割と好き勝手にやっています。
それでもいいという方は第七十二話をお楽しみください。
「罠です!魔理沙さん!」
小悪魔の叫び声が聞こえ、私が振り下ろしたお祓い棒が嫌に緩慢な動きで動いているように見えるほどに、霊夢の体の動きが高速で動いて私の腹にお祓い棒を叩きこんでくる。
「はぐ…っ!?…うぐぁ…っ!?」
腹を殴られてガクッと膝が曲がり、胸の高さが下がった私の胸倉を素早く手を伸ばして掴んだ霊夢が小悪魔の攻撃をお祓い棒ではじき、掴んだ胸ぐらを放しながらお祓い棒で私の胸を殴りつけた。
「があっ…!!」
倒れそうになった私を霊夢は小悪魔の方向に向けて蹴り飛ばしたせいで、私に追撃をさせないいように霊夢を攻撃しようとしていた小悪魔を巻き込んでしまう。
「ちょっ…!?…わぁっ…!?」
一緒に倒れた私と小悪魔に霊夢が歩み寄ろうとするが、時を止めた咲夜が霊夢の目の前に現れて両手に持った銀ナイフで斬りかかる。
霊夢は片方をお祓い棒で受け止めると、もう片方の手は咲夜の手首を掴んで銀ナイフの動きを封じた。
その隙にレミリアが真上から串刺しにしようとグングニルを霊夢に向けて振り下ろすが、霊夢が片手を掴み、鍔迫り合いに似た状況になっていて咲夜の頭が近くにあるため咲夜に頭突きをかまし、怯んだ咲夜の胸倉を掴んで持ち上げてグングニルの盾にする。
レミリアが翼を羽ばたかせ、グングニルが咲夜を貫く寸前になんとか急停止させることができた。
空中では地上と違って思うように動けないため、レミリアは一度距離を取ろうとするが、霊夢がグングニルをひっこめたレミリアに向けて咲夜を蹴り飛ばす。
わき腹に霊夢の蹴りが当たった時、骨にひびが入ったのか折れたのかはわからないが木の枝が折れるような音が小さく聞こえ、咲夜の体がボールのようにレミリアの方向に吹っ飛ばされた。
レミリアが蹴り飛ばされた咲夜を身をひるがえして掴む。それと同時に霊夢があざ笑いながら呟く。
「爆」
咲夜の胸倉を掴んでいるときに服の中に忍ばされていた札が霊夢の命令と同時に起爆し、発生した爆発の炎が二人を覆い隠した。
普段の二人ならばこんな失態は犯さないだろう。だが、負傷のせいで二人の動きがやたらと遅く見える。私にこう見えているのだから霊夢から見たら止まっているように見えていることだろう。
「お嬢様!咲夜さん!」
小悪魔の悲鳴に似た叫び声が私の耳に届くが、爆発の爆音があまりにも大きくて声が打ち消されている。
爆発の炎が収まったころ、煙の中からレミリアと咲夜が力なく地面に落ち、動かなくなった。
「……っ!!」
小悪魔が二人に走り寄ろうとするが、私が小悪魔の腕を掴んでその場に押さえつける。
「何をするんですか!?魔理沙さん!二人を助けないと!!」
小悪魔が私に叫び、掴んでいる手を振りほどこうともがく。
「…落ち着け小悪魔……レミリアたちは死んだわけじゃないぜ…取り乱せば霊夢の思うつぼだ…冷静になれ」
焦りと怒りで頭に血が上って息を荒くして、瞳孔が開いている小悪魔に淡々と告げると、私が言ったことにより少しずつ冷静さを取り戻していく。
「二人は大妖精に任せよう」
私が大妖精の方を見ると、大妖精が瞬間移動を使ってレミリアと咲夜の元に現れて二人に触れた。
霊夢が大妖精や私のしようとしていることを察していたらしく、大妖精に攻撃を仕掛けようとしたが、霊夢の攻撃を食らう寸前に再度瞬間移動を使って大妖精は私たちのすぐ近くに現れた。
「…ナイスだ、大妖精」
私は大妖精に呟きながらこちらを見て、私たちにターゲットを変えた霊夢に向かって走り出す。
小悪魔には走り出す寸前に来なくていいとジェスチャーで伝え、私は一人で走りながら霊夢からは見えないようにバックの中に右手を突っ込んだ。
あらかじめ左手に棒を持ち替えておいたため、左手に持った棒を霊夢に向けて叩きつけると、霊夢は棒を軽く受け流しながら私の腹に向けて握った拳をお見舞いする。
「…ふ…ぅ…ぐぁ…!!」
私の喉から絞り出したような悲痛な悲鳴が漏れ、後ろに跳躍しながら霊夢に向けて爆発瓶を投げつけると、霊夢は自分に当たる寸前に、持っていた札で私の爆発瓶をそのままの軌道で跳ね返す。
ここまでは予定通り。
私も棒切れを使って器用に爆発瓶を受け流し、後ろにいる小悪魔たちの方向に瓶が飛んで行かないように真横に瓶を飛ばして霊夢に再び攻撃を仕掛ける。
霊夢はさっきと同じ場所で私を迎え討とうとしているのか、お祓い棒を油断なく構えている。
私は霊夢に手のひらを向け、一発のレーザーを放つ。
強い光を放ちながら光の魔法をのせているレーザーを霊夢に向けて放つが、霊夢は掻き消すどころか動きすらしない。なぜならレーザーは霊夢に当たるにはだいぶ下の位置に向けて放たれたからだ。
レーザーが地面を焦がし、融解させて一部蒸発させていく。
私の手元が狂ったことにより、撃つ方向を間違ったわけではない。さっき殴られた際に爆発瓶と一緒に置いてきて、霊夢の足元に転がっている手のひらに乗る程度の大きさのボールをレーザーで撃ち抜く。
レーザーで撃ち抜いたことでスイッチが入ったボールから白い煙が大量に吐き出され始める。
ブシュゥゥゥッ!!
勢いよくまき散らされた白い煙は霊夢の周りを覆っていく。
「…?」
霊夢は自分の周りに漂っている白い煙を眺めながら首をかしげる。そりゃあそうだ。煙幕にしては色も薄く、煙の量も少ない。
「……っ!?」
霊夢は無害と思っていた煙が実はそうではなかったと気が付いたらしく、煙の中から息を止めて飛び出した。
「…気が付いたか……まあ、当たりまえか」
私は漂っている白い煙を吸わないように風上に移動しながら、目元を押さえている霊夢に言う。
「魔理沙さん…あれは何なんですか?…ただの煙幕ではないようですが…」
小悪魔が後ろから近づきながら言い、隣に立った彼女に霊夢を見るように促す。
「…?」
「あれはただの煙じゃあない…あの煙の中には強力な睡眠薬が含まれてる」
私が言いながら霊夢を観察すると強い眠気を感じているのか、霊夢は歯を食いしばって眠らないようになんとか持ちこたえている。
「…これで多少は霊夢の頭がおかしいとしか言えない、計算された感も鈍るだろう」
私は呟いてから走り出し、今度こそ霊夢に向けて魔力で強化された棒を振り下ろす。
私を睨んでいた霊夢は振り下ろされた棒をお祓い棒で受け止め、小悪魔が振り出した拳を蹴りではじき返す。
霊夢の動きがさっきまでの、刃物のような鋭くて研ぎ澄まされた正確性の高い攻撃とは言えないぐらい、体術の切れが鈍くて荒い。
「小悪魔!」
私が叫びながら棒を振り下ろし、もう片方の手で霊夢に向けてレーザーを放つ。
案の定、霊夢はそれを身をひるがえしてかわすわけだが、回り込んでいた小悪魔の攻撃を辛うじてお祓い棒で受け止めた。
霊夢の動きがこれ以上に無いぐらい悪い。これならいける。
私が小悪魔に目線を向けると小悪魔と一瞬だけ目が合い、小悪魔は私が言わんとしていることを悟ったのか、自分に向けて振り下ろされた霊夢のお祓い棒を受け流し、両手を伸ばして霊夢の手を掴んで押さえつける。
いきなりのことで判断が追い付かない霊夢は、小悪魔に両手を拘束されてしまって動きが封じられる。
私がそのうちに霊夢に接近し、がら空きとなったわき腹に強化した棒を叩きこもうとしたとき、
ドックン…!!
体の奥底が脈打ち、小悪魔にキスをした時よりも強い虚脱感にいきなり襲われ、私は体を制御することができなくなり、私は足をくじいて転倒してしまう。
初めに小悪魔に渡していた生命エネルギーが尽きたのだろう。そのため、小悪魔に生命エネルギーが送られ始めているのだ。
「…くっ…!?」
脱力している体に鞭を打って起こそうとしたとき、倒れた私に気を取られた小悪魔は掴んでいた霊夢に手を振り払われてしまい、逆に掴まれた小悪魔は倒れている私の背中に背負い投げで叩きつけられてしまう。
「うぐあぁっ!!」
小悪魔が私に背中を打ち付け、悲鳴を上げる。
「…く……そっ……!!」
強い虚脱感が段々と弱まり、一定の強さとなる。
「魔理沙さん…」
小悪魔が私の上からどき、私を起こしてくれた。
「…絶好のチャンスを…すまない…逃しちまった」
私がそう小悪魔に言うと、小悪魔は大丈夫ですと呟き急いでこの場から離れようとしたとき、霊夢が小悪魔にお祓い棒を振り下ろそうとしているのが、下を向いている私にもなんとなく分かった。
私が小悪魔の前に躍り出ると、霊夢は目の前の地面の土を踏みしめながら大きく踏み込み、私の頭をお祓い棒で殴る。
「あぐっ!!?」
私の真後ろにいた小悪魔もろとも後方に飛ばされてしまい、地面を転がった。
「う…ぐっ……!」
額から血が滲み、血が流れる感覚が皮膚から伝わってくる。
私は少しだるい体を持ち上げて低い姿勢で構えた。
霊夢との距離は約三十メートル。魔力で強化した身体ならば一瞬の距離である。
こちらが体勢を立て直すまでに時間稼ぎをしようとしたが、それは無理そうだ。眠たそうではある霊夢は余裕の笑みを浮かべ、わずかにその身を低くして走る体勢となる。
小悪魔が起き上がろうとしたとき、霊夢が動いた。
ドゴォッ!!
轟音を響かせながら地面を土を踏み砕いて私に向けて飛び出す。
残像を残すほどのスピードで霊夢と私が持つ二つの得物が触れあい、魔力の塵を大量にまき散らす。
ここで終わりだと言いたげな霊夢はニヤリと笑った。
たぶん明日も投稿すると思います。