もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第八十話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第八十話 裏切り者

「…お前が異変を起こした首謀者なんだよな?永琳」

 私はそう言い永琳に最大出力でレーザーを放つと、それを見越していた永琳は素早い動きでレーザーの軌道上から逃げながら私に向かって矢を放つ。

 フヒュッと風を切る小さな音を巨大な矢が放ちながら、ほぼ一瞬で私の左肩の骨と肉を砕いて引き裂きながら深々と突き刺さった。

 永琳は私がレーザーを放つと分かっていても、弾丸とは言わないがそれぐらいの速度で撃ちだされるレーザーを完璧にかわすことはできなかったらしく、腹部に穴が開いている。だが、そうとは思えないほど素早く動く永琳は呆気に取られている小悪魔に掴みかかると小悪魔を私の方向を向かせ、自分は私のレーザーの餌食にならないように小悪魔の後ろに回り、彼女を拘束する。

「…っ……永琳さん……!」

 いつの間にか拾っていた咲夜の銀ナイフを小悪魔の首に添え、動いたら殺すと永琳は私たちに無言の圧力をかけてきた。

「……」

 私は永琳が銀ナイフを小悪魔に向ける寸前に、レーザーを撃っていた手を永琳の方向に向け、いつでも撃てるように準備を完了させる。

「…どうして私だと分かったのかしら?魔理沙……自分で言うのもなんだけど、完璧にあなたたちを欺いてたと思うんだけど?」

 永琳が言いながら、もがいて拘束を解こうとする小悪魔の後ろに回させた腕を捻りあげて小悪魔を黙らせた。

「…小悪魔、魔理沙と話しているのが見えないかしら?少し大人しくしてくれない?」

 永琳は捻り上げて動けなくなった小悪魔の耳元でそう囁きながら銀ナイフを小悪魔の首に這わせると、彼女の首にわずかに血がにじむ程度の傷がつく。

「…っ」

 わずかに痛みを感じたのか、銀ナイフが予想以上にひんやりとしていたのか、肩をビクリと震わせる。

「…お前が異変の首謀者だと気が付いたのはたった今だ……私が霊夢のところに来ないようにするために時間稼ぎでぬえと戦わせたつもりだろうが、間違いだったな……私が命蓮寺に行ったとき、ぬえは殺されて死んでいるはずだった……でも、ぬえはお前らの味方だった…そこから考えられるのは……ぬえが持ってきた情報自体がウソなわけだであるから、聖を異変の解決のために村に向かわせたんじゃあない…お前らに誘い出されたんだ」

 私は手の平を同じ高さに保ったまま、永琳が異変の首謀者だと気が付いた理由を話し始める。

「そこから、どうやって私につなげたのかしら?」

「…おそらく、聖の記憶はないが…萃香とは戦闘になったことだろう。…そのあと、聖が萃香に負け、ぬえが情報を持っているということを何らかの方法を使って聞き出した萃香に命蓮寺の連中は皆殺しにされたって読みだったが……違う。……命蓮寺の連中を殺したのは聖だ」

 光が発生してから聖は記憶がないと言っていたが、それは本当だろう。異変を解決しようとしているのに聖がウソをつくメリットがない。

 戦闘中かもしくは戦闘後に萃香に何かを言われ、命蓮寺に聖は向かった。

 たぶん、光を見ておかしくなってしまった奴らから正常な人間、妖精や妖怪を助けるために大急ぎで聖は戻ったのだろう。そこでぬえに教えられた情報がウソだったとわかった聖は本気でキレてぬえを殺そうとした。頭に血が上ると周りが見えなくなるあいつの性格から、聖は自分の教え子を全員皆殺しにしてしまったのだろう。

 聖を村に呼び出した理由は光を見させて仲間にしたかったとかだろう。でも運よく光を見なかったため、命蓮寺の連中の大部分が光を見なかった時のためにぬえがウソをついていたとバラして聖を怒らせて戦わせて、まとめて不安分子を消させた。

「…小悪魔たちはまだいなかったから知らないことだろうけど、私たちが命蓮寺に行ったときに聞いた話だが、唯一の生き残りの響子が床下で永琳の名前を呼ぶ声を聴いたと言っていた。それが聖だろう」

 聖は記憶を消されていた。なんかしらの薬品を使って記憶障害を起こさせることなど、永琳ならば赤子の手をひねるよりも簡単なことだろう。

「…聖は命蓮寺から出て、光を見る辺りまでしか記憶がないらしいが…命蓮寺に戻ってきて、永琳の名前を言って永琳に挑みに行き何らかの薬で記憶障害を起こさせられたのなら、つじつまが合う」

 私がそう言うと、永琳は納得がいっていないようだ。

「響子が萃香が命蓮寺の人たちを皆殺しにして、次の獲物を私に決めてたまたま呟いたのを聞いただけかもしれないじゃない」

 永琳の意見に私は即座に反論する。

「いや、そもそも萃香が命蓮寺の奴らを皆殺しにする理由はない。ぬえは仲間なわけだから、自分たちが不利になったりするような情報は流さないはずだからな……命蓮寺はぬえに任せて自分はいかないだろうな」

「…」

「…でだ、命蓮寺で暴れた聖が我に返った時、永琳の名前を言った。そのつながりは、異変の首謀者の名前じゃあないのか?」

 そう呟き、さらに私は永琳に向けてひとこと言った。

「……それに、お前さ…霊夢を相手にしてるのに…無傷はありえねぇだろ…」

 私が言うと、永琳は瞳だけを動かしてレミリアや私、大妖精の服などの様子を見る。違いは一目瞭然だったらしく、永琳はしまったという表情をする。

 土の土埃や爆発の煤、血で汚れている私たちの服装を見た後、永琳の服を見るとずいぶんと綺麗に見えた。

「…ぬかったわね……」

 永琳が歯噛みし、小悪魔の首に銀ナイフを構えたまま小さくため息をつく。

 これは、永琳が援護射撃しかしないからかもしれないが、それでも霊夢相手に無傷はあり得ない。それはあまり戦線に出ていなかった大妖精ですら怪我をしているからだ。

「…永琳、霊夢が倒れ、萃香や勇儀もいない……もう、諦めろ」

 私がいうと永琳は、私のことを鋭い目つきで睨みつけて小悪魔の首筋にナイフを少し這わせ、生命エネルギーで回復していた傷の上にさらに傷がつけさせる。

「…まあ、だよな…諦めるわけがないか」

 いよいよ永琳に向けてレーザーを撃つために正確に狙いを定める準備を始めるが、この状況ではレーザーを撃つために手のひらで魔力を溜めれば溜めるほど、手先から放たれる光が強くなる。そのため、永琳が頃合いを見て私がレーザーを撃つ前にナイフを振る方が圧倒的に速いだろう。

「……」

 咲夜の持っている本物の銀ナイフは手入れがきちんと行き届いているためかなり切れ味が高く、人の腕や足を切り落とすのは多少の力はいる物のできないことはないという。首を切り落とすことなどわけないというわけだ。

 レミリアもグングニルを出していなかったため、出して投擲もしくは斬りかかっているころには小悪魔の首は地面に転がている。咲夜も時を止めるのにはすさまじいほどの集中力と魔力が不可欠であり、小悪魔が人質に取られていつ殺されるかわからない状態でいつもの通りに時間の停止ができるかわからないし、そもそも魔力の量が足りずに時間を静止させることは不可能だろう。

 この中で小悪魔を助けることができる確率が一番高いのは、大妖精の瞬間移動しかない。小悪魔は片手をねじられて背中側に回されているため、自力で抜け出すことはほぼ不可能だろう。だが、抜け出す機会を伺っている。どうにかして永琳の小悪魔を掴んでいる手を放させるか緩めさせれば、あとは彼女自身でどうにかしてくれるはずだ。

 小悪魔のナイフに触れている首筋の治ったそばから銀ナイフで傷がつけられている部分から血が滲んで、銀ナイフを紅く濡らす。

 このまま手入れもせずに銀ナイフを放置すれば、血や脂で刃の酸化が促進されて使い物にならなくなるだろうが、そこまで待っている時間はない。さとりたちだって幽香を抑え込むのがやっとという状況だった。時間をかければさとりたちも危ない。

 ここは大妖精の瞬間移動に頼るしかなさそうだ。

「…」

 大妖精もそれを察してくれたわけだが、こんな状況では誰が攻撃を仕掛けてくるかは永琳ならとっくの昔に割り出すことができているだろう。

 小悪魔の命がかかっているため、一か八かの作戦はできるだけ取りたくはないが永琳がこの後どう動くか私には予測がつかない。人質に取っている小悪魔をいきなり殺してしまうかもしれない。そなってしまう前に永琳をどうにかして倒さなければならない。

 私が思った直後、動き出そうとしていた私たちの気配を察知した永琳がゆっくりと言葉を口にした。

「…私に攻撃を仕掛けるつもりなんでしょうが、止めておきなさい。私に攻撃してくる奴の本命なんてすぐに想像がつく、そいつが少しでも動けば小悪魔の命はないわよ?」

「…っち」

 咲夜が何もできない自分に苛立っているのか、持っている銀ナイフを握りしめて舌打ちを漏らす。

「……おい、永琳」

 私が呟くと、永琳は全体を見渡しながら私の方向を見る。

「…お前にも引けない理由があるのはわかる…私が自害できないのと同じでな……お前も戦わずに異変を諦めるわけにはいかない…だよな?」

 私が聞くと、永琳は私を睨みつける。

「…ええ…私は最後の一人になっても、この異変を完遂させなければならない…そのためにはあなたたちを全員殺す」

 永琳がそう言って小悪魔の首を切断しようと、右手に持っている銀ナイフを握り直し、小悪魔に押し込もうとした。

「…!?」

 小悪魔がもう片方の手で抵抗をするが、体力を消耗している小悪魔とほとんど怪我をしていない永琳では力の差は歴然である。それに加え、小悪魔が掴んでいるのは銀ナイフの刃の部分だ。強く握れば指が落ち、弱く握れば喉を掻っ捌かれてしまう。

 小悪魔が何とか銀ナイフを掴んでいられているうちに助けようとするが、距離が遠すぎる。

「やめろぉぉっ!!」

 私たちが走り出し、小悪魔が永琳の手から逃れようと抵抗を見せるが、今更もがいたところで意味はない。ナイフを掴んでいる左手から血を溢れさせながら押し返そうとするが、血でナイフの刃が滑って小悪魔の首に銀ナイフが突き刺さった。

「………っ!!」

 小悪魔が驚愕して恐怖で顔をゆがめ、両目をギュッと閉じた。

「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!」

 私の絶叫を無視した永琳が銀ナイフを小悪魔の首筋に突き立てて皮膚を切り裂き、肉を切断し、背骨ごと小悪魔の首を両断しようとした。彼女が腕を振り切り、切断されたものが地面に落ちた。

「…っ」

 だが、落ちた時に地面と接したその落ちた物は金属音を鳴らしながら転がる。

「…え?」

 何が起きたかわからない。永琳や小悪魔がそんな呟き声をもらし、私たちも訳が分からない状態である。

 誰だってそうなるだろう。地面に落ちたのは小悪魔の首なんかではなく、銀ナイフを握っている永琳の手首が転がっているのだから。

「…な…っ!?」

 切断された永琳の手首から吹き出した大量の血が、拘束していた小悪魔の肩にこびりつく。

 永琳は自分の手首が無くなったことに動揺して小悪魔の拘束を緩めたらしく、そのチャンスを見逃す小悪魔ではない。ナイフを掴んで自らの血で染まっている左腕を曲げ、後ろにいる永琳の脇腹に向けて肘を振りぬいた。

「あぐっ…!!?」

 永琳に掴まれている手が離された隙に小悪魔がすぐに掴みかかってこないように振り払い、振り向きざまに握った拳を永琳に叩き込んだ。

 小悪魔に殴られたことでのけぞった永琳が後ろに倒れ、そのうちに小悪魔が血が流れ出ている首の傷を押さえながら永琳から距離を取る。

「ぐ…ぅ……」

 殴られた永琳が唸りながら鈍痛に耐え、起き上がりながら自分の足元に転がっている手首を拾い上げた。

「……まさか……あなたが人助けをするなんてね…とんだ誤算だわ」

 永琳は小悪魔を窮地から救った女性を恨めしそうに睨みつける。

 私たちも予想の斜め上をいく人物が小悪魔を助けたということに、驚きを隠すことができない。

「…せ……正邪…さん……!?」

 赤色と白色のメッシュが黒色の髪の毛に混じっていて、ワンピースのような服を着ている少女のことを見間違えるわけがない。小悪魔を助けたのは正邪だ。

 正邪に助けられた小悪魔が驚きの声を上げながら彼女の名前を言った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

長かったので二つに分割しようとしたけどできませんでした。申し訳ございません。

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