もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十一話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第六十一話 死者

 鈴仙さんが生きていることに安堵しながら、私は鈴仙さんの肩から手を放す。

「…こ……小……悪…魔……?」

 鈴仙さんはまだ意識がはっきりしていないのか、途切れ途切れに言った。

「大丈夫そうではないですが……大丈夫ですか?」

 私が聞くと鈴仙さんは虚ろで光の無い赤い瞳で私を見つめがながら呟く。

「あなたも……そっち側なの…?」

「…え?…そっち側?…何のことを言ってるんですか?」

 私が聞き返すと鈴仙さんは掠れた声で話し始める。

「萃香たちと同じ、異変を起こした側なの…?」

 虚ろな瞳のまま、鈴仙さんは少しおびえたように呟いた。

「…いいえ、私は違います」

 私ははっきりとそう鈴仙さんに伝えながら、腕を何重にも拘束している針金を千切って鈴仙さんを解放した。

「…小悪魔は……なぜ…この場所に?」

 呟きながら後ろ向きに拘束されている手を前に持ってきて、きちんと動くか手を閉じたり開いたりしながら鈴仙さんは呟く。

「…私は……パチュリー様やお嬢様をさらわれてしまって……探しに来ました」

「……そう…」

 鈴仙さんが呟きながら自分の血まみれの姿を見直し、思い出したように横を見る。

 私はそれにつられて横を見ると、鈴仙さん以上に茶色く変色した血にまみれている妹紅さんが倒れているのが見えた。鈴仙さんに目が行っていて気が付かなかった。

 気絶しているようすの妹紅さんは仰向けに倒れていて、ずっとうごかずにぐったりとしている。

 妹紅さんに近づき、仰向けに倒れている妹紅さんを上向けに寝かせた。

 そのまま少しだけ彼女を観察すると、胸が上下に動いていてだいぶゆっくりだが呼吸はちゃんとしているのがわかる。

「…生きてますね……」

 不死といえど、あれだけ血まみれであれば死んでしまったのではないかと思ってしまう。

 一度、私は鈴仙さんのところに歩いて戻り、聞きたいことを聞くことにした。

「鈴仙さん…異変について何か知っていますか?……例えば、異変の首謀者とか…」

 私が聞くと鈴仙さんは呟き声を漏らした。

「……たぶん全員知っていると思う……でも、私には言えない」

「…なぜですか…?………もしかしてなにか、話せないことがあるんですか?人質がいるとか」

 私が鈴仙さんに詰め寄るとゆっくりと話し出す。

「理由は二つ……私が話したら………私は死ぬ」

 鈴仙さんはそう言いながら口を開き、ベロッと舌を出した。

「…これって……」

 舌には黒い紋章がかかれていて、それが意味するのを私は知っている。

「…ええ、呪詛です……私があの人のことを話したり、どうにかして伝えようとすると、この呪詛が働いて私は死ぬことになるので……あまり聞かないでいただけると嬉しい…」

 鈴仙さんが舌を口の中に戻しながら呟く。

「…理由のもう一つは何ですか…?」

 私が聞くと鈴仙さんが一拍の間をあけてから話し出した。

「…さっき小悪魔が言っていたように…人質を取られて…ね……私が命をなげうってでも伝えようとしたときのために、あの人は妖夢を人質に取って…話した時に妖夢を殺すって………私のせいで妖夢は……」

 鈴仙さんがボロボロと涙を流しながら呟く。

「…え?…妖夢さんを人質に取られたんですか…?」

 私は鈴仙さんの話に違和感があり、少し聞いてみることにした。

「…ええ、妖夢をこの場所に連れてきて…誰かに話そうとしたら殺すって…」

「…それじゃあ、おかしいですよ……私は…今さっき妖夢さんとあって来たんですけど……白玉桜から出てきたのはほんの数時間前だって言ってましたよ?」

 私が言うと、鈴仙さんは驚いた顔で私を見上げる。

「…本当なの…?」

「…はい、幽々子さんも一緒だったので、間違いないかと思います……たぶん、何かしら方法を使って鈴仙さんをだましていたんだと思います」

 私が言うと、鈴仙さんは驚いたような顔をした後、安心したように息をつく。

「…よかった……」

「…鈴仙さん……すみませんが一つ聞きたいことがあります、妖怪や妖精たちが狂っているのはあなたの能力の影響だからですか?」

「…そうよ……私の能力の影響…」

 鈴仙さんはそう言いながら私を見る。

「…鈴仙さんの能力は数人の人、もしくは妖怪などをまとめてできる程度の範囲しかないと聞いていますが…どうやって幻想郷中の人物を狂わせたのですか?」

 私が聞くと鈴仙さんは、横で倒れている妹紅さんの方向を見ながら説明を始めた。

「……小悪魔は萃香が同種の鬼を食うことで、魔力力を少しずつ底上げをしていたのはもう知ってるわよね?」

「…はい……聞きました」

 私が返事をすると、鈴仙さんは続いて説明を続ける。

「…詳しいことは知らないけど、私の能力を強化することによって今まで以上の広範囲に私の能力の影響がいくようにしたかったみたい……でも、能力を強化するにも鍛錬なんかしている時間はない。そもそも私が手を貸すわけがない……そう思った彼女たちは、私に能力の暴走をさせることを思いついた」

 そこまで言ったとき、なぜこの場所に妹紅さんがいたのかがつながった。

「…もうわかるわよね?……妹紅の…老いることも死ぬこともない程度の能力を利用することに彼女たちは決めた。……魔力力の強い者の肉体を摂取すればその分だけ魔力力が強化されやすい……萃香は何百年もかけて少しずつ魔力力を強化したから大した影響なんかないけど……私はたった数日で何十倍にも力を増幅させられたから、当然暴走を起こして……あなたもわかるように光が発生した」

 鈴仙さんはだいぶ疲れているのか、弱々しい声でようやく話し終えた。

「……なるほど…」

 うなづいた私に鈴仙さんは言った。

「…狂気の能力は解除した……でも、一度気絶させないと元には戻らないそこのところはよろしく…」

 妖夢さんが人質でないと分かって安心して気が抜けてしまったのか、ゆっくりと目を閉じて鈴仙さんは眠りについてしまう。

「……」

 もう少し聞きたいことがあったが、こんな場所にずっといたんだ。休ませてあげないと可哀そうだろう。

 私は鈴仙さんと妹紅さんを抱えて外に出ることにした。

 鈴仙さんと妹紅さんをこの血生臭い部屋から連れ出して外の部屋に寝かせた。

 私は続いて鈴仙さんたちがいた方とは反対側の鉄の扉を開け、圧迫感のある部屋の中央にある床下扉に近づいた。

 扉の隙間からは鈴仙さんたちがいた部屋と同じように、ここからも血の匂いがわずかに漂ってきているのを感じることができる。

 今度の鉄製の床下扉は凄くボロボロで、なんだか殴っただけで壊れたしまいそうだ。

 中にいる人物たちが抵抗したことにより、床下扉が損傷したいるのだろう。

 鉄の扉を魔力で強化した拳で殴りつけると、鉄の扉が下の方向に向けて大きくひしゃげ、扉を支えている鍵と蝶番を破壊する。

 見事に扉を破壊することができた私は、下の階に歪んだ床下扉ごと落ちてしまう。

 落ちた先で私が見たものは、

「……っ!!」

 ドォッ

 砕けた鉄の扉が落ちるスピードが嫌に長く感じる。しかし、そんな中でも私は動くことができなかった。

 床に落ちる衝撃が足から膝、腰、腹、胸、頭と上へ上へと伝わっていく。

 血の匂い、もう嗅ぎなれた血の匂いが充満するこの部屋の中に、よく知っている人物たちがいた。

 充満している血の匂いは、ずいぶんと昔に一度だけ嗅いだことのある匂いだった。

「……うそ…」

 誰かが私の名前を呼んだ気がした。でも、私には全く届いていない。

「…うそ………です……よ……」

 私はゆっくりとヨタヨタとおぼつかない足取りで歩き出す。

「…こんなの……うそですよ……!」

 自然と瞳から涙がゆっくりと流れ落ちてくる感覚がする。

 少し変色を始めた血だまりに足が使っても、こぼれた臓物に触れても、気にする余裕もなかった。

 さっきの鈴仙さんとは天と地の差があるぐらい。一目でわかった。

 彼女の閉じられた瞳はもう開くことはない。愛しい彼女の唇は二度と開かれることもなくなってしまった。

 額から流れた跡がある乾いた血が、涙のように瞳から流れている。

「…こんなの……何かの…冗談です……よね……?……パチュリー様……!!」

 私はパチュリー様の頬を両手で包むように優しく触れた。

 契約したパチュリ様と離れていたりしたから魔力でつながらなかったわけではない。そもそもつながるわけがなかったのだ。

 彼女はもう冷たくなって死んでいたのだから。

 私が顔に触れたパチュリー様は、糸の切れた操り人形のように力なく血だまりに倒れ込む。

「……」

 胸に空いた穴が、腹からこぼれている臓器が、引き裂かれて辛うじてつながっていた首が倒れた体から千切れて私の手元に残っていることから、彼女はもう死んでいる。と現実は私に真実を突きつける。

「うあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 私は喉が潰れるのも構わずに絶叫していた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。

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