沙織お嬢様の優雅なる武勇伝   作:銀の鈴

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第15話「沙織お嬢様は冗談好き」

「マーマと再会させてくださった偉大なる沙織お嬢様に、俺は永遠の忠誠を捧げる」

 

氷河がわたしに忠誠を誓ってくれました。

 

そして、シベリア海に沈んだ船はマーマさん自身の希望で引き上げないことになりました。

 

なんでも、極寒のシベリア海ならマーマさんの御遺体は生前と変わらない状態をキープできるそうです。

 

いつまでも美しくありたい。その気持ちは同じ女として理解できますわ。

 

わたしの強大な超能力でなら容易に船は引き上げられたのですが、氷河もマーマさんの意思を尊重することに賛成しました。

 

氷河としては三日に一度程度、わたしの神聖な力でマーマさんとお喋りができれば満足だそうです。

 

「あのさ、氷河を殴ったその棒は何なんだ?」

 

星矢がわたしが手にする錫杖を指差します。こらこら、人の方を指差してはいけませんよ。

 

「これは地下倉庫で発掘した錫杖ですわ。不思議とわたしの手に馴染んだので愛用しています」

 

かつて、女神(アテナ)と戦うことを決意したわたしは自分の修行だけではなく、わたしに相応しい武器も探しました。

 

なにしろ相手は神様なのですから流石のわたしでも素手では不利でしょう。

 

そこで、節操のない好事家として有名だったクソジジイの収集物を漁ってみたところ、この錫杖を見つけたのですわ。

 

黄金に輝く美しい錫杖は折れず、曲がらずの丈夫なものでした。それに握っていると自分が最強になったような感覚になります。

 

もしや精神汚染かと警戒しましたが、わたしが調査したところ問題がなかったので愛用することにしました。

 

同じように黄金の盾も地下倉庫で見つけたのですが、これまた丈夫なものだったので愛用しています。この盾の場合、装備していると自分が無敵になったような感覚になります。

 

無敵の盾と最強の錫杖。

 

どちらの方がより丈夫なのでしょうか?

 

ここで愚かな男なら試すのでしょうが、わたしは賢明な女なのでそのような馬鹿な行為には及びません。

 

だって、どっちかが壊れでもしたら勿体無いでしょう?

 

これは星華も同意見でしたわ。

 

女狂いのクソジジイでしたが、この二つはクソジジイの形見だと思い大事にしています。

 

 

***

 

 

「俺はどうしたらいいんだ?」

 

もうすぐ銀河戦争の一回戦が始まるというのに、一輝は頭を抱えて悩んでいます。

 

「素直にエスメラルダを瞬に紹介すれば良いのではないですか?」

 

一輝はいまだに瞬に会っていません。

 

なんでも、実の弟に瓜二つのエスメラルダを恋人にしたことをどのように説明するかで悩んでいるそうです。

 

わたしにとっては今更な話なのですが、本人にとっては重大事らしいですね。

 

「沙織お嬢様が瞬だったとしたら、俺のことをどう思われますか?」

 

一輝が真剣な顔になっています。ここはわたしも本気で考えて答えてあげるべきですね。

 

うーん、そうですね。わたしが瞬だったとしたら、久しぶりに再会した実の兄が自分と同じ顔の女性を恋人にしていたわけですよね。

 

つまり、兄にとって自分も情欲を向ける対象になりうるわけですね。

 

ふむふむ、昔を思い返してみれば、一輝は瞬に甘い兄でしたよね。いつも二人は一緒にいた記憶があります。

 

ご飯も一緒、お風呂も一緒、布団も一緒、ベタベタした兄弟でした。

 

うんうん、あの頃から一輝は瞬に対してそのような感情を向けていたわけですね。

 

「はい、結論がでましたわ」

 

「是非とも聞かせて下さい!!」

 

一輝はわたしに詰め寄らんばかりの勢いです。本当に瞬のことが心配なのですね。

 

わたしも心して答えましょう。

 

「兄さん、気持ち悪いよ」

 

「ガーン!?」

 

「もしかして、ずっと僕のことをそんな目で見ていたの?」

 

「うう…」

 

「たしかにエスメラルダさんは女の子として可愛いと思うよ」

 

「そ、そうだよな!」

 

「でも、僕に似ているよね?」

 

「あうう…」

 

「普通、いくら可愛いといっても弟に似た女の子を恋愛対象にみれるものかな?」

 

「うぐぐ…」

 

「まあ、他にも色々と言いたいことはあるんだけど、エスメラルダさんは幸せそうだからよしとするよ」

 

「おおっ、俺たちの事を認めてくれるのか!?」

 

「うん、そうだね。兄さんのことはともかく、エスメラルダさんはいい人だし幸せになって欲しいからね」

 

「そうなんだ! エスメラルダは俺には勿体無いぐらいの女性なんだよ!」

 

「…そうだろうね。僕のことを知っても兄さんを愛してくれるだなんて、こんな慈悲深い女性が現実にいるなんて信じられないよ……それとも乱視とかかな?」

 

「よかった、よかった。これで三人で仲良く暮らせるよな!」

 

「は? 何を言っているんだい、兄さん」

 

「え…いや、だって瞬はエスメラルダのことを認めてくれたんだろう? それなら一緒に暮らせるじゃないか」

 

「はっ、寝言は寝てから言ってよね、兄さん。僕はエスメラルダのことは仕方ないことだと諦めたけど、◯モで近◯相◯の変態兄貴なんかと一緒に暮らせるわけないだろう。僕はノーマルなんだよ、アンドロメダ島にちゃんと彼女だっているんだからね。だから僕には近付かないでくれるかな? 僕の許可なく近付いた場合は法的措置も辞さないからそのつもりでいてね」

 

「ぬわああああっ!!!! しゅぅうううんんんっ!!!! 俺を捨てないでくれーっ!!!!」

 

「見苦しいよ、兄さん。こんな奴が僕の兄さんだなんて呆れるのを通り越してもう悲しくなってくるよ」

 

「瞬っ、不甲斐ない兄を許してくれーっ!!!!」

 

血の涙を流しながら一輝は地面に崩れ落ちました。

 

えっと、ちょっとした冗談のつもりだったのですが、一輝は大丈夫でしょうか?

 

 

***

 

 

一輝の落ち込み具合が凄まじくエスメラルダに怒られてしまいました。

 

わたしも少し反省しました。

 

ですので、知性豊かなわたしが知恵を振り絞り、一輝と瞬の仲を取り持つ脚本を作成しました。

 

大まかなストーリーはこうです。

 

銀河戦争中に突然現れた一輝が優勝商品の金ピカの聖衣(クロス)っぽい物を盗みます。

 

そして、デスクイーン島に逃げた一輝を瞬達は追いかけて行くのですわ。

 

しかし、その途中で一輝の配下達(バイトのエキストラ達)に瞬以外は足止めをされてしまいます。

 

瞬はたった一人で兄を止めようと一輝の元に向かうのですわ。

 

その頃の一輝はいうと、盗んだ金ピカの聖衣(クロス)っぽい物を謎の儀式に使って、かつて聖闘士の修行中に一輝を庇って命を落としたエスメラルダを生き返らせていたのです。

 

エスメラルダは弟の瞬の似ていたため、修行中の一輝とは男女の垣根を超えた友情を育んでいたのですが、一輝の命の危機に際してエスメラルダは自分の本当の気持ち――一輝への恋心に気付いて命を投げ出したのです。

 

そんなエスメラルダの気持ちに触れた一輝もまた、実の弟とクリソツな姿形などは関係なくエスメラルダの純粋な気持ちに惹かれたのですわ。

 

そして愛するエスメラルダを生き返らせるために一輝は、敬愛する素晴らしい沙織お嬢様を裏切るという大罪を侵したのです。

 

そんなこんなな事情説明をし合う一輝とエスメラルダの会話をタイミング良く聞いていた瞬は、きっと一輝とエスメラルダの純愛を認めてくれるでしょう。

 

瞬と和解した一輝は、可憐で純粋な沙織お嬢様に命をもって償うと言いだします。瞬はきっと反対して一緒に許しを請いに行こうと仰ることでしょう。

 

一輝とエスメラルダ、そして瞬の三人に許しを請われた女神のように慈悲深い沙織お嬢様は、三人が共に幸せになるなら許しましょうと告げるのですわ。

 

涙を零し感激する三人。

 

それを優しい笑みを浮かべて見守る沙織お嬢様。

 

めでたし、めでたしですわ。

 

 

***

 

 

わたしが思っていた以上に一輝は追い詰められていたようですね。わたしが冗談で作った脚本が採用されるなんて予想外ですわ。

 

エスメラルダも一輝の勢いに飲まれてイベント参加を了承してしまいました。

 

こうなったら、わたしも言い出しっぺなので後には引けません。

 

仕方ないので、デスクイーン島に一輝のアジトを突貫工事で作らせることにしました。

 

一輝配下用のエキストラは、アルデバランとシャカ、それにシャイナお姉様だけだと少ないかしら?

 

修行時代に友人になったヒルダにも声をかけてみようかな? 彼女は田舎暮らしで暇そうだから声をかけたら喜んで来そうよね。

 

うふふ、意外と『銀河戦争』より楽しくなりそうね。

 

そうだわ、星華も参加しない?

 

実はこんな事もあろうかと、星華用の悪の女幹部っぽい衣装を作っていたのよ。ほらほら、少しエッチでセクシーな衣装なのよ。

 

「…どんな状況を想定してその衣装を作られたのか非常に不安ではありますが、私の身体能力では聖闘士を相手するのは不可能でございます」

 

そうね、無理をして星華が怪我なんかしたら大変よね。

 

…怪我をさせた奴も始末しなきゃいけないしね。

 

「あんたは怖いことを真顔で言うんじゃないよ!」

 

えへへ、冗談ですわ。

 

もちろん半殺しで済ませますよ。

 

 

 

 

 

 




沙織お嬢様はまだ13才なのです。13才なら適当な冗談も言うのです。

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