もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第八十四話(終)をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第八十四話(終) 最後のマスタースパーク

 これが、最後の戦いだ。

 私は残りの生命エネルギーをもったいぶることなく消費して魔力を生成し、カバンから取り出したミニ八卦炉に全身から集めた魔力を送り込む。

 だが、生命エネルギーを魔力に変換しなければならないという、無駄な手順を踏んで魔力を生成しているため、永琳の攻撃に一歩出遅れてしまう。

 私に向かって放たれた矢は空中で分裂し、一本が二本に、二本が四本にと倍々に増えていき、数百本にも増えた矢が雨のように私に降り注ぐ。

 しかも、分かれた一本一本の矢の威力が分裂したせいで衰えていると思ったが、撃った時と変わらない威力を持っているのか。ギリギリ私に当たらない軌道を飛んできた矢が後方の木に突き刺さると、木を半ばからへし折り消し飛ばした。

「ぐっ……!!」

 右手に持ったミニ八卦炉を永琳の方向に向けようとしたとき、すさまじい威力を持つ巨大な一メートルはある矢が、始めに私の左腕の前腕に突き刺さる。

 魔力で体を多少は防御していたおかげで、後方に生えている木のようにはならずに済んだが、左腕の内部組織が少々破壊されてしまい。矢で負った傷とは思えないほどの大量の血が矢が刺さっている傷口から洩れてきた。

 大量の矢が地面などに刺さっていき、そのたびに地面が爆発して辺りの地形がめちゃくちゃになっていく。

 続いて左肩、右わき腹、左ひじ、太ももや股関節、腹や足、首などに大量に飛んできた矢の一部が私に突き刺さる。

「う…ぐっ……あああああああっ!!!」

 私は叫んで痛みをごまかして、永琳に向けてマスタースパークを放とうとした。だが、撃とうとしたその瞬間にミニ八卦炉を持っていた右手の手首と手の甲に分裂した最後の矢が突き刺さり、魔力の防御が追い付かなくなっていたことが原因で、右手がはじけ飛んだ。

 体の内から爆発し、周りに肉片と骨片をまき散らし、真っ赤な血がしぶきとなって広範囲に広がった。爆破され、千切れたようになくなっている右手の断面にある動脈から大量の血がドバドバと流れ出し、地面を紅く濡らしていく。

 手が爆破された影響でミニ八卦炉が前方に飛んで行き、地面に転がり落ちる。

 地面に落ちたミニ八卦炉はさらに地面を転がり、土に刺さっている矢の一本にこつんと当たると動きを静止させ、陰陽玉のような模様が描いてある面が上に向くように地面に倒れた。

「…全快時ならば、私は確実に負けてた。でも、疲労しているあなたならば、私は絶対に負けないわ……まさか卑怯だなんて言わないわよね?いつの時代も戦いでは負けた方が悪いって、なって来たんだから」

 永琳は、全身を矢で貫かれている箇所から血を滴らせながらも、倒れまいと残った気力だけで立ち続けている私に言い放った。

「…う……く……っ……」

「早く倒れて楽になりなさい。もうあなたに打つ手はないでしょう?……すでに遅いと思うけど、消費して少なくなった残りの人生はせめてゆっくりと過ごしなさい」

 私にそう言いながら永琳は油断なく矢でいつでも私の額を撃ち抜けるように、狙いながら私に早く倒れろと促してくる。自分の提案に賛成しなかったその瞬間に撃ち抜くつもりなのだろう。

「……私は…諦めるわけにはいかないんだよ……お前が殺された奴らのために諦めないのと同じでな…」

 私は前方に転がっているミニ八卦炉を拾いに行こうと、感覚の無い足を引きずりながら進もうとする。

 だが、数メートル先に転がっているミニ八卦炉を永琳が踏みつけ、私に拾わせないように地面に押さえつけた。

「……」

 私が顔を上げると永琳が矢を限界まで引き絞り、目で追うことなど不可能な速さで私の胸を矢が貫いた。

「…っ……は……っ……!!」

 体から力が抜けて私は崩れ落ちそうになる、だが、貫かれた胸を押さえながらなんとか踏みとどまる。

「…永琳……」

 血反吐を吐き、体を再生させることすらできなくなって出血が激しく、血の量が足りなくて意識が朦朧とし始めていた私は、彼女の名を呼んだ。

「…何かしら?…遺言でも言うつもり?」

 永琳は言いながら再度、魔力で矢を作り出して矢に装填した。

「…お前もわかるだろう?……放出した魔力っていうものは何かしらの形で消費しなけりゃ、魔力として意外と長くその場にとどまる…」

「…そうだけど、それがどうかしたのかしら?」

 永琳がそう言いながら二発目の矢を私に放とうとした。

「……私は、魔力を込めた……あとは唱えるだけでいい…」

 私がそう言ったとき、

「……!?」

 その言葉で永琳は私が何を言いたいかを察したらしく、目を見開いて左足で踏んづけているミニ八卦炉から飛びのこうとした。

「ちょうど一発分だったんだ……これが、最後のマスタースパークだぜ」

 私はさっき発動させ、今まで機能停止して保留にしていたスペルカードを再起動させて、私の全魔力を注いだミニ八卦炉に命令を下す。

「恋符『マスタースパーク』」

 私の呟き声と共に、上を向いて落ちていたミニ八卦炉から超極太のレーザーが放たれ、微妙に飛びのいていた永琳の左半身をマスタースパークが呑み込んだ。

「い…ぎっ…ああああああああああああっ!!?」

 永琳の左足と左腕を根元から蒸発して消し飛ばし、マスタースパークが放つ数百、数千度にもなる熱線が彼女の全身に重度の火傷を負わせた。

 極太レーザーのマスタースパークが段々と細くなっていき、完璧に消え去ると永琳は自分の体を片足で支えることができなくなったため、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。

「…ごほっ……永琳…私の勝だ…ぜ」

 私は喀血して血を吐き出しながらも、弱々しく呟いた。

「……く………」

 全身にやけどを負った永琳が小さな声を漏らし、動かすことのできない体を唯一動かすことのできる瞳で見つめた。

「…さすがのお前でも、全身を吹き飛ばせば…生きることはできなくなるんじゃあないか?……でも、お前には生きてもらうぜ……こんなところでくたばらせない………。お前が生きることで、周りからは冷たく接せられるかもしれない……いつ月の兵が来るかわからない恐怖におびえることになるかもしれない…それでも、お前はここで静かに暮らせ」

 私はそう言いながら自分の指を噛みついていつものように血を流させ、永琳の口の中に指を無理やりねじ込んだ。

「…うぐ……っ」

 永琳がかすれた声を漏らす。

 血を飲み込む力もないのか、私は永琳の喉の奥に血の付いた指を無理に押し込み、血を流し込む。

 永琳の再生能力を上げると、一部肉が焦げていたり焼けただれていた皮膚が元の透き通るような白い肌に戻っていく。しかし、無くなった左腕や左足を再生させるほどの血は飲ませていないため、永琳の傷は火傷しか再生しなかった。

「……呪詛があるし、……私はそれに従うしかなさそうね…………魔理沙、あなたはこれからどうするつもりなの?」

「…」

 私は黙ったまま、倒れている永琳のすぐ横に座り込んだ。

 もうすぐそこまで近づいてきている死を感じながら、私は掠れた声で永琳にゆっくりと話し出した。

「…私には……これからなんてないんだぜ……ここで終わりだ……」

 魔力と生命エネルギーが底をつき、結界を維持することができなくなったことで、この辺り一帯にはられていた結界が解除されていくのが空を見上げたことでわかった。

「……私のためにそんなことをするなんて…馬鹿ね…」

 永琳が小さな声で呟く。

「……ああ…でも、マイナスなことばかりじゃなかった」

 私はそう呟きながらさっきのやり取りを思い出す。

 永琳は私がミニ八卦炉を落とした時、諦めろと言って残りの人生を静かに暮らせと言っていたが、死んでいった鬼たちのために私を殺すと言っていた彼女の言葉とは、この行動は矛盾する。

 それに私がミニ八卦炉を撃とうとしたとき、矢を胸に放った。あの至近距離なら私の額に当てることなんて、容易なことだろう。しかし、永琳は私の胸を撃ってきた。額ならば(一部の妖怪を除いて)どんな生物だって即死するのにだ。

「…永琳。やっぱり…お前は悪人には向いてないぜ…」

 私が言うと、永琳はフンっと小さく笑い。しばらくしてから話し出した。

「……幻想郷を救ったっていうのに、あんたが死んでどうするのよ…」

「…仕方ないだろ?たくさん強いやつと戦って来たんだ……そもそも、私が死ぬのは半分はお前のせいでもあるんだぜ?」

「……そうだったわね」

 永琳はそう呟いて、私の方向をちらりと見た。

「…」

 眠気に似た死に飲み込まれ始めた私の体は、器官の運動が次々に機能を停止していき、身動き一つとれなくなっていく。

 怖い。一度死んでいても絶対零度のように寒く、容赦のない死の恐怖というものは慣れる物ではない。

 私の死期を感じ取ったのか、永琳は静かに私のことを見守っている。

「……」

 ゆっくりと目を閉じて私は彼女たちのことを思う。

 私のために泣いてくれた。あんな奴がいてくれるだけで私は幸せ者だろう。

 だんだんと呼吸が浅くなり、息苦しさを感じ始めるが、眠気の方が強く。私は何も考えることができない無意識の世界にその身を投じる。

 その時、誰かが私の名前を呼んだ気がした。ほとんどの機能を停止している私の耳には誰が私に声をかけたのかはわからない。でも、すぐ横にいる永琳ではないことが分かった。

 後方から誰かが走ってきているのを感じ、私は最後の力を振り絞って後ろを振り向こうとした。だが、体を支えることができないぐらいに弱っていた私は、ゆっくりと地面に倒れてしまった。

 しかし、地面に私が倒れたころ、すでに私は死んでいた。

 





 もう一つの東方鬼狂郷の本編はここまでとさせて頂きます。東方鬼狂郷よりも短くなる予定だったのに、ここまで長くなってしまいました。
 誤字や脱字があり、そもそも私が書くものが駄文であるため、読みずらかったと思います。
その辺は大変申し訳ございません。

評価などをしてくださった方や、読んでくださった方々。お付き合いくださりありがとうございました。

明日ぐらいに番外編も出すつもりなので、気が向いたらそっちも見てやってください。

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