注意事項をみてそれでも良い方は第十八話をお楽しみください。
「…いろいろと話を聞きたいんだが…いいか?」
私が言うと消毒してあったが今は血まみれのゴム製の手袋を外してゴミ箱に叩き込み、私の近くの椅子に座りこちらに目線を向ける。
「…それで、聞きたいことっていうのは何かしら?…まあ、異変のこと以外はないでしょうけど」
いつもの紫と赤色が対照的になっているデザインで、独特な服を着ている永琳がカルテにさっきの患者のことでも書いているのか、鉛筆で何かを書き始める。
「…まあ、知ってることをしゃべってもらうだけだぜ」
私がそう永琳に告げると、永琳はカルテに何かを書き込みながら言い返してきた。
「…たぶん、あなたたちと知っていることは変わらないわ……霊夢が敵になったんでしょう?」
カルテに書くことは全て書き込んだのか、カルテを座っている膝の上に置いて私の方を見た。
「……。」
「…あら?適当に言ってみたんだけど図星かしら?……異変が始まってから二日が立ってる…今頃情報収取で走り回ってるなんて、どんな異変も動き出せば一日以内に解決していたあの霊夢がいまだにこの段階なんてありえないからね」
永琳が足を組み、近くにいた一緒に治療をしていたウサギに診察室にいるウサギについていてほしいと伝えてから私に言った。
「…まあ、そうだよな……」
私はため息交じりの息を吐き、そこで言葉を切るがすぐに話を始める。
「…。命蓮寺でお前の名前を聞いたやつがいるらしい…」
「心外ねぇ、私を疑っているわけ?」
じろりと永琳が私を睨みつけた。
「…ちげえよ…別にお前だけを疑ってるわけじゃないぜ……名前が出たってことは何かに関係してるかもしれないっていう安易な考えだよ……もしくは、永遠亭が次の標的じゃないかと思ってな…」
ぶらぶらと組んでいた足が揺れていたが、私がそう言うと永琳の足の動きがぴたりと止まる。
「……なるほどね…あんたがついさっき聞いてきた情報っていうんなら…信用しないわけにはいかないわね……」
永琳がそう呟いてから言葉を切るが、何かを思い出したのかすぐにまた話し出した。
「……もう遅いかもしれないけど、もし助けに行くのならば…聞いてほしいんだけど……紅魔館がやられたらしいわよ」
「……え…?」
永琳の言葉に私は少しの間、驚きのあまり頭が真っ白で全く働かなかった。
「…あ、あの紅魔館がですか?」
大妖精が驚き、椅子から立ち上がって永琳に聞き返す。
「ええ……うちのウサギの一人が見回りの時にはぐれてしまったらしくてね。そしたら火事で崩れる紅魔館を見たらしいのよね」
永琳がため息をつき、周りにいる護衛に下がらせ、見回りに行かせた。私の情報を聞き今は少しでも見回りなどを強化したいのだろう。
「…まじかよ……レミリアたちが…?…あいつら、大丈夫なのかよ……」
「…さあ……わからないわね…」
私の独り言に永琳が一呼吸間をあけてから静かに答える。
「……魔理沙さん…顔色が凄く悪いですよ…?……大丈夫ですか…?」
大妖精が心配そうな表情で私を見つめてきた。
「…あ……ああ…。…大丈夫だ……それよりも…すまない。地霊殿に行く予定だったが、私は今すぐに紅魔館に行かないといけない…」
私が箒を握りしめて立ち上がると、わかりましたとうなづいた大妖精も私に続いて立ち上がる。
「…永琳、教えてくれてありがとう…私らはすぐに行かないといけない……勝手ですまないがもう行くぜ」
「…そうね……」
私が言うと、永琳がうなづいてカルテを診察室から治療されて頭に包帯を巻かれて眠っているウサギを担架で連れ出してきたウサギに手渡し、立ち上がった。
「…私も、手伝わせてもらうわね……少し待っててちょうだい」
永琳がよっこいしょ、とゆったりとした動作で立ち上がる。
「……それは、てゐ…それと鈴仙がいないことと関係しているのか…?……永琳…」
私が永琳に聞くと、永琳は少し驚いたような表情を見せた。
「…あら、魔理沙のわりには鋭いわね」
「…私の割にはっていうのは余計だぜ」
じろりと永琳を睨むとハイハイと軽く流されて苛立つが、言い返しても疲れるだけであるため、早く用意して来いと手振りで伝えた。
「…はいはい」
永琳が言いながら診察室に向かって歩いて行く。
鈴仙のいつもの扱いを見てると大切ではなさそうにも見えるが、身内が巻き込まれたんだ。永琳が動かないわけにはいかないだろう。
「……」
しばらくして永琳が薬などを詰めたポーチを肩から下げ、右手に弓を持って診察室から出てきた。
「…輝夜はウサギたちに任せてきたわ…いきましょう」
「…そうか……じゃあ、行くぞ」
私は廊下を戻り、ドアを開けて外に出て箒に乗って空を飛んだ。
「…魔理沙、急ぐ気持ちはわかるけど、ちゃんと周りには気を付けないとだめよ」
空を飛んでついてくる永琳が大妖精を追い抜いて私の隣に並び、言った。
「……わかってるよ」
永琳がやっとついてこれるようなスピードを出していて、大妖精が付いてこれていない。少し熱くなりすぎていたようだ。一刻を争う時こそ冷静でいなければならないだろう。
永遠亭から紅魔館までは直線で進めば数キロ先だ。全速力で進めば数分で着くが、そうできないのがもどかしい。
「…もしかしたら敵がいるかもしれないからな…戦う心構えはしておいてくれ」
私は言いながら数キロ先の赤い館がくずれ、そこから小さく上がっている紅蓮の炎と、炎の数百倍の大きさの黒煙を見て歯噛みした。
「……くそっ…」
レミリアたちがやられている。そんな現実味の無いことに聞いた時は何かの冗談だと思いたかった。だが、私の視線の先には炎で燃える紅魔館がある。嫌でも現実を受け入れなければならなかった。
たぶん。二日から三日後に出すと思います。
その時はよろしくお願いします。