もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は番外編をお楽しみください。




もう一つの東方鬼狂郷 番外編 その後

 体の質量が無くなった。そんなふっと軽くなるような感覚がして、私は目を開くとおなじみのあの場所に出た。

「……この場所に来るのも、二度目だな」

 匂いもなく、意図的に発生させなければ音もない不思議な空間。静かにしていれば自分の呼吸音どころか、服の擦れる音までよく聞こえるぐらいにまでに静かな場所。

 それに加えて地平線の先まで大量に並んでいる扉があり、道の先には前回に会ったときと同じようにアトラスは小さな扉の上に腰を掛けている。

 その奥には私の身長の数倍はある巨大な扉の隙間に誰かが歩いて行くのが見えた気がしたが、気のせいだろう。その上にアトモス君の三十センチはある巨大な瞳が真っ暗闇の中に浮かんでいるのが見えた。

「…アトラス、私がお前を知覚できるってことは……私を呼んだってことでいいんだよな?」

 私が彼に近づきながら話しかけると、お面をつけて表情が読めないアトラスが顔をこちらに向けた。

「やあ、また会ったね……それよりも、なかなか楽しませてもらったよ…まさか、八意永琳……彼女が黒幕とは思わなかったよ…予想外だ」

 仮面を被っているせいでアトラスの声がくぐもっていて聞きづらいが、上機嫌の彼は少しだけ興奮した様子で話し出す。

「…楽しんでもらえて何よりだよ……それより、私はどうしたらいいんだ?死人なんだしアトモス君の扉をくぐった方がいいのか?」

 私が聞くと、アトラスはうーんと考える仕草をしてから私に提案をしてきた。

「そっちの彼女らにお別れを言って来た方が後腐れがないんじゃないのかい?」

「……いや、いい」

 私は短くそう答えると、扉の隙間から私とアトラスを見下ろしているアトモス君に歩み寄った。

 だが、アトモス君は私を見下ろすばかりで扉の中に引きずり込もうとはしてこない。

「…アトモス君?…どうしたんだ?」

 私が言うとアトラスは仮面を外し、霧がかかっていて見えない地面に投げ捨て、扉に歩み寄っていた私のいる方向に顔を向けてきた。

「…魔理沙、君にはほんの一時間程度だけど寿命が残っている……一時的に地上に戻ってもいいんだよ?」

 私が死んだ理由は生命エネルギーを使いつくしたことによる衰弱死だったはずだ。つまり、私には寿命なんか残されていえるはずがないのだ。

 こいつは、私に後腐れの無いように霊夢たちにお別れを言わせたいのだろうか。気分で生き返らせたりといろいろと突っ込みたいところはあるが、もしかしたらいいやつかもしれない。

「…いいや……私はいかない…戻ったら死にたくなくなるし、また死ぬのが怖くなる」

 だが、私はアトラスの提案を断るとアトラスは少しうっすらと笑い、静かに言った。

「二回も死んでていまさら何を言っているのさ、少し行ってお別れを言ってから寿命で死ねばいいだけだろう?」

「…お前に死の恐怖なんかわかるのか?…また死ぬことになるなんてごめんだ。…それに私は何回死ねばいいんだよ」

 私はあきれた声をアトラスに聞かせるが、アトラスは肩をすくめてからはっきりと言い放つ。

「…だから?僕は行ってくれってお願いをしているわけじゃあないんだ…行けって言っているんだよ…君の死に対する恐怖なんて知ったことじゃあないのさ」

「お前がいいやつだと思った私の感動を返せ……私にもう一度死ねだなんて……酷いやつだぜ」

 私がそう言うとアトラスはニヤッと笑いながらこちらを見る。

「…言っておかなくても…僕は良いやつじゃあないよ?」

 アトラスがこちらに手を向けると、私の真後ろから開いた扉が突っ込んできて私を扉の中に収めた。

「…この場所と君のいた世界とでは時間の流れは全然違う。だから数日たっているから、そこのところはよろしくね」

 憎たらしいアトラスの笑い顔が最後に見えた。

 

 永琳が起こした異変が魔理沙の手によって解決されてから、数日が立った。

 何も覚えていない私は、本当に異変が起きたのかが実感はなかったが、異変を解決した小悪魔や大妖精たちにどのようなことがあり、どんな異変だったのか詳しく説明を受けてだいたいのことは理解した。

 永琳たちが異変を起こし、私たちは鈴仙の狂気を操る程度の能力の暴走によって、狂気を植え付けられた。なんとか狂気を植え付けられなかった小悪魔たちは、私と戦闘になったそうだ。

 そして、私を何とか倒して永琳が黒幕だと見破った魔理沙は、彼女との戦闘の末に死亡した。

 永琳と魔理沙の倒れた位置と倒れ方、周りの状況から永琳と魔理沙がどうやって戦い、どうやって戦闘を終えたのか推測することができた。

 私は、片手と片足を消し飛ばされた永琳を封印せずに今までと同じ生活をさせることに決めた。なぜなら魔理沙は永琳を殺さなかった。その意志を尊重するために私はそうすることにしたのだ。

 そのことについて、反対の意見がかなり多かったが、いろいろと無理を通したことで永琳を封印しないという方向で話は進んでいる。

「……」

 そうして異変について考えていると、魔理沙のことを思い出してしまい。目から涙がころぼれそうになった。

 私は沈んだ気分を入れ替えるために買い物に出かけることにし、ちゃぶ台の上に置いてある飲み干した湯飲み椀を持ち上げて立ち上がる。

 茶の間から寝室に移動し、タンスから財布を取り出して巫女服の内ポケットに入れ、普及が始まって河童たちが立て直し、おおよそ半分が立て直しが完了された村に向かうことにした。

 靴を玄関で履き、玄関からまっすぐ神社に来るためにある階段まで続いている岩のタイルの上を歩く。赤い塗装がされ、木で組まれた大きな鳥居まで歩いて私は空に飛び立とうとしたとき、鳥居の後ろに誰かが据わっているのが影で見えた。

「……っ…!」

 私は目を見開き、言葉を失った。この目で死体を見たはずの魔理沙が、生きてそこに座っているのだ。

「……」

 死体を見た時の魔理沙は色が抜けた白髪で、真っ赤な赤色の瞳をしていた。だが、今は異変が起こる前のように鮮やかで手入れが行き届いていてサラサラの金髪だ。瞳も赤色ではなく、日本人特有の黒色である。

 座って柱に寄りかかっている魔理沙は疲れ切った表情をしていて、私の顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。

「…よう、霊夢」

 もう聞くことがでいないと思っていた魔理沙の声を聴くことができ、感情が高ぶった私はさっきは我慢することができていたが、今度はこらえることができず涙をあふれさせてしまう。

 流れ落ちた涙は頬を伝い、顎から水滴となって落ちて地面に水のシミを作り出す。

「魔理…沙……!」

 伝えたいことや話したいことがたくさんあるのに、感情が高ぶってひゃっくりがこみあげ、言葉が出てきてくれない。

「…魔理沙ぁ……!!」

 言葉で伝えることができなくても、私は自分の気持ちを行動で伝えるため、鳥居の柱に寄りかかって座っている魔理沙に飛びついた。

「れ……霊夢……!?」

 疲れ切り、かすれた声で魔理沙は驚いたような声を出すが、私はそんなことは関係なく彼女に抱き着く。

「魔理沙……ごめんなさい…私は、何もできなかった……」

 いつも温かいはずの彼女の体温はとても低く、ひんやりと冷たい。

「……霊夢、お前は悪くないぜ……あんな状態じゃあ……どうしようもないぜ」

 魔理沙は抱き着いた私の耳元でそう囁きながら、細くて華奢な腕を私の背中側に回して抱きしめてくれた。

「…魔理沙……」

 私は彼女の名前を呼び、苦しいぐらいになるまでお互いの存在を確かめ合うように、力強く抱きしめ合う。

 しばらくそうしていたが、魔理沙が私から離れるようにして私の肩を押して、私から離れて呟く。

「……すまない霊夢……私はもう行かないといけない…」

「…どこに行くの?」

 私が聞くと、魔理沙は少ししてから小さな声で呟く。

「私はもうすぐ死ぬ……友人が死ぬところなんて……見たくはないだろう?」

 そう言って私から離れようとする魔理沙の瞳からは、死に対する恐怖を私は読み取ることができ、無意識のうちに私は離れそうになった魔理沙の手を掴んで握った。

 私が歩いて行こうとする魔理沙の手を掴んだことで、死が近くなって弱り始めている彼女はそれだけで前に進むことができなくなり、私がさらに軽く引っ張っただけで後ろに倒れてしまう。

「………もう、立ち上がる力もないっていうのに…なに…するんだよ……」

 魔理沙のかすれた声にはいつものような覇気はなく、弱々しくて末期の病人のようだ。

 私は地面に座り、魔理沙に膝枕をした。

「…魔理沙……大妖精とか小悪魔には会って来たの?」

 私は関係はないが、魔理沙に話を振る。

「……。いや、あってはいない……また泣かせちまうからな……今日は異変を解決するのに手伝ってくれた……さとりとかに会って来た…あとは、永琳に会って来たぜ……」

「…私で最後かしら?」

 私が聞くと、魔理沙は注意してみないと分からないぐらい小さくうなづく。

「……」

 しばらくの間、静寂が私たちに訪れた。

 ヒュウゥ…と生ぬるい風が私たちの肌を撫でて、髪の毛をなびかせる。

 彼女の透き通るような肌の色が死人のように青白くなってきていて、本当に死んでしまいそうなのだと私にはわかった。

「…霊夢」

 悲しくて、私はまた泣いてしまい。目から流れ落ちた滴が魔理沙の頬に落ち、少ししてから私の膝の上に横たわっている魔理沙はうっすらと目を開けて私の名前を呼んだ。

「……なに?」

「…霊夢……私は…死ぬ……だから、私のことは忘れて……きちんとした恋愛を……恋をしてくれ…」

 私が魔理沙のことが好きだという気持ちは、彼女には見抜かれていたらしく、魔理沙はそんなことを口走る。

「…そうね……私はそのうち…どこの誰かもわからないやつと結婚しないといけなくなる…それでも、私のこの気持ちは一生変わらない……だから、今言っておきたい。…魔理沙、私はあんたのことが大好きよ」

 私が魔理沙にそう言うと、魔理沙は嬉しそうにも悲しそうにも見える表情でわらい。静かに息を引き取った。

 




これで、もう一つの東方鬼狂郷は本当に完結とさせていただきます。

私の説明足らずでどういう意味だか分からないとかがあったら、いつでも聞いてください。覚えている範囲でお答えします。

新しいシリーズがもし始まったら、気が向いたら見てやってください。

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