割と好き勝手にやっています。
それでもいいという方は第五十五話をお楽しみください。
「…小……魔……小悪……!!」
耳鳴りと共に私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「…?」
肩に圧迫感があり、誰かが触れているのがわかった。はっきりとしない意識の中でも体が左右に揺れていて、誰かに意図的に揺らされているのがわかる。
「…っ……」
目を開けると、少し怪我を負った永琳さんが私の顔を覗き込んでいた。
「…永琳さん……?」
ズキズキと痛む背中はじょじょに痛みが引き始めてきていて、私は背中を押さえながら周りを見ると、周りが天狗の屋敷なのかと思うほどに荒れ果てている。
「……起きたようね…。いきなりだけど…戦ってくれると嬉しいわ…!」
永琳さんが言いながら立ち上がり、魔力で作り出した矢を弓にはつがえずに、持ったまま鬼の胸に突き刺した。
「…わかりました…!」
ようやくはっきりしてきた頭で立ち上がると、周りは炎の海となっている。聖さんのさっき見た戦いでは、魔法を放ちながら戦っている様子だった。はずれた魔法が屋敷に当たってこうなってしまっているのだろう。
私に狙いを定めた鬼に向かって私は走り、拳を受け流しながら顔面に至近距離から弾幕を食らわせた。
頭を揺らす程度の威力ではあるが、脳震盪ぐらいなら起こさせることができる。頭への衝撃で足元がおぼつかなくなった鬼の腕を掴み、背負い投げをして床に鬼を叩きつける。
「小悪魔、今はいったん退きましょう!」
永琳さんが言いながら進行方向にいる鬼のことを矢で貫いて活路を開き、走り出す。
私もそれに続こうとしたとき、火事で耐久性の無くなった柱が倒壊して私と永琳さんを分断するように木材が落ちてくる。
「…くっ…!」
木材が落ちたことにより強い熱風が発生して体をなでる。その熱に顔を歪めながら私は後ずさった。
「小悪魔、大丈夫!?」
永琳さんがこちらを見て、木材で私が潰れていないかを確認する。
落ちた木材を境に、私側にいた鬼がこちらに向けて棍棒を薙ぎ払った。それを私はしゃがんでかわし、相手の棍棒を持ってる方の手首を捻って持っている棍棒を手放せさせた。
それと同時にもう片方の手で落ちる棍棒を途中でつかみ取り、鬼の頭に振り下ろす。
強化した棍棒が砕けて使い物にならなくなるが気絶させるのには十分だったらしく、私が殴った鬼が白目をむいて床に倒れ込んだ。
こちら側にまだまだいる鬼に柄だけとなった棍棒を投げつけながら、私は後ろに回り込まれぬように壁よりに警戒をする。
「…小悪魔!こっちにも鬼がいてそっちに行けそうにないわ…あとで外で落ち合いましょう!」
永琳さんがそう言いながら近くの鬼を矢で射抜き、走っていく。
「…わかりました!」
私も対峙している鬼に弾幕を放ち、近寄れないようにして逃げるために全力で走り出した。
「まて!」
複数の鬼が棍棒を振り上げて追ってくるが、妖夢さん程とは言わないがスピードは出しているため、足の遅い鬼たちをグングン引き離す。
通路を右へ左へぐにゃぐにゃに曲がって走っていると私をすぐに見失い。追ってこなくなった。
「…さてと」
私は呟きながらがパチュリー様を探すために走り出す。
私はパチュリー様に召喚されて契約しているため、常にパチュリー様と魔力の線でつながっている。
しかし、今はそれを感じられない。意識がないのだろう。気絶していたり、眠っていたりすると目が覚めるまでつながらないことがある。それに、携帯の電波のようなものであるため、離れすぎていたり地下にいたりしてもつながらないこともある。
天狗の屋敷にある地下監獄の奥、萃香さんが来た方向。あそこだったらパチュリー様と私を繋ぐ魔力は途切れてしまうだろう。
そうなれば調べないわけにはいかない。
天狗の屋敷に来たのは初めてで現在地がわからないため、自分の方向感覚だけを頼りに私は走り出した。
しかし、本当に鬼の数が少ない。いるにはいるが戦意喪失していてこちらを襲って来ようとしてくる気配がない。さっきの鬼たちが珍しいぐらいだ。
こんなことをする人物、思い当たるのは一人しかいない。監獄にいたころから様子がおかしい魔理沙さんの仕業だろう。
魔理沙さんがどんな方法を使っているかは不明だが、その辺は考えないでおくことにした。むしろ、考えたくない。
「……」
私が放った長さが一メートルもある矢が無音で飛んでいき、鬼の喉を貫いて壁に縫い付けた。
こいつで最後だ。
「……ふぅ…」
私は息を吐きながらこの場を離れようとするが、すぐに新手が現れる。
「いたぞ!」
数人の鬼が私を発見し、こちらに向かって走り出してきている。距離は約二十メートル。五秒もすれば自分のいる場所に到達してしまう。早々に迎撃するのが良いだろう。
「……」
私がさっきと同じサイズの大きな矢を魔力で作り出そうとしたとき、鬼たちに立ちはだかるようにして誰かが現れる。
こんな状況でこちらに加勢する人物など想像もつかなかない。だが、その人物は私もよく知る人物だった。
私よりも敵の鬼の近くに現れた大妖精は勇敢とも無謀ともいえるが、鬼に立ち向かっていく。
「大妖精!退きなさい!」
私が叫びながら矢をつがえて援護しようとするが、それが必要ないことがすぐに分かった。
振られて大妖精に当たるはずだった棍棒が消え失せたのだ。殴りかかって来た鬼の姿も、放った弾幕すらも消え去っていく。そのたびに小さな破裂音だけを残す。
「…え…?」
だが、存在そのものを消されたわけではなく、瞬間移動で次々と地面の中や壁の中に埋め込んでいるのだ。
動ける全ての鬼たちが壁や地面に埋め込まれたため、しばらくは時間稼ぎができるだろう。
「大妖精…あなた凄いわね……いったいどうしたの?」
私は大妖精が一人で五人はいた鬼たちを全員戦闘続行が不可能な状態にした。それが信じられず聞いた。
「今まで短期間でこんなに能力を使ったことはないので、少し力の使い方がわかって来たんだと思います」
「…そう……それはいいことね……でも、それより…とにかく行きましょう……次が来られても困るわ」
私が言いながら歩き始めると、大妖精も私の横を歩き始める。
「…わかりました……」
大妖精が言いながら後ろを振り返るが、壁や床にはまったままの鬼たちは抜け出すことができないでいる。
「…そうそう、紅魔館のレミリアたちのことを見てないかしら?大妖精」
私が聞くと、大妖精は考え込み、唸る。
「…うーん。見てないですね……もしかしてこの場所につかまっているんですか?」
「…ええ、この場所につかまっているっていう情報を小悪魔が掴んだらしいわ……外で待ち合わせしようって言ったはいいけど、たぶん探すのに時間がかかるだろうし、外で少し休むことにしましょう……さすがに疲れてきたわ」
私は身長が低く歩幅の短い大妖精のために、少し歩く速度を緩めながら言った。
「…そうですね……ずっと戦いっぱなしではいざって時につかれてしまいますからね」
大妖精は私の提案に賛成を示す。
「…とりあえず、外に出ましょう……いちいち鬼たちを相手にするのも疲れてきたし…」
また鬼たちと思われる足音が聞こえてきたため、私と大妖精は戦闘態勢に入りながら言った。
ドゴォッ!!
聖の拳が萃香の額に当たり、萃香の体が大砲で発射された弾丸のように飛んでいく。
ダンッ!!
萃香は木の床を壊しながら着地し、地面との摩擦で殴られた際に発生した運動エネルギーを殺してゆっくりと止まる。
萃香の体が止まるころにはすでに萃香の目の前にいた聖が、追撃して拳を萃香に叩きつけるが、その小さな体に当たると萃香は塵となって霧散する。
「…っ」
だが聖はそのことを読んでいたのか、すぐに身をひるがえし離れて巻物を展開した。
効果の切れた身体強化の魔法を発動して萃香が現れるのを待つ。
ドゴォォッ!!
真上と真後ろの床を破壊して二人の萃香が同時に聖に襲い掛かる。
聖はそれを冷静に対処して、しゃがむことにより上からくる萃香との接触の時間を稼ぎつつ、後ろを向いて下から現れた萃香の胸倉を掴んで持ち上げ、上からくる萃香に力いっぱい叩きつけた。
吹き飛ぶかに思われた萃香は予想とは違い、二人とも塵となって消えて身体へのダメージは期待できないだろう。
すぐに萃香の体が生成されて実体化して目の前に現れる。
聖が目の前に現れた萃香に向けて走り出そうとしたとき、背中から何かが体の中に侵入した。
「……が……っ……ぁぁ…っ…!!?」
身体強化しているはずである聖の体を萃香のとがっている爪が切り裂いて左肩を貫いたのだ。
「…ダミーだよ」
聖が左肩からのぞいている萃香の腕を掴もうとしたが、それよりも先に萃香に背中を蹴られ、その小さくて華奢な体で蹴られたには似合わないほどの威力で聖の体は吹っ飛んでいく。
「お前じゃあ、あたしには勝てない……殺す覚悟がないやつにはな」
地面を転がって肩を押さえる聖が歯を食いしばり、体に鞭を打って立ち上がろうとしている。勝負は決まった負傷した聖の負けだ。萃香がとどめを刺そうと聖に歩み寄り始めた。
ご苦労なことだ。
「……じゃあ、私なら勝てるか?萃香」
傍観していた私は言いながら萃香の後頭部めがけてレーザーを放った。
たぶん明日も投稿すると思います。
その時はよろしくお願いします。