沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第35話「沙織お嬢様は理想の上司」

新しい従業員が2名増えました。

 

「我が拳は沙織お嬢様と共にある。御身の敵は悉くこの拳で打ち砕いてみせましょう」

 

暑苦しそうなこの方の名は、アイオリアというそうです。

 

「俺も沙織お嬢様に忠誠を誓うぜ。どう考えても向こうに勝ち目は無さそうだからな」

 

軽薄そうなこの方の名は、デスマスクというそうです。これは本名でしょうか? 本名なら親御さんのセンスが怖いですね。

 

この二人に声をかけたところ、初対面だというのに忠誠を誓われてしまいました。これもわたしの並外れたカリスマ性の所為だと思えば無下には出来ません。

 

ですので軽く入社試験として、わたしとの模擬戦闘を行なってみたところ、二人とも合格基準に達したので入社を認めました。

 

「ハハ、死ぬかと思いましたけどね」

 

「俺は黄泉比良坂まで行ったけどな……なんとか帰ってこれたけど」

 

この二人は黄金聖闘士だそうです。なので実力は同じ黄金聖闘士のアルデバランやシャカと似たようなものだと思います。

 

強いていえばアイオリアは肉弾戦に強く、デスマスクは戦闘能力は一段落ちるようですが、積尸気冥界波などという当たれば死ぬという反則技の持ち主です。もっとも、わたしは跳ね返したのでデスマスクの方があの世に行きましたけどね。彼が自力で戻ってきた時には少し驚きました。

 

彼らから聞いたところ、ここは聖域の奥深い場所だそうです。

 

どうやらわたしがまだ観光していない場所だったようですね。今度、ゆっくりと観光しに来るとしましょう。

 

「沙織お嬢様、それは危険ではないでしょうか? 聖域は教皇の庭のようなものです。悪質な罠が仕掛けられている可能性があります」

 

「ああ、そうだな。実力はすでに教皇を上回っているとしても相手だって百戦錬磨だ。妙な搦め手に引っかかっても厄介だぜ」

 

この二人は何を言っているのでしょうか?

 

わたしは別に聖域と争っているわけではないのですけど? むしろインフラ整備工事などを行なって聖域の近代化のお手伝いをしているぐらいです。

 

たしかに一時期は、女神(アテナ)打倒を掲げたお茶目な時代もありましたが、大人となった今はそんな気は無くなりました。

 

「ア、女神(アテナ)打倒ですか? た、たしかにお茶目な発想ですね。(どういう意味か分かるか? デスマスク)」

 

「まあ、若い頃はそんなものだな。(多分だが、沙織お嬢様の言葉から推察すると彼女はまだ女神(アテナ)の化身だと気付いていないようだな)」

 

「ええ、そんなものですよ。(なんだと!? それは直ぐにお知らせして皆にも教えるべきだ!!)」

 

「そして今は沙織お嬢様も大人になって落ち着かれたということだな。(いや、それはお勧めできねえな。冷静になって考えてもみろよ。今の聖域は教皇によって掌握されているんだぜ。そんな状況で始末したと思っていた女神(アテナ)が実は生きていたなんて馬鹿正直に言ってみろ。すぐさま山のような刺客が送られてくるぜ)」

 

「ええ、私もそう思います。(そんな馬鹿な!? 教皇の命令如きで女神(アテナ)に弓引く者など聖闘士にいるわけ無いだろう!!)」

 

「無駄なことに時間を使うのは勿体ないからな。(貴様は馬鹿か? アイオロスの件を忘れたのか? 教皇の影響力を忘れるな、俺達の言葉など聞く耳を持たれずに叛逆者にされてお終いさ)」

 

「私も同意見です。(うぬぬ、たしかにその通りかもしれん。だがっ!! 沙織お嬢様のお力なら教皇や愚かな聖闘士共もまとめて成敗できるはずだ!!)」

 

「話を元に戻すけど、どうやら俺達は少し考えすぎていたようだな。沙織お嬢様は聖域とは良好な関係なんだからよ。(貴様は本物の馬鹿かっ!? 黄金聖闘士の俺達がいながら沙織お嬢様に戦わせるつもりなのか!!)」

 

「その通りです。私は下らない事を考える馬鹿です。(すまぬ……教皇は俺達だけで倒し、沙織お嬢様は穏やかに聖域にお迎えするぞ)」

 

「ああ、その通りだな。お前は馬鹿だ。(ああ、絶対にそうするべきだ。じゃないと、沙織お嬢様に能無しだと思われて黄金聖衣を没収されかねんからな)」

 

「はは、きついな。少しは庇ってくれよ。(まさかそんな事は……あり得そうだ。今代の女神(アテナ)は武闘派だからな。内輪揉めを解決できないような軟弱な黄金聖闘士など聖衣没収どころか、全員まとめて黄泉比良坂送りにされても不思議じゃないぞ)」

 

「クク、俺も馬鹿だから一緒だ。だから気にするな。(流石にそれはな……いとは言い切れんな。さっきの模擬戦闘時に感じた沙織お嬢様の苛烈な小宇宙から察するに彼女は容赦のない性格みたいだからな。よし、俺も気合いを入れ直すとするぜ)」

 

「ああ、私達は馬鹿コンビだな。(よし、そうと決まれば作戦を練るぞ! そうだ、他の黄金聖闘士はどうする? 話をしてみるか?)」

 

「ハハ、それはいい、俺達はコンビだぜ。(いや、それは危険だな。真実を知った上で教皇に付いている奴がいるかもしれん。俺達二人だけで教皇を倒すべきだ。教皇さえ倒せば後はどうにでもなるだろう。何しろこちらには本物の女神(アテナ)がいらっしゃるのだからな)」

 

「ああ、これからはコンビとして頑張ろう! (ああ、そうだな。では改めてこれからよろしく頼む!!)」

 

「おう、俺も頑張るぜ! (おう、こっちこそよろしく頼むぜ!! クク、それにしても面白くなってきたぜ!!)」

 

はて、馬鹿がコンビを組んで何を頑張るのでしょうか?

 

まあ、とにかくお二人は女神(アテナ)に対して友好的のようですね。もっとも彼らは聖闘士なのだから当たり前だといえば当たり前なのでしょうね。

 

ところで、ここが聖域ならこの女神像を持って帰ってはいけないのでしょうか?

 

「いえ、沙織お嬢様が移動させたいのなら誰も反対など致しませんよ」

 

「ああ、そうだな。しかしそんな巨大なものをどこに移動させるおつもりで?」

 

はっ!?

 

そ、そうでしたわ。わたしの屋敷の庭は広いですが、流石にこの大きな女神像を置いたら邪魔になりそうです。星華に怒られかねませんわ。

 

あなた達はどうしたらいいと思いますか?

 

「あの、元の場所に戻す。というのはダメなのでしょうか?」

 

アイオリアが下らない意見を言いました。返すつもりなら意見など求めませんわ。この女神像はわたしの物です。聖域などに寄付する気はありません。

 

却下をくらってガーンとなっているアイオリアは放っておくとして、デスマスクは何か意見がありそうですね?

 

「そうだな、屋敷に置くのが邪魔なら別荘に置くというのはどうだ? もし沙織お嬢様が別荘を持ってないのなら、聖闘士所縁の土地が世界各地にあるからそこに置くのも良いと思うぜ」

 

なるほど。言われてみれば当たり前の意見ですが良い発想です。

 

都心にある屋敷だと広いといってもたかが知れていますが、別荘なら女神像を10体置いても余るほどの広さのものがいくつもありますわ。

 

問題はどこの別荘に置くかですね。

 

「ば、馬鹿な!? デスマスクの意見が採用されるだと!?」

 

「フハハハハッ!! アイオリアよ、どうやら沙織お嬢様とは俺の方が波長が合うようだな! 所詮は真面目一辺倒の貴様など戦うことしか脳のない猪武者だということよ!」

 

「ウググッ、次こそは俺の意見を採用してもらうぞ!」

 

「クク、無駄だと思うが、精々頑張るんだな」

 

「デ、デスマスクに見下されるとは……む、無念だ!」

 

うるさい二人ですね。

 

でも、ライバル同士で張り合いながら頑張るのは、人の成長にとっては良い事なので理想の上司のわたしは我慢します。

 

うふふ、褒め称えてもよろしくてよ?

 

「沙織お嬢様バンザーイ!!」

 

「流石は沙織お嬢様ですね。部下のことをよく見ておられる。私達もちゃんと見てもらえていると思うと凄く励みになります。本当にありがとうございます」

 

デスマスクの褒め言葉に10点です!!

 

「おのれーっ!! デスマスク!!」

 

「フハハハハッ!! 口下手な貴様には負けんぞ!!」

 

「こうなったら社交教室に通って口下手を直してやるぞ!!」

 

「ほう、ならば俺も付き合ってやろう」

 

「お前は来るな!!」

 

「フハハハハッ!! 余裕がないな、アイオリアよ!!」

 

「ほっとけ!!」

 

本当にうるさい二人です。

 

少しうるさ過ぎますね。やっぱりぶっと飛ばしましょう。

 

えいっ。




沙織「わたしの魅力に惹かれた手駒がよく集まりますわ」
星華「でも聖域の聖闘士をヘッドハンティングして苦情はこないのでしょうか?」
沙織「大丈夫ですよ。任務の一つに聖域に対する二重スパイも含まれていますからね」
星華「何が大丈夫なのか分からないです」
沙織「それに表向きは聖域の聖闘士のままにしておけば、何か騒動を起こしても責任は聖域にいくという寸法ですわ」
星華「流石は沙織お嬢様。責任転嫁の準備に抜かりはありませんね」
沙織「うふふ、備えあれば憂いなし。という事ですわ」

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