割と好き勝手にやっています。
それでもいいという方は第六十二話をお楽しみください。
「……っ…ぐぁ……っ…!」
悲鳴が彼女の口から洩れた。いや、私の口から洩れた声かもしれない。
でも、目の前にいる人物が血が滴る胸を押さえて血を吐いていることから、悲鳴を上げていたのは私が戦闘中の相手だと分かった。
「……」
そしてなぜ悲鳴を上げていたか。私が戦っている相手は風見幽香であり、そう簡単に悲鳴を上げるような奴ではない。
しかし、私の手には血と筋肉がこびりついている肺のようなものが収まっている。
「…くくっ……」
自然と口角が上がっていて私は笑い声をあげた。
「……
声が二重になっていて、変な声が重なっていた気がするが気のせいだろう。
それよりも頭が痛い、私の脳に知らない記憶が大量にドンドン流れ込んできて、脳がパンクしてしまいそうだ。
訳が分からないぐらい頭が痛く、映し出される映像が止まることがない中でも私にはわかった。この記憶は、この能力を使っていた前任者たちの記憶なのだと。
「あは……あははははははははははははははははっ」
乾いた声が響き、私は自分が笑っていると気が付くのに数秒もかかった。
その間にもドンドン流れ込んでくる記憶は、どれもこの能力に酔いしれて使いすぎておかしくなっていくものばかりだった。
大筋は大体同じで、争い、戦争、殺し合いだ。
誰かと戦い、この能力を使いすぎたことにより精神を犯され、狂って行く。最後はみんな決まって誰が体を動かしているかわからないぐらい訳が分からなくなり、死んでいった。
そう思っている私も、すでにそいつらと同様になってしまう第一歩を踏み出している。
どうやら、この血の能力はプラスにも働くし、マイナスにも働くようだ。副作用のようなものだ。
そこで私は気が付いた。
聖に始まり、幽々子が私にひどい顔をしていると言っていたのは、こういう事だったのだと。
今思えば、前兆はあったじゃないか。小悪魔と牢屋にぶち込まれた時なんかがそうだ。
それ以前にも、なぜ気が付くことができなかったんだ。自分がどんどん変わっていっていることに。
だが今更後悔しても、もう遅い。私は前任者たちの仲間入りをするらしい。強い精神力をもってしても抗うことができないほどの快楽に、私は飲み込まれた。
「ああああああああああああああっ!!」
狂ったように叫んだ。
私は叫びながら前方にいる幽香に向けて飛び掛かった。
幽香は応戦するために魔力を周りにばらまき、周りの花を急速に成長させて強化し、こちらに向かわせて来る。
体に巻き付こうとする花の茎を素手で千切り、レーザーで蒸発させ、爪で切り裂く。
だが、こんな無理な戦い方をしていればすぐに幽香から反撃を食らう。
幽香が放ったソフトボール台の強力な弾幕が私の左目に直撃した。血が飛び散って目が潰れ、血管が断裂し、筋肉が引き裂かれる。
内側から爆発するような衝撃に目の周辺にある頭蓋骨が砕け、骨肉がぐちゃぐちゃになってまき散らされる。
だが、私は死なない。
魔力で傷をほぼ一秒で治し、幽香に向かって突っ走る。
それを迎え撃つ幽香が拳を握り、走ってくる私に向けて拳を振りぬいた。
防御力に一切魔力を回していなかった私の心臓がある位置を正確に幽香の拳が貫き、肘までめり込んだ。
私は貫かれることなど気にも留めず、拳を作って幽香を殴る。
ベギャッ!!
私が殴った衝撃で幽香の脇腹の一部がはじけ飛び、大量の血と抉られた小腸と大腸が地面に漏れだした。
楽しい。
自分の体が壊れるのなんか、どうでもいい。もっと相手を壊したい。
私が殴ったことにより、私から離れた幽香の腕が私の胸から引き抜かれ、胸に大きな穴が開いた。
千切れている静脈と思われる血管から赤黒い血がダラダラと流れだすが、私が魔力を送り込むと心臓や肋骨、その他の筋肉もまとめて再生が完了する。
「クスクス………あははははははははははっ!!」
こみ上げてきた感情を表に出したら、私は大声で笑い始める。
わき腹を修復し終えた幽香が立ち上がったころ、ようやく私も笑い終わった。私は上体を下げて幽香に向かって跳躍、拳を握ってさっきのように再度殴り掛かる。
だが、幽香もそう簡単に攻撃させてくれるわけがない。口を裂いて嗤った幽香の拳が私の首を背骨ごと抉るように拳を振るう。
首をわずかに傾けて体も移動させていたため、幽香の拳は首を半分ほどえぐり取るだけとなり、私が幽香の胸に掌底を叩きこむと幽香の肋骨が折れ、胸骨が砕ける気味のいい音と感触がして私はそれを気分よく味わう。
楽しい。
体が壊れる多少の痛みなど快楽に変換し、私は幽香を傷つけ、傷つけられる。
こんなに楽しいのは、生まれて初めてだ。殺したい。こいつを殺したい。もっといっぱい殺したい。
腕を千切りたい。足をもぎ取りたい。首をへし折りたい。その豊満な胸の奥で活発に動いている心臓を抉りだして握りつぶしたい。首れている腰よりも上に位置する腹に入っている臓器を引っ張り出したい。それらを食いちぎりたい。それらを地面に叩きつけてふみ潰したい。
様々な要求が体の奥から沸き上がり、ぐちゃぐちゃに混ざり合い。それができていないことから巨大な欲求不満が生まれる。
感じたこともないほどの欲求不満に、私の体はそれを満たすために幽香に向かって走り出す。
走り出した私に向かって幽香は強力な球状の弾幕をぶっ放す。私はかわすことなく突っ込むと、顔の半分を吹き飛ばされて右側半分の視界が見えなくなり、さらに幽香から追撃を食らうことになった。
足が幽香の手刀で切り落とされ、バランスを崩したところで腹を貫かれる。
指をまっすぐに伸ばしたただの手刀なのに体を貫く威力があるのは、魔力を扱うものがその技をしているからだろう。幽香がやれば物が切断できるのもうなづける。
吐血してしまい、血を吐き出すが私はその血を無理やり飲み下して、切れかかっていた能力を持続させた。
右手を幽香の蹴りで完璧に破壊されるが、魔力を送って修復している最中に治している腕で幽香をぶん殴る。
「ひひっ…!!」
もうすでに私が体を動かしているのかわからない。私が動かしているようにも、他の今までの前任者が体を動かしているようにも感じる。
斜め上から飛び込んだ私は、幽香に拳を叩きこむと幽香は体を魔力で強化したらしいが、地面は耐えることができなかったらしく、地面が陥没し、バランスを崩した幽香と殴りかかった私はそのまま地面の中へと潜り込む。
地面の中でもう一度私は幽香に拳を叩きこむと幽香の体がくの字に曲がり、今度こそ幽香の体は耐えることができなかったのか、私の拳が腹を貫く。
沸き上がる欲求を満たすのは凄く気持ちがよくて、楽しくて、私は嗤う。
幽香が吐血しながら私に拳を振りぬく、しかし、私は顔を傾けてかわしてお返しに幽香の顔に握った拳を送り込む。
その衝撃でさらに地面の奥深くにいた私たちの体が地面の奥に潜り込むが、不意に強い摩擦を働いて勢いを殺す役割を持っていた土が周りから無くなった。
巨大な空洞の天井を破壊して私たちは空中に投げ出されたのだ。
私たちが破壊してきたことにより、岩石や土が雨のように降ってきていて、その中の一つである私たちの戦いはまだ続いている。降っている岩や土の塊を足場にしてお互いに近づく。
「おおおおおおおおおっ!!」
幽香が嗤いながら雄たけびを上げ、私もそれに応えるようにお互いに拳を打ち合った。
たぶん明日も投稿すると思います。