もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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今回だけオリジナルキャラクターが出てきます。ご了承ください。

私がかく魔理沙は原作と性格はかけ離れています。

それでも良い方は第六話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第六話 彼 その②

 アトモス君と呼ばれた奴は容赦なくグイグイと鎖で繋がれている私のことを引っ張って扉の中に引きずり込もうとする。助けを呼ぼうにも意地悪く笑っているアトラスしかいない。

「わかったから!元の世界に戻りたいから!こいつを止めてくれ!!」

 私が叫び、彼がアトモス君になにか命令をしてようやくアトモス君の動きが止まった。鎖の枷が自然とはずれてアトモス君の手に戻っていき、扉の中に消えてゆく。

 アトモス君がわずかに開いた扉の間から巨大で鋭い目つきで私を見下ろした。

「……」

 一番イメージが付きやすいのは蛇に睨まれた蛙だろう。恐怖したとき、人は本当に動けなくなるのだと私は知った。

 アトモス君を見たまま固まってしまった私を見て彼は笑いながら言う。

「ちょっとやりすぎちゃったね…アトモス君はこの後仕事があるし、少しの間休んでくれてても構わないよ」

 彼が言うと、アトモス君の巨大な目が扉の奥に消え、扉がゆっくりと閉じた。

「……………」

 ズルいだろ。こんな状況ならだれでも本能的に助けを求めてしまう。

「いや、君が凄く驚く反応が面白くて少しからかっちゃったよ」

 私がジト目で睨むと彼は苦笑いをしながらいった。

「…それで、君は僕に何が聞きたいのかな?」

 彼が始めに会ったときのように腰ぐらいの高さの扉に腰を掛ける。

「……おまえの名前は?」

 私が聞くと彼は少しの間、間を開けて言った。

「僕の名前はアトラス」

 変わった名前だなと思いながらも私は二つ目の質問をした。

「……ここはなんだ?」

「…うーん。なんて言ったらいいのかな…役割はたくさんあるんだ。この世の世界で言うならば三途の川ともいえるし、様々な世界を管理する場所ともいえるんだよねぇ」

 三途の川、あの世とこの世の境ということだろう。アトモス君がいる扉の向こうがあの世ならばたくさんのドアがあるこちら側がこの世であるため、間違いではない。

「……さまざまな……世界?」

 気になった部分をアトラスに聞き返した。

「…そ、……それは君たちの世界の言葉を借りるなら、パラレルワールドって呼ばれるものだよ。並行世界とも呼ばれるね」

 アトラスが周りを見回しながら言った。

「まさか……この場所にあるドアすべてがパラレルワールド?」

 私はこの場所に来た時、ドアから出ていた。私がいた世界もパラレルワールドの一つだったということだ。

「…パラレルワールドは木みたいなものでね、始めは一つの世界しかなかった。しばらくすると世界はいくつかに分岐して分かれた。…分かれたという表現はあまり正しくはないけど…まあ、その分岐した世界はまるで木の枝のようにさらに分岐していく、触れ合いそうなほど近くても絶対に交わることのない世界がいくつもある。…例えば、今僕が座っているドア、この世界は僕の出来損ないがいる世界」

 アトラスがドアを指さしながら言った。

「出来損ない……?」

「ああ、つまらない世界だよ……あとは、世界を破壊できてしまうような力を持った連中といわゆる正義の味方が戦う世界なんてものもある。……当然、他の君がいる世界もあるよ」

「…やっぱり、他の私もいるのか」

「うん。僕に直接コンタクトを取ったのは君が初めてだけど、映姫を通してコンタクトを取ろうそしていた世界もあるよ。……これだけ聞くと戦ってばかりだと思われるけど、普通の世界もちゃんとあるからね?」

 アトラスの話が脱線を始めた。

「まあ、この世にはたくさんの世界があって絶えず増え続けてる。でも、映姫とかの例外を除いて普通の人間も能力を持って人間もこの場所を知覚することはできない。この場所に立っていてもね……そこで、なぜ君がこの場所を知覚できるかという疑問が浮上する」

 アトラスが言ったとき、アトモス君に巨大な扉の内側に引きずり込まれかけた時にアトラスが私に言った言葉を思い出す。

「……私を生き返らせるため?」

「…そう、他の世界にも影響が出るほどの問題が君の世界で起きた」

 アトラスが私に指を指しながら言った。

「………異変か…?」

「うん、君たちの世界で起こった今回の異変。いつもと違くなかったかい?」

「ああ……よくわからないが、皆の様子がおかしかった……」

 私が言うとアトラスが顔を横に振る。

「違う違う、当たりと言えばあたりだけど…もっと重要な人物がいただろう?」

「……霊夢か?」

「そう、彼女の力は凄いだろう?」

 確かに、霊夢は純粋な戦闘力も高く、さらに強力なスペルカードを持っている。

「…無想天生のことか?」

「うん。その技だけを見ればトップレベルだ」

「…確かに」

 あの技を食らえば、どんな妖怪や神でも人間レベルにまで力は弱まる。

「そんな人間が敵の手に落ちたんだ。幻想郷どころか世界が破壊されかねない……しかも本気を出せば別の世界にも行けないことはないだろうしね」

 アトラスが言う。

「それを…私に止めてほしいってことか?」

「まあ、そんなところかな」

 アトラスがずいぶんと気楽な様子で言った。

「無理だ。私じゃあ…霊夢に勝てるわけがない」

「そうだね、今の状態では君が何人束になろうとも勝てるわけがない」

 アトラスの言葉に少しイラっと来るが、真実であるため私は受け流した。

「だから、僕が勝てるようにしてあげよう」

 アトラスが組んでいた足を解いて、ドアから立ち上がった。

「どうやって?」

「僕が君に力を上げるんだ。……まあそれを生かすも殺すも君次第だけどね」

 アトラスが言いながら私に手のひらを向ける。すると、アトラスの手が淡く光った。

「……?」

 それと同時に私の体も淡く光る。

「…………何か……変わったか?」

 体に特に変化があったわけでもないため、私はペタペタと体を触りながら言う。

「変ったよ。……へぇ、僕は選んだつもりはなかったけど…"彼女"と同じ能力か」

 アトラスが一人で少し楽しそうにつぶやいた。

「"彼女"と同じ能力?誰かが使ってたのか?」

「…そうだね。僕の古い友人かな……優しく教えてあげるんだよ」

 アトラスは私のことを見ながら言うが、私に語り掛けてはいないように見える。

「……?……まあ、いいや…どうやってその力とやらを使うんだ?」

「うーん。そうだねぇ…能力の使い方は"彼女"に聞いてくれ」

「いやいや、今教えてほしいんだが…」

 少し待ってもその"彼女"とやらはどこにも現れない。

「そのうち出てくるだろうから、その時に聞いて」

 アトラスが投げやりに言った。

「ちょっと待てよ!こんないつもと変わらない状態で霊夢に出くわしたら、リスキルかまされるのが落ちじゃないか」

「大丈夫大丈夫」

 アトラスが適当に言っていて心配になるが、確かに体の奥に意識を向けると何かを感じる。今まで感じたことのないものを感じるのだ。

「……じゃあ、自分の世界に戻るなら…そこのドアに入ってくれ」

 アトラスが私が出てきた時の扉を指さしながら言う。

「…わかった……でも……」

「……?どうしたのかな?やっぱり死にたくなったかな?」

 アトラスが言うと、アトラスの後ろの巨大な扉がわずかに開き、アトモス君の鋭い目がこちらを見た。

「い……いや…!違う!」

 私はじりっと下がりながら叫んだ。

「……じゃあ、どうしたんだい?」

「…いや、死んだ人間を生き返らせることのできるアトラスなら、誰が異変を起こしたか知ってるんじゃないかと思ってな……知ってるなら教えろ」

「…この僕にその頼み方……君の図々しさには舌を巻かされるよ……まあ、さすがの僕でもずっと見てたわけじゃないから知らないかな……これからは見ると思うけど」

 アトラスが仮面をもとの位置に戻しながら言う。

「神様なんだろう?…だったらわかるだろ?」

「さすがに僕でも知らないことはあるよ」

 アトラスがくぐもった声で言った。

「…そうか、残念だ」

「……使えないなこいつみたいな顔をしないでくんない?」

 アトラスが私のことをじろりと見ながら言うが私は次の質問をアトラスに言った。

「…でも、お前ほどの奴なら……問題が起きても簡単にどうにかできるんじゃないのか?」

 私の質問にアトラスがうんとうなずいた。

「できるよ。ぶっちゃけ…君たちが負けた時点でその世界をもとから無かったということにすることもできる。僕からしたら世界を消すことは造作もない」

 アトラスがくぐもった声で見えているのか見えていないのかわからない仮面で私を見ながら言った。

「……じゃあ、なんでしないんだ?」

 私が言うと、アトラスは周りを見回してからこう言った。

「そうだねぇ。見ての通り…この世界は物凄く暇なんだ。やる事と言えばいろいろな世界を覗くぐらいしかやる事がないんだ」

「…つまり、自分の暇つぶしのために私を助けたということか?」

「まあ、そうなるかな」

 こっちは命懸けなのにこいつからすれば暇つぶしのための遊びに近い。こっちは遊んでいるわけではない。でも、アトラスが気が向いたから私は助かるのであって、霊夢を助けることができる唯一のチャンスだ。こいつの機嫌を損ねて存在を消されたくはない。

「…まあ、いいや……こっちはこっちで頑張るよ」

「うん、ここから君を見てるから……僕を楽しませてくれよ?」

 アトラスがドアに座ったまま足を組んでいった。

 アトラスも神みたいな存在だ。私が思っている以上に長生きしているのだろう。こんな場所に何百年もいたらそりゃあ暇にもなるだろう。

「じゃあ、せいぜい死なないよう頑張ってね」

 アトラスがドアノブを握った私に後ろから言葉を投げかけた。

「ああ、せいぜい頑張るさ」

 私はドアをくぐる。また眩しい光が私を照らし、視界を遮った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

できない場合は明後日になりますが気長に待っていただければ幸いです。

次から戦闘をきちんと入れます。

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