もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第七十四話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第七十四話 刻む その①

 霊夢は恐らく生まれて初めての出来事に遭遇していることだろう。

 だが、初めての出来事に遭遇しているのは霊夢だけじゃない。私たちどころか、幻想郷ができて数百年という月日が流れているが、それでもこんなことは初めてだろう。

 他の世界は知らないが、夢想転生は陰陽玉を授けられた博麗の巫女だけが使うことができる奥の手である。これ以上戦えばこちらがやられるか、倒せたとしても大怪我を負ってしまう。そう言う時に使われる博麗の巫女の切り札である夢想転生はあらゆる魔力の流れを停止させる。

 魔力の流れが停止するというのは、使った本人。博麗の巫女以外の人間、妖怪、妖精。全員が対象であり、体を強化することも、回復させることも、能力を使うことさえもできなくなる。

 どんなに強い妖怪でも、どんなに力を持っている妖精でも、人間でも、全員が魔力を扱うことのできないただの人間程度になってしまう。

 だから、その技を使われたのにもかかわらず、博麗の巫女と素手で互角に戦った人間と悪魔がいたというのはこれまでも、これからも初めてのこととなるだろう。

「魔理沙ぁ!!」

 霊夢が私に叫びながら飛びつき、お祓い棒を振り下ろしてくる。

 小悪魔が私の前に出て拳でお祓い棒をはじき返し、霊夢が下がってしまう前に何度か反撃をした。

 霊夢がこれ以上にないぐらい焦っているのがわかる。

 夢想転生は魔力の流れを止めて敵を無力化するスペルカードのはずなのに、私たちはまるで魔力を使えているかのように動き、自分と互角に戦っているからだ。

 確かに、魔力は霊夢に封じられてしまった。だが、小悪魔が使っているのは魔力ではなく、生命エネルギーだ。

 契約の際に、生命エネルギーで契約したため、生命エネルギーを魔力に変換する必要がなく、生命エネルギーと魔力は全くの別物であることから、夢想天生の影響を受けなかったのだろう。

 私も使っているのは血の力、これも魔力を使っているわけではないため、私は普通の人間よりは攻撃力が断然高く、小悪魔には劣るが何とかついていくことはできている。

 小悪魔が霊夢と攻防をかわしているうちに回り込んで攻撃しようとするが、霊夢の蹴りが私の腹にめり込み、後方に蹴り飛ばされてしまった。

「がはっ…!?」

 残り9秒。

 口の中にある血を飲み込み、蹴りでぐちゃぐちゃに破壊された臓器を修復し、起き上がりながら私は霊夢に殴りかかる。

 霊夢がお祓い棒で小悪魔の頭を殴り、私が踏み出していた右足の膝を霊夢は足場として左足をかけ、右足の膝で私の脇腹に蹴りをかます。

「…はぐ…ぁ…!!?」

 私のパンチが空振りに終わり、カウンターのようになった霊夢の蹴りで私の肋骨が何本か砕けてしまう。

 砕けた肋骨の痛みを無視してすぐ目の前にいる。私に膝蹴りを食らわせることができるほどの至近距離にいる霊夢に掴みかかる。

 残り八秒。

 霊夢のお祓い棒が一瞬のうちに、私の手の骨を肘のあたりまで粉砕して掴んでいた手を放させ、霊夢は私の腹に強力な打撃を食らわせた。

「ごはっ…!?」

 吐血した私の膝を蹴って霊夢は宙がえりをし、私から離れて地面に綺麗に着地する。

 立て直した小悪魔が、背後から霊夢が着地をすると同時に奇襲をかけた。着地と同時に霊夢は目を見張るほどの速さで動いて小悪魔の拳を何とかかわすが、頬を掠ったらしく。それだけで霊夢の顔が衝撃で跳ね飛ばされた。

「…っ!」

 それでも相当な痛みを頬から感じているのか、霊夢は歯を食いしばりながらお祓い棒を握りしめ、殴った体勢で防御することができない状態の小悪魔にお返しとばかりにお祓い棒で殴り返した。

 ドゴォッ!!

 妖怪が何か堅い物でも殴っているかのような、鼓膜を震わせるほどの大きな音が小悪魔から響いてくる。

 残り七秒。

 私は吐血した血を一気に呑み込むのではなく、分割して飲み込むことにした。そうすることにより状況によって血の力を使い分けることが可能となる。

 口の中にある血を少しだけ飲んで再生能力を高めて砕かれた肋骨を治し、再生が終わると同時に再度少量の血を飲み込み、体を強化した。

「おおおおおおおおおおおおっ!!」

 私は叫びながら小悪魔を殴って私を見ようとしていた霊夢を殴ると、私たちの相手をしていて息が上がってきている霊夢は反応が遅れ、わき腹に拳がめり込んだ。

「…ぐっ…!!?」

 霊夢が苦しそうに顔を歪めてわき腹を押さえて後ろに下がろうとしたが、小悪魔が一気に接近して霊夢の腕や肩に数回に渡って攻撃を与えることができた。

「…うぐっ…!!」

 霊夢が札を小悪魔に投げつけると同時に爆発させる。

「爆!」

 膨れ上がり、紅蓮の炎をまき散らしながら札が大爆発を起こし、その爆風に煽られた小悪魔が空中で宙返りをして立て直し、私のすぐ横に着地した。

「…大丈夫か?」

「ええ」

 短く受け答えをして霊夢に再度攻撃を仕掛けようとしたとき、霊夢が肩で息をして全身がズキズキと痛むのにも耐えながら、スペルカードに魔力を流してお祓い棒でカードを砕く。

 残り六秒。

「…霊符『夢想封印』」

 十数個の七色に光り輝く光の球が霊夢の周りに出現し、神々しく光を放ってまるで私たちに威嚇をしているようにユラユラと揺れている。

「小悪魔!やるぞ!!」

 私は急いで言いながら走り出そうとしたとき、体に何か異変が起き始めたのをすぐに感じた。

「っあ…?」

 体から力が抜け、私は受け身すらもとることができずに勢いよく地面に倒れ込んでしまう。

「……へ…?」

 小悪魔に寿命を渡しているときとは比較にならないほど、完全に体が脱力していて立ち上がるどころか指の一本すらも動かせなくなっている。

「魔理沙さん!?どうしたんですか!?…まさか!」

 すぐに察してくれた小悪魔が、倒れて立ち上がることも動くこともできない私に走り寄り、抱き起してくれる。

「…こんな……時に……!!」

 私が持っている全ての寿命を使い果たしたらしい。

「……っ」

 小悪魔の体にも影響が出始め、体が半透明になって薄く光り出す。

「…二人とも!!逃げて!」

 レミリアが叫び、私たちの方向に来ようとしているのを咲夜が必死に止めているのが視界の端で見えた。

 霊夢は大量の魔力を夢想封印に込めているらしく、今のところは動きはない。

 残り五秒。

 徹底的に私と小悪魔を殺したいのだろう。これ以上にないぐらい魔力を込めた光の球がいつもの二倍以上の大きさとなっている。

 霊夢の赤くオーラが尾を引いている瞳が私を眺め、口元をゆがめて笑っているのが夢想封印の球体の間から見えた。

「…く……!」

 小悪魔も私の生命エネルギーが尽きたことで、私を運ぶ余力もないのだろう。霊夢を見た後に視線を下げて私を見る。

「すみません、魔理沙さん……使いすぎました……」

「…なんで謝るんだよ……こうでもしなけりゃあ霊夢をここまで追い込むことはできなかった……それと…」

 私はそこまで呟いてから、視線を小悪魔から霊夢に向ける。

「魔理沙さん?」

 小悪魔はここで終わりと思っているのか悔しそうな表情のまま、私に言った。

「…小悪魔、まだあきらめるには早いぜ」

 私は呟いてから、大きく息を吸いこんで力を振り絞って大声で叫んだ。

「アトラス!!面白いものが見たいとか言ってたな!?…見たいなら、私の寿命を延ばせ!!」

 アトラスは別れ際に私のことを見ていると言っていた。だから、今もおそらく私のことを見ていることだろう。

 私はこの場にいない。“彼”と呼ばれている存在に向けて叫ぶ。それと同時に霊夢が夢想封印の光の球を全弾私たちに向けて発射した。

 これは成功するかわからないが、賭けだ。あいつは気分で私のことを生き返らせた。だから今の気分次第では、私の寿命を延ばすかもしれないし、私の寿命を伸ばさずにこのまま霊夢に消し飛ばされるのを眺めるだろう。

 だが、私には根拠はないが絶対に寿命を延ばすという自信があった。なぜなら、アトラスは自分がいる場所はかなり暇だと言っていた。できるだけ暇になりたくないあいつは、絶対に私の寿命を延ばすだろう。

 だが、まだ動くことができていない私たちの元に、光り輝く夢想封印の球体が押し寄せ、光で何も見えなくなってしまった。

「……遅かったか…っ!」

 私はあまりの眩しさに目を閉じながら呟いた。

 無想天生が解除されるまで、残り四秒。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

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