もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十八話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第六十八話 狂人

 

「……魔理沙………さん」

 小悪魔がか細い声で呟き、私を見て嬉しそうに涙ぐむ。

「…すまなかったな…心配かけて……」

 私は言いながら霊夢を警戒した。霊夢は驚いた顔をしたいるが、私が夢想封印を消したことについて驚いているわけではないようだ。

 なぜ、私が生きている、と驚いているのだろう。

 そりゃあそうか、殺したはずの人間があろうことか動いて話しているんだ。驚かない方が不思議だ。

 私はそう思いながら小悪魔の横に立ち、小さな声で話しかけた。

「…小悪魔、霊夢を倒すために力を貸してくれ」

 私が小悪魔の方に視線をわずかに傾けると、小悪魔は無言でうなづいて体を強化しながら攻撃に備える。

「…それと…小悪魔、パチュリーの姿が見えないが…何かあったのか?」

 ヨロヨロと立ち上がる咲夜とレミリア、それと矢を放つタイミングをうかがっている永琳と私と一緒に来た大妖精、それと敵対して対峙している霊夢。その6人以外に人の姿が見えないのだ。

 紫色の長髪に紫色の瞳を持ち、薄いピンク色のフリル付きの帽子をかぶっていて、いつも本を読んでいた物静かな少女の姿が博麗神社のどこにも見当たらない。

「…どこかけがでもしているのか?…だったら、私が治すが…」

 私がそう言いながら小悪魔を見た時、その悲しそうな瞳からパチュリーがなぜこの場所にいないのかを悟った。

「……そうか…」

 私が呟くと、小悪魔は思い出してしまったのか顔を下げて涙ぐんだ目を手で拭って涙をふき取る。

「今は悲しんでいる場合ではありません……戦いに集中しましょう」

 小悪魔が無理やり頭を切り替えて霊夢に向き直る。

「…ああ……」

 同意はしたが、やはり私の涙腺からは涙の一滴すら出てくれない。胸が張り裂けてしまいそうになるぐらい悲しくて苦しいのに、その感情を涙として吐き出すことを体が忘れてしまったのか、もしくは涙を流すという機能すらなくなってしまったかのように私の目は乾いていた。

 それでも、実感がわかない。あのパチュリーが死んだなんて思いもよらなかった。

 しかし、いつまでも現実逃避をしている暇はない。頭を切り替えて霊夢の方向を見て魔力で体を強化し、いつでも攻撃でも防御でもできる状態にした。でないと、悲しむことすらできなくなってしまう。

「ふふふ……あはははっ!……あははははははははははははははははははっ!!」

 霊夢がとても嬉しそうに、かつ狂ったように笑い始め、霊夢の笑い声が辺りに響き渡る。

「…?」

 私たちが身構えていると笑い終えた霊夢がゆっくりと口を開いた。

「…あんたにまた会えてうれしいわ……好きな人を…二回も殺すことができるなんて…!」

 ぞくっと体に悪寒が走り、味わったことのない恐怖に私の闘志が揺らぐ。霊夢はその隙に十数メートルあった私との距離を一緒んで詰めてくる。

「!?」

 私の代わりに素早く反応した小悪魔が霊夢の前に立ちはだかり、霊夢に攻撃を仕掛けるがカウンターのように裏拳を顔に打ち込まれた小悪魔の体がわきにズレながら倒れ込んでしまう。

 そのうちに私は気を引き締め直して霊夢に挑む、いつものように唇を噛んで血を出させ、それを飲み込んだ。

「…そら!!」

 魔力力を強化し、強化した魔力で手先に力を溜めてレーザーを霊夢に向けて放った。

 霊夢がお祓い棒でレーザーを水でも弾いているように簡単に掻き消し、私に向かって全速力で突っ込んでくる。

 目的はあくまでも私というわけだ。

 私はバックの中に隠し持っていた棒切れを取り出し、霊夢が振ったお祓い棒に全力で打ち付ける。

 私と霊夢の二人分の打ち合わされてはじけた魔力が火花のように飛び散り、鋭い轟音を発する。

 妖夢の時のようにはうまくはいかないだろうが、素手と弾幕で戦うよりはこの棒切れ一本あるだけマシにはなるだろう。

 私の戦闘スタイルに少し驚いた顔を霊夢はするが、すぐに嬉しそうに笑って私に向かって何度もお祓い棒を振るう。

 木の棒同士を打ちあっているとは思えないほどの耳が痛くなるほどの打撃音が鼓膜を叩き、魔力同士のぶつかり合いによって火花に似た魔力の粒子が散り、私たちの周りを明るく照らす。

「…っ!!」

 ガンガンガン!!

 お祓い棒と棒を打ち合わせるたびに段々とお互いの得物を振るう速度が加速していく。

 霊夢の速度に劣る私を援護するために起き上がった小悪魔が霊夢の気を私が引いているうちに後ろから霊夢に向けて殴りかかるが、当たる寸前で霊夢は身をかがめて攻撃を避けながらお祓い棒で小悪魔の脇腹を強打した。

「があっ…!?」

 小悪魔の攻撃をかわす動作と殴る動作、それらを霊夢は小悪魔を見ずにやるのだから恐ろしいものだ。

「…っ!」

 私が魔力で強化した棒を霊夢に振り下ろすが簡単に受け止められた挙句、腹に拳を叩きこまれてしまって体がくの字に折れた。

 前かがみになった私の頭にお祓い棒が振り上げられ、顔が跳ね上がる。

「…っか…ぁ……!!?」

 これ以上の追撃を受けないように咲夜が銀ナイフを私に当たらないように投擲するが、霊夢はそれを見ずに飛んできた銀ナイフのうち一本を自分の横を通り過ぎているわずかな時間の間につかみ取り、他の銀ナイフは必要最低限の動きでかわし、紙一重でやって来た小悪魔の拳をお祓い棒で叩き落とす。

「…!」

 やるとは思っていたが、目の前で見せつけられると圧倒的な実力の差というのを突き付けられてしまう。

「…くっそ……」

 私は呟きながら一度小悪魔と一緒に霊夢から距離を取る。さすがは博麗の巫女、こいつを倒すには発想を一ひねりも二捻りもしなければならないだろう。

 そう私が思っていた時、咲夜のキャッチした銀ナイフを霊夢は眺めると、そのナイフを誰に投げつけたり切ったりするのではなく、霊夢は真上に銀ナイフを投擲した。

「…!?」

 その行動の意味は分からないが、霊夢は何かをする気なのだろう。

「…小悪魔!」

 私が言いながら体と棒を強化して霊夢に向かって棒を振り下ろし、小悪魔は体と拳を強化して霊夢に後方から殴りかかる。

 前からは私と後ろから小悪魔、同時に霊夢に向けて殴りかかっている。さらに永琳が私から見て右側から、殴るのとほぼ同じちょうどいいタイミングで霊夢に矢が当たるように放っていた。

 左からは攻撃はないが逃げるとしたらこちらしかないだろう。だが、永琳は高速で矢を再装填し、二発目を射出しているため一発目をかわしながら私たちを相手にしたとしても、二発目の矢とその反対側から飛んできている咲夜の銀ナイフを同時に相手にしなければならない。

 時間が経てばたつほど人数が多い私たちが有利になる。

 即興の割にはなかなかいい作戦だろう。

 上にも逃げることはできない。逃げるとしたら目の前に私たちがいるためもう遅すぎるからだ。

 私と小悪魔が霊夢に殴りかかり、永琳の放った矢が霊夢に到達するのは同時であった。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

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