れずに浴びようと思っています。

 

隠れ里の近くの村まで来ると、普通に聖闘士っぽい人が闊歩していました。

 

そう、筋骨隆々とした大男です。典型的な筋肉ダルマの聖闘士ですね。

 

感じる小宇宙(コスモ)は、わたくしより遥かに小さいです。ふむ、隠れ里の門番でしょうか? あの体格なら威圧感があるので、門番にはうってつけでしょう。なんでしたら、城戸邸の門番としてスカウトしてもいいですね。そして、一輝の指導もお願いしたいところです。

 

そうです。一輝が城戸邸の警備員として就職しました。そして、聖華と同じように昼間はエスメラルダと共に、わたくしと同じ小学校に通っています。

 

残念ながら一輝は年上なので、同じクラスではありませんが、エスメラルダが同じクラスになりました。

 

ククク、これでわたくしも体育の時間にペアを組めるようになったのです。

 

美穂さんが驚愕の眼差しで、わたくしがエスメラルダと柔軟体操をしているのを見ていましたわ。

 

お昼休みも、わたくしと星華とエスメラルダ、そして一輝の大所帯でお弁当タイムです。

 

わたくしの時代の幕開けですわね。おーほほほほほほほほっ!

 

そういえば、一輝がフェニックスの聖衣(クロス)を拾っていました。紛失したと思い諦めていましたが良かったです。

 

そのフェニックスの聖衣(クロス)は、一輝がはしゃいで纏っていたので、そのまま差しあげました。フェニックスの聖衣(クロス)の外観が、どう見ても男の子用なので、わたくしには似合いそうになかったですしね。

 

それに一輝が女神(アテネ)ではなく、わたくしの聖闘士になると仰っていたので、差しあげても問題はありません。

 

とはいえ、一輝は聖闘士になるための訓練を途中でやめているので実力に不安があります。

隠れ里の門番をされている筋肉ダルマの聖闘士が一輝を指導して下されば、一輝が大人になる頃には一人前の警備員になれることでしょう。

 

そうと決まれば、早速面接をしましょう。折角雇っても筋肉ダルマの実力が不足していれば意味がありませんからね。面接で実力と人柄も確認させてもらいますわ。

 

わたくしは筋肉ダルマの前に立ち塞がります。

 

「そなたは、聖闘士で間違いありませんか?」

 

突然現れたわたくしを筋肉ダルマは訝しむように見ています。

 

「お嬢ちゃんは何処の子かな? それに聖闘士とは何のことだい?」

 

どうやらこちらが子供だと思い、適当にあしらうつもりのようですね。人を見る目がなければ門番の資格はありませんわよ。

 

わたくしは瞬時に小さな結界を張り、自分の小宇宙(コスモ)を強めます。さあ、わたくしの事をどの様に判断されますか?

 

「なっ!? こ、この巨大で包み込む様な小宇宙(コスモ)は一体……お嬢ちゃんは何者なんだ。この俺の小宇宙(コスモ)すら比べ物にならんとは……その年齢に、この小宇宙(コスモ)…まさか、あんたは…いや、貴女は!」

 

おや、わたくしの器を示したつもりなのですが、わたくしの正体を知っているのでしょうか?

 

天下のグラード財団の後継者、才色兼備の美少女と名高いわたくしを知っているとは、門番としては合格ですね。

 

「間違いない! これほどの小宇宙(コスモ)を持つ少女など女神(アテナ)以外ならただ一人のはずだ!」

 

ふむ、女神(アテナ)とやらは、わたくしに匹敵する小宇宙(コスモ)の持ち主のようですね。それにしても、わたくしが巨大な小宇宙(コスモ)の持ち主だとバレているとは、ギリシャの隠れ里の諜報能力を甘く見すぎていましたわ。

 

「どうして貴女がギリシャにいらっしゃるのですか? 確かに我らとアスガルドは友好関係にありますが、連絡も無しで来訪されては困りますぞ。ヒルダ様」

 

「……誰それ?」

 

「へっ?」

 

ヒュー。

 

ギリシャの風は冷たかった。

 

 

***

 

 

「なるほど、シャイナの友人だったのか。それにしても沙織殿は、巨大な小宇宙(コスモ)をお持ちだな」

 

アルデバランと名乗った筋肉ダルマと、近くの食堂でお茶を飲みながら自己紹介をしました。

 

「わたくしの小宇宙(コスモ)は、生まれながらのものですわ。聖闘士の方々のように鍛えて得たものではありませんゆえ、自慢になりません。ただの特異体質のようなもの…そのように捉えて下さいませ」

 

「そうか。生まれながらの小宇宙(コスモ)なのか……失礼だが、沙織殿の年齢をお聞きしても?」

 

アルデバランは何か考え込むように呟いたあと、わたくしの年齢を尋ねてきた。女性に年齢を聞くなんて! などと怒る年ではないわたくしは素直に答える。

 

「そうか…それなら計算は合う。しかし、まさか……本当にそうなのか……アイオロスさん」

 

アルデバランはブツブツと独り言を繰り返している。

 

大丈夫かな、この人?

 

精神的に不安定な人は門番に向かないと思うので、スカウトは止めるべきね。わたくしが交渉を打ち切ろうと言葉を発しようとしたとき、アルデバランが再び口を開いた。

 

「沙織殿に会って頂きたい人物がいます。シャカという男ですが、この男は人を見る目に長けています。この男が沙織殿を認めたら、俺と少なくともそのシャカは、沙織殿に従います」

 

うむむ?

 

アルデバランは、友達と一緒に転職したいのでしょうか?

 

ギリシャの隠れ里の門番よりも、わたくしに雇われる方がいいと友達が判断したら一緒に転職すると言っているみたいですね。

 

その判断基準が、“わたくし”ということですね。

 

うふふ、ギリシャ人は面白いですわね。転職の判断基準が給与や待遇面ではなく、雇い主の人柄なのですね。

 

いいでしょう。わたくしも将来はグラード財団を背負って立つ身です。

 

門番の一人や二人のお眼鏡に適わぬ程度の器量ではやっていけませんわ。

 

さあっ、堂々と受けて立ちましょう!

 

シャカとやらを連れて来なさい!

 

 

***

 

 

五体投地。

 

 

わたくしもグラード財団の後継者として様々な体験をしてきました。

 

頭を下げられることなど日常茶飯事です。ときには土下座をされた事もあります。

 

ですが、出会った瞬間に“コレ”はないでしょう!?

 

うう…周りの方々の視線が痛いですわ。

 

星華を連れて来なくて良かったです。こんな場面を見られたら絶対に引かれますわ。びーえるのイベントに行くからとギリシャ旅行を断られたときはショックでしたが、今となっては幸いでした。

 

「シャカとやら、面をあげなさい」

 

わたくしの言葉にビクリと震えましたが、シャカは顔をあげてくれません。

 

「シャカよ…やはりそうなのか? この方が…そうなのか?」

 

困ったので、アルデバランに視線を向けますが、アルデバランの方は顔面蒼白になられてブツブツを繰り返しています。この人はブツブツばっかりですね。

 

はあ、この五体投地男もいい加減にして欲しいですね。わたくしに何かを謝りたいのか、それとも高貴で美しいわたくしを崇めたいのかは分かりませんが、このままだと妙な噂が立ちそうですわ。

 

「シャカ、そのような有様では話もできませんよ。そなたに罪があるというのなら、わたくしが許しましょう。わたくしに祈りを捧げたいというのなら、その心を受け取りましょう。ですから、もう面をあげなさい」

 

シャカがゆっくりと顔をあげる。

 

その閉じられた両目からは滂沱の如く涙が流れていた。

 

うん、間違いなく不審者です。最近は不審者ばかりに遭遇している気がします。

 

ああ、早くシャイナさんに会って癒されたいですわ。

 

 

 

 

 

 

 




土下座をされたことのある小学生……さすがは沙織お嬢様なのです!

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