割と好き勝手にやっています。
それでもいいという方は第五十一話をお楽しみください。
木の棒と桜観剣が高速で触れあい、それぞれの物質同士を打ちあわせたとは思えないほどの鋭い金属音に似た打撃音が響く。
火花が散らなければ血しぶきが舞い、火花が舞い散れば血しぶきは飛ぶことはない。
妖夢と戦っている中で私はいつの間にか、防御ばかりで攻めに転じることができなくなていた。
初めのうちは私の見よう見まねの攻撃に妖夢も少し驚き、私が有利な状態にはなった。だが、なんてことはない、ただの付け焼刃の太刀筋など剣術を日ごろから鍛錬している妖夢はすぐに私の攻撃は慣れてしまったらしい。
今はかろうじて何とか攻撃を捌いてはいてはいるが、これもいつまで持つかはわからないぐらいのギリギリの攻防だ。
ガギィィッ!
妖夢の切込みが浅く、私がはじき返すと妖夢はほんの少しだけ隙を見せた。私はその隙を見逃さずに魔力で強化した棒切れを叩きこむが、妖夢が簡単にその攻撃を弾いたことで隙が罠だったと思い知る。
「っち…!」
妖夢が私の持つ棒切れをからめとるようにして桜観剣を動かし、棒切れを上に弾き飛ばした。
「…あっ…!?」
魔力で強化した棒切れが私の手を離れて回転しながら上に飛んでいく。
だが、これも利用させてもらうとしよう。
元々接近戦は大の苦手なんだ。あんなの私には必要ない。
妖夢が私に向かって桜観剣を振り下ろす。私はよけようと体をずらした。避けるにはすでに遅く、妖夢が振った桜観剣は私を逃がすことなく、肩から胸の位置までを切り裂いた。
だが、桜観剣は私の体の近くに接近するとグニャリとその軌道や桜観剣の形を歪に変えて捻じ曲がる。
「えっ…!?」
驚きの声を上げる妖夢の見えない視界、右側からわき腹に向けてレーザーを食らわせる。
腹側から放ったレーザーは一部の臓器を貫通して、背中側から飛び出して後方の地面を焼け焦がした。
「が……はがっ……!?」
理解できないだろう。なぜ自分が切ったはずの私が横にいて、自分がレーザーで撃たれているか。
単純に私は光の魔法で自分の位置を錯覚させ、よける動作をしているうちに妖夢から切られない位置に移動したのだ。
桜観剣の形がいびつになったり、軌道がグニャリと曲がったのも屈折の影響だ。
妖夢がレーザーを撃たれたことにより硬直しているうちに、後ろに回り込んで膝を後ろから蹴飛ばして地面に膝をつかせた。
「…先を急がないといけないが……遺言を聞いてやらないことはないぜ…?妖夢…」
妖夢の後頭部に向けて手のひらをかざす。
「……」
今までの戦いから私が本当に殺すと感じ取ったのか。妖夢は体を震わせる。
「…私は…私は……アリスを殺してなんかない……!」
妖夢が呟く。
「そうか、死ね」
私が手先に込めた魔力をレーザーとして妖夢に向けて最大出力で放出する。
「…待ちなさい」
妖夢の後頭部を貫く予定だったレーザーは、どこからかの攻撃によって打ち消されてしまう。
「…この声、幽々子か」
私が呟くと上から幽々子がゆっくりと降りてくる。基本が青い服装にピンク色の肩に着くかつかないかぐらいの長さの髪に、被った帽子には三角巾のようなものが付いていて、渦巻きの模様が見られる。
扇子を持っていて、広げた扇子でパタパタと自分を扇いでいる。
「…次から次へと……」
私が言うと、幽々子が位置調整をしながら私の隣に降り立った。
「…妖夢にこんなことするなんて……酷いわね…」
幽々子が扇子で口元を隠しながら、いつもと変わらない調子で私に言ってくる。
「…うるせぇな……黙ってろ…庇うなら同罪としてお前も殺すぞ」
「あらあら、ずいぶんと様子が違うと思ったら…怖い怖い」
幽々子は私は見ながらくすくすと笑い、黙って私は幽々子にレーザーをぶっ放そうとしたが、幽々子が私に言った。
「魔理沙、あなたは勘違いしてるわ…」
閉じた扇子で私の手を叩き、手のひらを別の方向に向けさせてレーザーを外させたのだ。
「それを攻撃と思わないでね、叩いた理由は…うちの大事な庭師を殺させるはずがないでしょう?っていうのと…妖夢はあなたの知り合いを殺してはいないわだって…妖夢は白玉桜から地上に降りてきたのはついさっきよ」
幽々子が言いながら膝をついていたボロボロの妖夢を立たせた。
「…証拠がないぜ、幽々子」
私が言いながらこちらの警戒を始めた妖夢と何を考えているのかわからない幽々子を睨みつけた。
「…証拠ならあるわよ」
そう言いながら幽々子は来ている着物の帯を取って服をはだけさせる。
「……?」
「なぜ地上に今まで下りてくることができなかったか、それは私の治療をしていたのよ」
包帯で隠れてはいるが、腹に大きな穴が開いているのが一目でわかった。
「……これは…誰にやられたんだ?」
幽々子がここまでやられる奴と言ったら、あいつしかないだろう。
「…萃香にやられたのよ」
私が思っていた通りの答えが返って来た。幽々子は言いながらはだけさせた着物を着なおして帯を締める。
「……」
「あなたが何か勘違いをしていて、私たちはまったく関与していないっていう事はわかってくれたかしら?」
妖夢が桜観剣を鞘にしまい、幽々子の服装を整える。
「…そうだなぁ……でも、解せないのはアリスは剣で斬り殺されてるってことだ…幻想郷で剣術を使い、それが能力である人物は妖夢しかいない。だから疑ったわけだが……」
私が呟いた時妖夢は鞘から桜観剣を抜き、幽々子に言った。
「幽々子様……!…魔理沙はいつもの魔理沙ではありません…行きましょう」
妖夢が私に敵意と桜観剣を向けて睨みつけてくる。
「…心配ないわ妖夢……魔理沙、あなたももうわかってるでしょう?…妖夢が違うってことぐらい」
幽々子が言い、私はうなづいた。
「…ああ……。…妖夢が人を殺したのなら、こんな普通の精神ではいられないだろうからな…こいつの性格上は特にな……」
魔力を怪我の治癒の方に回して怪我を治癒させた。
「……そう……」
幽々子が何か言いたげである様子で呟きながら、体をわずかに浮き上がらせる。
「…なんだ?」
「…別に……私としては早く妖夢の治療をしたいから、移動させてもらうわ」
たしかに、妖夢は私の魔法陣の爆発などに巻き込まれてボロボロだ。血の能力で回復させてやりたいが、進みだそうとしただけで、
「近づかないで…魔理沙」
妖夢がこちらに向けて桜観剣を油断なく構えた。もう一歩前に出たら容赦なく斬りかかってくるだろう。
「…謝って済む問題ではないが、妖夢……すまなかったな」
私が刀を構えている妖夢に謝罪をするが、妖夢は素早く私に返答をする。
「私に、初めに攻撃をしてきたことを差し引いても、今の魔理沙は信用できません」
「……。まあ、だよな」
私が呟くと少しずつ妖夢達は私を警戒したまま離れ始める。
「ごめんなさいね、でも、そう言われても仕方がいなことだけは理解してほしいわ、魔理沙」
幽々子が開いた扇子を閉じながら私に呟く。
「…そりゃあ、そうだろ…………。……妖夢に幽々子、始めに言っておく…小悪魔や大妖精たちは私たちの味方だ。攻撃しないようによろしく頼む……それと、小悪魔がレミリアたちを探しているはずだから、もしレミリアたちを見たなら小悪魔たちに教えてやってほしい」
「……わかったわ」
こちらを警戒したまま桜観剣を構えた妖夢の代わりに、幽々子が一泊だけ間をおいて返答した。
「…魔理沙」
私から離れる前に幽々子が私に話しかけた。
「……なんだ?」
「…少し休んだら……?酷い顔してるわ」
「…もともと綺麗な顔でもない……放っておけ」
聖にも言われたが、この異変が始まってから自分の顔など見ていないため、どれだけ返り血を浴びているかなどはわからない。
「…私が言いたいことはそういう事じゃあないんだけどね……」
「……?」
「まあ、あなたのことだし自分で何とかしなさい……」
「…何のことだかよくわからんが……わかった……」
私が呟くと幽々子と妖夢は離れていく。
この時、私は言われたことをもっとよく考えておくべきだった。と今になって思う。
たぶん明日も投稿すると思います。