割と好き勝手にやっています。
それでもいいという方は第八十一話をお楽しみください。
「正邪……さん…?」
小悪魔や咲夜など、正邪の性格を知っている者は驚き、もしくは困惑している。人助けなんかとは一番無縁の人物だからだ。
「お前……本当に正邪か?」
私が永琳の腕を吹き飛ばした正邪に言うと、天の邪鬼はこちらをちらりと見てから首を押さえて出血を生命エネルギーで止めさせた小悪魔に視線を向けた。
「…あたしはあの地下道で小悪魔に、お前から助けられた借りがある……それを返しに来ただけだ」
その正邪の言葉に、こいつが本当に正邪なのかがさらにわからなくなってくる。
「…私の知る正邪は人の嫌がることを好き好んでやり、恩を受けたとしても絶対に恩を仇で返す様な奴だ……何の気の迷いだよ…正邪」
私がそうきっぱりと正邪に告げると、彼女は苛立ったように頭をガリガリと掻きながら言う。
「うるせぇ、あたしだってらしくないことをしたって思っているよ。人助けなんて、これが最初で最後だ」
正邪はそう吐き捨てて博麗神社から飛び去った。
あいつは今まで命を救われた。そんなことされたこともなかったのだろう。初めからひねくれたやつで、そんな彼女を受け止めてくれるものなどいなかった。本当は誰かと仲良くしたい。でも、自分のひねくれた性格のせいで本心が言えない。そうやって友人をなくし、誰からも拒絶され、正邪も友人をなくしたときの孤独感から自らを守るためにあえて周りを拒絶した。
素直になれなかった正邪にも悪いところはあるが、誰も彼女を理解しようとしなかった。その結果が今の正邪を作り出しているのかもしれない。もしかしたら、根は良いやつなのかもしれない。
私がそんなことを飛び去る正邪の後ろ姿を見ながら思っていると、その正邪を罵る声が聞こえてきた。
「……正邪め…最後の最後で裏切りか……所詮あいつはひねくれた天の邪鬼ね…」
永琳がバックから取り出した瓶の蓋を開け、片手で器用にちぎれた手の切断面と腕の切断面をくっつけて、取り出していた薬を振りかける。
「自分が人のこと裏切ってるんだ。自分が裏切られたぐらいで喚くな」
私は言いながら注意深く永琳を観察すると私の血の能力よりは遅いが、少し時間が経つと永琳の手は握ったり開いたりすることができるぐらいには動かすことができるようになっていた。
「…この人数が相手じゃあ、さすがに分が悪いし…退かせてもらうわ」
永琳がそう言いながら私たちに背を向けて逃走を始める。
「待て!」
永琳を追うとレミリアが走り出そうとしたが、私はレミリアが永琳を追わせないように彼女の前に立ちはだかった。別に永琳を助けたわけじゃあない。
数十秒追いかければ捕まえることができたであろう永琳がどんどん離れて行く。
「魔理沙!あなた何のつもり!?」
レミリアが森の中に消えて行く永琳を見た後、私を睨みつける。
「今は深追いはしない方がいい。それに、魔力があんまり残っていないお前が行ってもすぐに魔力を切らして足手まといのお荷物になるだけだぜ…お前はここで休んでろ…」
私は言って何か焦っているようにも見えるレミリアをとりあえず冷静にさせようとなだめるように言う。
「なら、魔力が切れる前にあいつを倒すまでよ」
レミリアがぎろりと私を睨む。レミリアは冷静な判断ができていない。パチュリーを殺されてその元凶である永琳を倒したいのはわかるが、このまま冷静さを欠いて戦えば永琳の手のひらで踊ってしまう。
「…何をそんなに焦っているのかは知らないが……、そう焦るな…そう言うときほど急がば回れだぜ?」
私が言うと、レミリアは重苦しいような顔で私を見上げて呟き始める。
「…落ち着いてなんていられないわ…!」
いつも冷静でいることの多いレミリアがここまで動揺して取り乱しているため、何事だと小悪魔や咲夜がレミリアに注目した。
「お嬢様、どうなさったのですか?」
そう問いかけた咲夜の方向を見てから私に視線を戻し、一呼吸間をあけてからレミリアははっきりと私に言い放った。
「…魔理沙………あんたは…死ぬ」
年端も行かない少女に見える吸血鬼は、医師が患者に死を宣告するように重々しく告げる。
あんたは死ぬというレミリアが言った言葉の意味を理解するのに、私は十数秒という長い時間を要した
「…え?…嘘……ですよね…?……お嬢様……」
小悪魔が死の宣告をされた私以上にショックを受けた様子で、震えた声でレミリアに聞き返す。
「詳しく言うなら殺される。だけど、誰かは私にもわからなかった…でも、この状況なら永琳に殺されるんでしょうね……だから、あんたは永琳のいるところに行っちゃいけないわ」
背の低いレミリアが見上げて、鋭い爪が生えている小さな手の人差し指で私を指さしながら言う。
「…そう言うわけにもいかないぜ……永琳が異変をやめることのできない理由の半分は私のせいでもあるからな」
「…魔理沙……あんたは馬鹿ではないでしょう…!?…私が言っている意味が分からないわけじゃないでしょう!?運命が変わったのよ!?」
レミリアが私の胸倉を掴んで訳の分からないことを怒鳴ってくる。
「…運命が変わった…?……それは何のことだ?」
私が言うと、レミリアは少し驚いたような顔をして呟く。
「…霊夢に何も聞いてないの?」
レミリアの言っていることの意味が分からず、私がうなづくとレミリアが順を追って説明を始めた。
「始まりは三か月前、私はあるヴィジョンを見た……それは、霊夢が死んでいるっていう映像だった……でも、さっき魔理沙が爆破された時に飛んできた血が少しだけ口の中に入ってきて、飲み込んだと思ったらいきなり力が増幅して、新しいヴィジョンが見えた」
「…新しいヴィジョン……」
その話の結末を何となく察した私は、そうではなくなってくれと心の中で思いながらレミリアの話に耳を傾ける。
「…霊夢が死ぬはずだった運命が変わって、魔理沙が死ぬ運命になった」
たぶん明日も投稿すると思います。