注意事項については一話を参照にしてください。
「……うまくいったな…大妖精」
私はそう言いながら庭などに生えている草をたくさんつける小さな木に身を隠し、弾幕で光り輝く空を見上げて呟いた。
「……ですね……ひやひやしましたよ……魔理沙さんが想像以上なんて呟くから…」
緊張していた大妖精が落ち着いたようでため息をつくようにして息を吐いた。
「…しっ…」
私は大妖精の口を押えて自分も獰猛な獣から姿を隠す獣のように息と気配を殺した。
永遠亭にいるウサギたちが数人でまとまり、私たちが撃たれて落ちているであろう場所に警戒しながら歩いて行く。
ウサギが目の前を通り過ぎるとさすがに緊張するが、気が付いていないと分かると少し安心できた。
なぜ、隙間もないぐらいに埋め尽くされた弾幕をかわすことができたのか。それは私の魔法によるものだ。
私は、光や熱の魔法が得意な方だ。それらを利用して自分の姿を錯覚や反射、屈折を利用して相手から見ている私の本当の位置をずらしたのだ。
だが、この魔法は万能ではないため使いどころはかなり限られてしまうが、こういった状況ではかなり使える魔法の一つだ。
「……」
目を閉じて意識を聴覚に集中させた。目を閉じるといつもよりもより鮮明に音が聞こえ、耳を澄ますと遠くの方にいるウサギたちのどこに行った?とか、いないぞ?と言った声が空気を伝わってくる。
この辺りをくまなく捜索されてしまえばいずれは見つかってしまう。行動を起こすなら早い方がいいだろう。だが迷いの竹林は広くて死角も多く、ウサギがどこに隠れているのかわからないこともあるだろう。周りには気を付けなければならない。
それに今回は、迷いの竹林を進む際に大切なことがある。
迷いの竹林は本当に迷う。でなければそうは呼ばれないだろう。てゐなどこの竹林に昔から住んでいて竹林に詳しい者でないと迷ってしまう。
だが、てゐは永遠亭の者で話を聞くはではわからないが、現在は敵対関係と言える。だからてゐに頼ることはできないだろう。
魔力を消費して自分の姿を見えないようにしてもいいが、あれはそう長くはもたない。さっきはウサギたちが早く自分に向けて攻撃を加えてくると分かっていたため使ったに過ぎない。
戦いにおいて重要なのは対峙している相手の呼吸を読み取ることだ。だから、ウサギが攻撃しやすいようにわざと呼吸をずらした。まじかで対峙しているわけでないため探り合いは必要ない。ウサギたちは案の定かかってくれたため私たちは時間を稼ぐことができた。
しかし、それをうまく使えるかどうかは私たち次第だが。
だが、最終手段として取っておくのもいいかもしれない。見えなくなると言っても、本体(私)の方は影だけが残るため、音にさえ気を付ければこの薄暗い迷いの竹林は絶好の場所だ。
周りの警戒を大妖精に任せて、私はできるだけ足音を立てないように移動して永遠亭に向かう。
整備されていない竹林の中は草木が影を作り、私の服の保護色となって発見しずらくなるだろう。
「…大妖精……来い…」
私が小声で伝えると瞬間移動で大妖精が現れ、私の服の裾を掴んだ。
「……今のところは問題ないです………たぶん」
「……たぶんかよ」
まあ、戦いにおいて自分で直接見ている情報以外で正確なものなどそうそう存在しないだろう。
背の高い草が先に続いており、草の後ろや歩く音などに気を付けながら進む。
「……大妖精、止まれ」
しばらく歩いた私はそう言いながら動きを止める。
「…どうしたんですか?魔理沙さん」
大妖精が周りに響かないように小声で私に言った。
「……ウサギがいないし、捜索してる割には静かだと思わないか…?」
私はわざと少し大きな声で大妖精に語り掛ける。
すると、私が行ったときに周りの草が大きく揺れて球体上の弾幕が大量に私たちに向かって飛んでくる。
一発や二発はかわせるかもしれないが、ショットガンの散弾のような隙間の無い密度の高い弾幕に私は退くことしかできない。
円形に囲んでくれていればウサギたちの撃った弾幕で自分の仲間に当てさせて数を減らせるかと思ったが、ウサギたちの立ち位置は扇形で仲間に弾幕が当たらないようにしている。
「大妖精!!」
私が言いながら大妖精に手を伸ばし、大妖精はその私に向かって飛びつき瞬間移動を発動させる。
意識が途切れるような感覚がした後、別の場所にさっきと同じ体勢で立っていて、前方に弾幕の光が見える。
私が見ている方向は前方で見ている方向と同じ方向にウサギたちが放った弾幕が飛んでいくため、私たちがいる場所はウサギたちの後方にいるということだ。
うまくいけば裏を取ることができるはずだ。
草に隠れて弾幕を放ち続けるウサギたちが後ろから丸見えである。
さっき空中でバックをいじっていた時に取り出していた閃光瓶を振りかぶって前方のウサギたちの視線の先、私たちが立っていた辺りに向けて全力で投球した。
回転しながら飛んでいく閃光瓶はウサギたちがそれを瓶だと脳で知覚する前に地面に落ちて砕け散る。
バァァァンッ!!
魔力が込められた閃光瓶は火花を散らしながらいつものように光をまき散らす。
そのうちに目を閉じた状態で手に持っている箒に足をかけて空を飛ぶ。二十メートル以上は離れているため、走るよりも箒で飛んだ方が早い距離だ。
前かがみになり加速する箒に振り落とされないように足や腰の筋肉に力を込め、ほぼ全速力でウサギの元に向かっていく。
光が収まるころに目を開くとウサギとの距離はちょうどいいぐらいになっており、一番近くに立っているウサギの近くに着地して肩を掴み、魔力を手先に巡らせてレーザーをいつでも撃てるようにしてウサギたちの視覚や聴覚が回復するのを待つ。
「……私たちを攻撃するのをやめろ」
しばらくして光と音で視覚と聴覚が機能していなかったのが回復し始めたころに私は全員に聞こえるように言った。ウサギたちは人質がとられているということを理解したのか、とりあえず攻撃の手がやんだ。
「…魔理沙さん!!」
私から視覚の位置にいて、私のことを狙っていたウサギの腕に大妖精が放った弾幕が直撃して向けていた手の方向を変えさせた。
大妖精に撃たれたウサギの弾幕はあらぬ方向に飛んでいき、当たった木の皮を少し削り取った。
「ぐあっ…!?」
魔力の強化が不十分だったのか、服が焼け焦げて蒸発して魔力で防御しきれなかった分の熱などが皮膚を焼け焦がす。
「…ナイスだ、大妖精」
私は言いながら後ろから肩を掴んでいるウサギの頭に手をかざし、いつでも撃てるんだぞと威圧をかける。
すると、私が掴んでいるウサギが手を上げて降伏を示す。
「私は、お前たちと争うために来たんじゃあない……永琳に会わせてくれ…聞きたいことがある」
私がそう伝えると、少し緊張気味の声で掴んでいるウサギが呟く。
「…敵じゃないという保証がないじゃないか…」
ほかのウサギたちが畏怖の感情で包まれる目を私に向けてくる。
「…敵じゃない理由…?…こいつやお前たちが生きているっていうことかな……ベタだがな」
私はそう言いながらウサギたちが私の見えないところで変な行動を起こさないように睨みつける。
「……もう一つは、始めの理由につながる……おまえたちを殺したり無理やり従わせてはいない。お互いに争わないようにするために提案を出している……それじゃあ…理由としては不十分だが…私としてはどちらでもいい……おまえたちが私とやるつもりなら相手になってやる……後ろの奴も含めてな」
私がちらりと肩越しに視線を後ろに向けると隠れているウサギの影がいくつか見えた。
「……たしかにおかしくなったやつらとはこうやって話している時点で別だけど、異変を起こした奴らの一人かもしれないでしょ」
一人のウサギが私に疑いの眼差しを向けて呟く。
「…異変が始まったから二日が経過しているんだ…今更こんなところに用があるわけないだろうが……大事な場所ならとっくに攻めてるよ」
私が言うと、周りのウサギたちがこそこそと話し合いを始めた。少ししてこのグループのリーダーのようなウサギが私に向けて言葉を発した。
「……本当に味方なら、とりあえず手を下ろしてくれない…?」
他のウサギと変わらないぐらいの低い身長のウサギが私に呟く。
「……いいだろう。私の条件も飲んでもらうがな…」
私はそう言いながらウサギの肩から手をゆっくりと放し、かざしていた手のひらで光っていた魔力を消滅させた。
私が手を放したことによって自由になったウサギが走って仲間の元に戻る。
「……私は条件を飲んだ……お前たちも約束は守ってくれるよな…?無駄な争いは避けたいのはお互い様だろ?」
私がそう言うとウサギたちがまたコソコソと会議を始める。
周りから走る音などが聞こえ始め、私たちはじょじょに包囲され始めた。
「ま……魔理沙さん…」
大妖精が周りを不安げに見まわしながら呟く。
「…大丈夫だよ……たぶん」
正面以外のウサギたちのチームが手を出してこないのは正面のウサギたちが結論を出すのを待っているのだろう。
「……こっちは時間がないんだ……決めるなら早くしてくれ」
私が答えを促すと結論は出たらしく、リーダーのウサギが私に向かって前に出て言った。
「とりあえず信じましょう。でも、妙な動きをしたら殺します」
うさ耳が頭から垂れている愛らしい少女に似つかわしくない、言葉が私に向かって放たれる。
「…善処するぜ」
私は肩をすくめ、ふてぶてしく言った。
三日から四日後に次を投稿します。
その時はよろしくお願いします。