もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第六十話 地下の奥

「これは……!」

 私はこの光景を見てようやく納得がいった。どうしてあの鬼たちが戦意喪失していたのか。

 強い敵がいれば喜んで戦いに行くはずだが、さすがにこの仲間がこれ以上にないぐらいむごたらしく殺された光景を見たら、戦う意志もそがれてしまうのも無理はないだろう。

 私がいる廊下の先の一部分、そこはまさに地獄と言える。

 返り血がそこら中に飛び散っていて、血が付いていない場所を探す方が大変なぐらい血で溢れている。

 それに比例して血の匂いもすごい。

 むせ返るほどの血の匂いに加えて、人間ではないが鬼の肉が焼けていると思うと気分が悪くなるような肉の焼ける香り、引きずり出されて引きちぎられている臓物から垂れ流されている糞尿の匂いが混じり合って、息をするのもつらいぐらいだ。

「……っ」

 できるだけ見ないようにしているのにもかかわらず、激しい吐き気に襲われる。

 しかし、この廊下の先が地下の牢獄に続く階段がある場所であり、行くための道がこれ一つしかないため、我慢していくしかない。

「……」

 目を閉じてゆっくりと進むと死体から流れ出した血が水たまりを作っていて、それに足を踏み込んでいしまい、ピチャリと音を立てる。

 もう一歩踏み出すと、考えたくもないが柔らかい何かを踏んでしまった感覚が靴越しに私は感じた。

 飛び散った肉変か、臓器かは知らないが私は全身に鳥肌がゾワリと立つ。

「…っ……!」

 引き返して逃げたい気持ちを何とか押さえ込み、私は一歩ずつ確実に進んでいく、鬼たちの死体が転がっている場所はたったの数メートルの範囲だけであるのに、その数メートルの距離が絶望的に長く感じる。

 私が踏み出すと肉が潰れる嫌な感触と身の毛もよだつ音が神経に情報として伝えられ、脳がそれを処理をする。

「…うっ……」

 吐き気が限界に達しそうになったところで、ようやく死体が放置されているエリアから抜けることができた。

 血などの感覚も足に感じず、靴で床を叩くが血が跳ねるような音もしない。なにより歩くごとに血の匂いが少しずつ薄れて行っているのが匂いを嗅いでみてわかった。

 目を開くと、私が向いている方向には死体や血はなく、普通の道が続いている。

「ふう…」

 私は振り返らずに走り、監獄に続く階段を降り始めた。

「……」

 石を踏みしめる小さな音が靴から発せられ、それがこの狭い階段内を反響した。辛うじて電気は通っているのか薄暗い階段の中を光が照らしている。

 誰にも邪魔されることなく階段を降りると、階段を下りた場所がさっきと同じ場所なのかと思うほどに壁や床が破壊されている。

「これは、魔理沙さんが戦った痕…?」

 壁に大きな穴が開いて、それが外まで続いている。何か物体が壁に強く叩きつけられたのか、ひびが入って外に向けて大きくゆがんでいる。

「…」

 萃香さんと鉢合わせした階段に向けて走り出すと、途中である程度の距離まで廊下の岩石が融解している場所に着く。今は冷えて固まっているが、岩石が溶けていることからかなりの高温だったことが伺える。

 私たちが入ってた牢屋には勇儀さんの姿はなく、廊下にも正邪さんの姿はない。

 さらに数分かけて進むと、萃香さんが上がって来た階段が見えてくる。その周辺も大きく損傷しているが、他よりはだいぶましな程度だ。

「……っ」

 階段の入り口は壊れていて、私が応戦していた鬼たちは萃香さんに吹っ飛ばされたり踏みつけられて死んでしまっている。

 潰れた死体や壁のシミとなっている死体のわきを通りすぎ、電球が壊れてさらに暗くなる廊下を警戒しながら進み始める。

 コッコッと靴が岩と触れ合う音が広い通路に響く。ところどころ壊れていて歩きずらいが、すぐに階段に行きついた。

 階段を降り始めてすぐ、魔理沙さんと萃香さんの戦闘があったのか、かなり階段がボロボロになっているが、それを過ぎると損傷していない普通の階段になり、安定した速度で私は地下に降り始める。

 だいぶ長い距離を歩き、ようやく長かった階段が終わるとまた長い廊下が奥に続いていて、私が今降りてきていた階段にはない古い感じがする。

 この場所まで作っておき、そのあと天狗の屋敷までこの通路を繋げた。そんなところだろうか。

「…」

 この通路はいったいどこにつながっているのだろうか。天狗の屋敷の地下とこの場所ではあまりにも年代が違いすぎる。

 今降りてきた階段をこの頃に掘ったとしても、この場所をあらかじめ掘っていないとこんなふうに見た目が違くはならないだろう。

 一本道を歩きながら考えていると、鉄の扉が左右に二つ現れた。

「……」

 何となく左側に行くことにした私は黙って鉄の扉を蹴り開けて中をのぞくと、部屋の中には何もない。

 廊下と同じように巨大な岩石を削り出した壁に四方を囲われている。

「……扉…?」

 部屋の中央には、鉄でできた床下扉が付いていて、下に行くことができるようになっているようだ。

 部屋の中央にある鉄の床下扉に近づくと、わずかだが血の匂いが漂ってきているのが感じられる。

 よく観察すると鉄の扉の周りには、酸素によって茶色く変色した乾いた血が少しついているのが見えた。だが、この血の匂いは床についている分だけではなさそうだ。

「……」

 なんだか嫌な予感がして、この場所に入るのが嫌になるが、この場所にパチュリー様がいる可能性も捨てられないため、調べないわけにはいかない。

 鍵のかかっている床下扉の鍵を破壊しようとしたが、かなり頑丈にできていて私に破壊することは無理そうだ。

 だったら、周りの岩を破壊する方が効率がいいだろう。

 魔力を瞬間的に消費して岩石を殴る。

 拳が当たった場所を中心にヒビが入っていき、それがどんどん広がっていく。

 下の階までひびが貫通したらしく、私のいる場所までひびが広がっていた岩が私の重量を支えることができなくなり、下の部屋に私は滑り落ちてしまう。

「わあっ…!?」

 私は数メートル下の床に何とか受け身を取ることができて、きれいに着地することができた。

 落ち着いて周りを見てみると、部屋の外から感じていた血の匂いはやはりこの部屋から上がってきている物だったらしく、強い鉄の匂いがこの部屋を充満していた。

「……」

 換気扇の唸り声が部屋の中を反響して蠅のように小うるさく響いている。

「…これは……」

 壁際にはぐったりとした様子の優曇華さんが鉄の柱のようなものに、腕を後ろに回されて括りつけられているのが見えた。

 いつも着ている紺色のブラウスを着ていて、明るい薄紫色の長髪にウサギのつけ耳が頭から力なく垂れさがっている。

 表情は見えない。鈴仙さん顔は下を向いていて、生きているのかすらもわからない。 でも、死人のような青白い顔ではなく、まだ血の通っている血色のいい肌の色が見えて、生きているのだけはわかった。

「……鈴仙さん…?」

 私が鈴仙さんに近づき、肩を掴んで軽く揺すってみることにした。

 「……っ……う…」

 鈴仙さんが唸り声をあげ、意識を覚醒させた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

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