第1話「沙織さんは超能力者!」
「わたくしが
お祖父様に呼び出されたと思ったら、突然意味不明の事を告げられました。
このわたくしが、ギリシャ神話の
「お可哀想なお祖父様、とうとうボケられてしまわれたのですね」
わたくしの頰を一筋の涙が伝う。
「ですが、ご安心下さい。グラード財団は、このわたくしが立派に受け継いてみせますわ!」
まだまだ若年のわたくしですが、幼少の頃より受けている英才教育は伊達ではありません。
既にグラード財団の運営状態や財務状況は把握しています。それに、財団内外の主要人物達も洗脳済みなので、わたくしが総帥の座に就いても何も問題ありませんわ。
「沙織や、儂が言っておるのは冗談ではないんじゃ」
そう、わたくしの言葉も冗談ではありません。
実はわたくしには秘密にしている“力”があるのです。
いえいえ、わたくしは電波でも厨ニ病でもありませんよ。確かにわたくしには超能力と呼ばれる力があるのです。
わたくしに秘められた強大な超能力は、まさに神の如しといえるほどです。
自分の超能力に気付いたのは2年ほど前のことでした。
そう、お祖父様が気紛れで拾ってこられた子供達を、これまた気紛れで世界中に捨てられた頃の話です。
子供達がいなくなり、ストレス発散の為に日課としていた乗馬が出来なくなりました。
そのため、わたくしが癇癪を起こしたとき、感情の爆発とともに衝撃波が発生してハゲの執事を吹き飛ばしたのです。
そのことに気付いたわたくしは、本屋に直行して超能力入門という書物を買い求めました。
その書物を頼りとして、超能力開発に勤しんだわたくしは数々の超能力に目覚めたのです。
そして、精神感応系の超能力を応用して他人を洗脳する技術を編み出すことに成功したのです。
「沙織や、お前を守るために世界中に送った子供達が、将来必ずや聖闘士となって戻ってきてくれるだろう」
おや、まだお祖父様の妄想が続いていたようですね。早く、病院に隔離して療養していただきましょう。
「聖闘士の拳は空を裂き、その蹴りは大地を割ると伝えられている。きっと沙織を守る力になるじゃろう」
空を裂き、大地を割る?
ククク、その程度ならわたくしの超能力の方が上ですわよ。
わたくしのサイコキネシスなら、海を割ることすら可能です。モーゼも真っ青ですわよ。
「聖闘士は
どうしてかしら。直感に引っかかりますわ。
「お祖父様、聖闘士とは何処にいらっしゃるのかしら?」
「うむ、聖闘士は世界中に散らばっておるが、その中枢はギリシャじゃよ」
ギリシャ……少し調べてみるとしましょう。
わたくしは病院の手配をしたあと、自室に戻り超能力で意識をギリシャへと飛ばした。
***
驚きました。
お祖父様のいう通り、ギリシャの地で聖闘士なるもの達の隠れ里を発見しました。
隠れ里には認識を誤魔化す結界が張られていましたが、わたくしの超能力の方が力は上のようです。労なく発見できました。
ですが、聖闘士なるものも侮れないことに気付きました。
超能力──恐らくは聖闘士達がいう
ですが、聖闘士達は
その強化具合は、
ま、不味いですわ。
わたくしのアホなお祖父様が、世界中に放った子供達。あの子達が聖闘士になって帰ってきたとしたら…
〜沙織妄想中〜
筋肉ダルマとなって帰ってきた星矢。
「沙織さん、久しぶりだね」
可憐な美少女に成長したわたくし。
「よく戻りましたね、星矢。これからは頼りにしますよ」
下卑た嗤いを浮かべる星矢。
「おいおい、何言ってんだよ。あんたが俺達にした仕打ちを忘れたわけじゃないだろうな?」
戸惑う姿も美しいわたくし。
「せ、星矢? 何を言っているのですか?」
欲望に目を血走らせる星矢。
「ゲヘヘ、子供の頃はあんたが俺に乗ったんだ。今度は俺があんたに乗らせてもらうぜ」
怯える姿がまた男の欲望を掻き立ててしまうという美しさは罪という言葉を体現してしまう哀れなわたくし。
「ああ、おやめになって。筋肉ダルマは趣味じゃないの」
哀れ、若く美しすぎる華は、醜くき男の獣欲によって、散らされるのであった。
〜沙織妄想終わり〜
そんなのまっぴらゴメンですわ!!
子供の頃の星矢ならともかく、筋肉ダルマになった星矢には触れられたくもありません。
しかも、星矢の後ろで他のクソガキ共が順番待ちの行列を作っていたら最悪を通り越して死んだ方がマシですわ!
聖闘士にするために百人も送り出したなら、数人ぐらいは聖闘士になれるかもしれないもの。
まったく、余計なことをしやがってですわ。クソジジイめ!
それなら予め教えやがれっての! 知っていればクソガキ共に優しくして手懐けておいたってのに。
気の利かない、ボケジジイだわ!
ふう、とにかく。なにか対策を考えましょう。
対聖闘士を想定しての戦力が必要だもの。
***
「ギリシャの聖闘士は化け物ですか!?」
聖闘士の隠れ里に意識を飛ばして調査を進めた結果、聖闘士がとんでもない化け物だということが判明した。
最下級と思われる聖闘士ですら音速の動きが可能で、最上級と思われる金ピカの聖闘士は光速機動というトンデモ仕様だ。
しかも、防御力も化け物クラスだ。大地を軽く砕く一撃を喰らおうと平気な顔で立ち上がり、頭から石畳に落下してもケロリと立ち上がり、光速の拳を喰らってもイタタの一言で立ち上がる。
うう…
わたくしの強大な超能力でも、戦闘だと太刀打ちできそうにありませんわ。
相手も超能力──
そうだわ、今からでも星矢達に謝罪と励ましの手紙を送ったら、昔のことを水に流してくれないかしら?
うんうん、所詮はまだ子供なんだから優しい言葉でもかけてあげれば、コロリと靡いてくれるわよね。
うふふ、早速手紙を送るとしましょう!
***
住所が分かりませんでした。
というか、住所がありませんでした。
だいたい隠れ里自体に結界があるのですから、郵便が届くわけがありませんわ。
こんな馬鹿な策を考えたのは一体誰なのよ!
まったく、時間の無駄だったわ。
ここは毒をもって毒を制す。
聖闘士には聖闘士だわ。
わたくしに恨みをもたない聖闘士を味方につけましょう。
わたくしは超能力で意識を聖闘士の隠れ里に飛ばす。
わたくしの強大な超能力を持ってすれば、遠く離れた相手でもテレパシーで会話が出来ます。
これで直接スカウトして護衛に雇うとしましょう。
えっ?
テレパシーで星矢達に謝ればいいんじゃないかって?
そんなの無理に決まっているじゃない!
意識だけの状態でテレパシーを使うと感情がモロに伝わってしまうのよ。つまり、謝罪や励ましをしても本気かどうか分かっちゃうのよ。
まったく、無茶振りもいい加減にしてほしいわね。
さて、それより目ぼしい聖闘士はいるかしら?
〜沙織幽霊状態〜
小川の側で休んでいるマスクを付けた女聖闘士がいるわ。マスクは顔を守るためかしら?
うふふ、聖闘士といっても乙女なのね。
あっ、マスクを外して顔を洗ってる。
あらあら、意外と可愛い顔をしているわね。
やっぱり、身近に侍る護衛なら、筋肉ダルマの聖闘士より、可愛い女の子聖闘士の方がいいわよね。
それに、ずっと近くにいれば、もしかしたら仲良くなってわたくしのお友達になってくれるかもしれないしね。
うふふ、女の子同士のお喋りとかショッピングとか楽しそうよね。
うん、この子に決めた!
わたくしは意を決して、女の子にテレパシーを送る。
『ねえねえ、わたくしとお友達になりましょう』
「うひゃあっ!? なんだい、今の声は!?」
『ごめんなさい。驚かせちゃった?』
「なっ!? と、透明の女の子?」
どうやら突然すぎて驚かせてしまったみたいだ。
わたくしはゆっくりと事情を説明する。
自分は日本の女の子で、あなた達と同じ超能力を持っていること。でも直接戦闘する力はないこと。将来、聖闘士になった男に逆恨みで襲われる危険があること。そのときの為に護衛になって欲しいこと。
わたくしは全ての真実を誠意を持って伝える。
精神体の今の状態だと感情も伝わってしまうから、彼女にもわたくしが本当の事を言っていることが分かったみたいだ。
いくつかの質問を受けた後は、彼女はわたくしに同情をしてくれた。そうそう、彼女の名前はシャイナさんと言うそうだ。
「あんたも苦労してるんだね。考えなしの爺さんに、クソガキ共。恩知らずのクソガキ共が聖闘士になれるだなんて思いたくないけど、こればっかりは実力次第だからね」
『それで、シャイナさんにわたくしの護衛になってほしいの』
「うーん。あたしとしちゃあ、あんたの護衛になってあげたいんだけどねえ。あたしは
そういえば、わたくしのボケたお祖父様が、わたくしは
わたくしがブツブツと言っていると、シャイナさんが顔色を変える。
「おいおいっ!? たぶんあんたが言っている
えへへ、心配してもらっちゃった。なんだかお友達みたいだよね。
「でも、どうしようかねえ。聖闘士が絡むなら普通の人間じゃ太刀打ちできないしね。何か考えなきゃいけないね」
『そうなのよ。わたくしも超能力には自信があるけど、直接戦闘はからっきしだから』
「超能力って、つまりは
『うーん。そうね、他の人にバレないように結界を張ってからみせてあげるね』
何かのアイディアになるかもだから、わたくしはシャイナさんに自分の超能力をみせることにした。
まずは結界を張る。それから、超能力の波動を強くする。この時、何故か宇宙のイメージが湧いてくるのが不思議だったりする。
「なあっ!? なんなんだっ、この
えっへんだわ。
シャイナさんが驚いているわね。
わたくしの強大な超能力は伊達じゃないのよ。
うふふ、呆気にとられているシャイナさんの表情は可愛いわね。
暫くして、ようやくシャイナさんが正気を取り戻してくれた。
「あんた凄いよ! あんた、沙織ほどの
『わたくしが聖闘士に…』
なるほど、その発想は無かったわ。
今までは超能力に頼っていたから、逆にそれ以外の選択肢を無意識に除外していたみたいね。
うんうん、言われてみたら当然の選択肢だわ。
聖闘士は
『ありがとう、その発想はなかったわ』
わたくしは精一杯の感謝の気持ちを込めて、シャイナさんにお礼を伝える。
「いやいや、礼なんかいいよ。あたし以外でも沙織の
うふふ、シャイナさんが照れて赤くなっている。凄く可愛いわ。
『でも、聖闘士の修行はどうすればいいのかしら? わたくしは財団の仕事があるからギリシャには来られないけど』
お祖父様がボケて入院してしまったから、わたくしが財団を切り盛りしなくてはならない。殆どの業務は忠実な部下達(洗脳済み)が行なってくれるけど、決済などはさすがにわたくしが行う必要があった。
「別に沙織は正式な聖闘士になりたいわけじゃないんだろう? 逆恨みのクソガキ共はどうせ青銅聖闘士だろうから、沙織の
まあっ、頼りになるわ!
お姉様と呼ばせてもらおうかしら?
『是非、ご指導をお願いしますわ。お姉様』
「イヤイヤイヤッ、お姉様はやめてよ。その手の子は女聖闘士に多いから懲りてんだよね」
なるほど、聖闘士の世界にも色々あるのね。
とにかく、これで何とかなりそうね。
才色兼備で文武両道の麗しい美少女を目指すのも悪くないわね。
『そういえば、シャイナさんは日本に来られることは無いのですか?』
わたくしの言葉に少し考えたあと答えてくれた。
「そうさね。本来は極秘任務だから内緒なんだけど、時々は仕事で日本に行くことがあるから、その時はお邪魔していいかい?」
わたくしの考えを察してくれたシャイナさんに嬉しくなる。
『もちろん大歓迎しますわ! お姉様!』
「だからお姉様はやめてくれ!」
うふふ、これから楽しくなりそうな予感がします。
さあっ、頑張りますわ!!
沙織さんがアテナとしての記憶を取り戻さずに小宇宙だけ目覚めていたら、こんな感じに成長していたかも?
ちなみにギャグなので、沙織さんファンの方、怒らないでね。