割と好き勝手にやっています。
それでも良いという方は第三十八話をお楽しみください。
「はぁ…はぁ……!」
私は肩で息をしながら走り回る。草が一本も生えていない地面がむき出しだったり舗装されている地面を踏みしめて走る。
口を閉じる間もなく息を吸ったり吐いたりしているせいで口の中が嫌に乾く。でも、乾く理由はそれだけではないかもしれない。
走ったことにより、筋肉内でブドウ糖の代謝が盛んにおこなわれているが、その残りカスの乳酸が足の疲れの原因となり、もつれそうになるが必死に足を動かす。
オレンジ色の光が私の皮膚を焼く強い熱を背後から来ているのを察知し、私は頭を抱えて地面に伏せた。
「…っ…!!」
真後ろにいる妹様に投げられたレーヴァテインが私の真上を通過して当たらなくなると同時に、私は妹様から余計な追撃を食らわないように飛びのき、家の陰に隠れた。
私の隠れた家の壁に弾幕やレーヴァテインが撃ち込まれ、木製の壁が早くも炎が広がり始めている。
「はぁ…はぁ…!」
息を切らしながら私はまた走り出す。裏路地をジグザグに曲がりながら走る私の真横の壁が破壊され、そこから妹様が現れる。
「なっ……!!?」
砕けた木片や木材が私に降りかかってくるがそれは大した問題ではない。勢いよく飛んできた木片が目に当たる軌道を描いていたため、顔の前で交差させた私の腕に木材が突き刺さる。
魔力強化が足りなかったようだ。
「…ぐっ…!」
腕を伸ばしてきた妹様に胸倉を掴まれ、妹様がいる家の中に引きずり込まれると同時に後方に投げ飛ばされてしまう。
「…うっ…!?」
魔力的なものではない。自分の意思とは関係なのない物理的に飛ばされた速度が速すぎて制御できない。
ドゴォッ!!
部屋の反対側を始めに破壊し、外に再度出た。
投げ飛ばされた勢いはその程度では死なず、通りの反対側の家の窓を突き破ったところでようやく魔力でのブレーキがかかり、ガラスと木片が散らばっている地面に転がり込んだ。
「……くっ…!」
魔理沙さんとの待ち合わせの場所とは反対方向に飛ばされてしまった。
私が魔理沙さんの元に言って妹様を誘導しなければ、この作戦は成り立たない。
受け身を取ってすぐさま起き上がり、逃げようとするがレーヴァテインが回転しながら私が入って来た窓から投げ込まれる。
「へ…?」
投げ込まれたレーヴァテインはさっきまでとは違い、ずいぶんと遅いスピードで床に突き刺さると、魔力で圧縮されていたレーヴァテインの炎が数百倍に膨れ上がり、爆発して四方八方に炎をまき散らす。
一の面積の物が一瞬で100になれば、空気は押し出されて爆風となる。ダイナマイトや魔理沙さんの使う爆発瓶のようなものだ。
爆風に足元をすくわれて体が宙に舞い、もみくちゃになりながら私は広がってくる炎に包まれる。
「う……あぁぁっ!!?」
呼吸をすれば口腔内や粘膜、気管支、肺を熱と炎でやれる。
体を魔力で覆って、さらに強化しても防御できないほどの炎の威力に私はされるがままになってしまい、家の壁を突き破って何十メートルも吹き飛んだ。
服と皮膚が一部焼け焦げ、ヒリヒリとした痛みを伴うが妹様を相手にいまだ五体満足で済んでいるだけでましと言えるだろう。
一部分の服が溶けて蒸発し、私の体から蒸気が上がる。
「……くっ…」
妹様から私が見えないように走り出すが、私は木片が刺さって出血してしまった。おそらくそれらの血の匂いをかぎ分けているのだろう。見えない位置にいるはずの私の位置を正確に見つけてくるのはそのためだ。
このままではいつまでたっても魔理沙さんの場所に行けない。
そう思ったところで、私は気が付く。私が魔理沙さんの元に行けないのではない。行かせてもらえないのだ。妹様がそういうふうに立ち回っているのだ。私たちの作戦に気が付いている。
それを楽しんでいるのだろう。私が魔理沙さんの元に行ったら負け、行くことができなかったら勝ちそんな風に、
「…っ!」
私は走り出し、高く飛んで屋根の上に飛び乗る。
家の屋根をジャンプして一直線に魔理沙さんの方に向かう。今の妹様なら絶対にこっちに来る。その方が楽しいから。
三つめか四つ目の屋根に飛び乗った時、私の足元の屋根を破壊して妹様が飛び掛かってくる。
「なっ…!!?」
妹様は私のことを腕の上から抱きついて拘束すると空に向かって浮き上がり始めた。
それと比例するように妹様が私を拘束する腕の力が段々と上がっていく。
「うっ……あがっ………!!……妹……様……!!」
胸の高さの位置を妹様が締め付けるため、肋骨がいびつに歪んで嫌な音を上げ始めた。早く抜け出さなければ折れる骨もなくなってしまう。
砕けた肋骨が皮膚を突き破り、司書の服が赤く染まっていく。
「~~~~~~~~っ!!」
反対側の体内では肺を外側から突き破ってきた肋骨の骨の影響で、肺に血が溜まって苦しくなってくる。
妹様に締め付けられているせいで血を吐き出すこともできない。このままでは肺に血が溜まり、窒息死する。この状況では溺死と変わらない。
「……あ……ぁ……が……っ…!!」
絶叫すらも出なくなってきた。目の前に、周りに空気があるのに息が吸えない恐怖。背筋が凍りそうだ。
「小悪魔!!」
永琳さんが私を掴んでいる妹様に向かって矢を放つ。
横から飛んできた永琳さんの矢は、妹様の首を串刺しにした。細い妹様の首を矢が貫通し、真っ赤な血が鏃や首にくっついている木の部分にも血が付着している。
妹様が右手を私から放し、矢を引き抜いた。出血する間もなく妹様の矢の傷口が綺麗に再生した。
私はそのすきに解放された左手を妹様の私を掴んでいる手を放させ、突き飛ばした。
肋骨が折れて肺を収縮できない。それは肺の中にたまっている血を吐き出すことができないことを意味している。
魔理沙さんの手を掴んだ時にこびりついた手のひらの血が目に入り、乾いた血を舐めて嚥下した。
効果はあったようで、いびつに歪んでいた私の胸部が少し経つと正常に戻り、肺の奥からすべての異物を吐き出すように咳き込むと、大量の血が吐き出された。
「げほっ…!!……ごほっ…!!」
押さえた手に余るほどの喀血した血がこびりつく。
「う……はぐっ…」
ようやく収まり始めた咳をしながら、私が下がると突き飛ばした妹様がさらに私に接近してくる。
妹様に弾幕を浴びせようとしたが、動きの速い妹様に私はついていくことができない。
「……っく…!」
魔力で空を飛ぶのを解除すると、魔力で浮遊力を得ていた私の体はすぐに落ちた。
私は首を跳ねようとしていた妹様のレーヴァテインが私の頭上を通りすぎる。
「っ……!」
私の体は地面に向けて降下していく、いつの間にか下にいる永琳さんが上にいる妹様に向けて矢を放った。
落ちていく私の真横を矢が通り過ぎ、上の妹様に直撃する。
永琳さんは落ちてきた私のことをキャッチしてくれたおかげで、地面に落ちずに済んだ。
「…永琳さん……」
「…大丈夫かしら?……へばった?」
「…い……いいえ…!…大丈夫です…まだいけます」
私は魔力で魔理沙さんの血の力で治せなかった部分の傷を少しだけ治し、自分の力で空を飛んだ。
魔理沙さんの方向に向かおうとしたとき、妹様が目に入った。厳密には持っている物にだ。
妹様が笑いながら一枚のカードを取り出した。
魔力を回路に流し込み、淡く光り出したカードを妹様は爪で切り裂く。
キラキラと魔力が空気中で輝き、粒子となって消えて行く。それを妹様は眺めながら呟いた。
「禁忌『レーヴァテイン』」
上に向けてかざされた手のひらに炎が発生し、柱のように燃え盛る。
長さが数十メートル、幅は一メートルと少しある炎の柱はそのまま妹様の獲物となった。
「…うそでしょ…」
あまりの大きさのレーヴァテインに永琳が絶句する声が聞こえた。私も動きを止めてしまうほどに妹様のスペルカードのスケールが違いすぎる。
「ふふ…」
妹様はそう私たちに死神が死の宣告をするように、微笑んだ。
たぶん明日も投稿すると思います。
忙しくなるため、投稿ペースが落ちます。