『あっ、シャイナさん発見!』
聖闘士の隠れ里でシャイナさんを探していると、小川の側にいるシャイナさんを見つけました。
そういえば、初めて出会ったのも小川でした。わたくしは小川で顔を洗っていたシャイナさんの素顔が、とても可愛かったのを思い出しました。
その瞬間、わたくしの直感にキュピーンと触れるものがあった。
『なに、この感覚は!? わたくしの大事なものが奪われる予感がするわ!』
慌てて周囲を見渡すけど、危険なものは察知できない。
だけど、わたくしの嫌な予感は加速度的に大きくなっていく。
シャイナさんの方を見ると、シャイナさんは小川で顔を洗うつもりのようです。小川に向かって近付いていきます。
まさか、この予感はシャイナさんが小川で溺れるという予感でしょうか?
シャイナさんが足を滑らせて、スッテンコロリン。コロコロポッチャンと、溺れてしまうのでしょうか?
シャイナさんが溺れたら大変です。わたくしが助けて人工呼吸をしなくてはいけませんわ。
シャイナさんの初キッスはわたくしがいただきます!
筋肉ダルマの聖闘士には渡しません!
はっ!?
しまった! 今のわたくしには実体がなかったのでした。シャイナさんを助けるのはサイコキネシスを使えば問題ありませんが、初キッスが出来ませんわ!
こうなったらギリシャまでテレポートをしますわ。
さすがに実体でテレポートをすれば、わたくしの存在が、他の聖闘士達に気付かれそうですが、シャイナさんとの初キッスのためです。
今が覚悟の決めどきでしょう。
そして、わたくしがいざテレポートをしようとした時、ある事に気付きました。
『あの小川、浅いですわ』
あの小川の深さは膝までしかありません。それに流れも緩やかで、どう考えても白銀聖闘士のシャイナさんが溺れるとは考えられない。
それではこの嫌な予感の正体はなんでしょうか?
強大な
「今日も暑いな。ちょっと小川で涼んでいくかな」
そのとき、わたくしの耳に男の…いえ、男の子の声が聞こえました。
「まったく、魔鈴さんは厳しすぎるよ。もう少し優しくしてくれないかな」
男の子は、シャイナさんの方へと近付いて行きます。
シャイナさんは小川の水に手を浸して涼んでいるようです。
どうやら互いに茂みが邪魔をして気付いていないようです。
どこかで見たような気がする男の子だけど、
だけど、わたくしの
あの男の子をシャイナさんのもとに行かせてはならないと、わたくしの女の勘も訴えてきます。
わたくしは迷わず結界を張りました。
そしてサイコキネシスを使って、男の子の足元に大穴を作る。
『うおりゃあああっ!!!!』
大穴に落ちた男の子が這い出す前に近くの巨石を動かして大穴に蓋をした。だいぶ重かったけど、そこは気合いでカバーしました。
『ふーふー』
流石に意識体の状態で無茶のしすぎだったみたいです。疲労感がハンパないです。
今日はシャイナさんに会わずに帰るとしましょう。
でも、大岩で蓋をした瞬間から嫌な予感が消えてくれたから安心して帰れます。
最後にシャイナさんの方を振り向くと、マスクを外して顔を洗っている姿が見えました。
久しぶりに見たシャイナさんの素顔はやっぱり可愛かったです。
***
体育の時間になった。
高嶺の花のわたくしは、二人組で体操するときも孤高を貫く。
周囲をぼーと眺めていると、少し離れた場所で美穂さんがポツンと一人で立っていることに気付いた。
美穂さんは、いつも仲のいい同級生とペアになっていたはずだけど。そうだわ、今日はその方は風邪で休まれていたんだった。
ふっふっふっ
チャンス到来ですわ。
わたくしは同級生達が体操する中を、美穂さんに向かって真っ直ぐに歩きだした。
同級生達が、わたくしが歩むための道を作るために移動して下さります。
まるで、無人の野をいく王のように、わたくしは悠然と歩む。
美穂さんが急にオドオドと挙動不審になる。
お可哀想に、お友達がいなくて心細いのですね。
今、わたくしが行きますわよ。
わたくしは心持ち、歩く速さを早める。
もちろん、見苦しくならないように優雅さを醸し出させながらです。
わたくしはグラード財団の後継者ゆえに、常に注目を浴びる存在です。見た目には細心の注意を払っています。
歩く姿もそのひとつですわ。
上品な女らしさと、それでいて年相応の可愛らしさも感じさせる歩き方を日夜研究しております。
星華にも協力してもらっていますわ。動画を撮ってもらい、一緒に鑑賞しながらアドバイスをいただいています。
そのときに見本だと言いながら、星華がよく歩いて下さるのですが、何故ゆえに練習しているわたくしより綺麗に歩けるのかしら?
世の無常を感じる瞬間ですわね。
と言ってる間に、美穂さんの側まで来れましたわ。
さあ、あとは勇気を出して声をかけるだけですわ。
「み、美穂さ…」
「先生っ、お腹が痛いので保健室に行ってきます!」
美穂さんは早口で体育教師に告げると、怒涛の勢いで保健室へと駆けていきました。
あんなに慌てて行くなんて……
「美穂さん、ゲ◯ピーだったのかしら? 心配だわ」
非常に残念ですが、今回は諦めましょう。
美穂さんに無理をさせて、最悪の事態になってはいけませんもの…乙女的に。
***
ボケて入院していたお祖父様が退院しました。
お医者様の説明では脳には異常がなかったそうです。きっと、心因性の一時的なものだったのでしょう。良かったですわ。
天下のグラード財団の総帥としての責務がお祖父様を苦しめていたのですね。
後継者として、わたくしがお祖父様を支えてあげなくてはと改めて思いました。
さてと、今日の分の決裁をやってしまいましょう。
書類が山のようですね。早速、ハンコを押しましょう。
ぺったんこー。
ぺったんこー。
ぺったんこー。
ぺったんこー。
ぺったんこー。
「星華のお胸は、」
ぺったんこー。
ドゴッ!!
か、かつてないほど、痛いですわ。
「お嬢様、お嬢様のお年では分からないと思いますが、乙女の胸は聖域なのですよ。冗談のネタにすれば誰であろうとも、おもくそド突かれますのでお気をつけ下さい」
「あ、ありがとう、星華。身にしみて理解できましたわ」
痛む頭をさすりながら星華にお礼を言っておく。さすがに痛すぎて怒りたくなったけど、星華の目が笑っていないことに気付いたので、引いておくことにしました。これも上流階級の処世術というものですわ。
「それにしても書類の中身をよく見ずに捺印して大丈夫なのですか?」
わたくしが書類をろくに見ずにハンコを押しているように見えたのでしょう。星華が心配してくれました。
「大丈夫ですよ。ここにある書類は形式上、トップのハンコがいるだけの重要度の低いものだけですから。それに一応はざっと目を通しているので、重要書類が紛れ込んでいれば気付きます」
「流石は腐ってもお嬢様です。手抜きポイントは押さえているのですね。感服いたしました」
な、なんでしょう?
星華の言葉に棘を感じますわ。もしかして、まだ胸のことを怒っているのかしら?
「えっと、わたくしは星華の胸が本当にぺったんこだとは思っていないわよ?」
「あらあら、小学生女子の胸に興味があるのですか? 流石はお嬢様のご趣味は、一般庶民とは一線を画していますね」
「星華、お胸のことを茶化してごめんなさい。二度と言いません。許して下さい」
わたくしは誠意を込めて謝罪しました。
「…いいわ、許してあげる。でも二度目はありませんよ、お嬢様」
「はい…」
本日は教訓を得ました。
“
皆さんも
沙織さんは無事にシャイナさんを星矢から守り抜けました。やったぜ!
ちなみに星矢はこの後、魔鈴さんに助けられているので安心して下さい。