もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

今回も少しだけ百合成分が含まれます。

それでもいいという方は第七十一話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第七十一話 契約 ②

 

「…へ?キス?」

 私が聞き返すと小悪魔がうなづいて説明を始める。

「はい……さっき言った通り…血を飲んでからキスをして直接的に寿命のエネルギー……つまり生命エネルギーを私に直接流し込むことで、私に流す際にエネルギーの消費をできるだけ抑えて比較的に高効率で私に生命エネルギーを送ることができます…」

「…な、なるほどな」

 イメージ的には道を作ったという感じだろう。初めに血を飲ますことで何もない場所に砂利道を作り、キスをして生命エネルギーを注ぐことでアスファルトの道にするようなものだ。

 私が呟くと小悪魔が私に少しだけ歩み寄った。

「…じゃあ……」

 私に触れた小悪魔がか細い声で呟く。

「…お、おう……」

 小悪魔が私の頬に優しく触れ、恥ずかしそうに言った。

「……ま、魔理沙さんがしてくださいよ……こういうの…魔理沙さんの方が慣れているでしょう…?」

 顔を真っ赤にした小悪魔が叫ぶようにして言う。

「わ…私だってキスなんて…一度しかしたことがないぜ…!」

 ぎくしゃくしながらも私が小悪魔に顔を寄せると石鹸のいい香りがわずかに漂ってきて、私の鼻腔を刺激する。

 私は気分が高揚しているのか息が自然と荒くなり、わけがわからなくなるぐらい緊張してしまう。

 小悪魔は真っ赤な顔をしていて、そんなに顔を赤くされるとこっちまで緊張してしまうではないか。

 お互いの吐息がかかるぐらいには顔が近くなり、形のいい唇はふんわりと柔らかく、瑞々しくて艶めかしく見える小悪魔の唇はその見た目通りの感触で気持ちがいい。

 小悪魔の唇に私の唇が軽く触れるだけで彼女の温かさを感じ、私の気持ちは最高潮に達する。

「…っ」

 顔を寄せることで小悪魔の口をふさぎ、自分の生命エネルギーを惜しみなく大量に流し込むと、彼女はビクッと体を震わせる。これほどの力を預けられたことがなく、私がいきなり大量のエネルギーをつぎ込んだからだろう。

 生命エネルギーは魔力とは比較できないほどに強いエネルギーを持っているため、これまでにないほどの力を発揮できるだろう。

「…ふ…あ…っ…!!」

 息をつくのも忘れてしまうぐらい私は小悪魔の唇をむさぼり、その間に生命エネルギーを与え続ける。

 時折、小悪魔の口から洩れる吐息のような小さな声が私の頭の中を反響して、脳を痺れさせる。

 しばらくして、小悪魔が私の肩を掴んで無理矢理に引き離した。

「ま…魔理沙さん…!今はこれで十分です…!」

 息を荒くした小悪魔が呟く。

「あ…?ああ…」

 私は触れていた小悪魔の頬から手を放して小悪魔から離れる。指や唇から彼女のぬくもりが消え、少しさびしさのようなものを感じた気がした。

 大量の生命エネルギーを小悪魔に移したため、強い虚脱感に襲われて体がだるい感じがする。

「「……」」

 だが、それもすぐに消えて私が顔を上げると小悪魔と目が合う。なんだか気恥ずかしさがあって私たちはお互いに目をそらして沈黙していると、そこに声がかかる。

「あんたたち、いつまでイチャイチャしてるの!?こっちも手伝ってほしいんだけど!?」

 レミリアの声だ。

「お、おう!!」

「…はい…!」

 誤解だと言いたかったが、そこまで気が回らなかった私と小悪魔は咲夜とレミリアの手助けに向かった。

 永琳が援護のために矢を放つ。霊夢の顔に向けて真横から飛んで行った矢を霊夢はいともたやすくつかみ取る。

「…」

 霊夢は邪魔をするなと言わんばかりの目つきで永琳を睨んだ後、矢をへし折りながら視線を私に向けた。

 霊夢がさっきの私と小悪魔のキスを見ていたのか、私に向けて明らかな敵意をこちらに向ける。

「…」

 霊夢の紅いオーラを纏っていて、濁っている瞳と目が合った瞬間。霊夢の姿が消えた。

 そう思うほどの速度で加速した霊夢は、姿を視認できていない私にお祓い棒を振り下ろす。

「…!」

 だが、その寸前に小悪魔が横から私の前に立ちはだかっていた霊夢のお祓い棒を左手で受け止める。

「…魔理沙さん、やりましょう」

 そう呟きながら小悪魔は私と霊夢の体の間に自分の体を滑り込ませ、右手を握りしめて拳を作った。

「…ああ」

 私は言いながら目の前にいる小悪魔の後頭部に手のひらを向ける。

 それと同時に小悪魔が上体を屈め、レーザーの射線上から体をどかす。

 霊夢に向けて私の手のひらからレーザーが照射されるが、霊夢はレーザーをひらりとかわしながら小悪魔に掴まれていたお祓い棒をもぎ取り、二枚の札を私と小悪魔に投げつける。

 小悪魔は弾幕で札を消し飛ばし、私は棒で札を叩き落として霊夢に向けてさらに踏み込む。

 契約の際に飲んだ血による強化と生命エネルギーで強化された小悪魔が、幻想郷最強の霊夢と互角に戦っている。

 私も負けていられずに、小悪魔が応戦している間に自分の腕に噛みついた。

 流れ出した血を口に含み、一気に嚥下して飲み下す。

 一度に多くの血を摂取したことにより、幽香と戦っていた時のようにおかしくなってしまうのではないかという不安はあったが、大丈夫そうだ。

 魔力力を強化した私は、全身を魔力で強化して吸血鬼並の速さで霊夢に向かって走り出し、小悪魔の邪魔にならない位置に陣取り、タイミングを見計らって棒を霊夢に叩き込む。

 とにかく短期決戦だ。

 私の寿命が尽きる前に霊夢を倒さなければならない。

 ガガガガガガガガガッ!!

 高速で棒と拳が霊夢に向かって繰り出され、霊夢はそれをお祓い棒一本で捌いていて、ギリギリで互角と言ったところだ。

 少し明るくなってきたとはいえ夜だというのに、魔力の塵によってこの辺りだけ昼間のように明るく照らされている。

 霊夢がお祓い棒を振り、それが私の頬を掠った。

 互角だと思っていたが、二人がかりでも私たちの方がまだ劣っているらしい。

「…っ」

 でも、現在ここにいるのは私たちだけではない。

 レミリアは手の平にグングニルを作り出し、私たちに当たらないように霊夢に向けて投擲する。

 弾丸の様に高速で投げられたグングニルが軌道上にいる霊夢を貫く。

 直撃だ。そう思ったが、霊夢がポツリと呟き声を漏らす。

「反」

 いつの間にか札を持った手をグングニルの射線上に持ってきていたらしく、レミリアが投げたグングニルはそのままの速度と威力で跳ね返って投擲者に直撃した。

 凝縮された炎が四方八方に拡散し、爆発のように膨れ上がってレミリアの小さな体を炎が包み込む。

「…っくそ…!」

 私は爆発したグングニルを視界の端から外に出し、目の前の敵に集中する。

 だが、今までにないほどに力強く、かつ高速に腕を動かしていたため、私の体は無呼吸運動をしているのと変わらず、全身が酸欠のような状態になり始めていた。

 腕や足の筋肉に乳酸が溜まり、疲労で動きが劇的に悪くなっていく。

 魔力で乳酸を高速で分解していくが、乳酸が作られる方が早く、効果はあまりない。

「魔理沙さん、無理しないでください!」

 小悪魔が横から霊夢に殴り込み、私が逃げられるようにカバーをする。

「…わかった」

 私は一歩下がって回復を優先し、援護は咲夜たちに任せることにした。

 強化した魔力力により体の疲労感はすぐに消え、問題なく戦闘を続けられそうである。

 だが、問題があるのはこれからだ。

 今は小悪魔に余分に生命エネルギーを渡しているため、小悪魔は自分が持っている生命エネルギーだけでやりくりしてくれているおかげで今は普通に動けるが、小悪魔に生命エネルギーを送り出した時が問題なのだ。

 魔力を誰かにあげるだけでもかなりの脱力感や虚脱感が体を襲う。その状態のまま霊夢に接近戦を挑むのはいささか無謀ではある。

 だが、小悪魔が戦っているのに私が戦わないわけにはいかない。

 咲夜とレミリアは私が来る前の戦いで既にボロボロ、私の血の能力で回復させたとしても、魔力もすでに少なくなっている二人は霊夢と互角に戦うことなどできるはずがないだろう。

 息が上がり、汗を滝のように流している小悪魔の後ろから私は接近し、攻撃を開始した。

 私の接近を肌で感じた小悪魔はこちらを見ずに体をずらし、道ができた私は持っている棒を強化して霊夢に殴りかかる。

 霊夢が持つお祓い棒と私が持つ棒の間にある魔力がぶつかり合い、弾けて空気中にまき散らされてまるで雪のようにキラキラと光りながら消えて行く。

「せぇぇいっ!!」

 棒を無我夢中で振って霊夢に向かって何度も打ち付けるが、霊夢は簡単に受け止めてはじき返してくる。

 少し休んで息を整えた小悪魔が拳を握り、私の攻撃に合わせて霊夢に攻撃を仕掛けるが、霊夢は器用に二人分の攻撃をはじき返していく。

「…っ」

 魔力で筋力をさらに強化し、霊夢が持つお祓い棒に向けて棒を大ぶりで下から振り上げる。

 バガッ!

 ビリビリと手が痺れるほどの強さで殴ったことにより、耳元でクラッカーでも鳴らされたのではないのかというほどの爆音が鳴り響く。

 お祓い棒を強く殴ったことで、霊夢の体の体勢が大きく変わる。

 いくら霊夢と言えどもいつもの戦闘態勢に戻るのには、わずかだが時間がかかるはずだ。

 わずかで少ない時間ではあるが、目の前にいる私にとっては霊夢に攻撃するのには十分だ。大きく踏み出し、隙ができた霊夢に急接近して振り上げた棒を振り下ろそうとした。

 私が霊夢を殴ろうとしたその時、小悪魔の切羽詰まった声が私に届く。

「魔理沙さん!罠です!」

 私がその言葉の意味を理解したころ、霊夢が嗜虐的な笑みを私に向けて浮かべた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

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