もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十五話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第六十五話 正気に

「小…小悪魔……!」

 私は萃香に向けて伸ばそうとしていた手を無意識のうちに引っ込めて小悪魔から距離を取っていた。だが、その足取りは今まで戦ってきていたような鋭い動きではなく、ヨタヨタとおぼつかない足取りで私は後ろに下がっていた。

 前任者たちの声が鐘のように鳴り響き、私に語り掛けてくる。

 小悪魔をなぶれ、潰せ、引き裂けと頭の中にささやいてくる。だが、まるで血の気が引くように前任者たちの声が小さくなっていき、最後は完璧にその存在が消えていく。

「…魔理沙さん……」

 つい数時間前に別れたばかりだというのに、ずいぶんと久しく感じる小悪魔の声は少し疲れているように感じた。

 その声が私の頭や体を埋め尽くしていた前任者たちの声と、破壊と殺戮への欲求と快楽を打ち消していってくれる。

「…わた……し…は……」

 段々と正気に戻って来た私は、今まで自分がしてきたことの重さをようやく知った。

「…私………は……!」

 大妖精や永琳が木陰から出てきて小悪魔の近くに歩み寄り、それに続いてレミリアたちも現れる。

 鬼たちを殺した。殺して殺しまくった。あらんかぎり残虐な方法で殺した。鬼たちの戦意をそぎ落し、戦意喪失させた鬼たちも関係なくむごたらしく殺してしまった。

 それがたとえ異変を起こして手を貸した連中だとしても、その罪の重さは計り知れないものだった。

 血で汚れている手が震え、膝が嗤い、足から力が抜け、私は地面に座り込んでしまう。

「…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!」

 頭を抱えて掻きむしりながら、私は呪文のように謝罪の言葉を繰り返す。

「……魔理沙さん」

 大妖精が私に言ったのか、小悪魔が私に言ったのかわからないぐらいに私は錯乱していた。

 罪の重さで押しつぶされてしまいそうだ。

「……魔理沙さん…鈴仙さんに皆を狂わせていた能力を解いていただきました。あとは気絶させるか眠らせるかすれば元に戻るそうです…」

 小悪魔が私に呟き、こちらにむかって歩み寄ってくる。

「…魔理沙さん…すみませんでした………あとは、私たちが終わらせます…」

 私の肩に小悪魔が軽く触れながら呟くと、方向転換をして博麗神社の方向に向かって歩いて行った。

「……」

 複数人の足音が段々と遠ざかっていき、すぐに土を踏む足音は聞こえなくなる。

 どうしていいのかわからず、ずっと考えるが答えなどが出るはずがない。ちょっとやそっと考えただけでは、答えなどは出ないだろう。

「……魔理沙さん」

 まだこの場所に誰かが残っていたようで、私に静かに話しかけてきた。

「…」

 声からして恐らく大妖精だろう。俯いていて顔は見ていないが、声が子供っぽくて高い音だったため、わかった。

「…私は、魔理沙さんの気持ちはわからないでもないですよ?」

「………。お前に……なんがわかるっていうんだ?」

 私が呟くと、大妖精は私の傍らでしゃがみ込む。

「…魔理沙さん程でなくても、死への恐怖は知っていますよ…」

 私は大妖精が何が言いたいのかがわからずに見上げた。

「…魔理沙さんがそれを私たちに味合わせないようにと頑張っていてくれたのも知っています……魔理沙さんの……スイッチが入ってしまったのは、私が原因ですよね…?」

 顔を上げた私の目線がちょうど大妖精と同じ高さとなり、目が合う。

「…そんなことは……」

 ない、と私が言おうとしたところで、大妖精が片手で私の頬に触れた。

「なんで、魔理沙さんは自分で抱え込んでしまうんですか?……私たちだっているじゃあないですか……」

「………」

 大妖精が言い、私が何も言えないでいると大妖精が悲しそうな表情で言った。

「私たち、そんなに信用がないんですか?」

「…ち……違う……そういうわけじゃ…」

 私が言ったとき、大妖精は私に言った。

「魔理沙さん…いい悪いの問題ではないですが……私たちにだって責任はあります……魔理沙さんの様子が以前とは全く違くなっていくのは…私も感じていました……でも、それを指摘してどうにかしようとしなかったのは、弱くて一人では戦えなかった私が魔理沙さんの力を利用していたからです……私が……私たちがもっと魔理沙さんを気にかけていれば少なくともこうはなっていなかったはずです……すみません…」

 大妖精がゆっくりと私に言ってくる。私はそこで、小悪魔がさっきなぜ誤ったのかを悟った。小悪魔は私を利用して戦っていたせいで、私がこうなってしまったと思っているのだろう。そのしりぬぐいをするために霊夢に挑みに行ったのだろう。

「…それでも……私は………前任者たちの影響を受けたと言っても、殺しを楽しんでた……私は……楽しんでたんだよ……殺しを…」

 胸が引き裂かれるぐらい悲しくて苦しいのに、私は涙の一滴すら零していない。私は改めて知った。自分が変わってしまったことを知った。

 前任者と言われても大妖精には何のことかはわからないだろう。でも、それでも大妖精は静かに私の話を聞いている。

「…私はもう………生きていたくはないよ……」

 私は震える声でか細く呟く。

 頭を掻きむしっていた手を頭から放すと、血管でも切ったのか小さな組織片と血、それと白髪の髪の毛が数本手に絡まっている。

「……死にたい………」

 呟いた私の話を聞いていた大妖精は、少しの間をあけてから私に言った。

「魔理沙さんは、逃げるんですか?」

 大妖精は静かに、力強く私に語り掛ける。

「…!」

「私は、魔理沙さんが感じる罪の意識というものはどういったもので、どのように感じるかは知りません。でも、知らないからこそ言えることもあります……罪の意識を本当に感じているのなら、魔理沙さんは自らの命を絶つ、それだけはしてはいけません…」

「……」

「…あなたがここで自分の命を絶ってしまっては、それこそ魔理沙さんが殺してきた鬼たちが報われません……」

 確かにそうだ。これだけの異変で、異変に参加していた鬼も多少の覚悟はしていただろうが数十体の鬼が私に殺された。

 たのしそうだったり、戦いたいだったりと異変を手伝った理由はいろいろだろう。だが、それでも鬼としてのプライドや信念はあっただろう。それを私は虫けらのようにふみ潰し、引き裂いてしまった。

 私がここで自らの手で命を絶ったら、今まで殺してきた鬼たちに対する冒とくだろう。

「…ああ……そうだな……」

 私は顔を上げながら呟く。

 私は殺してきた鬼たちのためにも自害だけはしてはならない。

「…大妖精、すまなかったな……お前には助けられっぱなしだぜ」

 私が言うと、大妖精は首を横に振って呟いた。

「いいえ…魔理沙さん……私はずっと魔理沙さんに助けられっぱなしで、利用までしていました……謝らないといけないのは、私の方なんですよ……」

 大妖精が呟く。

「……いや、お前は…お前たちは謝らなくてもいいぜ」

 私が言うと、大妖精は驚いたような顔をして立ち上がった私を見つめた。

「なぜですか!?…私たちのせいで鬼たちを殺してしまったんですよ!?」

「…生き物は何かを利用し、利用され合って生きている……だから、利用していたことについては、お前たちはなにも間違ってはいないぜ、私だってそうだ……お前がもし便利な能力を持っていなければ、助けたりなんかはしなかったはずだ……だから、お互い様……ってやつだ」

 私が言うと、大妖精は少しだけ間をあけてからうなづいた。

「…大妖精、小悪魔たちは博麗神社に向かったんだよな?」

 私が大妖精に聞くと大妖精は博麗神社の方向を見ながら言った。

「はい、…小悪魔さんは……」

 大妖精が言おうとしていたのを遮って私は呟く。

「…私のために行ってくれたんだろう?そのぐらいはわかる」

 あいつの表情などから小悪魔も大妖精と同じく、私を利用してその私がこうなってしまったことで少なからず罪の意識を感じてるということだろう。

 遠くに見える博麗神社ではすでに、小悪魔たちと霊夢の戦闘が始まっているのか、弾幕の光や爆発の炎がちらほらと見える。

「…大妖精…行くぜ」

 私が言って博麗神社に向かって走り出そうとしたとき、何かに気が付いた大妖精が私の手を掴んで引っ張った。

「魔理沙さん!!」

「大妖精?」

 私が驚き、後ろを振り返った時に何かが高速で頭の横を通り、頭の片方だけに結ばれている三つ編みが地面に落下する。

「…!?」

 空気を切り裂く音がしたと思ったら、髪の毛が切られていた。

 大妖精が私を止めてくれていなかったら、今頃地面に落ちていたのは三つ編みではなく、私の首だっただろう。

「…大妖精……ナイスだ」

 私は呟きながら周りを見て、アリスを殺した人物をようやく知ることができた。

 本当に妖夢ではなかったということだ。ようやく合点が言った。

「…お前だったか、椛」

 私が睨みつけると椛は赤く光るオーラをまとった瞳をこちらに向け、巨大な大剣と堅そうな盾を構えて笑う。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

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