沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第19話「沙織お嬢様の作戦開始」

邪武と瞬の退屈な試合は、一向に終わる気配をみせません。

 

それというのも邪武が、瞬の鎖に何度ブチのめされても諦めないからです。

 

瞬も追撃をせずに受けに徹しています。まったく、瞬は勝つ気が無いのでしょうか?

 

「沙織お嬢様は、邪武よりも瞬に勝って欲しいのか?」

 

星華にシッシと邪険に追い払われても全くめげずに、彼女の周囲をウロチョロとしていた星矢が聞いてきました。

 

「いいえ、星矢。わたしは勝敗には興味ありませんわ。この大会で大事なのは、各人の聖闘士としての実力の確認と性根の見極めです」

 

「実力は分かるけど、性根の見極めってなんだ? 性格の悪い奴のことか? たしかに性格の悪い奴とは一緒にやっていきたくないよな」

 

「うふふ、そういう単純な話ではありませんけどね。ですが、星矢の考えも分かりますわ」

 

性格の良し悪しも大事ですが、それよりもわたしに対する忠誠心が最も大事です。

 

「でも、考えてみれば、性格の悪さなら沙織お嬢様の右に出る奴なんかいないよな。そんな沙織お嬢様とも上手く付き合える俺達なら、きっと誰とでも仲良くやっていけると思うぞ」

 

「えいっ!!」

 

「ゲボォオッ!?」

 

土手っ腹に、純情可憐な乙女の膝蹴りを受けた無礼者がその場に崩れ落ちました。まったく、わたしの元愛馬でありながら惰弱で困りますわ。

 

「星矢、大丈夫かい?」

 

「うう、星華姉さん…お、俺はもうダメかも……」

 

星華が倒れた星矢を気遣っています。やはりなんだかんだ言っても実の弟は可愛いのでしょう。

 

「まったく、沙織お嬢様が大らかだからって、少々図に乗りすぎよ。これからは気をつけようね」

 

「う、うん。沙織お嬢様の恐ろしさを思い出したよ。そうだよな、あの女悪魔なんだよな。あの恐怖は絶対に忘れちゃいけないんだ……」

 

「ほら、肩を貸してあげるから医務室に行くよ」

 

元愛馬を引きずるようにして星華は行ってしまいました。そして、観客席に一人残されるわたし。少し寂しいです。

 

 

 

 

星華はフラつく星矢に肩を貸しながら医務室へと向かっていた。

 

星矢は、久しぶりに触れる姉の温もりに、安らぎと同時に興奮も覚えるという器用なことをしていた。

 

「ほら、しっかりしなさい。星矢は一人前の聖闘士なんでしょ? 女の子の膝蹴りなんかでフラつくなんて格好わるいわよ。まったく、私の錫杖での突きのときは平気な顔して立ち上がったじゃないの」

 

「うぅ、星華姉さんの愛情たっぷりの突きと、女悪魔の地上の邪悪全てを込めたような膝蹴りを比較されても困るよ」

 

星華は、沙織お嬢様を女悪魔と呼ぶ星矢に眉をしかめる。

 

「星矢、沙織お嬢様を女悪魔だなんて言っちゃダメよ。孤児だった私を屋敷に引き取って学校にだって通わせてくれる優しい方なのだからね」

 

「……うん。星華姉さんにとっては、優しくて良いお嬢様なんだって分かるよ。星華姉さんが被っている猫がずり落ちても気にしないどころか、逆に星華姉さんの本性が表に出ている時の方が嬉しそうだしね」

 

「ふふ、被っている猫がどうとか、本性が表にとかって、どういう意味かしら? 星矢は面白いことを言うのね」

 

「あれ、星華姉さん? なにをするのかな?」

 

星華は、ぬるりと星矢の身体に絡みつく。

 

「口の悪い愚弟にはお仕置きだよ!!」

 

「イデデデーッ!? コブラツイストはやめてー!!」

 

城戸邸の廊下に愚弟の悲鳴が響き渡る。

 

「たっぷりと反省しな!!」

 

「痛いけどっ、痛いけどっ、星華姉さんが柔らかくて気持ちいい!!」

 

完璧に決まったコブラツイストの痛みよりも、密着することで伝わる姉の身体の柔らかさに喜んでしまう星矢。

 

もちろん、そんな本音を素直に声に出してはいけなかった。

 

「気持ち悪いこと言ってんじゃないわよ!!」

 

「イタタタターッ!?」

 

それまでは、さすがに実の弟相手のため手加減をしていた星華だったが、星矢の本音を聞いて本気で締め上げた。

 

「まだ13歳のくせして色気付くのは早いんだよ!!」

 

「13はもう思春期だよーーーー!!!!」

 

「やかましい!! 弟のくせして姉に口答えするんじゃないよ!!」

 

情け容赦なく全力で締め上げる星華。

 

「イダダダダダダーーーーッ!!!! ギブギブギブーーーーッ!!!!」

 

「フンッ、これに懲りたら姉を敬うことを忘れるんじゃないよ!!」

 

星華は、自分の腕をパンパンと叩いてタップをした星矢を放り出すように解放した。

 

解放された星矢は全身の痛みのため、廊下に倒れ伏せてしまう。

 

「うう、酷い目にあった……でも、気持ちも良かったからいいかな」

 

「星矢、あんたねぇ、いくら男だからって、スケべなのも大概にしなよ。まったく、小さい頃は良い子だったのに、こんなにスケベになるなんて聖闘士修行で禁欲生活が続いたせいなのかな?」

 

「何言ってんだよ、星華姉さん。俺は姉さん一筋だよ。修行中は、師匠の魔鈴さんとシャイナさんのキャットファイト中におっぱいをよく見たけど気にもしなかったよ。俺が気になるのはたとえ魔鈴さん達よりも小さいおっぱいだとしても星華姉さんのおっぱいだけだよ!!」

 

「……」

 

「あれ、どうしたの、星華姉さん? どうして急に黙ったの? あれ、どうして片足を上げるの? せ、星華姉さん……せ、せい…か、ウギャァアアアアアアアア!!!!!!」

 

聖域(サンクチュアリ)を汚すものには災いあり”

 

かつて、暴虐無人の沙織お嬢様ですら触れることを禁忌とした聖域(星華のお胸)

 

星矢はその禁忌に触れてしまった。

 

「フンッ、次は容赦なく潰すよ!!」

 

「アガガ……」

 

だが、禁忌に触れながらも星矢は最悪の事態は免れた。

 

何故なら――

 

 

「フッ、やっぱり弟には甘くなっちまうね」

 

 

――姉弟の絆があったからだ。

 

 

星華は小さく呟いたあと、沙織お嬢様の元へと戻っていった。

 

その後には、廊下に倒れたまま、身体の一部をおさえピクピクと痙攣する星矢が残されていた。

 

だが、安心してほしい。その星矢の顔はどことなく幸せそうに見えたのだから。

 

 

 

 

邪武達の試合観戦は飽きました。

 

なので、瞬攻略作戦を前倒しで実行します。

 

予定では、瞬と紫龍のお二人の試合が終わった後、つまりお二人を疲れさせてから作戦を始めるつもりでした。

 

疲れた状態でしたら、お二人の状況判断も鈍り、作戦の成功確率も上がるだろうという算段でした。

 

ですがまあ、わたしが試合観戦に飽きたので、もう作戦開始でいいでしょう。

 

瞬攻略作戦の総監督はわたしです。そのわたしが決めました。

 

作戦ごー! です。

 

わたしはテレパシーで一輝に作戦開始の合図を送ります。

 

『一輝、これより作戦を開始します。ですが、決して無理をされてはいけませんよ』

 

「俺の、いえ、私のために沙織お嬢様にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。この御恩に報いるためにも絶対にこの作戦は成功させてみせます。この私の命を賭してでもです!」

 

『一輝……分かりました。もう無理をするな、などとは言いません。エスメラルダと瞬、そして貴方自身のために、その命と誇りをかけて見事成功に導くのですよ』

 

「はっ、承知致しました。沙織お嬢様!!」

 

こうして、一輝達三人の恋とブラコンが絡まりあった、イケない三角関係をどうにかこうにかしようという無謀な作戦の幕が切って落とされました。

 

うふふ、一体どのような結末を迎える事になるのでしょうか?

 

とても楽しみですわ。

 

わくわく…♪

 

 

 


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