沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第6話「沙織さん、無双する」

フェニックスの聖衣(クロス)の箱に腰掛けながら迎えのヘリを待っていると、見知らぬ方々に囲まれました。

 

黒色の聖衣(クロス)っぽいものを身につけていますが、ギリシャの聖衣(クロス)とは少しばかり雰囲気が違うように感じます。

 

わたくしが思うに、デスクイーン島原産の聖衣(クロス)といったところでしょう。

 

聖衣(クロス)には地域毎の特色があるのですね。でもデスクイーン島は暑いので、黒色では熱を吸収して辛いのではないでしょうか?

 

もしかしたら色の違いによって、熱の吸収率が違うことを知らないのでしょうか? 頭の悪そうな顔をした方々ばかりなので、知らなくても無理はありませんね。

 

今日のわたくしは、フェニックスの聖衣(クロス)を無事に入手でき、禁断の兄弟からも感謝をされてとても気分がいいので教えて差し上げましょう。

 

「貴方達、そのような聖衣(クロス)ではお辛いでしょう。貴方たちでは分からないかも知れませんが、それはこの地には合わないものですよ」

 

わたくしの言葉に動揺しているようです。やはり色による違いを知らなかったみたいです。お馬鹿さん達の集団ですね。

 

お馬鹿さん達が何やら騒いでいます。俺達にはこれしかないとか、俺達は聖域(サンクチュアリ)に見捨てられたとか、お前の聖衣(クロス)を寄越せとか。

 

あらあら、わたくしが手入れたフェニックスの聖衣(クロス)を寄越せとは、命知らずのお馬鹿さん達ですね。いえ、お馬鹿さん達だから命知らずなのでしょう。

 

それにしても聖域(サンクチュアリ)に見捨てられたとは……聖域(サンクチュアリ)とは女の子のお胸の事だったはずです。

 

灼熱の地で黒い聖衣(クロス)を纏ったお馬鹿さん集団……たしかに女の子に見捨てられそうな方々です。

 

わたくしのような心優しい女の子でも、このお馬鹿さん達は願い下げだと思うので、他の女の子では口もきいてもらえないでしょう。

 

少し哀れに思ってしまいます。ホロリ。

 

実際に涙は出ませんが、出たフリをするぐらいには哀れです。

 

それにしても、この黒い聖衣(クロス)は見ているだけで暑くなってきます。それにわたくしの聖衣(クロス)を寄越せとか仰っていました。

 

つまり強盗です。 たしか“悪即斬”という標語もあったので退治しておきましょう。

 

「犯罪者には手加減を致しませんわ。さあ、フェニックスの威力をその身で味わいなさい!」

 

サイコキネシスで、フェニックスの聖衣(クロス)(箱ごと)を振り回して、お馬鹿さん集団にブチかましていく。

 

悲鳴をあげながら吹き飛んでいくお馬鹿さん集団。気がつくと立っているのは一人だけになっていました。

 

「何故、フェニックスの聖衣(クロス)を纏わぬ! こんなふざけた攻撃で、このジャンゴ様を倒せると思っ…『お嬢様キック!』グギャアッ!?」

 

わたくしの華麗なる蹴りで最後の一人を沈めました。

 

まったく、こんな屋外で着替えなど出来るわけがないでしょう。

 

たとえ、服の上から聖衣(クロス)を纏うだけだとしても、淑女たるわたくしが、そのような破廉恥なまねは出来ませんわ。

 

ところで犯罪者達を成敗したのは良いのですが、死屍累々のこの状況で迎えのヘリを待つのは苦痛ですわね。

 

そうだわ、このフェニックスの聖衣(クロス)の箱の中で休んでいましょう。よいしょっと、思った通り中は涼しいですわね。でも、この聖衣(クロス)は邪魔ですね、外に出しておきましょう。えいっと、これで広くなりましたわ。では休むとしましょう。すやー…

 

 

***

 

 

眼が覚めると城戸邸でした。

 

迎えのヘリの者達が、箱の中でスヤスヤと眠っているわたくしを起こさないように運んだそうです。

 

気遣いのできる使用人です。

 

ですが、箱の外に放り出しておいた聖衣(クロス)が行方不明になりました。

 

どうしましょう?

 

三秒ほど考えましたが、諦めることにしました。

 

きっと、わたくしとフェニックスとは縁が無かったのですね。空箱は一輝に贈ってあげることにします。丈夫そうなので、荷物入れには最適でしょう。

 

“一輝が使いなさい。遠慮は無用ですよ”

 

メッセージ付きで空輸させました。

 

うふふ、きっと喜んでくれることでしょう。

 

 

***

 

 

一輝side

 

久しぶりにお会いした沙織お嬢様は、昔とは違い優しさを有する素晴らしいお方に成長されていた。

 

昔は我が儘でいけ好かないお嬢様だと思っていたが、考えてもみればあの頃はお互いに幼かったのだ。我が儘なのも当然だろう。俺自身も自分の不満を勝手にお嬢様にぶつけていた。

 

それによく思い出してば、出会った頃からお嬢様は気高く美しかったと思う。

 

決して、俺とエスメラルダの世話をしてくれたから言っているわけじゃないぞ。

 

考えてもみろ。

 

ある日突然、自分の屋敷に小汚くて喧しいクソガキ共が百人も現れたら嫌だろう。気後れもするだろう。

 

だけどお嬢様は俺達と一緒に遊んでいたのだ。まあ、遊び方が幼いゆえの無茶苦茶さがあったが、そこには目を瞑ってくれ。いや、むしろ“おままごと”のような女の子っぽい遊びではなく、男子っぽい遊びを選んでくれたことを評価しようじゃないか。

 

もう一度言うが、決してエスメラルダのために日本国籍を取得してくれたから言っているわけじゃないぞ。

 

俺の師匠だった人も、お嬢様を襲ったというのに半殺しで許してもらったんだ。お嬢様はとてもお優しくなられた。

 

それにデスクイーン島に巣食っていた暗黒聖闘士共も駆逐して下さった。これでこの島も平和になるだろう。

 

フェニックスの聖衣(クロス)を手に入れたばかりで、その偉業を達成されたのだ。なんと偉大で素晴らしいお嬢様なのだろう。

 

なん度も言うが、決して俺とエスメラルダの新居を日本の治安のいい一等地で用意してくれたから言っているわけじゃないぞ。

 

お嬢様は途轍もないお方なのだ。

 

お嬢様がデスクイーン島をヘリで飛び立たれた場所に行ったとき、俺はそれをはっきりと理解することが出来た。

 

なんとその場所には、フェニックスの聖衣(クロス)が置かれていたのだ。

 

お嬢様は見送りは要らないと仰っていた。この場所にフェニックスの聖衣(クロス)を置いていくなどとは一言も口にされていない。

 

もしも俺がここに来なければ、フェニックスの聖衣(クロス)は失われていたかも知れないのだ。

 

お嬢様は俺に聖闘士にならなくてよいと仰った。だが、俺は本当は聖闘士になりたかった。エスメラルダを守れるほど強い男になりたかった。

 

きっとお嬢様は俺の本当の気持ちに気付かれたのだ。だから、フェニックスの聖衣(クロス)を置いていかれた。

 

何も仰られなかったのは、俺の天命を信じてくれたからだ。俺が聖闘士になる男だと信じてくれたからだ。

 

その証拠に全てを見透かしたようなお嬢様からのメッセージが俺に届いた。

 

“一輝が使いなさい。遠慮は無用ですよ”

 

だが、俺はフェニックスの聖衣(クロス)を前にして考えた。

 

俺はこのまま聖闘士になっていいのだろうか?

 

俺がなりたいのは女神(アテナ)の聖闘士なのだろうか?

 

俺は悩んだ。悩みまくった。悩みすぎてエスメラルダの膝の上で慰めてもらった。

 

その結果、出た結論がある。

 

「エスメラルダ、俺は女神(アテナ)の聖闘士ではなく、沙織お嬢様の聖闘士になるぞ」

 

「うん、そうだね。お仕事も城戸邸での警備なんだから当然だと思うよ」

 

お嬢様は可憐で美しく尊い素晴らしいお方なのだ。

 

決して、俺の雇い主だから言っているわけじゃない。

 

本当だぞ。

 

 

 

 

 




聖衣の箱の中は快適だと思います。暑さ寒さを完全シャットアウト。なのに窒息はしません。深海だろうと真空だろうとへっちゃらなのです。なんて万能な“箱”なのでしょう!

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