割と好き勝手にやっています。
それでもいいという方は第八十二話をお楽しみください。
お嬢様が手に持ったグングニルを振り上げて、数メートル先に立っている戦闘態勢へとなっていく魔理沙さんに切りかかる。
少し離れた位置にいる私にさえグングニルの熱気が伝わってきて、私は顔をしかめるが魔理沙さんは眉一つ動かさずにそれに対応した。そして。
お嬢様と魔理沙さんの戦いは物の数秒で決着がついた。
「く…ぁ……っ…!!」
魔力が付きかけていたお嬢様の負けだ。
直接的な戦闘で二人がかりで霊夢さんと戦っていた魔理沙さんは、お嬢様のグングニルを持っている手を拳で殴り、まったく別方向に弾き飛ばし、もう片方の手で握りこぶしを握って魔理沙さんはお嬢様の胸に拳を叩きこむ。
「…く……っ!!」
お嬢様が胸を押さえて地面に倒れるのを魔理沙さんは一瞥してから、私たちの方向を見ながら手のひらをこちらに向ける。
「…!?」
レーザーでも撃たれるのかではないかと思った私と、すぐ横にいた大妖精さんが肩をビクリと震わせた。
だが、魔理沙さんはレーザーを撃たずに、私にはわからない言語を一言だけ呟く。
「umringen(囲め)」
魔理沙さんがそう呟くと私たちと魔理沙さんの間を白く輝く線が地面をなぞり、物理的な防御力を持つ結界が見上げるほどの高さで形成される。
「…え……?…なんですか…これ…」
私が呟いた時、結界の近くにいた大妖精さんがこの結界をドアをノックするようにして叩く。
すると、鉄の頑丈な扉でも叩いているような硬い音が聞こえてくる。
「見た通り、これは結界だぜ…森にいる永琳ごとこの辺りの地形を全部囲った」
私の質問に答えた魔理沙さんはそう言うと、永琳さんが走っていった方向に歩いて行こうとする。
「どういうつもりなんですか!?魔理沙さん!!…なんでこんなことをする必要があるんですか!?」
大妖精さんが固くてびくともしない結界を、拳で何度も叩きながら魔理沙さんに大声で叫んだ。
「…そりゃあ、お前らに来てもらっちゃあ困るからだぜ……レミリアと咲夜は魔力切れで戦力になりやしない。小悪魔は私と寿命を共有して使っているから、残りの生命エネルギーからして二分…下手したら一分もまともに戦えないかもしれない。…全力を出そうとしたらもっと短くなっちまうから二人で戦うことはできない…」
魔理沙さんが言うと大妖精さんは、引かずに魔理沙さんに噛みつく。
「…なら私が一緒に戦います!!…魔理沙さんの邪魔にはならないはずです!」
大妖精さんがそう言うが、魔理沙さんは首を縦には振ってくれない。
「…霊夢だって気絶してるし、私たちが永琳所に行ってるときに狂った連中が来たらどうするんだよ。……だから、レミリアたちはお前が守ってくれ、大妖精」
魔理沙さんが大妖精さんに優しく言った後、私の方を見た。その彼女の瞳を見て、私はある人を思い出す。
「だめ…駄目ですよ……行っちゃだめです…!魔理沙さん…あなた…死ぬ前に見たパチュリー様と同じ目をしています…!!」
私も大妖精さんのように結界に近づき、魔理沙さんに叫んだ。彼女は、死ぬ気なのだ。
「…」
しかし、魔理沙さんは私たちがどんなに叫んでも、一向に考えを変えてくれない。
「行かないで下さい!もし、永琳さんを倒すことができたとしても…あなたは生きるつもりなんてないんじゃあないんですか!?」
私は無駄だと分かっていても、結界を何度も殴りながら魔理沙さんに言うと、魔理沙さんは小さくうなづきながら言った。
「…かもな……」
そう呟いた魔理沙さんの言葉に大妖精が感情をむき出しにして怒鳴る。
「魔理沙さん!私言いましたよね!?あなたは殺してきた人たちのためにも生きなきゃいけないって…!魔理沙さんは……どんなに残りの人生が短くても…あなたは自分の命を無駄にしちゃだめです!!」
「…ああ……でも、一方的で悪いが…その約束は守れそうにはないな……」
目の前にいる魔理沙さんを殴って目を覚まさせてやりたいのに、結界のせいで魔理沙さんのところに行くことができず、苛立ちだけが募ってゆく。
「ふざけないでください!!少しでも罪の意識を感じてるなら…一人で行こうとなんてしないでください…!!」
大妖精さんが瞳に溜まった涙をボロボロと流しながら更に言った。
「…こんなのって無いですよ…!今まで一緒に戦って来たのに……最後の最後でこんなふうに自分だけを犠牲にするつもりだなんて……格好つけるのもいい加減にしてくださいよ…!!」
大妖精さんは泣き叫びながら結界をこれでもかというぐらい殴り、皮膚が赤く腫れている。
「…大妖精…さっきも言ったが永琳が異変をやめられないのは半分は私のせいだ……私が鬼を十数人殺したことで、死んだ鬼たちのためにも永琳は異変を続けている。…そうさせちまってる私がそれを終わらせないといけない……何というか……けじめ、みたいなもんだ」
魔理沙さんがそう言うが、大妖精さんは納得していないようで、涙を流して眉を吊り上げ、弱々しくいった。
「……幻想郷を救った魔理沙さんがいなきゃ……意味ないじゃないですか…!!」
大妖精さんはさっきとは違い、静かに震える声でひゃっくり交じりに呟く。
「…すまねぇ」
魔理沙さんが申し訳なさそうに呟きながら私たちに背を向け、永琳さんが言った方向に歩いて行こうとする。
「…ぁ………っ」
私は結界があるのも忘れて、歩み去ろうとしていた魔理沙さんに向けて手を伸ばすが、すぐに結界に当たって止まってしまう。
「…私を……」
魔理沙さんの死に向かって歩いて行く姿が、私を置いて行ってしまったパチュリー様の姿に重なった。
「…私を……置いて行かないで……」
私の見ている視界が歪み、いつの間にか涙を流していた。小さく蠟燭の消えかけの火のようにか細く、震えた声で呟いた私の懇願が聞こえた魔理沙さんは、足を止めてこちらに振り返って言った。
「…二人とも、すまない……こんなふうなやり方しか…私はできないんだ………最後の最後ですまない…」
魔理沙さんの最後を感じさせる言い回しに、私は涙が止まらなくなってしまう。
「酷い……酷いですよ………」
そう呟いて結界に触れていた私の手のひらに、魔理沙さんは自分の手のひらをゆっくりと重ねた。
結界越しで感じるはずのない魔理沙さんの肌のぬくもり、それをわずかに感じた気がして私は結界に強く手のひらを押し付けて彼女のぬくもりを強く感じようとするが。
「……こんなやり方しか知らなくてすまない」
魔理沙さんはそう言いながら結界から手を放して離れてしまう。魔理沙さんが離れたことにより、今まで感じていたぬくもりが消えてしまい。もっと触れていたい、もっと彼女のぬくもりを感じたいという欲求が膨れ上がると同時に、寂しい。といった心情も大きくなり、それらを抑え込もうと結界に触れていた手を握りしめようとし、指先に生えている爪が結界を軽くひっかいた。
「…レミリア、小悪魔をよろしく頼む……あとで契約をしてくれ」
魔理沙さんは一方的にお嬢様にそう伝えると、返答を待たずに走りだす。
誰かに何かをしてあげることが不器用で優しい魔理沙さんのその後ろ姿は、私が見た生きている彼女の最後の姿だった。
たぶん明日も投稿すると思います。