もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十九話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第五十九話 引き金

 頭を殴られたせいで意識がはっきりとしない。

どれだけ時間が経ったかわからないが、今しがた私の右腕が幽香の拳で折られた挙句に千切り取られて投げ捨てられてしまった。

 左手でレーザーを撃とうとしても潰れて、原型がわからないぐらいぐちゃぐちゃになっているため攻撃することができない。

「……………あ…っ…」

 気が付くと、私は膝を地面につき、幽香に無防備な姿をさらしている。

 早く立ち上がって動こうとしたが、右足の膝から下が無くなっていて立つことができない。

 そうしてモタモタいるうちに幽香が私のことを掴んで持ち上げた。

「…っ」

 私が肘から先を千切られた腕で抵抗しようとしたが、それよりも早く幽香の腕が私の胸を貫いた。

「…か……っ………!?」

 声も出なかった。

 幽香が腕を引き抜くと血まみれの手の中には、拍動して動脈から血を吹き出している私の心臓が握られている。

「…わた……しの……っ………し…ん……ぞ……」

 力が抜け、私は地面に倒れ込んでしまう。

 心臓が体内から出されたことによるショックで運動が不規則となり、一定の間隔だった拍動が弱まっていっている心臓が私の顔の横に落とされた。

 土まみれになって汚れた心臓がぼやけていく視界の中、血を吐き出しながら止まっていくのが見える。

 胸の傷口から大量の赤黒い血が流れ出て、地面を赤く染めていく。

「…フン」

 動けなくなった私を見て幽香はつまらないと言いたげに鼻を鳴らした。

 ザッ…ザッ…

 踵を返して土を踏みしめて幽香が私から離れていく、その歩く音が空気中を波となって伝わり、私の耳の奥にある鼓膜を揺らして聞こえてくる。

「……」

 脳や体中に血が回らなくなり、動くことができない。それどころか話したり息を吸うことすらもできなくなっていき、私は急速に死に向かって行く。

 私は、ここまでなのか。

 そう考えながら私はゆっくりと目を閉じた。

 幽香が離れて行っているのか、私の耳が聞こえなくなっているのかはわからない。でも、おそらく両者だが幽香の足音ももう聞こえなくなっている。

 幽香は私が壊れてしまったため、次の獲物を探しに行くのだろう。

 私は自分が出した考えにひっかがる部分があり、それを再度確認した。

 次の獲物?

 次の獲物と言えば、萃香たちと対峙している者たちのことだろう。

 萃香たちと敵対している人物と言えば、小悪魔や大妖精、永琳たちだ。

 このまま幽香を野放しにすれば、小悪魔たちがこいつの餌食になる。

 圧倒的な火力で押し切られ、私のように、脆い人形のごとく壊されてしまう。

 それはだめだ。

 あいつらに、私の仲間に、手出しは絶対にさせない。

 

 風見幽香は小さな音を聞いた。

 いつもならば絶対に聞き流して無視していただろう。だが、聞こえてきたのは自分が片付けた一匹の人間が転がっているはずの方向からであるため、気になったのだ。

 方向転換して今来た方を見ると、心臓を抜き取ったはずの人間があろうことか起き上がっているのだ。

 風見幽香は困惑した。

 心臓を取ってあんなに長く生きている生物にあったのは、自分を含めずに初めてだからだ。

 しかし、それと同時に興奮した。今までにない血沸き肉躍る戦いを繰り広げることができる気がしたからだ。

 その人間はうつむいて何かをしている。

 つぶした左腕、千切り取ったはずの右腕はいつのまにか元通りに再生していて、何かを握って口元に運んでいる。

 近づくと、それは風見幽香が殺したと思っていた人間の雌、そいつ自身の臓器を自分の体内から引きずり出して食っているのだ。

 その行動の意味が分からず、風見幽香は立ち止まる。

 臓器に食いつき、歯で噛み切って食いちぎる。口元を血で濡らしながら人間は臓器を口の中で咀嚼し、飲み込んだ。

 そうして少し経つと彼女の力がこれまでにないほど増幅して、胸や腕、自分で引き裂いて臓器を出した傷口が再生をはじめ、ほんの数秒で完璧に再生した。

「……」

 こちらを睨みながら立ち上がるただの魔法使いに興味を持った風見幽香は、ゴギリっと首を捻って骨を鳴らす。

「ふふ……くくっ……あーはははっ!!…面白いわ…あなた…!」

 風見幽香はそう言いながら口を裂いて笑い、下を向いてうつむいた霧雨魔理沙に容赦なく襲い掛かった。

 

 だめだ。こいつを小悪魔たちの場所に行かせちゃならない。

 私がどうなろうとも構わない。それであいつらが助かるのなら安いものだ。

 でも、幽香を止めようにも現在の血の再生能力では損傷し、抜き取られた心臓を再生させることは不可能だ。

 だったら、大量の血を飲むしかない。

 潰された左腕と千切られた右腕を元に戻し、私の血で赤く染まっている地面に手をついて体を起こした。

 胸の空洞から大量の血と肉片が零れ落ちて、私を中心に広がっている血の池に波紋を作る。

 すでに死んでいてもおかしくはないが、生命力が上がっているおかげでまだ生きていられるため、急いでことに当たらなければならない。

「……」

 私は自分の血で赤く染まっている手で服をめくり、腹部を露出させた。

 人体のどの場所にどの臓器が配置されていたかを少し前に読んだ。人体に関する本の絵を記憶をたどって思いだす。

「……」

 腹部に手を添え、魔力で強化した手を使って爪を突き立てる。

「………っ!」

 物凄い激痛で体が動かなくなってしまうかと思ったが、感覚がマヒしているのかさほど痛みは感じられない。

 グチ…!

 皮膚の中に自分の指が潜り込み、私の指と開いた穴の隙間から血がにじみ出てくる。

「……」

 肉を爪で引き裂き、目的の臓器を引きずり出した。

 それは肝臓。この臓器は大量の血を含む臓器であり、この中の血を大量に飲めば心臓も修復させることは可能だろう。

 口を開き、真っ赤なっかな肝臓を口に運んだ。

 歯を突き立て、光の加減でテラテラと光る肝臓は、予想していた感触と味がする。

 できるだけ多くの肝臓を口に押し込み、咀嚼して飲み込んだ。

 ドックン…。

 体の奥底から拍動に似た衝撃のようなもの、それを一度だけ強く感じた。

 私は魔力力を強化して心臓や自分が引きずり出した肝臓を再生させる。それ以外にも私の体にある傷が今までにないぐらい速い速度で再生し、その痕すらなくなっていく。

 幽香が嗤いながら私に向かって襲い掛かってくるのが見える。

 自分の臓器を食い、戦闘準備をする前に幽香に襲われそうになってしまう。状況は最悪、気分は最低だ。

 バギャッ!!

 私の腕が幽香の強力な威力を持つ拳によって、肩ごと持っていかれた。

 なのに私の幽香に消された腕が一秒にも満たない、短い時間で再生を完了させた。

 体の奥から今までにない、変な感覚が溢れてきているのを何となく感じる。よくわからないが、放っておくことにした。

 今はそれどころではない。

「…本当、気分は最低だよ」

 私は自然と呟いていた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

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