割と好き勝手やっています。今回だけオリジナルキャラクターが出ます。
それでも良いという方は第二十一話をお楽しみください。
私は席に座りながら、さっき私が一時的にいた世界を眺める。
「…君が他人に興味を持つなんて、珍しいこともあるんだね」
相変わらずくそムカつく言い方でそいつらからは”彼”と呼ばれるこの優男は私に言った。
「やかましい、呼び出されるだけ呼び出されて用が済んだら帰ってもいいなんて、虫が良すぎるだろうが……まあ、下にいるあいつが何をするのか…気になってな」
アトラスが出してくれた椅子と机でチェスをやりながら、下の状況を見る。
「…やっぱり?僕もあの子がどうなるのか、気になってね」
「…おまえと一緒にするなよ…高みの見物してるっていうところは同じだけどな…」
座ってチェスをやっていると奥の方に手が届かないため、私は仕方なく椅子から立ち上がりながら言った。
「酷いね。僕だってしたくて高みの見物してるんじゃないんだよ?」
「…よく言うよ」
そこから少しの間、無言が続く。
「………。君は魔理沙が吞み込まれると思う?」
「あの子、魔理沙っていうのか…いい名じゃないか」
「…そうだね」
アトラスは私の返事を待っているのか、くそ気持ち悪い仮面を外してこちらをふふっと少し笑いながら見た。
「……さあな、何とも言えない」
「…それが心配でこの場所に来たんじゃないのかい?」
考えを読まれた、ムカつく。
「…かもな」
私はそれだけ言うと、キングの前にナイトを置いた。
「……チェックメイトだな」
「いつのまに……」
唖然としている神を見て私は思う。神と言ってもチェスは弱い。
カーテンを手でどかしながら私は台所の中に入った。
「……すぅ…」
匂いを嗅いでみても霖之助さんが言っていたような魚の生臭さは感じられない。
台所の中にもう一台の扇風機が置かれており、それが開けられた窓から外に向けて台所内の空気を送り出しているからだろう。
台所は横に長くて一番奥には扉はないが、そのぐらいの大きさの枠の奥に物置部屋に続いていて暗い。なにか低い温度で保存しないといけない者でもあるのだろう。
棚から透明のガラス製のコップを取り、扇風機の奥にある水道の蛇口の下にコップを持ってきた。水道のハンドルを捻ると水が蛇口から流れ出す。
コップに七割ほどの水を汲み、ハンドルを反対に回して流れ出す水を止めてコップを口元に運んだ。
コップに分けた水を半分ほど飲んだ。
「…ぷはっ」
しばらく飲み食いできなかったため、水を飲むという行為が久しく感じた。
「……」
窓から見える森の景色を楽しんでいたが、あまり遅いと霖之助さんも戻ってきてしまうだろうし、私は残りの水を飲み干してコップを洗おうとしたが、不意に何かの匂いを感じた。
「……?」
何か、嗅いだことのある臭いだ。
くんくんと匂いを嗅いでみるも、そのにおいの元が特定することができない。でも、この部屋に匂いの元はないということが分かった。
「…」
魔理沙さんたちがいる場所とは反対方向の物置部屋、あそこからだろうか。
私はそちらの方向に向かって歩を進めると段々と匂いは強くなるが元々が微々たるものであまり感じない。
魔理沙さんたちに一声かけた方がいいのだろうが、自分の勘違いのせいで騒ぎを起こさせて霖之助さんに疑いをかけさせてしまわないように十分な情報を集めるべきだろう。
「……」
奥の物置部屋に入ると、洞窟にでも入ったのではないかと思うほどに真っ暗で、目を凝らしてみても見える物はなく、今来たところ付近に置いてある大きな瓶しか見えない。
しかし、しゃがんでみてもそこからは私がさっき嗅いだ臭いを感じ取ることができない。木の板で蓋がしてあり、開けて中身を見ると中身は梅干しが漬けてある。
その隣の大きな瓶を見るために立ち上がり、瓶の蓋を開けようとしたが上に大きくて重量のある石が乗っていて開くことができない。
蓋の上に乗っている漬物石にしては大きい石に私は触れて瞬間移動を使って自分の足元の地面に移動させると、十分の一程度地面に埋まった状態の石が現れる。が、私はそれには全く目を向けずに瓶の蓋を開けようと蓋に触れた。
霖之助さんに許可もなく勝手に見ているという背徳感はあったが、においの元を知りたいという好奇心に勝つことができずに私はふたを開けた。
「……っ…」
強烈な鉄が含まれる血の匂いを思いっきり吸い込んでしまい、私は呼吸が止まりそうになる。
これがもし匂いの元であるならば、魚をさばいていた時に洗うために使っていた水をこぼしたでは言い訳にもならないだろう。
光の加減でうっすらと、瓶の中に詰め込まれている物がどんなものなのかその輪郭が見えた。
それは人間の頭だったり、腕だったり、胴体だったり、目だったり、臓器だったり、脳だったり。
悲鳴を上げたかった。でも口を開けば今しがた飲んだ水を吐き出してしまう。瓶の中身から目を背けて、私は口を手で押さえて胃の中身を吐き出さないように我慢した。
以前ならば口を押える間もなく吐いていたかもしれない。魔理沙さんと行動をしてさまざまなものを見てきたおかげでもあるのだろう。
しばらくして、何とか吐き出さずに耐えきった私は中身を見ないように瓶の蓋を閉める。
証拠はこれで十分だ。霖之助さんは黒だ。
私はそう思って魔理沙さんたちを呼ぼうとしたとき、後ろから肩を掴まれた。
「ヒッ………!?」
私は大きく肩をビクリと震わせる。
「…まったく、せっかくうまくいっていたっていうのに…まさか、君にばれてしまうとはね」
この物置は霖之助さんが探しにいてくると言っていた倉庫ともつながっているのか、もしくはここが倉庫なのかはわからないが、そんなことは些細な問題でしかない。
瞬間移動で逃げようとしても掴まれているため、瞬間移動をしても意味がない。助けを呼ぼうにも、声の出し方を忘れてしまったと思うほどに声が出ない。
「…僕のために死んでくれよ、大妖精」
私が自分よりも背の高い霖之助さんを見上げた時、霖之助さんの目が赤いオーラで淡く光っているのが見えた。
「…っ………!」
私が目を見開いて何でもいいから大声を出そうとしたとき、霖之助さんは慣れた手つきで左手を私の口元に、右手で持っていたナイフで私の声帯を切り裂く。
「~~~~~~っ!!!」
悲鳴を上げることができず、手を放されて突き放された私は、倒れて喉を押さえてのたうち回る。
いつものように話そうとしてもナイフで切り裂かれた喉から空気が漏れて声が出せない。
しかも、動脈などの大きな血管を避けて切ったため、出血は少なくて霖之助さんに血などはかかっていない。
「さてと」
霖之助さんが喉を押さえて血まみれになっている私の両手を背中側に回させて交差させ、交差した手首の部分に新品の剣を突き刺した。刀は私の両手と体を容易く貫くと地面に縫い付けた。
「~~~~~っ!!」
「…少しの間、そこで大人しくしていてくれ」
霖之助さんがそう私にささやき、物置部屋の奥に歩いて行った。
たぶん明日も投稿すると思います。