割と好き勝手にやっています。
それでもいいという方は第六十三話をお楽しみください。
拳が交差し、幽香が私の左腕を掴むと左腕を肩ごと千切りながら上げた足で腹に穴が開くほどの威力で私を蹴り飛ばす。
私は吹き飛ぶ寸前に幽香の蹴った足を右手で掴み、一緒に吹き飛ばさせた。
掴んだ足を振り回して高速で移動しているその速度と、私が振った勢いを合わせて幽香を壁に叩きつける。
幽香を中心に凹凸のある壁に亀裂が発生していき、荷重に耐えられなくなった箇所から雪崩のように壁が崩壊を始める。
幽香が体をコンパスのように回転させ、私が掴んでいる足を軸にしてもう片方の足で私の顔を蹴り飛ばす。
メキッ!
頭蓋骨の半分が砕け、砕けた骨が散らばって顔の肉を引き裂く感覚がしたのはつかの間、魔力ですぐに回復させようとしたが、幽香の蹴りで吹っ飛ばされた私は壁にめり込み、さっき壁に叩きつけた幽香のように岩石の倒壊に巻き込まれてしまう。
何百キロ、何十トンもあるような巨石や土の塊が私に降り注ぎ始める。
「…」
右手の平を後方斜め下に向けて爆発的に魔力を放出、噴き出した魔力の推進力で上から振ってくる岩石をどうにかかわすことができた。あの重量のものはさすがに破壊するのは骨が折れる。
右肩が脱臼するが私は強化した魔力を送り込み、瞬時に回復させて壁際にまだいる幽香に向けてレーザーをぶっ放す。
幽香は大量の花を私に向かわせ、そのうちのいくつかの花を使って私のレーザーを相殺し、こちらに向かって跳躍した。
「……くくっ…」
私は長いスペルを詠唱しながらこちらに向かって来た幽香に殴りかかる。
幽香の左肩が私が殴ったことにより腕ごと後方にすっ飛んでいき、肩と一緒に一部分の肉が飛んで行ったことにより、肋骨や肺の一部が露出し、私は肋骨を砕きながら肺を千切り取る。
左肩をなくした幽香が肋骨を砕かれ、肺の一部を千切られたことで顔を歪めながら私に向かって渾身の蹴りを放つ。
バチュッ…!
変な音がし、幽香の足が通った後に気が付くと私の視界が反転していて、視界の中にいる幽香が上下さかさまに立っている。
どちゃっ
ゆっくり一回転しながら水気が含まれる音を立てて私の体は地面に転がり落ちてしまう。
体の強化が不十分だった私の体は上半身と下半身が綺麗に分かれて、私の顔のすぐ横に切断された下半身が転がっている。
そのころになって体を切断された激痛が体を襲うが、幽香との戦いに歓喜し、快楽に飲み込まれている私が目を覚ますには不十分すぎた。
魔力を切断された部分に大量に送り、再生を促進させた。
ズグッ!
私の無くなった臓器や器官が治り始め、すぐに立ち上がろうとしたときに、いきなり地面から生えてきた花が私の両腕に巻き付き、立たせないように地面に縫い付けられてしまう。
「はぁ!」
幽香が嗤いながら動けなくなっている私に殴りかかって来た。幽香に殴られるごとに頭部の皮膚が切れて血が滲みだし、流れ始める。
その間に花の茎を千切れるかためしたが、花の強化された繊維が複雑に絡み合って強度がありえないことになっている。
花を千切ることができないなら、自分の腕を切断するしかないじゃないか。
多少動かすことができた両手の平に魔力を集中させ、花が巻き付いていない二の腕あたりをレーザーを当てて焼き切り、花の拘束から解放された私は幽香に飛び掛かる。
切断した両腕の再生を待っている時間はないため、私は口を開いて幽香の首筋に噛みついた。
「ぐ…っ!?」
幽香が目を見開いて怯み、攻撃の手が止まる。
私は幽香の首の肉を食いちぎりながら膝蹴りを腹に叩き込み、幽香を後ろに転ばせた。
そのうちに私は、食いちぎった肉を咀嚼して嚥下して魔力の足しとする。
私はさっきスペルを唱えて保留させていた魔法を発動させた。
「erschlagen(潰せ)」
ブゥン!
発動した魔法の効果により、幽香の周りだけが十数倍の重力がかかるようになる。
幽香の体が地面に大きくめり込み、動けないように拘束した状態となる。
「ひひっ…」
私は舌で幽香に殴られた時に流れてきた血をペロッと舐めて笑った。
切れた血の力を再度発動させて私は魔力力を強化する。
「ぐっ……!」
幽香が十数倍の重力がかかっている状態でも起き上がろうとしているため、私は魔力を大量につぎ込み、さらに十数倍の重力を幽香にかけていく。
「ぎぁ……ぁっ!!」
流石の幽香の体も骨が砕けて肉が潰れ、臓器がズタズタに引き裂かれて血反吐を吐いた。
「ははっ…あはははははっ!!」
私は嗤いながら魔法の効果が及ばないギリギリまで幽香に近づき、幽香を見下ろす。
私が段々と強くする重力で目が潰れて幽香は私を視認することはできていない。
魔法を解除すると幽香にかかっていた重力が消え去り、潰されるごとに響いていた幽香の悲鳴が途切れてしまう。
私は倒れている幽香を見て感心する。通常の百倍以上の重力をかけたのに、まだ死んでいないようだ。
でも、こうではなくては面白くない。
私は倒れている幽香に手を伸ばして掴み、前方にぶん投げた。
回転しながら飛んでいく幽香は半分枯れている木をなぎ倒して地面に倒れ込んだ。だが、倒れた幽香は嗤いながら傷を修復させて立ち上がる。
私に食いちぎられた傷からは依然として血が流れ出ていて、首元を押さえてはいるがそう簡単に出血が収まらないらしい。
立ち上がった幽香の足取りがおぼつかない。
私はそれを見てニヤリと口を裂いて嗤う。
そろそろ殺せそうだ。体の半分以上を吹き飛ばしたのにケロッとしていた幽香の傷の治りが遅いということは、魔力が切れそうということだ。
口から血生臭い吐息を漏らしながら私は、ゆっくりとよろけている幽香に向けて歩き出す。
だが、それを遮るように誰かが私の前に立ちはだかる。
「…あ……?」
自分の欲求を満たそうとする行動を邪魔されたことにより、苛立ちが沸き上がって来た私は威嚇するような声を出した。
「……やりすぎよ、魔理沙…幽香を殺す気?」
私よりも頭が一つ分低いさとりが私の前に立ちはだかっている。
さとりの後方では空やお燐たちが幽香のことを足止めしているのが見えた。
幽香の方向に向かおうとするのを邪魔するこの小娘を引き裂いて殺したい。
そんな感情が脳を犯されている私の中で生まれる。
“殺せ!”
“殺せ!!”
前任者たちの声だろうか。頭の中でまるで鐘のようにその言葉が鳴り響いて反響し、さとりを殺したいという欲求が頭から神経を伝って全身へと伝わっていき、欲求が体を埋め尽くす。
幽香の血か自分の血かわからないほどに血がこびりついている右手をさとりに延ばしてさとりの胸倉を掴んだ。
「……そう、私を殺したいのね…。……あなたずいぶんと変わっちゃったみたいね」
さとりの呟きを無視して私はさとりの頭を潰そうと、拳を握った左手を振り下ろした。
シュフッ!
だが、私の振ったはずの左腕はいつの間にか宙を舞っていた。
「…あぐ……!?」
私の腕がさとりの柔らかそうな肌を潰して骨を砕き、脳を自らの手でかき混ぜる寸前に、何かが私の目の前を高速で通った。純白の白髪に緑色の服、手入れの行き届いた長い刀。
切断したのは魂魄妖夢だ。
片腕を切断されてバランスを崩してよろけた私に、さとりはさらに静かに語りかけてくる。
「……魔理沙、あなたがおかしくなっているのは何となく薄々気が付いてた。あなたが変わってしまった理由は、あんたの頭の中で響いている声を差し引いても、わからないでもないわ。二十代の女の子がこんな異常な状態でまともでいろっていう方が難しいわ……でも、今のあなたは、狂った奴らよりも狂ってる。……このままでは必死に守ろうとした小悪魔や大妖精、永琳でさえ自分の手にかけてしまうわ…。魔理沙は…それでもいいの?」
さとりの言葉に、短いが一緒に行動した三人の仲間の顔が鮮明に思い浮かび、さとりを殺害したいという欲求が急に冷めていく。
それに伴ってズキズキと頭が頭痛で痛み出してくる。
「
頭痛が信じられないぐらい痛み出し、たまらずに私は頭を抱えて座り込んでしまう。
「うぐ……あああああああああああああっ!!」
久しぶりに感じる痛みに、私は絶叫する。
私の絶叫には、しわがれた老人のような声や幼い子供の声が重なって聞こえ、私の中から逃げることを抵抗しているようだ。
「ああああああああああああああああああああああああっ!!!」
激痛や嵐のように頭を埋め尽くそうとするさとりや幽香に対する殺害欲求を掻き消そうとするように、私は叫ぶ。
しばらく時間が経ち、私はいつの間にか叫ぶのをやめていた。喉が潰れているかと思ったが、そうではないらしい。
「……大丈夫かしら?魔理沙」
さとりの物静かな声が私に投げかけられる。頭痛が引いている私にはその声がよく聞こえた。
「…………………。…ああ」
頭痛と殺害の快楽を何とか今は振り切ることができた私は、十数秒間かけてようやく一声と言葉を返した。
前任者たちから解放された。そう思ったが、前任者たちの声や殺害に対する欲求は消えたわけではなく、体の奥底でくすぶっている状態だ。何かあればまた出てきそうだ。
「……本来なら、ここで止めるべきなんだけど…魔理沙がいなければこの異変を解決することはできない」
私の心を読んださとりが幽香と交戦している空やお燐を眺めながら静かに語りだす。
「…」
「……だから、短期決戦よ…霊夢を叩いて」
さとりが私に言った。
「…でも、霊夢と戦って気絶させることができたとしても、起きても狂ったままだからじり貧になるのは私たちだぞ?」
私が伝えると、さとりが呟く。
「……敵は恐らく霊夢を使って何かをするつもりだと思う。だから霊夢の場所に行って戦い、倒せそうになればおのずと魔理沙が探してる黒幕も現れるはずよ」
「…なるほどな」
「……魔理沙が疲弊させてくれたから、幽香はこっちで何とかするわ」
さとりが言いながら戦闘態勢に入る。
「…わかった……。この異変を終わらせよう……死ぬなよ、さとり」
「……魔理沙もね」
私はさとりの返答を聞きながら走り出し、刀を抜いて幽香と戦おうとしている妖夢と目が合い、視線でお礼を伝える。
魔力で体を浮き上がらせて空を飛び、幽香と一緒にはって来た穴に向かった。
たぶん明日も投稿すると思います。