沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第32話「沙織お嬢様と進撃の女神」

シャイナお姉様と星華の三人で、アルデバランの説得役を押し付けあっているとその本人から電話がありました。

 

「シャイナお姉様、お願いしますわ」

 

わたしは保留中になっている電話機をシャイナお姉様の前に置きました。

 

「星華、びーえる趣味をオープンにしているあんたなら性癖の話も平気だろう? この任務はそんなあんたにこそ相応しいよ」

 

シャイナお姉様が間髪入れずに目の前に置かれた電話機を星華の前に移動させました。

 

「私は自分の趣味をオープンにした記憶は一切ありません。誰がそのようなことを──などという問いは愚問ですね。容疑者はたった一人しかいませんもの」

 

星華は目の前に置かれた電話機を握り潰しました。そして、怒りの大魔神へと変身したのです。

 

もちろん賢明なわたしは即座にその場を後にします。

 

「待ちな! 沙織お嬢様!!」

 

怒りの大魔神に待てと言われて待つお馬鹿さんはいません。大魔神から伸びる魔の手から逃れる為、わたしは自らの強大な超能力を遺憾なく発揮してテレポートで窮地を脱するのでした。

 

 

 

 

わたしは見知らぬ場所に来てしまいました。周りを見渡したところ、ギリシャっぽい造りの遺跡のようです。人影はないようですね。

 

怒りの大魔神の拳骨から逃れるため咄嗟にテレポートをしたのは良かったのですが、移動先の設定をしないランダムテレポートになってしまいました。

 

これも大魔神が振るう拳骨の恐怖の所為です。文句を言いたい所ですが、大魔神は怖いので泣き寝入りをする可哀想なわたしです。

 

こうなったら仕方ないので、ほとぼりが冷めてから屋敷に帰るとしましょう。

 

怒りが長続きしないのが、大魔神の良い所かもしれませんね。

 

ところで、目の前にそびえ立つ巨大な石像は何なんでしょう?

 

右手に乗せているあれは天使でしょうか? 手乗り天使を右手に乗せて、左手にはわたしが持っている黄金の盾に似た物を持っています。

 

この巨像には見覚えがありません。やはりこの場所は、わたしが知っている観光名所とかではないようです。

 

ふうむ、少し困りました。

 

現在位置が明確でないとテレポートの精度が悪くなります。このまま屋敷にテレポートすると屋敷の屋根とかに飛んでしまう危険があります。

 

自分の屋敷の屋根上で、仁王立ちをしている可憐なお嬢様。

 

とても絵になる光景だとは思いますが、少しばかり悪目立ちもする可能性がありますね。

 

これは現在位置が分かる場所まで移動した方が良さそうです。

 

きっと少し移動すれば人間がいる場所に行けると思います。人間さえいれば記憶を読んで現在位置を特定出来ます。そうすれば安全に屋敷までテレポート出来るでしょう。

 

そうと決まれば早速移動したいところですが、何故かこの巨像が妙に気になります。

 

巨像相手だというのに何やらシンパシーを感じてしまう非常に感受性の高い文学美少女なわたしがいます。

 

巨像をよく観察すると女神を模しているように見えます。もしかするとこれはわたしへ向けてのメッセージなのかもしれません。

 

遥か太古の人間が、この現代に城戸沙織という人類史上最高にして最大のまるで女神のような超絶美少女が誕生することを予知してしまい、そんな女神なわたしに恋い焦がれるあまり造ってしまったのが、この巨像ならわたしが感じているこのシンパシーも納得出来ますね。

 

うん、決めました。太古の方達からのプレゼントとしてこの女神像は貰い受けるとしましょう。

 

わたしはサイコキネシスで女神像を浮かべると、その右手の手乗り天使の背に負ぶさります。

 

うーん、羽が邪魔ですね。もいでしまいましょう。

 

わたしが手乗り天使の羽をもごうとすると、不思議な事に何処からか悲しげに啜り泣くような声が聞こえた気がしました。

 

たぶん気の所為ですね。

 

でも、少しばかり手乗り天使が可哀想になったので羽をもぐのはやめておきましょう。

 

我ながら自分の心優しさに感動です。気性の荒い大魔神とは違うのです。

 

さて、手乗り天使の背は収まりが悪いので、女神像の頭の上にでも座るとしましょう。

 

よいしょっと。

 

うむむ、石なのでお尻が痛くなりそうです。

 

こうなっては仕方ありません。女神像の頭の上で仁王立ちです。

 

屋敷の屋根上で仁王立ちするよりかはマシでしょう。

 

高度を十分にとり、光の屈折を歪めておけばわたしがいることには気付かれないでしょうしね。

 

さあ、女神像よ。準備は整いました。

 

これより人里に向かって進撃です!

 

 

 

 

黄金聖闘士の中でもトップクラスの実力を誇るアイオリア。彼は色々あってストレスが溜まる環境で暮らしていた。彼は少しでもストレスを軽減すべく一人で過ごす事が多かった。

 

そして、その日もアイオリアは一人で散歩をしていた。

 

「今日はいい天気だな。空もあんなに青……い?」

 

そんな彼は、自分で感じていたよりもストレスが大きかったのかと痛感した。

 

何しろ彼は、真っ昼間から異常に明瞭な幻覚を見ていたからだ。

 

「……アテナ神像が空を飛んでいる」

 

アイオリアは自分が見ている幻覚を言葉にしてみた。

 

うん、やはり幻覚だな。とアイオリアは確信した。

 

何しろアイオリアの記憶が確かなら空を飛んでいるアテナ神像は、聖域の最奥にあるアテナ神殿に設置されている巨大な石像だ。

 

アイオリアには正確なことは分からなかったが、その巨大さからアテナ神像の質量は途方もない値だということは容易に想像できた。

 

間違いなく黄金聖闘士全員でサイコキネシスを振り絞ったとしても、今アイオリアが見ているほどの空高くまで飛ばすことは到底不可能だと断言できた。

 

「……どうやら、俺には休養が必要のようだな」

 

アイオリアは空飛ぶアテナ神像を見つめながら、たとえ教皇を脅してでも休暇を取ろうと決意した。

 

そんな決意をアイオリアがしていると、くだんのアテナ神像が大きくなったように彼は感じた。

 

「いや、違う!? アテナ神像が近付いているんだ!」

 

アイオリアは空高くから落ちてくるアテナ神像に焦った。何しろあれ程の質量だ。たとえ黄金聖闘士の彼でも下敷きになればただでは済まない事は明確だったからだ。

 

アイオリアは逃げる事を考えるが、あれは幻覚のはずだという思いもあった。

 

徐々に大きくなっていくアテナ神像を凝視しながらも次の瞬間には消えるかも? という考えがアイオリアの行動を制限する。

 

「あれは幻覚だ。幻覚なんだ。逃げる必要なんかないぞ。黄金聖闘士の俺が幻覚に怯えて逃げるなど笑い話にすらならんぞ」

 

アイオリアは、迫り来る巨大なアテナ神像の圧倒的な質量に気圧されそうになりながらも黄金聖闘士としての矜持にかけて一歩たりとも引こうとはしない。

 

暫くすると、ゴゴゴッという効果音の幻聴すら聞こえてきてもアイオリアは毅然とした態度を崩そうとはしなかった。

 

「ひぃっ!? な、なんなんだ!? アテナ神像が降ってきやがったぞ!!」

 

そんな誇り高い姿のアイオリアの脇を同じ黄金聖闘士のデスマスクが、猛スピードで駆け抜けていこうとした。

 

アイオリアがいたのは聖域でも人気のない場所だったが、偶然にもデスマスクも近くにいたのだった。

 

「デスマスク!! 貴様っ、何をそんなに慌てているんだ!!」

 

アイオリアは咄嗟に自分の脇を駆け抜けようとしたデスマスクの襟首を掴んだ。

 

もちろん、捕まったデスマスクの反応は決まっていた。

 

「アイオリア!? テメエッ、その手を離しやがれ!! 俺は死にたくねえんだよ!!」

 

デスマスクは、生きるためにアイオリアの手を振り解こうとした。

 

いつもは皮肉げな薄笑いを浮かべているデスマスクが、今まで見たこともない必死な形相で自分の手から逃れようとする様子を見てアイオリアは少し不安になる。

 

 

──もしかして、あのアテナ神像は幻覚じゃないのか?

 

 

アイオリアの脳裏にそんな埒もない思いが浮かんだ。

 

「フッ、まさかな。巨大なアテナ神像が空を飛ぶなどあり得るはずがない。しかもそれが俺達に向かって落ちてくるなど冗談のネタにすらならん」

 

「アイオリアッ、貴様現実逃避してんのか!? 上を見ろ!! 本当にアテナ神像が落ちて来てるだろうが!! 俺は死にたくねえんだよ!! この手を離してくれよ!!」

 

デスマスクは必死にアイオリアの拘束から逃れようとするが、黄金聖闘士屈指の実力者からは逃れられない。

 

自分の腕の中で狂ったように暴れるデスマスクと全く消えようとしない幻覚に、アイオリアの小さな不安はどんどん大きくなっていく。

 

ふと、影が差した。

 

今日は散歩日和の晴天だったはずだとアイオリアは思う。何か巨大なモノに迫られているような圧迫感も頭上から受けているようにも思う。幻聴も危険を感じるほど大きくなっているようにも思う。

 

彼の腕の中ではデスマスクが似合いもしない念仏を唱えていた。

 

「フフ、全ては幻に決まっているさ。上を向けば全て消えているはず──俺はそう信じる!!」

 

威勢のいい言葉とは裏腹にアイオリアは恐る恐る顔を上げた。

 

 

「うふふ、やっと貴方達(人間)に会えました」

 

 

──その日、黄金聖闘士(ライオンとカニ)は思い出した。

 

女神(アテナ)を守護する(に振り回される)宿命を。

 

女神(アテナ)に愛される(を見守る)幸福を。

 




沙織「ライオンさんは強そうです。カニさんは、カニのくせして美味しそうではありません」
星華「私はエビの方が好きですね」
沙織「わたしはエビはエビでも伊勢海老の方が好物です」
星華「ふふ、伊勢海老をエビフライにするのは沙織お嬢様ぐらいですよ」
沙織「美味しいですよ?」
星華「そりゃあ、美味しいでしょうけど、折角の伊勢海老をエビフライにするなんて勿体無くて庶民には真似できませんよ」
沙織「それならエビシューマイにしますか?」
星華「もっと勿体ねえよ!!」

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