もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十七話をお楽しみください。


時々、タイトルに困る。


もう一つの東方鬼狂郷 第六十七話 優しくて強い人

 強い土の臭いが鼻をつく。

 それは、別に私がかがんで土の匂いを嗅いでいるわけではない。土を手に取ってその香りをかいでいるわけではない。

 爆発で土煙が私の身長を余裕で越えている高さまで舞い上がっているため、否応なしに土のにおいをかぐしかないわけだ。厳密には焼けた土の匂いだが、

「こほっ……」

 咳が漏れてしまって周りを漂っている土煙が咳の影響を受け、空気の流れを大きく変えて土煙の軌道が不自然に変わる。

「…っ」

 紅いオーラをまとっている目を持つ霊夢さんに、お嬢様が手に持っている炎が燃え盛るグングニルを土煙をかき分けて投げつけた。

 至近距離ならばどんなに動体視力が高くても、人間ならば目で追う事すら困難な速度で投擲されたグングニルを霊夢は、手に掴んでいるお祓い棒で打ち消してしまう。

「…くっ……」

 戦いが始まって十数分。たったそれだけの時間ですでに色濃い疲労がお嬢様や咲夜さん、私も例外なく見え始めている。

 魔力強化で身体を強化した私は、高速で霊夢さんに近づいて横から殴りかかった。

 人間が受けたのならば簡単に吹っ飛ばすことのできる威力のはずだ。しかし、霊夢さんは真正面から受け止めたどころか殴りかかったはずの私を逆に押し返す。

「くっ…!」

 ひるんだ私の顎、わき腹を抉るようにして霊夢さんがお祓い棒を振るう。

 わずかに視認できるほどの速さで打ちだされた攻撃は、私を動けなくさせるほどの威力を持っていて、むしろ過剰火力ともいえるだろう。

「…か……っ………は…っ……!!?」

 わき腹を殴られたことにより、呼吸ができなくなって体が硬直した私を霊夢さんはさらにお祓い棒で殴打する。

 手や腕、足から肩、胴体に存在するすべての弱点に霊夢さんのお祓い棒が叩き込まれていく。

「…っ……!!」

 悲鳴を上げることもできずにゆっくりと倒れた私をつまらないものを見るような目つきで、霊夢さんは私を見下ろした。

「小悪魔!!」

 咲夜さんの声がする。

 私が追撃を受けないように銀ナイフを取り出し、霊夢さんの方向に向けて走り出しているのがわかる。

 霊夢さんは位置を変えて倒れている私の脇腹を蹴り飛ばし、走ってくる咲夜さんの方向に吹っ飛ばした。

「あぐっ!!?」

 飛んできた私を咲夜さんはうまくキャッチすることができた。だが、その直後に私にある物が投げつけられる。

 博麗の特徴的な赤い文字で記された札だ。これ一枚で様々なことがすることができると聞く。

 それらの札に嫌な予感を感じた私は目を動かして霊夢さんを見ると、霊夢さんはちょうどその時に私たちに投げつけた札に命令を与えていたところだ。

「爆」

 その一言を引き金にして紙に込められた魔力分の爆発が巻き起こる。

 紅い炎と数百度に達する熱が私たちを囲っている札の一枚一枚から発生し、それが皮膚を焼き、膨れ上がった空気が衝撃波となって私と咲夜さんをなぎ倒す。

 だが、辛うじて札が張られていた位置が咲夜さんから離れていたおかげで、咲夜さんに爆発のダメージはほとんどなさそうだ。

「……ぐ……う…っ」

 爆発の衝撃で頭を揺らされたらしく頭がくらくらして、爆発音で耳鳴りも酷いこととなっている。

 すぐ目の前に倒れている咲夜さんが私に向かって何かを叫んでいる気がするが、爆発音のおかげで何を言っているか全くわからず、耳鳴りで聞こえない。

 でも、後ろから何かが来ているのだけは感覚でわかった。

 霊夢さんではない。もっと小さくて複数存在し、高速で移動しているのだ。

 咲夜さんを掴んでわきに投げ、私は後ろを振り返りながら札が体に当たる直前に、魔力で体の筋力を強化し、思いっきり飛び上がった。

 多少ホーミング性能のある札が私を追おうと上に進行方向を変えようとするが、私についてくることができずにそのまま後方に飛んで行き、飛び去った。

 空中で無理やり体をねじって方向転換し、つまらなさそうな表情のままの霊夢さんに向き直りながら魔力で足場を作って霊夢に向けて跳躍する。

 跳躍して霊夢さんに到達するまでに魔力で体を強化し、全力で拳をったきつけた。

 無表情の霊夢さんが私の拳を受け止めると、霊夢さんを中心に地面が陥没する。それでも霊夢さんは涼しい顔で私のことを振り払う。

 まだ力が足りない。今は魔力を温存している場合ではない。ここで使わず、どこで使うというのだ。

「ああああああああああああああああっ!!!」

 私は雄叫びを上げながら霊夢さんに拳を振り続ける。

 お祓い棒と拳が打ち合うごとに強い衝撃を発生させ、私と霊夢さんが踏み込むごとに衝撃で地面が小さく割れた。

 拳とお祓い棒をぶつけあっているはずなのに、鉄に鉄が強い力で叩きつけられているように火花が舞い散り、役目を終えた魔力は塵となって消えて行く。

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 無呼吸運動をするように、体を動かしているせいで私は既に肩で息をするほどに疲弊している。そのとき注意力が散漫になっていたのか、私はバランスを崩してしまう。

 永琳さんが私を援護するために見えない位置から霊夢さんに向けて矢を放つ。だが、後頭部に目が付いているのかと思うほどに霊夢さんは自分に矢が刺さる寸前につかみ取る。

「…!?」

 私の作ってしまった隙を埋めるために永琳さんが時間稼ぎのために援護をしたわけだが、永琳さんの援護をやすやすとやり過ごした霊夢さんは私が作ってしまった隙をついて私の脇腹にお祓い棒を叩きこんできた。

「…んぐぅ…!!?」

 喉から絞り出された悲鳴だけではない。体中が霊夢さんのお祓い棒の打撃攻撃で悲鳴を上げている。

 これまでに食らって来た深刻なダメージが体に蓄積していて、その影響が体に出始めているのか膝がガクガクと笑い、手に力がこもらず、呼吸も大きく乱れてしまっている。

 弾幕を放ちながら霊夢さんから無理やり離れようとしたとき、霊夢さんがこちらに高速で接近してきた。

 途中にあるはずの私が放った弾幕が、まるで存在していないかのように霊夢さんはすり抜けてくる。

「…っ!?」

 どうやら、霊夢さんは逃がす気はないらしい。

 両肩を掴まれ、近い霊夢さんの顔がさらに近くなり、霊夢さんの唇が私の耳元で小さな声で囁く。

「どうして、あなたから…魔理沙の匂いがするのかしら?」

「…え?」

 私は霊夢さんの言っていることの意味が分からず、素っ頓狂な声を上げると同時に、ゾッとした。

 霊夢さんの目つきがわずか、本当にわずかではあるが、鋭くなったのだ。

 霊夢さんに掴まれている手を放させようとしたところで、霊夢さんの膝蹴りが私の腹にねじ込まれた。

「…は…ぐっ……!!?」

 抉りこむような下からの攻撃、その衝撃で私の体が十センチほど浮き上がる。

「うぐっ…!?」

 胃や腸がかき混ぜられるようにして揺らされ、足から力が抜けてしまう。

「…ねぇ、なんでかしら?」

 霊夢さんが光の無い目で私に言いながら髪の毛を掴み、引きちぎる勢いで左右に強く揺らす。

「いっ…!!」

 髪の毛を掴まれていた私の後方から銀ナイフが高速で飛来し、霊夢さんはそれを避けるために私から一時的に離れる。

「咲夜!合わせなさい!」

 お嬢様の命令がこちらまで聞こえてきた。

「はい」

 咲夜さんの冷静な声と共に二人が魔力を流したスペルカードを銀ナイフで切り裂き、爪で粉々に裂く。

「運命『ミゼラブルフェイト』」

「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』」

 お嬢様の魔力で形成された鎖とその先についている鏃が何十個も形成され、じゃらじゃらと鎖同士がぶつかり合って金属音を放っている。

 鎖の先についている鏃の方向が私から離れた霊夢さんの方向を向き、狙いを定めて飛んで行く。

 咲夜さんが何十本という数のナイフを空中に放り投げると、回転しながら空中に投げ出されたナイフは魔力の命令により、いきなり不自然な軌道を描いてどこかへと飛んで行き、あらゆる方向から霊夢さんを銀ナイフが襲う。

 二人の攻撃に人間が通れる隙間など存在しない。それほどまでに鏃と銀ナイフは霊夢さんのことを囲っている。

 過剰なほどの火力ではないかと思った直後、私はその考えの甘さを思い知り、目を見開く。

「…うそ……!!?」

 霊夢さんは武器も使わずにお嬢様と咲夜さんのスペルカードをすり抜けて見せたのだ。

 幽霊ではないか。本当にそこに存在するのかと疑うほどに、霊夢さんがやって見せた行為は神がかっている物だった。

 その霊夢さんは咲夜さんとお嬢様に札を投げつけ、爆破させながら私に向かって走り出した。二人を爆破したことにより、二人からの援護が一時的になくなってしまう。

「…っ!!」

 立ち上がって迎え撃とうとした私の顔に霊夢さんの鋭い蹴りが命中する。

「うぐっ……!!」

 口の中が切れて、口内に鉄の味が広がった。

 霊夢さんは振り上げたお祓い棒を蹴りを食らって怯んでいる私の頭に向けて振り下ろした。

 殴られた部分の皮膚が打撃で引きちぎられて出血したらしく、とっさに額を押さえた私の手には血がべったりとこびりついている。

「く…う……」

 流れてきた血が右目に入り、右側の視界が赤く染まっていく。

 霊夢さんは私に休む暇を与えず、霊夢さんに胸倉を掴まれて腹に蹴りを食らってしまう。

 想像を絶する霊夢さんの蹴りの威力に胃が変形し、上半身と下半身が分かれてしまうのではないかと思うほどの引き裂かれるような激痛を腹に感じた。

 蹴りの威力を踏ん張ることができず、後方に吹っ飛んだ私の体は地面を転がってようやく止まり、胃から上がって来た血を地面に吐きだした。

 以前、紅魔館で私は霊夢さんと戦った。その時も私は霊夢さんの圧倒的な力により、なすすべもなくやられてしまった。

 あの時も霊夢さんとの戦いは勝負と言えるものではなかった。だが、今回の戦いはそれ以上に勝負と言えないものとなっている。

「…このままじゃあ……」

 やられてしまう。私はそう思い、倒れている状態で土を巻き込みながら拳を握り、霊夢さんの方向を見た。

「……面倒ね」

 霊夢さんは私や立ち上がろうとしている咲夜さんやお嬢様、私を見渡してから小さな声でそう呟く。

 そうした後、ゆっくりと一枚のスペルカードを取り出し、それに記されている回路に魔力を流してスペルカードを起動した。

「霊符『夢想封印』」

 パキぃぃぃぃッ!!

 甲高いガラスが砕けるような音がし、カードが魔力の粒子となって消えて行く。

「くっ…!!」

 どうすることもできなかったし、今からではどうすることもできない。霊夢さん相手にスペルカードを発動されてしまってはもう遅い、スペルカードを砕く前なら使用者の体にダメージを与えて魔力の調節を狂わせて強すぎる魔力を流させてスペルカードを消滅させることもできたかもしれない。

 しかし、この距離ではたとえ咲夜さんがナイフを投げたとしても間に合わないだろう。

 霊夢さんが生成した七色に輝く球が辺りを昼間のように照らす。

「……」

 終わった。あれを迎撃できる時間はもうない。時間があったとしても、焼け石に水程度だろう。

 私が諦めかけてこちらに飛ばされた七色に輝く球を眺めていた。

 だが、私は神に見捨てられなかったらしい。七色に輝く球と同じぐらい強い光を放つ、いくつものレーザが光る球を次々に貫いていく。

 私がいる位置から見て後方から発射されたレーザーに貫かれた魔力の球は、撃ち抜かれた順に魔力の塵となって消え去っていく。

「……!?」

 紅いオーラの瞳が初めて動揺を示す。それは私も同様であったが、彼女ならやってくれると思っていた。

 全ての七色の球体が塵となって消えた時、声が聞こえた。

「…これが、本当の危機一髪ってやつかな?」

 後方から現れたのは、おかしくなっていく前に近い、少しだけ優しい表情をした魔理沙さんが私の真横に立ちながら呟いた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。

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