もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十九話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第六十九話 最強災厄の敵

 霊夢は凄いやつだ。昔からわかっていることではある。

 しかし、私たちはまた霊夢に驚かせられることとなった。

 私が正面から、小悪魔が後方から、右側からは永琳が放った矢が同時に霊夢に襲い掛かる。三方向からの同時攻撃はいくら霊夢でも一撃ぐらいは攻撃を食らうだろう。そう思った直後に、上から落ちてきた銀ナイフが永琳が放った一発目の矢を弾き飛ばした。

 カキィッ!

 甲高い金属音が私たちの間をすり抜けて放射状に広がっていく。

「「「「!!?」」」」

 この場にいる霊夢以外の全員が目を見張った。

 永琳が放った矢に当たった銀ナイフは、先ほど霊夢が上に投げた銀ナイフだ。

 矢が放たれてから投げたのならば、まだ驚かなかっただろう。でも、霊夢が銀ナイフを投げたのは私たちが動き出す前だ。どうやってその位置に永琳の矢が来るのかを予測したのかが全く分からない。霊夢は少し知能が高いとか、そういう次元ではないのだ。

 以前、さとりから聞いたことがある。霊夢と戦ったときに考えを読んで先読みをしようとした。しかし、霊夢が考えていることがわからなかったそうだ。それは考えていることを読むことができなかったとかそう言うものではない。頭が良すぎて考えていることがわからなかった。そう言っていたのだ。

 さとりも本を読んでいたりするため、決して無知ではないはずだ。それなのに考えが読めなかったということは、霊夢の頭の中は一歩も二歩もそれ以上も先に行っているということだろう。

 ほとんどが勘に頼っていると霊夢は言っていたが、おそらくその感ですらも計算によって導き出された答えなのだろう。

 一般的な感は何となくとかそう言ったものであり、とある答えが偶然、もしくはたまたまあっていた。その程度だろう。

 だが、霊夢の場合は感ではあるが理論的な計算を無意識のうちにしていて、出された答えは偶然とかたまたまではなく、必然的にあっている物なのだろう。

 例えば、千や二千一万や百という桁が複数存在し、ぐちゃぐちゃな数字を桁に当てはめて足していったとしても、ある程度はどのぐらいの数字になるかは何となくでわかるだろう。

 霊夢の場合は、それらの数字を足して、引いて、かけて、割って、を複雑に組み合わせたものでも感覚で正確な数字を無意識の計算で当てることができるのだ。

 敵に回したらこれ以上にないぐらい厄介で、史上最強災厄な強敵と言えるだろう。

 矢は叩き落とされてしまったが、私と小悪魔は止まれない。いや、止まることはできない。中途半端にやめてしまえば確実に霊夢にやられる。

 銀ナイフが永琳の放った矢を弾いたのはかなり驚いたが、霊夢がやってのけたのなら納得できる。私は頭を切り替えて霊夢に当たるまで残り数センチの幅を腕を伸ばして詰めた。

「「おおおおおおおおっ!」」

 私と小悪魔場雄たけびを上げて霊夢に攻撃をする。

 棒と拳は直撃した。だが、私が振った棒の当たった先は小悪魔の豊満な胸で、小悪魔の鉄板すら容易く粉砕する拳は私の腹にめり込んでいた。

「…ごほっ…!!?」

 せき込んだ私と胸を押さえて崩れ落ちそうになった小悪魔に左右から飛んできた、霊夢に当たるはずだった銀ナイフと矢が突き刺さってしまう。

「ぐ……っあぐ…っ…!?」

 矢が小悪魔の胸元を貫き、私に刺さった銀ナイフは背中に三本、腕に一本、太ももに一本、深々と突き刺さる。

「…く……そ……っ…!」

「小悪魔!魔理沙!」

 咲夜が私たちを呼ぶ声がするが私は親指に噛みつき、血が溢れてきたことを確認しながら親指を目の前にいる小悪魔の口に即座にねじ込んだ。

「んむっ!?」

 いきなりのことで小悪魔が目を白黒させるが、すぐに私の指をペロッと舐めて血を嚥下する。

 それを確認して小悪魔に殴られた腹の激痛を抑えさせるために傷を修復させながら立ち上がろうとしたとき、霊夢の蹴りが私の腹にめり込んだ。

「…っう…!?」

 体が持ち上がり、ゆっくりと回転しながら私の体が吹っ飛んで博麗神社の庭の端にある木に背中を強く打ち付け、広い庭に木の乾いた音を響かせた。

「~~~~~~っ…!!」

 木に体が当たったが、歪んだ木が形を元に戻そうとする働きによって私は地面に投げ出され、内臓を潰すような一撃に私は身動き一つできずに腹を押さえてうずくまる。

 まるで鈍器に殴られたのではないかと思うほどに、霊夢の一撃は鈍くて骨の髄まで届いている。

「………っ……く………あ、ぐ……っ」

 力関係的には、霊夢の魔力で強化したときの強さは萃香や幽香のパワーよりも低いだろう。なのに萃香や幽香に攻撃を受けた時よりも比較にならないほどの激痛が全身を電流のように駆け巡っている。

 その理由は萃香たちとは違い、霊夢は持て余している力の使い方がわかっているのだ。強大な力をただ単純に振り回している連中とは一味違う。

「…ごふ…っ…!!」

 胃が筋肉の運動で胃の中にある血を外に押し出そうとしたことにより、私は大量の血を吐血してしまい、口から血を吐き出した。

 何かを飲み込むことを胃が拒否しているが、口の中に残っている血を無理やり飲み込んだ。

 魔力力を強化し、傷ついた体の中の内臓を修復し、数秒かけてある程度は体を動かせるようになった私は霊夢を見た。

 霊夢はグングニルを持っているレミリアと二本の銀ナイフを持っている咲夜を一人で相手にしている。

 いや違う、霊夢は私の方向に来たがっているのをレミリアと咲夜が必死に阻止していて、霊夢は仕方なく二人の相手をしているに過ぎない。

「…く……そ……っ…!!」

 魔力で体を強化して腕や足に刺さった銀ナイフを引き抜き、背中にある銀ナイフも何とか手を伸ばして抜き取った。

 小悪魔も傷を回復させたらしく、胸に刺さっている矢を引き抜いて立ち上がっているのが見える。

 そっちの方向に視線を向けていると小悪魔もこっちに気が付いて目が合った。うなづきあって私たちは同時に走り出す。

「お嬢様!咲夜さん!一度退いてください!」

 十数秒の攻防ですでにボロボロになっている二人が逃げられるように霊夢とレミリアたちの間に体をねじ込み、霊夢のお祓い棒を棒で受け止めながら霊夢に向かってレーザーを薙ぎ払う。

 霊夢はしゃがむことによってレーザーを速攻でかわし、こっちに向かって札を投げつける。

 もう片方の手でレーザーを放ち、札を撃ち落とすのと霊夢に向けた攻撃を一括で仕掛けるが、霊夢は手に持った札をレーザーの軌道上に差し出す。

「反」

 私が放った直撃コースのレーザーが札に直撃すると同時に全く同じ軌道を跳ね返ってくるため、相殺されたレーザーは消え失せた。

「っち…」

 私が舌打ちをしたとき、大きな声が聞こえる。

「魔理沙さん逃げてください!」

 大妖精の高い声が聞こえてきた時にはすでに、札同士がが輪っかとなって鎖のようにつながっていき、それが腕に巻き付いているのだ。

「…へ?」

 口から自然の声が漏れ、腕に巻き付いていた鎖が霊夢が引っ張って振り回すと、私の体は簡単に引っ張られて勢いよく木に叩きつけられてしまった。

「がはっ!?」

 木が半ばからへし折れるほどの威力に背骨と肋骨がひしゃげて砕け散る。

「…う…ぐっ……!!」

 背骨が砕けたことにより、下半身に痺れるような感じで神経が切断されて折れた背骨から下の身体が動かすことができなくなっていく。

 すぐさま魔力を背骨に大量に送り込み、砕け散った骨を瞬時に再生させた。足も動かすことができるようになった私が立ち上がろうとしたとき、霊夢の手を離れた札の鎖が私に蛇のような動作で巻き付いていく。

「!?」

 蛇のように私の体を覆うようにグルグルと巻き付いてくるがどういうことかわからず、私が困惑している私に咲夜が近づいてくる。

「魔理沙!」

 咲夜が銀ナイフで霊夢の札を切り裂こうとするが、札が鉄のように固くて銀ナイフが刃こぼれするほどの強度を見せた。

「なっ!?」

 咲夜が目を見開き、もう一度銀ナイフを振り下ろそうとしたとき、私は近くにいる大妖精の名前を叫んだ。

「大妖精!!」

 私が叫ぶと、すぐさま小さな破裂音をさせながら大妖精が瞬間移動で現れ、私に手を伸ばして小さな手を触れさせる。

「わかってるな!?」

 私が大妖精に言うと、大妖精は小さくうなづき、瞬間移動を発動させる。

 瞬間移動を使う寸前に霊夢が嗤いながら札に命令を与えた。

「爆」

 札が膨れ上がり、高熱を発した瞬間に瞬間移動が発動し、私の意識がほんの百分の一秒程度の時間だけ途切れる。

 瞬間移動の目的地は霊夢のすぐ真横。

 このまま抱き着いて自爆しようとしたが、霊夢はそんな私の浅知恵などお見通しだったらしく、私に巻き付いている札の爆破をさせないために走り出して霊夢に殴りかかっていた小悪魔をお祓い棒で殴って一時的に行動不能にさせ、私の特攻を防御するための盾代わりにしたのだ。

 魔力で体を浮き上がらせて小悪魔か離れようとしたが、霊夢に小悪魔を押し付けられると同時に数十枚にもなる大量の札が同時に爆破された。

 轟音と同時にオレンジ寄りの白色で視界を塗りつぶされ、周りの音を聞くことも状況を見ることもできなくなってしまう。

 手や足には感覚がまだある。辛うじて五体満足であり、再生させる必要はなさそうだ。

 私に巻き付くなどの動作に魔力を使ったらしく、爆発自体に威力はさほどではなかった。

 閃光瓶を食らったように見ることのできなかった視界がようやく回復をはじめ、私が周りを見回すと近くに小悪魔が倒れているのが見えた。爆発の炎に焼かれたのか煤がこびりついているのかはわからないが、皮膚が黒ずんでいる部分が体のところどころ見受けられる。

 爆発の衝撃で砂煙が舞って、視界が非常に悪いが霊夢は近くにはいないのがわかり、私は体を起こして倒れている小悪魔に歩み寄った。

「…小悪魔、大丈夫か?」

 私が小悪魔を揺らすと小悪魔は小さな声で唸り、うっすらと目を開けて私を見る。

「…大丈夫か?」

 私が聞くと小悪魔は体を起こして、爆発の影響ではっきりとしない意識を頭を振ってはっきりさせてから、こちらをみてコクリとうなづく。

 私たちが倒れている間、大妖精やレミリアが霊夢と戦っているため、私たちは殺されずに済んだらしい。

 だが、短くて十数秒、長くて数分間意識を失っていて何があったかはわからないが、比較的軽症だった大妖精が全身に打撲のような傷を負いながらも懸命に戦っている。

「…小悪魔、いけるか?」

 私が言いながら小悪魔を見ると、小悪魔の体がほんのりと明るい色で光っているのが見えた。

 小悪魔も気が付いたらしく、自分の両手を見つめている。

「…小悪魔…?お前、いったいどうしたんだ?」

 私が聞くと、小悪魔は顔を上げて小さな声で私に呟いた。

「……魔力が、無くなりました」

 




たぶん明日も投稿すると思います。

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