もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十七話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第五十七話 最悪の敵②

「……」

 私はめり込んでいる壁からゆっくりと立ち上がりながら親指を噛み、流れ出た血を舌ですくって嚥下した。

「…クスクス……」

 さしている弾幕すら弾くことができる特徴的な傘を閉じ、こちらにゆっくりと得物をもって歩み寄ってくる。

 一歩幽香が前に進むごとに私に向けられている殺気が掛け算のように増していき、私は圧倒されて動くことができなくなる。

 幽香の実力は霊夢並みに計り知れない。それに加えて狂ってると来たものだ。弱い妖怪などを圧倒的力でねじ伏せるのが好きだと聞いたことがあり、今のターゲットは完全に私だろう。

 私は幽香の手を抜いている手加減した実力しか知らない私は、こいつに勝てるか勝てないか、それ以前に勝負になるのかもわからない。

 魔力力を強化した私は震える足に力を込め、幽香に向けて前へ前へと歩み出す。

 腹をくくり、いつでも最大出力でレーザーを放つことができるように、私は手先に魔力を集中させた。

「……」

 周りの奴らは手出ししないというよりは、手出しできない様子で私と幽香を見ている。あの狂った連中がこれということは、幽香は相当やばいというのが伺える。

「…」

 十メートル、九メートル、八メートル、七メートルと段々と幽香と私の距離が近づいて行く。

「……」

 だが、お互いにまだ手は出さない。

 根気比べのように手を出さずに歩いていると、いつの間にか、私と幽香の距離は手が届くほどに近くとなっていた。

 頭が二つ分以上も背が高い幽香を私は見上げると同時に、右手にためていた魔力を最大出力ででレーザーをぶっ放し、強力な魔法をのせる。

 マスタースパークとまではいかないが、子供であれば丸々包み込む程度には巨大なレーザーが幽香を包み込む。

 だが、そう見えただけだ。包み込もうとした瞬間、すでにレーザーは幽香の攻撃によって内側から爆発四散して掻き消された。

「……っ!?」

 もう片方の手でレーザーを撃って迎撃しようとしたとき、ゾクリと悪寒が体を走る。何かやばい気がするがそれを証明できる根拠はない。しかし、それに従わなければならない気がして、私は後先のことを考えずに頭を抱えて体を低くした。

 空気のうねり、見てはいないが棒状の何かがしゃがんだ私の体を掠る。

 ただそれだけなのに、私は幽香が振った傘と同じ方向に引っ張られ、宙を舞っていた。

 屋敷を囲っている木製の壁を簡単に突き破っても動くスピードは衰えることがなく、私の体は上空に投げ出される。

「…あっぶねぇっ…!」

 空中で立て直した私は呟く。

 さっきの攻撃をかわせたのは奇跡に近い。あのままもう一発レーザーを放っていたら今頃は、上半身と下半身にわかれて地面をはいつくばっていることになっていだろう。

 進んでいる方向とは逆方向に魔力で推進力を働かせ、空中で静止する。

「……」

 いまだに箒無しで飛ぶのが苦手であるため、魔力で足場を作ってそこに着地した。

「……かすっただけでこれか……勝てる気がしないぜ…」

 だが、私が力を溜めていたのと同様に幽香も力を溜めていたはずだ。だからここまで高い威力を出せたのだと私は推測する。

 なら、毎回この威力の攻撃が来るわけではないため、ほんの少し安心した。

 しかし、あのまま幽香の攻撃が直撃していたらと思うと背筋が凍りそうになる。生きるか死ぬかの戦いではあるが、狂った幽香にとっては遊びと変わらないらしい。

「……」

 ニヤリと笑っている幽香がこちらに向かってゆっくりと飛んできているのが見える。

 さっきの妖怪たちや今までの奴らとは次元が違う。幽香を倒すならばそのレベルまで行き、さらに越えなければならない。

 私は肘から手首にかけての前腕に噛みついた。

「~~~~~~~~~~っ!!」

 歯が皮膚を突き破り、肉を引き裂いて血管を千切り、嚙み切った私は腕から肉を食いちぎる。

「……っあああああああああああ……!」

 私の絶叫が周りに響き渡り、腕の噛みちぎった部分から大量の血が血管から流れ出してくる。大きい血管を食いちぎってしまったのか、予想以上に血が流れ出すが食いちぎった肉から溢れてきた血を飲み込んで肉を吐き捨てた。

 血で魔力力を強化し、傷を回復させながら私は大きく息を吸いこみ、体を低くした。

 強化された魔力で体を浮き上がらせ、出せる最大の速度で後方に下がる。あまり幽香に近いとさっきのように攻撃されかねない。

 幽香は瞬間的な火力は恐ろしいほど高いが、その分だけとぶスピードだったり走るスピードが遅い。

 ただの人間でもがんばれば勝てるぐらいには足が遅いだろう。

 私が後ろ、こちらに向かって飛んできている幽香に向けてレーザーを放った。

 すると、幽香はたたんでいた傘をこちらから自分の身を隠すように展開すると、幽香の傘に当たったレーザーが川にある岩を避ける水のように軌道を変えて飛んで行ってしまう。

「…っち…」

 私と幽香、私から見れば相性は最悪だろう。弾幕をやすやすとはじいてしまう傘を持ってるため、攻撃が通ることはそうそうないだろう。

 傘の先端が光り、私が撃つレーザーよりも威力が高くてさらに大きいレーザーがこちらに向かって発射される。

 このまま動かなければ頭どころか体まで蒸発させられてしまうだろう。だが、そうなるつもりは毛頭ないため、私は魔力で体を回転させながら上に浮き上がらせた。

 視界にはいつもと違う風景が映し出される。足元に空が映り、頭上には地面が見える。上下さかさまの状態となる。

 頭上ではレーザーが何もない場所を薙ぎ払い、私がレーザーを撃った本人を見るとわずかな時間だけ目が合った。

 最大までレーザーを凝縮させ、幽香に向けて薙ぎ払うようにレーザーを放った。

 細い糸のようなレーザーを開かれて幽香の身を守っている傘に浴びせる。

 私のレーザーをまるで雨のしずくのように簡単に受け止めていた傘をまるで、水圧カッターにでもかけたようにレーザーが切り裂いた。

 幽香の目が見開かれているのが切れた傘の合間から見えた。どうやら傘どころか幽香の体も切断してしまったらしい。

 レーザーが幽香の両腕と腹を切断し、重力に従って切断した体が落ちていく。

 だが、落ちて行ったのは切られた部分よりも下の肉体だけで、幽香の頭や胸などの重要器官はそのままの場所にとどまっている。

 胃や小腸が焼けただれた肉体の断面から自らの重量で零れだし、血を垂れ流す。

「……」

 グジュッ…

 私がレーザーで切断した幽香の肉体の断面が膨れ上がって幽香の体が再生した。

「……まじかよ…」

 服が無くなっていて出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる幽香の体の目のやり場に困るが、無くなった服は魔力の作用により作り出されて元通りに戻った。

 圧倒的火力で致命傷を負わせても駄目となると、幽香を倒す方法は本当に限られたものになってくるだろう。

 悪い知らせばかりだが、いい知らせもある。体を落としたため持っていた傘は下に落ちた。これで私のレーザーを避けるには自ら動くか掻き消すしかないわけだ。

「…っち」

 それでも不利というのには変わらないため、自然と舌打ちが口から洩れた。

 死なないと分かっていても、体の半分以上を失った状態から再生するのなんかを見せられたら、絶望以外何も感じない。

「……ふふっ…」

 体の再生が終わった幽香は嗤い、魔力で足場を作って跳躍した。

 足元の魔力を粉々に砕き、弾丸のようにこちらに直進してくる幽香に私はさっきと同じ凝縮されたレーザーを放つ。だが、幽香はそれをあろうことか手で掻き消す。

「…なぁっ…!!?」

 蒸発以前に手にやけどすらも負っていない幽香の手のひらから察するに、同じ手は二度も通用しないというわけだ。

 自分の浅はかな行動に苛立ちながらも私は星の弾幕を幽香に向けて大量にばらまく、ショットガンの散弾ように弾幕を散らすのではなく、できるだけ数多くの弾幕が幽香に当たるように撃つ。しかし、

 少しでも足止めになればと思ったが、こちらに向かってくる幽香には全く効果がなく、むしろやらない方がましだろう。

 星の弾幕を撃つのをやめて魔力で後方に逃げる速度を落としながら、魔法の詠唱をして幽香がこちらに追いつくのを待ち構える。

 対した魔法ではないため、短い詠唱で済んだ私は目の前に迫った幽香に魔法をお見舞いした。

「leuchten(光り輝け)!!」

 私がよく使う閃光瓶、あれよりも強い光が私の幽香に向けている手のひらから発生し、目を閉じていても強い光を感じる。

 いくら強い妖怪でも、これには弱いはずだ。至近距離で直視すれば下手をすれば失明し、失神するレベルの光だ。

 そう思った直後、幽香の拳が私の胸を直撃した。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。

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