もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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わりと好き勝手にやってます。
それでも良いという方は第二十話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第二十話 香霖堂

顔色がよくなってきた小悪魔が呟く。

「…それより、私に……いったい何を……?」

 小悪魔は潰れたはずの右手や背中から木片が貫通していた体を見つめている。

「…何というか……話せば長くなるぜ……まあ、無事でよかった」

 私が言うともう怪我は完治しているため、小悪魔が体を起こした。普通なら止めるところだが軽快な動きにそれは必要ないということが分かった。

「……すみません。お手数おかけしました」

「…気にすることはないぜ」

 見た目はいつも通りの小悪魔だが、傷は完治しても体にダメージは残っているのか、やせ我慢をしているということが見て取れた。

「……それで、異変についてどれだけのことがわかりましたか?」

 私が治療をするために外したボタンを自分で付け直しながら小悪魔が私たちに言ってきた。

「…まだ、何もわかってないな……しいて言うならば…怪しいのは地霊殿、と言ったところだぜ」

 私は言いながら立ち上がり、まだ体を起こした段階の小悪魔に手を貸して立ち上がらせた。

「……レミリアたちはどうしたんだ?」

 私がおそるおそる聞くと小悪魔の表情に憤怒がわずかに含まれる。

「……敵に……さらわれました…」

 レミリアたちの姿が見えなかったことで何となく予想はしていたが、一方的にやられたとは思えない。相手はレミリアたちを生け捕りにするために手加減をしなければならないため、そう簡単にレミリアや咲夜、パチュリーがやられていたとは思えない。だが、それも相手次第だろう。

「……そうか…誰にやられたかわかるか?」

 私が聞くと小悪魔がうなづいた。

「……一人は伊吹萃香…もう一人は星熊勇儀…あの二人に私たちは全員やられました」

「……あの二人が敵に回っているのかぁ…」

 この幻想郷でこの二人の鬼を知らない者はいないだろう。鬼は幻想郷の中では最強クラスの妖怪であり、伊吹萃香と星熊勇儀はトップクラスで強い妖怪であり、私ではかなうかわからない相手でもある。

「…鬼も敵になっているんですか…!?」

 大妖精が現在私たちがどれだけ不利な状況なのかを悟ったのか、青ざめながら呟いた。

「……そのようなだ…」

 その時になって私はとあることに気が付いた。大勢の人間ではなく、空を飛ぶことができる妖怪か妖精が移動する気配がしたのだ。

「…伏せろ…!」

 私が小悪魔の頭を掴み無理やり地面に伏せさせた。永琳も何かを感じ取っていたのか、私と同様にすぐに反応して大妖精を地面に伏せさせた。

 急いだため、地面に小悪魔の顔を押し付けてしまい、顔に土をつけた小悪魔が顔を上げて私をぎろりと睨みつける。

「…何するんですか…!!」

「…しっ……」

 私が紅魔館の方向に視線を向けると、メイド服を着た妖精たちが数十人単位で飛び立っていくのが見えた。

「…なんだあれ……多いな…」

 さっきまでどこにもいなかったはずの妖精がいきなり現れたのだ。私が驚きながら呟くと小悪魔が驚きで目を見開いている。

「…あれは、おかしくなってしまった妖精たち…?…地下に閉じ込めていたのにどうして外に……!?」

「…中から壊されたとしか言えねぇだろ……ここは相手にしない方がいいな…」

 木陰に隠れていた私たちを発見することができなった妖精たちは、私たちがいる方には目もくれずにどこかへと飛んで行った。

 妖精たちが見えなくなってからしばらくして、私たちはようやく立ち上がることができた。

「…とりあえず、見つからなくてよかったぜ…あの数を相手にするのはいくら何でもきついものがあるからな」

 私が小悪魔の頭から手を放して立ち上がると、小悪魔は土だらけになった顔で立ち上がり、払い落としながら私のことを軽くど突いてくる。

「…これからどうします?……地霊殿に向かいますか?」

 大妖精がさっき飛んで行った妖精が周りにいないかを確認して立ち上がり、スカートについた土をはたきおとした。

「…いや、地霊殿はもうちょい後だ…今は少し休息と小悪魔の服が必要だ」

 私が言って初めて気が付いたのか、小悪魔が物が刺さって穴が開いていたり、熱で溶けたり煤で汚れている服装を見下ろした。

「……確かに……そうですね……」

 右腕に至っては二の腕のあたりだけではなく、肩ぐらいまで血で染まっていて、服はそこから先はない。

「……司書の服がありそうな場所……じゃあ、香霖堂にでも行ってみようぜ」

 私が言うと小悪魔がちらりとこちらを見た。

「……霖之助さん……ですよね?…その、彼は大丈夫なんですか?」

「……さあな、でもあいつはいつも店にこもってるんだぜ?大丈夫だよ」

 私は心配で仕方がないが、そう茶化してごまかした。

「…そうだといいわね」

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、永琳はそう呟き森の中を低空飛行で飛んで香霖堂に向かっていく。

「……。ああ」

 私は呟きながら箒にまたがり、永琳や飛んでいく小悪魔に続いて空を飛んだ。

 さっき飛んでいった妖精たちがどこに潜んでいるかわからないため、できるだけ周りを警戒しながら飛んでいたが、とあることを小悪魔に聞くことにした。

「…なあ、小悪魔」

 私が聞くと、前方正面を飛んでいた小悪魔が減速して私の隣にやってくる。

「…なんですか?」

「…早苗はどうしたんだ?…もしかしてやられたのか?」

 私が聞くと、小悪魔が自分がやられる前のことを思い出しながら言う。

「…早苗さんは、あなたが出て行ったあと…しばらくしてから出て行ったので、鬼の襲撃には巻き込まれていないはずですよ。…それ以降は知りませんが何もなければ無事だと思いますよ?……どうしたんですか?」

 小悪魔が私に逆に質問を返してくる。

「…あいつの姿が見られなかったし、無事なのかと思ってね」

「…たぶん早苗さんなら大丈夫でしょう……異変を解決するために動いているなら、そのうち会うこともあると思いますよ」

「…まあ、そうだな」

 私が言ったころ、森を抜けて大きく視界が開けた。そこから香霖堂の方向に方向転換してすぐに進みだした。

 さっきまで昼だと思っていたのに、すでに太陽が傾いていっている。空を見上げると夕焼けで空がオレンジ色となっているのだ。

「もうすぐで動きづらくなる時間帯がやってくるな…」

 空を見上げながら私は呟く。

「じゃあ、香霖堂に行ってた後に…夜になっても関係がない場所に行きませんか?」

 大妖精が後ろからそう言ってきた。

「…そうね。それもいいかもしれないわね」

 永琳ももうすぐよるとなり、暗くなり始める一歩手前の空を見上げる。

 そうやってしばらく森や林を抜けながら進み、香霖堂の庭に出ることができた。

「…見た感じ、問題はなさそうですね」

 香霖堂の庭に初めに降りた小悪魔が呟いた。

 庭は荒れておらず、香霖堂の壁や庭には血痕などの争った跡は全く見られない。

「…見た感じはな」

 香霖堂のアーチ状の木でできたドアを見ると、オープンと書かれた木の板がつりさげられている。

 異変が起こったのは聞くところによると昼、発生した光を見ておかしくなりそのままどこかに行ってしまったとも、光は見なかったためそのまま生活しているともとれる。

 ドアに近づきドアノブを捻ってドアを押すと簡単にドアが開き、ドアが開いた際に鈴が鳴るように設置されている鈴がチリンチリンと小さな金属音が香霖堂の狭い店の中に響き渡る。

「…香霖…いるか?」

 店の中に入ると、前回来た時と同じ並び順の商品が並んだ棚が始めに見え、いつも香霖が座っているデスクが見えた。

 ブオーン……

 と中古を通り越して、古くて小汚くなってしまっている扇風機が、開きっぱなしになっている台所に続く扉の方向に向かって風を送り出している。それにより店と台所を仕切っているカーテンが風に吹かれて揺れている。

「…香霖…?」

 香霖も駄目だったのではないかという不安に私の心拍数がどんどん上がっていき、ずっとバクバクなりっぱなしだ。

「…」

 バラバラに分解されたままの時計がデスクの上に転がっているのを眺めた時、店の奥から誰かが歩いてくるのが見えた。

「やあ、いつ来るのかと待ってたよ」

 いつもの物静かな香霖の声が聞こえ、私は安堵の息を漏らす。

「…異変が始まってから約二日…ここまで異変が長続きしたことはない。ただ単にてこずってるだけか……霊夢は何か大怪我でもしたのかい?」

 香霖が言いながら机の上に転がっている時計の部品を個別に袋に入れながら片づける。

「…いや、光を見て奴らの仲間入りだぜ」

 私が言うと、予想の斜め上の回答だったのか、いつも眠そうな香霖の瞼が少し見開かれた。

「…それと、君はその髪の毛と目はどうしたんだい?一瞬誰かわからなかったよ」

 香霖が言いながらデスクに座った。

「……私にもいろいろとあるんだぜ」

 適当に答えると香霖は私にも何かがあったということを察した香霖は、うなづくだけで質問を終える。

「…そうか、まあ……僕にできることなんてバックアップぐらいだ。何しに来たんだい?……君が僕に何か頼みごとをするごとに付けている分の支払いをしに来たわけではないだろう?」

「……耳が痛いな…まあ、その通りなわけだが…小悪魔が来ているような服はこの店に置いてないか?」

 私が聞くと一部がビリビリに破れていたりする小悪魔の服をちらりと眺め、視線を私に戻した。

「……たしか、倉庫の奥のタンスにそんな服がしまってあった気がするよ」

 香霖がそう言いながら立ち上がる。

「…香霖よ、それを譲ってくれ……お代はもちろんつけておいてくれ」

 私がそう言うと香霖はあきれたような表情をして、私に呟く。

「…君はその付けを支払ったことはないだろう?……まあ、待っててくれ」

 そう言いながら立ち上がり、店の奥に歩いて行くが曲がり角を曲がろうとしたとき、こちらを振り返って私たちに言った。

「…それと、台所には入らない方がいい」

「…?どうしたんだ?」

「さっき、魚をさばいていたんだが、血を洗うのに水をためたボウルをこぼしてしまってね。酷い匂いが台所を充満してるから今は入らない方がいい」

「…わかったぜ」

 私が言うと香霖は店の奥に歩いて行く。

 私たちはしばらくじっと待っていたが、すぐに商品などを眺め始める。

 しばらくいつもと代わり映えしない商品を眺めて時間を潰していたが、すぐに飽きてしまう。

「……遅いわね」

 永琳が壁に掛けられているアナログの時計を見ながら呟いた。約十分が経過している。

「…前にあいつの倉庫の中を覗いてみたんだが、かなりの物(非売品)が置いてあったからな……探すのに手間取ってるんだろ」

 香霖が倉庫の中を歩き回り、物を探す様子を頭の中で思い描きながら私は言った。

「…それならいいんだけど」

 永琳が言いながら時計を眺めて呟く。

「すみません……喉が渇いてしまって…水を飲みたいんですが……いいでしょうか?」

 大妖精がそう私に言ってくる。

「…いいぜ?でも酷い匂いだって言ってたけど大丈夫か?」

「はい、我慢するので大丈夫です!」

 大妖精がそう言いながら台所に入っていく。

「…しかし、本当に遅いな」

 私はそう呟きながら永琳と同様に時計を眺めた。

 




たぶん、明日も投稿すると思います。

最近、サブタイトルをつけるのが大変になってきました。

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