「いいかい。たとえ
シャイナさん曰く、せっかくの大きな
確かにそれは当然ですね。
わたくしの愛読書にも、鍛錬不足のため界王拳10倍を使うと身体が持たない。と記述されていました。通常以上の力を発揮するためには、やはりベースとなる身体が大事なのですね。
「分かってくれるなら話が早いよ。それじゃあ、これからは毎日腕立て100回、上体起こし100回、スクワット100回、そしてランニング10㎞がノルマだよ」
がーん!?
そ、それほどまでの過酷なトレーニングが必要なのですか。
うう、いきなり挫けそうです。
「ちなみに聖闘士候補生達は、最低でもこの10倍の数をこなしているよ」
なんですとーっ!?
『あ、あの、わたくしは少なくても宜しいのですか?』
別に過酷なトレーニングをしたいわけじゃありませんが、わたくしの目標は逆恨みで襲ってくる青銅聖闘士を返り討ちにする事です。
ヌルいトレーニングのせいで、負けてしまっては本末顛倒ですわ。
なんといっても、乙女の貞操が懸かっているのです。妥協はいたしません。
「聖闘士候補生達がそこまで身体を追い込むのは、
『つまり、わたくしは
「そりゃそうさ。トレーニングもやり過ぎたら身体を壊すだけさ。戦うための身体作りで、肝心の身体を壊しちゃ意味がないからね」
この後、シャイナさんからは三ヶ月間は頑張ってトレーニングを続けるように指示を受けました。
そして、三ヶ月間後に身体の仕上がり具合を確認して、攻撃的な
わたくしの身体を確認する…。
ぐふふ、なんだかイケない響きがしますわ。
でも、お姉様になら全てをさらけ出しても構いませんわよ。
「あんた、その不気味な含み笑いはやめな」
『お姉様、不気味は酷いですわ』
「お姉様もやめなっ!」
こうして、わたくしの最強への道は始まったのです。
***
「はあ、はあ」
豪華な屋敷の裏庭で、爽やかな汗を流す謎の美少女がいました。
わたくしでした。
「いっち、にー、さん、しー」
可愛い魅力的な声で、回数を数えながら運動をする謎の超絶美少女がいました。
わたくしでした。
「ひっひっふー、ひっひっふー」
苦しげでありながら、官能的な息遣いで懸命に走る謎のハイパー美少女がいました。
わたくしでした。
ところで、官能的ってどういう意味なのでしょう? お祖父様がよく隠れて読んでいる書物の帯に書かれていますけど?
兎にも角にも、わたくしは晴れの日も、曇りの日も、屋敷の裏庭で頑張ってトレーニングを続けていました。
雨の日?
雨の日はスポーツ施設を貸し切って、そこでやっております。
そういえば、お祖父様が何やら闘技場なるものの建設を命じておりました。
きっと、わたくしがトレーニングを始めたことを知って気を利かしてくれたのでね。
うふふ、我がお祖父様ながら孫馬鹿で困りますわ。
わたくしのトレーニングの様子はいうと、始めた頃は辛かったのですが、だんだんと身体が慣れてくると楽しくなってきました。
身体の調子も良くなり、動きにもキレが出てきたように思います。
先日も同じ小学校に通う近所の男子をタイマンで泣かせることに成功しました。
ふふ、心配しなくても大丈夫ですよ。女子に泣かされたなんて男子が言えるわけがありませんよ。先生にももちろんお祖父様にもバレていませんので、叱られることはありませんでした。
それにしても、ただ身体を鍛えただけで、自覚できるほど強くなれるのですから、これで
今からとても楽しみです。
「お嬢様、タオルをどうぞ」
「ありがとう。星華」
汗をかいたわたくしにタオルを差し出してくれたのは、メイド見習いの星華。
彼女は二年ほど前、屋敷に忍び込もうとしている所を捕獲されました。その行動力が気にいったわたくしが、お祖父様にお願いをして屋敷で暮らせるようにしたのですわ。
星華は行方不明になった弟を探して屋敷に忍び込もうとしたそうです。
驚くことにその弟とは、わたくしのお気に入りだった愛馬…ではなく星矢だったのです。
星華は、星矢が酷い目にあっていないか心配して探しにきたそうです。優しいお姉さんです。
当時のわたくしは、星矢達は世界中に捨てられたと思っていました。
とても星華にはその事を言えず、海外に留学したと嘘を吐いたけれど、結局は本当に留学でしたね。
え、だって、星矢はギリシャで聖闘士になるための学習をされているのだから留学ですよね。
まあ、当時は色々とありましたが、最終的には星華も納得して、屋敷でメイド見習いとして暮らすようになりました。
もっとも、メイド見習いといっても学校に一緒に通っていますし、仕事もお手伝いレベルですけどね。
星華はいい子だけど、欲をいえば同い年なら良かったのに。
わたくしより少し年上だから同級生になれないのが残念です。
星華が同級生なら体育の時間も二人組になれるのに。本当に残念です。
「お嬢様、この間の怪我も治りきっていないのですから、トレーニングは程々になさって下さいね」
「このわたくしが、クソガキの攻撃で堪えると思っているのかしら。平気だから心配しないでいいわよ」
自分でも強がりだと分かる言葉に、星華は困った顔になる。
「お嬢様、私が孤児なのは本当のことですから、その事で何か言われてもお嬢様が怒る必要はありませんよ。もちろん、お嬢様のお気持ちは嬉しいのです。でも、そのせいでお嬢様が傷付かれる方が私は辛いです」
「ふんっ、このわたくしが、あのクソガキが気に入らなかっただけよ。だから星華が気にする必要はないわ……でも、次からは気をつけるわ」
「はい。お嬢様」
「ふふん、見てなさい。次は無傷で勝ってみせるわ」
「だからっ、喧嘩はすんなって言ってんのよ! このお馬鹿お嬢様っ!!」
「星華は、時々言葉が悪いのが玉に瑕ね」
「誰のせいだと思ってんのよ!」
叫ぶ星華を見て、ふと思った。
星矢は星華を人質にしたら、復讐は出来ないわよね?
うん、いい考えね。
「ねえ、星華。ちょっといいかしら?」
「なんでしょうか。お嬢様」
急に話を変えたわたくしに、星華は呆れた目を向けながらも相手をしてくれる。
「二年前に星矢達とお馬さんごっこをして遊んでいた事は、以前にも言ったわよね」
「はい。よくある子供の遊びですよね」
「うん。そうなんだけど、どうやら星矢達は女の子の馬にされた事を根に持っているみたいなのよ。たぶん、わたくしが馬役をしたことが無いのが気に入らなかったのね」
「いえ、女の子に馬役をさせようと考える方がダメでしょう」
「星華はそう言ってくれるけど、星矢達は大きくなってから復讐するつもりみたいなのよね」
「そんな! お世話になっているお嬢様にそんな馬鹿な理由で復讐だなんて!?」
「だから、星矢が襲ってきたとき、星華を人質にして星矢の凶行を止めようと思うのよ。星華、協力してくれないかしら?」
「いえ、ちょっと待って下さい。そこでなぜ、人質という発想になるのですか? 普通に私が星矢をぶん殴ってでも止めればいい話ですよね」
星華が呆れた顔になる。
あれ、星華の弟だから殴ったりしちゃダメかと思ったけど、星華的にはオッケーなのかしら?
「もし、わたくしが星矢に襲われたら、逆にボコボコにしても星華は怒らない?」
「あのですね、お嬢様。もしも星矢が私の恩人であるお嬢様に手を出したら、私がこの手でぶっ殺しますよ。もちろん、お嬢様の手でぶっ殺しても構いません。そんな恩知らずの外道に育っているとは考えたくないけど、もしもの時は遠慮なくぶっ殺して下さい……もし余裕があって半殺しで済ませていただければ、私が責任をもって矯正はさせていただきます」
ふふ、前半の言葉には驚いたけど、後半の言葉はやっぱり優しい星華らしいわね。
でも、これで安心して星矢をぶっ飛ばせるわね。
その為にもトレーニングを頑張らなきゃいけないわ。
「さあっ、トレーニングの再開よ!」
「だから、お嬢様! ご無理はやめて下さいってば!」
星華の性格が分からなかったので、私の想像です。現在の沙織さんの年齢は9歳ぐらいです。原作開始時で13歳なので、その四年前ぐらいです。