もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十二話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第四十二話 襲撃と目覚め

「…同種ぐらいというと……萃香は同じ鬼を食ってるってことだよな?」

 私が確認のためもう一度聞くと、さとりはうなづいた。

「でも、あの魔力力の上がり具合から察するに……一体や二体を食った程度ではあれほど強くはならないと思います」

 数百、数千の鬼を萃香は食って来たということだろう。

 そうなると、異変をしようと決めたのは十年、二十年前ではないのだけは確かだ。

 さとりのような奴もいたのに、よくもここまで隠してこれたものだ。

 私は感心しながらさとりをチラリと見ると、さとりは肩をすくめる。

 星熊勇儀は旧都にいたわけだが、いつも一緒にいるわけでもいつも考えを呼んでいるわけでもない。わからなかったのも無理はない。

 それに、奴らは常に酒を飲んで酔っ払っている。酔っぱらえば気分がよくなり、暗いことも多少ならば忘れることもできるだろう。

「…同じ鬼を食ったのは魔力の波長が似ていて、自分のものにしやすかったからだろうな」

 私はさらに多くの食べ物を口に運び、よく噛んで飲み込む。

 鬼の数が他の種よりも異常に少ないのはそのためだったのか。

「……そこまで考えても、奴らの目的が見えない……なぜそこまでするのか、なぜそこまでしなければならないのか……その理由がわからない……霊夢を殺すことならばこんな回りくどいことはしいないだろう……この異変は幻想郷の博麗大結界とは無関係の物ではあるのだけは確かだ」

 私が言うと、机を囲む全員が考えを始めるがおそらく今考えても答えは出ないだろうから、私は食事に専念することにした。

 机に置かれた器に盛りつけられた食べ物を食いつくして、器を空にしていく。

「……魔理沙、あなた私の家の備蓄してある食べ物を全部食いつくす気かしら?」

 さとりが飲んでいた水を飲み干してモグモグと口を動かす私に言った。

「…寝て魔力を回復させる暇はないんでな……今のうちにできるだけ回復したいからよ」

 私は口の中で噛み砕いた食べ物を嚥下してから、こちらを見ているさとりにそう伝えた。

「……あなたは魔法でも、弾幕でも…使う時にはもう少し効率をよくしたものを使いなさいよ」

「効率を考えていたら火力が落ちちまうぜ」

 私がそう言いながら上に何も載っていない皿を近くにいた皿を運搬する係のペットに手渡した。

「……まったく」

 さとりが呆れたようにつぶやく。

「…そう言うな、食い終わったらすぐに出て行くよ」

 私はそう言いながら次のさらに手を付けた。

 

「ふいー。食った食った……まあ、腹三分目ってところか」

 私が言いながら持っていたフォークを机の上に置いた。

「……」

 周りで皿を運んでいたペットの顔が少しひきつっている。たぶん備蓄してた食材を使い切ったとかだろう。

「……それで、その姿のことはいつ話してくれるのかしら…?」

 さとりが言うとそれについては気になっている奴が多かったのか、私に注目が集まる。

「小悪魔は知ってるが、他の奴は知らないから大まかな流れは教えるよ」

 話すのにちょうどいい機会だ。

「…そうだなぁ。とりあえず初めから放すとして……私は、光を見ておかしくなった霊夢に殺された」

 私が簡潔にまとめてそう言うと、さとりがすっと片目を閉じる。

 信用ねぇな。

「……当り前でしょう?」

 私がそう思っているとさとりに即答されてしまう。

「……一応、嘘はついていないわ」

 さとりが言うと、私から疑いの視線が一時的に消えた。

 人間は他人を嘘で欺き、騙せたとしても本質的に自分に嘘をつくことができない。さとりがいれば嘘か本当か信じてもらえないような話だとしても、そうやって分かるから話が進む。

「…死んだとき、こっちで言うところの三途の川に私は行ったわけだが…」

 その辺からすでに疑いの眼差しに視線が変わってくる。

 私も信じない自信があるが、いくらなんでも信用されなさすぎではないだろうか。

「…そこで、ある男に会って来たんだが、いろいろと話して、この異変を止めたいって言ったらこうなってたぜ」

 私が半ばやけくそで話すと、疑いの眼差しから可哀そうな子を見る目に周りがなっていくのがわかって、なんだか惨めな気持ちになってくる。隣に座っている紅魔館で話した小悪魔や私の能力などを知っている大妖精がポンポンと私の肩を叩く。

「……でも、だいたい省いているとはいえ、嘘は言ってないのよね……」

 さとりの呟きだけが唯一の救いだった。

「……ある程度はわかったからいいとするわ。それより魔理沙、あなたはこれからどうするの?」

 食事を食べ終えてそろそろ地霊殿や旧都から出ようと準部を始めようとしていた私をさとりが呼び止める。

「…そうだなぁ……白玉桜か天狗の屋敷にでも行ってくることにするぜ」

 椅子にかけられている帽子を取り、頭にかぶりながら言ったとき、さとりのペットの一人が慌てた様子で食堂に転がり込んできた。

「…?」

 息を切らしていて私だけでなく全員が嫌な予感がよぎる。

「…奴らが、奴らが来ます!」

 私たちはそれを聞くと同時に、誰が来たのかということも聞かずに走って出口に向かっていた。

 敷いてある赤いカーペットの上を全力で走り、息を切らしながら玄関を過ぎて扉を蹴り開ける。

 私たちが来た方向、洞口のあたりの方向から数えきれないほどの妖怪や妖精がこちらに向かってきているのが見える。

 一人一人は大したことがなくても百も二百も三百も集まれば、力を持っている妖怪も殺すことは可能だろう。

 波のようになってこちらに向かって押し寄せてくる妖怪たちに私たちは呆然としてしまっていた。

「……っ…撃ち落とすぞ!」

 だが、それもつかの間。

 その光景に呆然として思考が停止してしまうが、私が発破をかけることでさとりたちも動き出し、それぞれが弾幕を撃ち始める。

 紅く光る瞳を持つ妖怪や妖精の波に向けて撃ちだされる無数の弾幕に、何人も地面に向かって落ちていく。

 だが、被害はあちらだけではない。足の速い妖怪もしくは妖精がすでにこちらに到達していて、反撃を受けて撃ち抜かれたり、手足をもがれるペットたちが複数いた。

 さっきの鬼の集団がかわいく見える軍勢相手にこっちはたったの数十人。戦力の差はすさまじく絶望的で、数の暴力とうのを初めて体験した。

 それを察して逃げ始めようとするペットもいるが、地霊殿を落とされれば一巻の終わりだ。逃げ切るためにはこの妖精と妖怪の大群の間をすり抜けていかねばならない。

 完全に周りを包囲され、レーザーを何度も撃っても減っている気がしない。

 そうしているうちに、逃げようとして孤立している私たちを助けようとしたさとりのペットが順々に殺されていく。

 妖怪、妖精がペットたちに群がり、食らいつき、引き裂き、千切り、潰す。こちらにまで痛みが伝わってくるような絶叫に、こちらにいる戦闘慣れしていないペットたちにも恐怖が伝染している。

「…落ち着くんだ!」

 さとりや空が落ち着かせようとするが、錯乱したペットたちは私たちから離れて行ってしまい。殺された。

「…私の…………せいだ………」

 そんな状況で私は攻撃するのも忘れて、呆然として呟いていた。

「…魔理沙さん!?…どうしたんですか!?」

 隣で周りに向かって弾幕を撃って牽制を与えていた小悪魔が私に言うが、私にはその声は全く届いていない。

 比那名居天子に始まり、華扇やチルノ、リグル、ミスティア、紅魔館のメイドたち。

 さとりのペットたちを殺して回っているのは私が殺さずに逃がした妖怪、妖精たちばかりだ。

「…私の……せいで……」

 足から力が抜けて、私は地面に膝をついてしまっていた。

「…魔理沙さん…!?…しっかりしてください!…魔理沙さんが戦わないとみんな死にます!」

 小悪魔がそう言いながら私のことをがくがくと揺らす。

 その時、横からこちらに向かって来た何かが側頭部に当たり、鈍い痛みを感じた。

 呆然としている私に小悪魔がショック療法で平手打ちを食らわせたわけではない。

 十数メートルに渡って宙を舞い、地面に転がり落ちる。

「……っ…!」

 私を包帯で作られた偽の腕で殴った華扇が、跳躍してさらに私に襲い掛かってこようとするが、小悪魔が後ろから華扇に殴りかかる。しかし、華扇は跳躍をしようとしていたのを中断して小悪魔の拳を受け流し、掌底を小悪魔の胸に食らわせた。

「が……は……っ…!!?」

 胸を押さえて崩れ落ちるが、それでも攻撃しようとする小悪魔に華扇は頭と腹に更に掌底を食らわせる。

「………っ!!」

 完璧に打ちのめされ、小悪魔は今度こそ地面に倒れ込んでしまう。

 さとりも空も、お燐も数で圧倒されて天子に切り伏せられ、次々に倒されていく。

「…く……そ……!」

 

 すべて私のせいだ。

 

 あって戦ったときに、殺さずに逃がしてしまった私のせいだ。それが足を引っ張り、今戦わなかった私のせいだ。

 殺したくはない。今までの異変のように倒すだけ、霊夢に殺された時に絶望、恐怖、孤独、そう言ったものを感じ、私は一層強く命は奪いたくはないと思った。

 だが、その信念を貫いた結果がこれだ。

「…ま……さ……!」

 誰かが呼ぶ声がする。

「魔理沙さん!!」

 瞬間移動をして何とか難を逃れていた大妖精が私の傍らに現れる。

「…大…妖精……」

 私が顔を上げると大妖精が私を掴み、瞬間移動を使ったことにより私と大妖精の居る位置が変わり、妖怪たちからは死角のどこかの家の中に場所が変わる。

「…今は逃げましょう……魔理沙さん…」

 窓から外をそっと確認しながら大妖精は呟いた。

「……すまない……大妖精……私のせいでこんなことになって……」

「…魔理沙さんのせいじゃありません…だからそんなに一人で背負い込まないでください…!」

 大妖精が華扇に殴られたことで血管が切れて出血している私の顔に触れ、座り込んでいる私よりも立っている大妖精の方が背が高いため、私の顔を上に向かせて呟く。

「……でも、私があの時……」

 私はいつの間にかボロボロと涙を流していて、しずくが頬を伝って下に落ちていく。

「……魔理沙さん…!しっかりしてください!……こんなふうになるなんて…誰に予想できたっていうんですか…!」

 大妖精が私に平手打ちを食らわせた。

「………」

「…魔理沙さん……あなたがいなくなって……誰がこの異変を解決するっていうんですか……」

 大妖精が私を抱き寄せながら言った。

「………。……ああ……すまない…大妖精……取り乱しちまって」

 私が呟くと、

「…もう大丈夫みたいですね」

 大妖精が私ににっこりと笑顔を見せた。

「…ありがとう……大妖……せ…………い」

 私が瞬きするとさっきまでそこに在った大妖精の顔が無くなっていた。

「……………え………?」

 私の呟きがむなしく周りに響く。

 頭が首や胸ごとと消し飛ばされた大妖精の体がぐらつき、私に触れていた両腕が力なく地面に転がり落ちた。

 大妖精の心臓の拍動に合わせて心臓につながっている動脈から大量の血液が吹き出し、私に飛び散った。

「……あ………あああああああああああああああっ!!」

 私は力なく地面に倒れ込む大量の血をまき散らす大妖精だった物の体を無意識のうちに抱きしめて支えていた。

「………うそ………だろ……」

 目を見開き、私は呆然と大妖精の死体を抱え続ける。

 そんな私に大妖精の頭を吹き飛ばした華扇が私の頭を掴み、包帯で形成されている腕の拳を振り下ろした。

 だが、私は無理やり掴んでいた手を放させ、華扇を吹き飛ばす。

「よくも……よくよおぉっ!!」

 私が走り出すと、吹っ飛ばした華扇がふわりと床に着地してそのまま私に向かって走り出す。

 ピンク色の髪をなびかせながら華扇が包帯の右腕で私を殴り、私は歌仙に向かって左手で拳を作り、殴りかかる。

 私の拳と華扇の拳が合わさると、私の拳がぐしゃりと潰れ、押し返されて逆に吹き飛ばされた。

 ひしゃげて砕けた骨が皮膚を突き破り、衝撃に耐えられなかった皮膚が引き裂けて血が流れ出す。

「……ちく……しょ…………う…」

 私は薄れる意識の中、呟きながら地面に落ちた。記憶はそこで途絶えた。

 

 もう、やめだ。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

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