割と好き勝手にやっています。
それでもいいという方は第五十二話をお楽しみください。
幽々子は離れながら振り返り、私を見た。
「魔理沙、それとそっちの鬼はあなたに任せるわ」
幽々子はそう言うと妖夢と一緒に林の中に消えて行く。
「…ん?……あっちの鬼…?」
私が振り返ると、地面から露出した巨大な岩の上に萃香が座っている。
「……茶番は終わったのか…?」
顔に殴られた跡がある萃香が私を睨みつけながら言った。
「お前か…」
睨みつけてくる萃香を見上げながら私は呟く。
「千数百年生きているこのあたしを軽くあしらうとは、やってくれるね」
萃香は手枷についた鎖が打ち合う音を出しながら巨大な岩から飛び降りた。
「…はあ……。…めんどうくさいな…」
「そういうな、私たちは何もできなくて暇なんでな……。暇つぶしに付き合ってくれよ…最終的にくたばることになるがな!」
萃香が言いながら握りこぶしを作り、私に向かって走り出す。
「……くたばる…そうなるのはお前だよ、萃香」
唇を噛んで唇から出血させ、それを私は飲み込みながら言った。
妖夢に上に弾き飛ばされていた棒切れがようやく上から落ちてきて、それををキャッチしながらこちらに向かって突っ走ってくる萃香に向けて全力で振り下ろす。
私が殴った衝撃で、地面と接している萃香の足元から地面が割れて陥没した。
「ほう、ただの魔法使いのお前にこんな攻撃力があるとは、驚いた」
萃香が攻撃をした私をつき飛ばそうとするが、更に私が力を込めると萃香の体が落ち込み、ちょうど真下にあった天狗の屋敷にある地下の監獄の通路に私たちは転がり込んでしまう。
「…魔理沙!…お前面白いな!…今までは博麗霊夢のおまけだと思っていたが、私と対等に戦えるようになっていたとはな!」
転がり込んでバランスを崩していた私の足を萃香が掴みながら持ち上げ、壁に叩きつけた。
「がっ…!?」
頭部の皮膚が擦り切れて血が流れ出した私を、萃香は掴んだまま通路の奥に投げ飛ばした。
「…っ…!…こいつはまずいな…」
何十メートルもある通路の中央を体がゆっくりと回転しながら突っ切り、曲がりかどの壁に背中を思いっきり打ち付けてしまい、強い衝撃に肺から一気に空気が抜ける。
「けほっ…!」
でも、私は萃香にただ投げられただけではないのだ。
私はところどころに置いてきた魔力に命令を与えた。
「inbetriebsetzung(発動)」
私が呟くと、ところどころに置いてきた魔力が文字通り発動し、十数個の魔法陣が私と萃香の間に現れた。
「…なんだ?これ」
萃香が嗤いながら呟き、魔法陣を無視して私の方向に走り出す。
「不用心だぜ!萃香!魔法使いが魔法陣を出したんだから警戒しないとなぁ!」
魔法を乗せた最大出力のレーザーを何十個も並ぶ魔法陣に向けてぶっ放した。
私から発射されたレーザーは魔法陣を通過するごとに大きさと威力が倍々となっていき、普段なら使用する魔力量が多すぎて二つか三つ程度の魔法陣しか作ることはできないが、魔力力が強力になったことにより、必要な魔力量が少なく済んでいるためこれだけの量を作ることができたのだ。
「今なら、こんなこともできる。…いつまでも私を舐めてると足元を救われるぜ、萃香」
私が叫ぶと、太陽よりも眩しい光が通路を埋め尽くし、マスタースパーク並の大きさのレーザーが萃香を飲み込んだ。
ゴォォォォォッ!!
レーザーが消えるというよりは掻き消されたと言えるだろう。レーザーがいきなりそう言う消え方をした。
光が消えた通路の天井、壁、床の岩石が赤く融解して溶け始めている。
「まだまだ、私を殺すには弱ずぎるぞ!」
萃香が私に向かって溶けた岩石の上から跳躍してくる。
溶けていない岩石を踏み砕き、数十メートルの距離を一瞬で詰めてきた。
「…!?」
萃香がタックルを私に食らわせた。
何とかそれに反応することができ、受け止めることはできたが私の後方にある支えにしていた壁が耐えることができなかったのかひびが入って砕けてしまい、その奥にある通路に私は吹っ飛ばされてしまう。
削られた岩石の上を転がって勢いを殺し、立ち上がろうとしたところで萃香にさらに追撃を食らいそうになるが、萃香の腹を蹴って後方に飛び、体を縦に反時計回りに回転させ、萃香がいる方向に向けてレーザーは薙ぎ払う。
萃香の皮膚をレーザーが焼け焦がす。威力が不十分すぎた。
萃香はそれを無視して私に向かって走り、私が地面に着地する前に下から上に向けて萃香のアッパーが私の腹に突き刺さる。
「が……っ…ぁ……!!?」
息を吸うことも吐くこともできなくなってしまい、上に向けて私は吹っ飛ばされた。
天井の岩石を体が叩き、その衝撃で天井を破壊しても萃香に殴られた際に発生した運動エネルギーは衰えることなく天狗の屋敷を破壊して空中に放り出されてしまった。
「……くそ…」
ようやく呼吸することができるようになった私は、呼吸を整えながら囁き、手先に大量の魔力を込めて三十センチ程度の大きさの球体を作り出す。
私が出てきた大きな穴に作り出した球体を投げ込んだ。
「……」
真下にいるはずの萃香に向けた攻撃だ。直接的に当たらなくても地面と接触したと同時に、球体が大爆発を起こした。
強力な爆発が発生し、私が出てきた穴から爆発の炎が火山の噴火のように噴き出してくる。
「……」
それを横目に魔力の足場を作り、段階的に着地して屋根の上に着地した。
爆発の炎や熱により自然発火でもしたのか、天狗の屋敷に火が付き始める。
この場所まで燃え広がるにはだいぶ時間がかかるだろうが、大火事になるのも時間の問題か、私はそう思いながらこの場所から少し離れることにした。
走り出してからすぐに頭から出血しているのに気が付いた。萃香に壁に向かって叩きつけられた時に切ったのだろう。
「……」
一度血の補給をするため、手にこびりついていた血を舌で舐め取って飲み込み、いつものように魔力力を強化した。
頭の傷を治すついでにその他の打撲や切り傷、裂傷などを治した。
「…私を倒したいなら、回復する力や防御力以上の力を食らわせることだな!」
特にダメージを負っていない萃香が、私が出てきた穴から飛び出して私に向かって走ってくる。
「そのつもりだ」
私は言いながら屋根に使われている瓦を砕きながら萃香がいる方向の反対方向に私は走り出す。
逃げて時間稼ぎをして手先に魔力を集中させ、光の魔法やレーザーを一点に集中させるようにして細いレーザーをこちらに向かって走ってくる萃香に放った。
だが、萃香に当たった瞬間に彼女は塵となって消え失せ、私の後ろに三倍も四倍も巨大化して再生成した。
「なっ…!?」
私は反撃する間もなく萃香が上げた足にふみ潰されてしまう。
屋根の瓦や木材が萃香の踏み付けに耐えられるはずもなく、瓦が砕け木材をへし折り、地下の岩石を粉砕し、小悪魔と一緒に歩いた通路に砕けた岩石と木材に埋もれるようにして倒れて動きを停止させた。
「……死んだか」
全身の骨がほとんど砕けてしまって動けなくなっている私に、上から降りてきた萃香はそう呟く。
「…いや、生きてるな……鬼か……それ以上に生命力が強いやつだ」
萃香が足を上げてもう一度私を踏みつけようとしたが、何かを感じ取ったのか上げた足を下げて後ろを振り向いた。
「…聖か」
萃香や私みたいなどす黒い人殺しのような殺気ではなく、強い意志をもった殺気を感じる。
「萃香、あなたか…あなたたちかは知らないけど……村に行ってからの記憶がないのよ……だから、あなたから直接聞こうと思って出向いたわけだけなんだけど……あなたに拒否権はないわ」
聖の目が据わっている。いつも温厚で優しい聖がこうなっているということは、彼女は相当怒っているということだ。
聖が巻物を取り出して展開すると、紙に文字が書かれているわけではなく魔力やそう言ったものの類で書かれているものが空中に浮いている。原理的にはスペルカードに似た読む必要のない巻物だ。自分のほしい魔法を巻物に記し、使いたいときに魔力を流して使えるようにする便利な巻物なのだ。
「…そう言えば、消したんだっけなぁ……お前が勝ったら何があったか教えてやってもいいぞ」
「何百年も周りを欺き、騙して来た奴の言うことを信用しろと?……記憶を元に戻しなさい」
聖が身体強化の魔法を使いながら、凛とした声で萃香に言い放つ。
「…消したのは私じゃないからなぁ……元に戻せるかは知らないね……でも、お前は私に勝てない……絶対にな」
萃香が私から離れて聖と対峙し始めた隙に全身の砕けた骨を修復させ、瓦礫の山の中に埋もれた状態から、瓦礫を蹴り飛ばして抜け出して二人の戦いが始まる前に出口に向けて一目散に走り出す。
「…」
萃香は何か言いたげだったが、聖に隙を見せればやられると判断したのだろう。逃げる私を見逃した。
幻想郷でもトップクラスの実力を持つ聖と萃香。あの二人の戦いに巻き込まれるんはごめんだ。
たぶん明日も投稿すると思います。
その時はよろしくお願いします。