今回は微妙に百合成分が含まれます。
それでも良い方は第四話をお楽しみください。
かなりの高度を飛行していたため、何もせずに落ちれば死ぬのは確定の速度が出ている。
だが、幸いなことに下はうっそうとした森だ。体を強化すれば木の枝とかに当たってスピードが落ちてもしかしたら助かるかもしれない。
私は体を魔力で強化した。
顔の前で手を交差させて目などを傷つけないようにして森の中に猛スピードで突っ込む。
バキバキバキ!!
木の枝がぶつかった私の体重と運動エネルギーに耐えきれずに歪んで折れていく、そのたびにエネルギーを置いていき、速度が段々と遅くなるがまだまだ早い。
「くっ…」
本気で死を覚悟しかけた時、太い木の幹並みの太さの枝にがら空きの腹を強打した。
「かっ…!?」
肺から空気が抜けて短い悲鳴のようなものが口から洩れた。
大きくゆがんだ枝がぶつかった私の勢いを耐えきってくれた。枝が半ばからへし折れ、私は地面に落ちた。
「……いてぇ…」
だが、この際そんなことはどうでもいい、命があっただけでましと言える。
私はあの二人が来る前に移動をしよう。
今回の異変、あいつのせいなのか?ミスティアの歌は人の判断能力を奪い、狂わせることがある。魔力を持つ人間は惑わされたりするぐらいだが、魔力を扱わない者が長時間聞けば狂ったりするのかもしれない。
そう思ったが、その考えは的外れにも程があるだろう。
ミスティアにそんな度胸があるわけがない。それに、魔力が扱えるルーミアや文もおかしくなっていた。この異変にミスティアは直接的には関与していないはず、文達とどうように操られているだけだろう。
まったく、たった三日間地下にこもっていただけで外ががらりと変わっている。まるで浦島太郎にでもなってしまったような気分だ。
博麗神社に走って向かっていたが、私の正面に上の木の枝を折って降りてきたリグルが着地した。
「っち…」
追い付かれるとわかってはいたが、この先どうするか。
私が引き返そうとしたとき、後ろにミスティアが立っている気配がした。
どうするか…。強い妖精程度のこいつら二人なら余裕で相手できる。だが、それは弾幕戦での話だ。
弾幕は殺さないための攻撃手段だ。私みたいな弾幕でしか攻撃できないやつは弾幕で戦うしかないが、こいつらは弾幕で戦うよりも接近戦で戦った方が強いだろう。
「……」
高出力で放てば弾幕でも殺すことはできるだろう。最悪、殺せなくても痛手は負わせられるはずだ。
しかし、まだ私にも勝機はある。現在は秋に近い気温で、リグルの能力がいかせる時期ではない。
レーザーの幅を大きくすると速度が遅いため、後ろを振り返りながら威力を保ったまま、ギリギリまで細くしたレーザーを放つ。
「あがっ…!?」
ミスティアの喉笛を撃ち抜くことには成功した。だが、後ろからリグルの蹴りを食らうこととなる。
「がはっ…!?」
文ほどの強烈な攻撃力を持っていないとしても、体を強化していなければ私を殺すには十分な威力と言えるだろう。
「っ!?」
体の強化が甘かったらしく痛みに動けなくなってしまい、地面に倒れた。
倒れた私はすぐに起き上がろうとしたが、リグルとミスティアの二人がかりに押さえつけられた。
押さえ付けられるのを抵抗しようとしたとき、背中と腹に鋭い痛みが走る。
グギッ!
じんわりとした痛みは、時間が経つごとにはっきりとした激痛に変わっていく。
蹴られた私は体をくの字に曲げてもだえ苦しむ。
「か……はっ……!?」
またリグルに蹴られそうになった時、見様見真似のぎこちない動作でリグルの足を払った。
反撃されるとは思ってもいなかったのだろう。リグルがバランスを崩して後頭部を地面に打つ。
そのうちに私を押さえていたミスティアの手から、体をねじって抜け出した。
ミスティアはまだ喉が治っていないため、歌うことができていない。
またあれを食らったら、今度こそ二人になぶり殺しにされる。やるなら今だろう。私はミスティアに掴みかかり、霊夢が私にかけたことのある投げ技をミスティアに食らわせた。
腕と胸ぐらを掴み、自分の足でミスティアの足を払って転ばせるようにして投げ飛ばす。
霊夢ほどの切れはないとしても、ミスティアのような体術の素人ならば簡単に投げ飛ばすことができた。
リグルが私に飛びかかってくるが、ミスティアとリグルの二方向にレーザーを放ち、綺麗に撃ち抜いた。
リグルとミスティアが同時にゆっくりと地面に横たわる。少しの間抵抗していたようだが、すぐに気を失った。
「……ふぅ…」
私はため息をつきながら二人を見た。
こいつらが体術の素人で助かった。もし、少しでもその心得があれば今倒れているのは私だったはずだ。
接近戦がここまで酷いとは思わなかった。少しでも霊夢から教わっておけばよかったと後悔しながらもこの場から離れた。
弾幕などの光で少々目立ってしまった。他の連中が来てしまうのも時間の問題だからだ。
しかし、この二人をこのまま放置すれば、すぐに目を覚まして他の奴を襲うだろう。だが、私は霊夢のように封印したりすることができない。だから、こうやって放置するしかないだろう。
走り始めてすぐ、私の後ろを低俗な妖精や妖怪が追ってくる気配がする。何が追ってくるかなんて見たくもない。
それに、交戦するよりもこのまま博麗神社に逃げ込んだ方が早いだろう。段々と神社の明かりが見えてくると、奴らは本能的に霊夢がやばいと感じ取ったのか、すぐに追ってこなくなった。
つまり、霊夢は神社にいるということだ。
「…霊夢!」
私は庭を横切り、明かりがついている寝室に向かった。ノックもせずにがらりと障子をあけ放つ。
だが、お布団が敷いてあるだけで霊夢の姿はない。
霊夢は本当に大丈夫なのかという不安で、心臓の鼓動が早くなる。
「魔理沙…?…私はこっちよ?」
霊夢の声が後ろから聞こえてくる。後ろを振り拭くと寝室の電球の光に照らされた霊夢が庭の方で縁側に上がっている私を見上げている。
「霊夢!」
少し、巫女服がボロボロではあるが、霊夢が正気でいるということに私は心から安心した。
縁側を降りて私は霊夢に近づく。
「大丈夫か!?霊夢!おかしくなってないよな!?」
私は霊夢をがくがくと揺らす。
「えぇ…それよりも魔理沙、あんた今までどこ行ってたの!?すごく心配したんだからね!?」
今度は私が霊夢にがくがくと揺らされる。
「すまん…」
「大丈夫よ……それよりも、怪我してるの?手当てしないとね」
霊夢が私に言った。
「いや、これはだいたいがもう治ってるから心配ない」
私が言うと霊夢はほっとしたように息を吐いた。
「そう、それならいいんだけど」
「…それと、早く異変を解決しないと…手伝うぜ霊夢」
「ありがと、でも…待って魔理沙」
霊夢に両肩を掴まれ、霊夢の方向を向かせられた。
「何だよ、霊夢」
じっとのぞき込む霊夢に私は赤面した。
「魔理沙、結構血まみれだし…少しきれいにしましょう。タオルで拭くぐらいでもいいから」
「……まあ、確かにそうだが…」
「魔理沙も女の子なんだから、血まみれだったらせっかくの美人が台無しよ?」
霊夢がいたずらっぽい笑みを浮かべながら私に言う。
「そんなこと言われてもうれしくないんだぜ」
「顔赤くしながら言われても説得力ないわよ」
「一応、予備の服も持ってきておいてよかった」
私は体中にこびりついていた血を濡れたタオルで拭きとり、新しい洋服をきながら言った。
「そうね」
霊夢が私の帽子についてる血を綺麗にふき取り、座っている私にかぶせてくれた。
「それじゃあ、行くか」
私が立ち上がろうとしたとき、霊夢に両肩を掴まれて抑え込まれる。
「…?どうしたんだ?」
「魔理沙は、三日間もどこに行ってたの?」
霊夢が呟いた。
「…地下でマジックアイテムなんかを作ってたんだぜ」
「……すごく、寂しかったんだからね?」
霊夢が上目遣いで私に言った。
「…っ!?」
こいつ、こんな顔もするのか。見たこともない霊夢の表情に私がドギマギしているとき、霊夢が両手で私の頬に触れ、霊夢の方向に引き寄せられた。霊夢の柔らかくてしっとりと温かい唇が私の口を塞いだ。
「んっ…!?」
いきなりのことで私は反応ができず、十秒ほどそのままになっていた。
だが、すぐに霊夢から離れる。
「れ、霊夢!?いきなりどうしたんだよ!?」
恥ずかしくて霊夢の顔を見れないせいで、私はうつむきながら叫ぶ。
「…魔理沙は私のこと嫌い?」
霊夢が寂しそうにつぶやいた。
「そ……そういうことじゃなくて……!…なんでこんな時に!?」
私が言いかけた時、霊夢が私を押し倒した。
「…へ?」
力強く押し倒されたため、後頭部を床に打ち付けそうになる。
「……れ、霊夢…??」
意味が分からず、困惑する私に霊夢が私の上にのしかかってくる。
「魔理沙は……私のこと嫌い?」
真正面から霊夢が私が顔を背けられないように頬を両手で包みながらまた言った。
「…………」
さっきのこともあり、死ぬほど恥ずかしい。
「魔理沙?」
霊夢は言うまで逃がしてくれそうにない。
「…わ…私も、好きだ……でも、なんで今言うんだよ」
「…別にいいじゃない…」
霊夢の様子がおかしい。
霊夢が顔を下げると、さっきと同じようにキスをした。
霊夢の下が私の唇の間に滑り込み私の舌に絡ませ、霊夢が私の口の中をかき混ぜる。それが凄く暖かくて気持ちがよくて頭がくらくらする。呼吸をするのも忘れて私は霊夢とキスをし続けた。頭の奥が痺れて何も考えられない。
「……」
五分ほどそうしていただろうか。私はようやく霊夢の肩を掴んで引き離した。
私の唇から霊夢の唇が離れる。霊夢の体温を感じられなくなったことに少しさびしさを感じる。
「…霊夢……今は…こんなことをしている場合じゃない……」
私は回らない頭を使ってようやく呟いた。
「…………」
霊夢は答えない。何か言ったかもしれないが、思考が追い付かない私には聞こえなかった。
私はまるで全力疾走したかのように肩で息をしながら立ち上がろうとしたとき、霊夢はまた私のことを床に押し付けた。
「…霊夢…?」
上にいる霊夢を見上げた時、私は凍り付いた。
霊夢の目から光が失せて濁り、ルーミアたちと同じ目をしている。
瞳がわずかに赤く光る。それはまるで炎のように揺らめき、霊夢の動きに合わせて尾を引いている。
「やっぱり……魔理沙は………私が嫌いなのね」
霊夢が凍えるような冷たい声で私に語り掛ける。
「ち……違っ………私は…!!」
霊夢を掴もうとしたとき、さっきまでの霊夢の柔らかい雰囲気から一転、私の手を跳ねのける。
「霊……夢………?」
霊夢が私の胸に乗ったまま、右手を握って拳を作った。
「……何を…?」
霊夢が右手を大きく振りかぶり、霊力を込めた拳を私の顔に振り下ろした。私がとっさに顔を傾けたことで側頭部を殴られる。
「~~~っ!!?」
私は叫ぶことものたうち回ることもできなかった。
ドゴッ!!
霊夢が拳を振り上げて再び私の頭に拳を叩きこむ。拳と床に挟まれてさらに激痛が走った。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
止めてくれと叫びたかったが、口を開けば悲鳴しか出すことができない。
ガツッ!!
霊夢に三度目となる拳が振り下ろされた時、顔を上げた私の目に当たった。
グギャッ!!
その瞬間、右目で見ていた視界が真っ黒に染まり何も見えなくなる。
「あ……がっ……!?」
生暖かい液体が私の右目から流れた。それが涙でないことぐらいすぐに分かった。
「うぐぁ………ああ…がっ……!!」
右目を押さえると手のひらにヌルリとした液体がへばりつく。
「や……め……!」
私のかすれた声を霊夢は無視して拳を私の顔に振り下ろす。
ゴキッ!
また、霊夢の拳が私にめり込んだ。
「あぁっ!!」
私は叫び声をあげた。
ドゴッ!!
また霊夢が私の頭に拳を振り下ろした。
「……あ……ぐ…っ!!」
私は意識が朦朧とするが、何とか右手を上げて霊夢が今まさに殴ろうとしていた腕の裾を掴んだ。
「…や……め…て……く………れ……!」
私が呟くが霊夢は私の手を振り払い、また私を殴った。
「………うっ……!」
体から力が抜け、私は手をもとの高さに保つことができずに床に落ちた。
ガッ!!…ゴッ!…バギッ!
殴られるごとに私の意識は遠のく。寒気を感じる。死に向かって意識という海を沈んでいく。
朦朧とした意識の中、霊夢の怪しく赤く光る瞳と目が合った気がした。霊夢はニコリと笑うと、私の血がこびりつく拳を振り下ろした。
「………!!」
そうして、私は意識を失った。
たぶん明日も投稿すると思います。
お気に入りなどをしてくれた方、ありがとうございます。楽しんでいただけるように頑張ろうと思います。