もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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今回だけオリジナルキャラクターが出てきます。

そういったのが嫌いな方は申し訳ございません。

私の話の魔理沙は原作とはかけ離れた性格をしています。

それでもよろしい方は第五話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第五話 彼

 なんだか、体が軽い。質量が無くなってしまったかのようにふわふわとした感覚がする。

「…………?」

 私が目を開けると、薄暗くて幽霊が出ると言われたらうなづけるような一本道に立っていた。道の左右には木がいくつも生えていて、それの作り出す影のせいでより暗く感じる。

 私は博麗神社にいたはずだ。移動した覚えもなく、さらにこの実体のない感覚。当てはまるのは一つしかない。

「……。あいつがいるってことは……」

 私の視線の先には、映姫が悔悟棒を持ってたたずんでいる。

 やっぱり私は殺されたのか。

 死んだといまだに信じられないが、プライベート以外で映姫の姿を見るということはそれはイコール死ということ、嫌でも死んだということを受け入れるしかない。

「…こんにちは、……いや…今はこんばんはですね」

 近づいた私に悔悟棒から視線を外した映姫がいつも通りの口調で言った。

「……」

 死んで裁かれるというのに、おかしくなっていないやつがちゃんといたということに私は少しほっとしていた。

「……私は、殺されたんだな……?」

 私は少ししてから映姫に話しかけた。

「…ええ、そのようですね」

「………霊夢は今どうしているんだ?」

「私が知っているわけないじゃないですか」

 映姫が言いながら悔悟棒をちらつかせる。

「…私を裁くのか?」

「…もちろん。この場所に来たんですから、当たり前じゃないですか」

 映姫が言いながら手鏡を取り出した。

「……だよな…」

 私が呟いた時、映姫は私に手に持った手鏡を見せた。

 手鏡を覗き込むといつも通りの自分が鏡に映っているが、少しすると私の今までの人生が流れ始める。

「……」

 幼少期、霊夢との出会い、異変の解決、友人との喧嘩、紅魔館に魔導書を借りに行ったこと、人には言えない恥ずかしいことまでが映し出されていく。

 プライバシーもあったもんじゃない。

 数分して映像が霊夢が私を殴り殺したところで終わり、手鏡をのぞき込んでいる私の顔が映し出された。

「…まあ、そういうことなので白か黒か決めましょうか」

 映姫が悔悟棒で私をシバくためにずいっと前に出た。

「……」

 今までの人生を振り返って、私が黒にならない要素がない気がする。

「……。…………」

 悔悟棒に私の罪を書き込んでいた映姫の手が止まった。

「…」

 罪を書き終えて私を殴るのだろう。映姫がちらりと私を見る。

 悔悟棒というのがどれほど痛いのかわからないが、とりあえず歯を食いしばろう。目をギュッと閉じて裁きの時を待つが、一向に映姫が悔悟棒を振り下ろす気配がしない。

「……?」

 私がおそるおそる目を開けて映姫を見た。

「……。私の中では完璧にあなたは黒です」

 映姫がそう言った。

「…」

「でも、私の白黒はっきりつける程度の能力が違うと言っています」

「…どういうことだ?つまり白ってことか?」

 黒で違うということは白だろうかと思い、私が聞くと映姫が顔を横に振り、言った。

「…白黒はっきりつけられないということです」

「…え?……そんなことあるのか?」

 たしか、だいぶ前に鈴仙に映姫のことを聞いたことがあるが映姫は特殊な波長をもっていて、周りの意見や感情に流されることがないため他人を裁くことができる。そう聞いていたがそんな映姫でもどちらかわからないなんてことがあるのだろうか。そもそも、今までの私の行いは決して白とは言えない行ないもあったはずだ。

「……私の能力で決められないということは……」

 私の質問に答えずに映姫は自分で結論を出そうとしている。

「…何かわかったのか?」

 再度、私は映姫に聞いた。

「…彼に呼ばれているようですね」

「…?彼?」

 私が聞くと映姫はうーんと考えてから言う。

「まあ、あとは彼に話を聞いてください」

「だから、その彼っていうのは誰なんだよ」

 答えになっていない答えに私が聞き返そうとしたとき、映姫が道を奥に進むように促した。

「説明は全て彼に聞いてください。死んだ人間が多くて忙しいんです」

 映姫が言ったとき、私の後ろに行列ができているのに気が付いた。

「うわっ!?」

 私は驚き、飛びのく。

 目の前にいた女性が失礼な、と言わんばかりに私を睨む。

「…す、すみません」

 私はとりあえず謝りながら道の奥に進むことにした。

 奥に進むごとに霧が段々と濃くなっていく。今朝の魔法の森の時よりも霧が濃くなって一寸先すらも見えなくなっていたころ、私は地面の土を無味占める音が聞こえなくなっているのに気が付いた。

 いきなり強い光が私を照らし、私は手で目を覆いながら目を閉じる。それでも視界が白く塗りつぶされるほどに光が強い。

 光がようやく収まったころ、私は自分の目を疑った。

「…なんだ……ここ…」

 私は道に立っていた。道と行っても三メートルほどの幅を開けて左右に一定の間隔で配置されたドアがずらりと並んでいるため、そう思ったのだ。

 後ろを見ると、私の身長よりも四十センチも高い上の方が丸みがかかっている木のドアがあるだけだ。このドアから出てきたのだろうか。

 足元にはドライアイスを水に突っ込んだ時のように煙が地面を這うように充満していて本当に地面の上に立っているのかわからない。

 正面を見ると、私の身長の十倍はありそうな強大な扉があるのが見える。さっきまで開いていたのか、ガコォォォンと大きな音を立てて扉が閉まった。

 私は進みながら周りを見回すと、ドアが一定の間隔に並んでいてそれが地平線まで続いている。いったいどれだけの量のドアがあるのだろうか。

 巨大なドアに近づいているときによく見ると、私に背を向けて私の腰ぐらいの高さのドアに腰を掛けている人がいるのがわかった。さっきまでは巨大な扉の迫力に圧倒されて気が付かなかった。

「…あ…あの……」

 この人がおそらく映姫のいう彼なのだろう。私はそう判断して近づいた。

「…さっきの扉と…アトモス君の扉が閉じたってことは、君は幻想郷の人間で間違いないかな?」

 私に背を向けたまま彼は私に言う。私ぐらいの長髪で首のあたりで髪の毛を束ねていて白髪。背を向けているためその表情は読み取れない。

 しかし、彼の声を聴いたとたんに全身の毛が逆立ち、頭の中で警報が鳴り響く。こいつは絶対に敵に回してはいけないやつだ。ほんの数秒間喋っただけで彼という存在がやばいものだと第六感がそう言っている。

「…は…はい…」

 彼に圧倒されていた私は自分らしくない返事を返す。

「ははは、いつも通りでいいよ。…それと映姫からどこまで話を聞いたのかな?」

 彼、と呼ばれた男は座ったままこちらに向き直る。

「……っ!!」

 彼は何の汚れもない純白の仮面を被っていて、目と口の部分が笑っているように彫られており、ちょっと怖い。

 仮面を被っているとは思ってもいなかったため、少し驚いた。

 なぜか彫られている目と口が真っ黒で彼の目が見えないのは突っ込まないでおくことにした。

「あ、別にこれが素顔とかそう言うんじゃないからね?」

 彼はそう言いながら仮面をずらした。仮面を額の位置にまで持っていき彼の素顔がさらされる。

 普通だ。彼の素顔はとにかく普通の人間の顔をしていた。どこにでもいるのではないかと思うぐらい普通の顔。

「……さてと、君はどこまで知っているのかな?映姫から説明は受けたかい?」

 何も言わなかった私に彼は再度聞き返した。

「えっと……何も聞いてない」

「そうか…まあ、君たちのところは異変があってちょっとドタバタしてるみたいだから仕方ないか」

 彼はそう言いながら背中を伸ばし、足を組んだ。

「……いくつか、質問したいことがある」

 私が彼に言うと、彼は私の方向に手のひらを向けた。ちょっと待てということなのだろう。

「何でも聞いて、と言いたいところだけど…初めに僕から質問」

 彼は声色を変えて私に言った。雰囲気に真剣そうなものが少し加わり、私は訳も分からず緊張する。

 彼が座っていたドアから立ち上がると、私よりも20センチ以上も身長が高く、私は見上げる形となる。

「…質問って?」

「…質問というよりも、選択かな……君の選択肢はまずは二つある。必ずどちらかの扉をくぐってもらうことになるから」

 人差し指と中指を立てて彼が言い、ゆっくりとした動きでこちらに一歩近づき、さらに私に言った。

「一つ目は、君がいた世界の扉」

 彼がそう言い、私の後ろの方向に指を指した。私が始めに立っていた辺りの場所の方向で私が出てきたと思われるドアがある。

「…もう一つは…?」

 私が言うと、彼は少し笑いながら言う。

「アトモス君にあの世に引きずり込まれる」

 さっきも聞いたアトモス君という単語に私は自然と巨大な扉の方向を見ていた。

 ギィィィッ…。

 重い鉄の扉でも開いているような音がしながら巨大な扉がわずかに開く。扉の奥は黒一色で何も見えないが、アトモス君と呼ばれた存在がいるという巨大な狼を連想するような目が浮かんでいるのが見えた。

「ひっ……!!」

 彼の声を聴いた時と同様にこいつもやばいと私の感が言っている。

 私が硬直していると、私のことなど一握りでつぶせそうなアトモス君の獣のような手が見えた。握りこぶしを作っていて、何かを持っているのか?と思ったとき、その手を握りこぶしから開いた状態にしながらこちらに何かを抛った。

「…?」

 高速で蛇のように動くそれは、金属がこすれあうジャラジャラという音を発する。私に向かってきているのは三つの鎖だ。

 三つの鎖の先には枷のようなものが付いており、首と両手に綺麗にはまった。

「十秒以内に選んでくれ」

 いつの間にか私の横に立っていた彼がアトモス君を眺めながら言う。

 じょじょに鎖が引っ張られ始める。このままいけば十秒程度で門の中に引きずり込まれる。

 門の奥は墨でもばらまいてあるかのように真っ暗で何も無いように見えるが、その奥には本当にあの世があるのだろう。

「どうする?地獄のような元の世界に戻って戦うか。このままあの世へ行くか」

 彼はそう言いながら意地悪な笑みを浮かべた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。その時はよろしくお願いします。

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