割と好き勝手にやっています。
それでもいいという方は第五十八話をお楽しみください。
「は……!?……が…っ……!?」
今起こったことの訳が分からず、私は幽香を凝視する。
詳しくいうのならば、幽香から生えている腕を凝視した。
幽香の体を背中側から貫いている腕はまぎれもなく、幽香の腕だ。
幽香ほどの妖怪にもなれば、自分を分裂させることも可能であるということを忘れていた。
それを使い、自分の体で私が発した閃光を直視することを避けたのだ。
幽香に殴られた胸骨が粉砕し、衝撃で肺に散らばった骨が散弾銃の散弾のように体の中を引き裂く。
「…かはっ…!…ごほっ…!!」
水気の混じった咳が出て、血と一緒に肺の中に散らばった骨片が手にこびりついた。
「…っ…!!」
一刻も早くこの場から離れ無ければならないのに、私は動けなかった。
重症の怪我を負ったというのがあるが、今の一撃で感じた圧倒的な力の差を体が感じ取ってすくんでしまっていたというのがだいたいの理由である。戦っても結果は同じだろうというのが考えなくてもわかった。
「…ふふっ…」
幽香が残虐的な表情で胸を押さえて苦しんでいる私に近づいてくる。
「…っ…!」
後ろに下がろうとした私の胸倉を左手で掴み、右手を私の頭部に向けて振り下ろす。
ゴギリッ!!
嫌な音が頭部に響き渡る。
それを私の頭が処理をしたとき、地上まで百十数メートルあったはずだが、気が付くと私は地上にクレーターを作り、その中心に倒れていた。
「………ごほっ…!」
肺の中の物を奥から絞り出すような咳が出て、口の中に血が上がってくる。
両足は折れて、みているだけでも気分が悪くなってくるような角度に曲がっていて、左肩の関節も外れてしまっている。地面に叩きつけられた際に、無意識のうちに右手で受け身を取ろうとしたのか、右腕がひしゃげて潰れてしまっている。
こんな大怪我を負っているのに、なぜか痛くない。それはわき腹から臓器がこぼれ出ているのが原因だろうか。
「……」
口の中が血の味しかしない。口の中にある血を飲み込んで私は再生能力を上げ、地面に落ちた時にへし折れた両足や全身の骨に入っているヒビを修復する作業に入る。
だが、幽香は待ってくれないらしく、見えていた空から私のすぐ横に着地して土や石を巻き上げる。
「…く……そ……っ…!」
私が呟きながら、体が治りかけて痛みを感じ始めた体を引きずって離れようとするが、幽香に肩を掴まれ無理矢理に彼女の方向を向かせられる。
「…私を楽しませなさいよ……魔理沙」
紅く光る瞳で私を覗き込んだ幽香は言う。
「……」
ある程度まで動けるようになるまでまだまだ時間が足りない。時間稼ぎをしなければ、戦えなくてつまらなくなった幽香は間違いなく私を殺す。
「…幽香……」
話が通じるとは思えないが、私はその場を繋ぐために幽香の名前を呼んだ。しかし、幽香は返事を返さずに私の完璧に再生した右手を握る。
直後、尋常ではないほどの握力が手首にかけられ、手首の手根骨が潰れた。
パキャッ
と木の枝でも折ってるような音と共に手首が潰れて、グニャリと地面に向かって手が垂れ下がる。
「ああああー!!?」
幽香が私の手を放し、私は左手で右手を抱えた。
「……くっ……うぐっ……!」
痛みに耐えた私がすぐ近くにいる幽香に向けてレーザーを撃とうとしたが、私の左腕は逆にレーザーで消し飛ばされる。
「……っ……!?」
左腕は骨などの残骸するも残らずに蒸発し、撃たれた肩回りの肉はレーザーの高温に焼けただれて出血も起こさない。
私が傷の損傷具合を確認しそうとしたとき、幽香が私の掴んだ右腕を肘から千切り取る。
「~~~~~~~~~っ!!!」
歯が砕けてしまうのではないかと思うほどに歯を食いしばり、激痛に耐えるが幽香は私を掴むと座っていた状態から立ち上がらせた。
「……っ…なに…を……っ!?」
私が呟いた時、幽香が私の顔面を殴り飛ばす。
「…がはっ…!?……あああああっ!!」
森の中を木をなぎ倒し、途中にある岩を砕きながら進んでいた私の体は、幽香から数百メートルという距離が離れた時に、動くスピードがようやく衰え始めた。
地面を約五十メートルほど転がり、木に背中を打ち付けてようやく体は停止する。
「ごぼっ……!」
胃から上がって来た血を吐き出し、その四分の三ほどを地面にまき散らしてしまうが、血を飲み込むことができた。
飛ばされてきた方向を見ると米粒よりも小さい幽香の姿が確認できる。私のいる方向に向かっていているのがここからでもわかる。
「……っ……くそ…っ」
私は毒づきながら移動を始めようとした。だが、中途半端に治した体は言うことを聞いてくれない。
「…畜生……っ!」
指に噛みつき、血を流してそれを飲み込んで傷を修復させようとした。
その時、近くの草むらがガサリと揺れる。
「…っ!!?」
右手を音の方向に向けるがまだ草むらを進むような音は止まらない。それどころかこちらに向かっていているようだ。
「……っ…誰だ…!」
私がか細い声で叫ぶと、音が少しの間だけ止まるが、すぐにこちらに向かって進みだし、草むらをかき分けて小悪魔が現れる。
「…魔理沙さん…大丈夫ですか!?」
小悪魔が驚き、叫びながら私に近寄って来る。
「……。小悪魔か…すまないが体が動かないんだ……幽香がこっちに来てるから早く逃げないと…」
幽香の方向を見ると、楽しそうに笑っているのが見えるぐらいには近づいてきている。
「…わかりました……」
小悪魔が私をおぶり、走り始めた。
「……レミリアたちは…見つかったのか?」
走り始めた小悪魔に私が聞くと、小悪魔は一拍の間をおいて首を横に振る。
「…そうか……」
私が呟くとそこで会話が途切れ、小悪魔が黙って走る。私も特に話すことがなくてしばらくの間小悪魔に揺られた。
「……永琳とは会ったか?」
私が聞くと、小悪魔は一拍の間をおいて話し出す。
「…ええ、会いましたよ……途中で分かれて今は別行動中です」
「…大妖精にはあったか?」
私が再度聞くと、小悪魔はおんぶしている私のことを持ち直しながら答える。
「大妖精とは会ってません……でも、大妖精なら大丈夫だと思います」
「…まあ、そうだな……大妖精は、見た目以上に肝が据わってるからな」
私は言いながら幽香の歩く速度と大妖精の走る速度から、話した距離をおおよそで出した。
「…小悪魔、この辺りでいいだろう。傷を治療するから一度おろしてくれ」
私が言うと、少しずつ減速した小悪魔は私のことゆっくりとおろして地面に立たせてくれた。
私はバックから瓶を取り出し、小悪魔に手渡した。
「これは何ですか?」
「…回復薬だ……手に力が入らないから、すまないが蓋を開けてくれ」
私は頼みながら、他の物も出すためにバックに手を突っ込む。
「わかりました」
小悪魔が言いながら瓶の蓋を開けると、瓶の中身の物質が空気と触れ合うことで化学反応を起こし、青白い光を放ちながら大爆発を起こした。
爆発音とその衝撃で頭がクラクラする。
爆風で砂煙が舞い上がってしまい、かなり視界が悪いが十数メートル先にいる小悪魔の姿はある程度は見える。
「ぐ……あがっ……!!」
近くで右手と左手の一部が消し飛んだ小悪魔が地面にうずくまって倒れている。
「…ふぅ…あぶねぇ…私まで巻き込まれるところだったぜ」
私は言いながら爆風で少し吹っ飛ばされ、転んでいた状態から立ち上がった。
「魔理沙さん……!?…何を…!?」
痛みに耐える小悪魔が傷口を押さえながら叫ぶ。
「…もう姿を変えなくてもいいぜ……ぬえ…」
私が語り掛けると小悪魔の体が揺らいで消え、腕を押さえて痛みに耐えているぬえが現れる。
「なんで、わかったんだ!?完璧に似せていたのに…!」
ぬえが冷や汗を流しながら私に叫ぶ。
「いつもの癖が出たな、ぬえ…いつも馬鹿にしてる妖精に…さん付けをするのを忘れてるぜ……小悪魔は大妖精のこともさんづけで呼ぶからな」
「………くそ……そんなことで…!」
歯ぎしりしながらぬえが悔しそうに呟く。
「…さてと、お前をどうしてくれようか…」
私は言いながらぬえの足をレーザーで撃ち抜いた。
「ぎあっ…!?」
「…さっきの言い方から、お前は異変に加担してるんだろう?…だったら生かす意味はないよなぁ?」
私は言いながらぬえに歩み寄る。
「…く……来るな!」
ぬえがズリズリと足を引きずって逃げようとするが、私はぬえに近づいて頭を掴んでこっちを向かせた。
「…異変の黒幕、それを言ったら逃がしてやらないことはないぜ」
私がいうとぬえは首を横に振る。
「言えない……言ったら…私は死ぬ…!」
言わなくても私が殺すけどな。
私はそう思いながらため息をつき、ぬえを睨みつける。
「…こっちは時間がないんだ、さっさと言え」
「言えないんだよ……誰かを伝えようとすると呪詛が働いて私は死ぬ…」
ぬえが言いながら口を開くと、黒い紋章が舌に書かれているのが見えた。
「…っち、まじかよ」
私は舌打ちしながら紋章を覗き込む、解除できないことはないが、変なトラップが仕掛けられてて、怪我をするのは困る。
「そうか、じゃあ…死んでもらうとしようか」
私は言いながらぬえの頭を撃ち抜こうと手のひらをぬえに向けてレーザーを撃とうとしたとき、横から飛んできた木が私に当たり、狙いが大きくずれてぬえの片足と片腕をレーザーで切断してしまった。
「…っち」
後になって襲ってこられても困るため、完璧に始末したかったが仕方がない。どうせあれでは戦いなどはできないということで良しとしよう。
魔力で体を強化して木を弾き飛ばし、木が飛んできた方向を見ると幽香がこちらに走ってきているのが見えた。
「……ここで、お前を倒す…!」
私は指に噛みつきながら走り出し、魔力力を強化して幽香に殴りかかった。
たぶん明日も投稿すると思います。
駆け足気味になってしまいました。すみません。