もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

15 / 86
第十四話をお楽しみください。

投降が遅れて申し訳ございません。


もう一つの東方鬼狂郷 第十四話 茨木華扇その②

 ドゴッ!

 華扇に拳を顔に叩き込まれ、私は床を転がる。

「ごほっ…」

 蹴られた衝撃は華扇が蹴った部分を中心にして、空気が音を振動させて伝えるように体の中を衝撃が伝わっていく。

 流石、仙人の蹴り、手足が全く動かせなくなるような威力だ。

 だが、それ以前に倒れている私の胸を華扇が踏んでいるため、立ち上がろうとしても立ち上がることができない。

「死ね…」

 氷点下のような冷たい声で華扇が私に死刑宣告し、拳を私に向かって振り下ろした。

 初めは音はなかった。

 皮膚に触れた華扇の拳が肺や心臓を囲っている肋骨を歪めてめり込み、胸骨に続いて肋骨が折れて肺に刺さる。肋骨が耐え切れずに折れたことで肺が押しつぶされて口から空気が漏れる。

「……っっっっ!!?」

 華扇がもう一度私を殴ろうとしたとき、私はせき込んで喀血してしまう。皮膚を突き破ってしまった骨もあったらしく、胸のあたりが血で赤く染まり始める。

 それを見た華扇が嬉しそうに笑い、頬に飛び散った私の血を拭って私のことを見下ろした。

「…けほっ…!」

 ゴボッと肺の奥から絞り出すようにして血を吐き出した。

「……うぐっ………!」

 左手でポーチから爆発瓶を取り出し、砕けた胸骨と肋骨の痛みを耐えながら魔力で最大まで強化して華扇の頭にうまくコントロールして投げつける。

 かなりの至近距離で投げつけた爆発瓶はうまいこと華扇の額に当たり、ガラスのように砕ける。中身がほんの少しの間だけ宙を舞う。

 空気に触れた瓶の中の物質が空気と反応して燃焼を起こして大爆発を起こす。真っ青な光が閃光瓶のように視界を焼け焦がす。

 小さな物質が数百倍に膨れ上がり、爆風を発生させる。爆風に巻き込まれてもみくちゃになりながらも私は命蓮寺の奥に飛ばされてしまう。

「……う…ぐ………く…そ……!!」

 私が呟いた時、さっきの爆発で耐え切れなくなってきていた木々の柱が限界点を超えて歪み始める。

 修復をはじめた骨のあたりを押さえながら私は落ちてこようとする天井を見上げて毒づいた。

 バキバキバキッ!!

 肋骨や胸骨が折れた時と似たような音を発しながら天井や壁を支えている木々の柱が折れていく。

 炎で包まれる天井がゆっくりと私の方向に落ちてき始めた。

「……くそっ…!」

 箒は持っている。だが、もう間に合わないだろう。炎に焼かれて死んでしまう。

 だが、天井が床に寝ている私に到達する前に華扇が瞬間的に現れ、拳を握って立っている。

 いつの間に、それがとても似合う状況だろう。こいつはどうしても自分の手で私を殺してやりたいらしい。

「…っ…」

 華扇が私を殴りかかろうと拳を振り下ろした。

 しかし、華扇は一歩遅かったらしく、拳が私に到達する前に炎が揺らめく天井が華扇の頭部に到達した。

 必然的に私にも数百キロにもなる重量の木々が私に降り注いだ。

 私はゆっくりと目を閉じた。

 ドォォッ!!

 耳障りな気が打ち合う音も炎が揺らめく音がしない。炎に焼かれて木々に潰されるような感覚もしない。

「……?…」

 私が目を開けると、いつの間にか庭に座り込んでいた。

「…魔理沙さん?…大丈夫ですか?」

 大妖精が座っている私の手から掴んでいる手を放して肩を掴みながら呟く。

「……大…妖精……」

 絞り出したような私でも聞き取りずらい小さな私の声が響く。

「すみません……説得に時間がかかってしまって遅くなってしまいました」

 大妖精が言いながら後ろを見ると、視線の先には響子が少しおびえた様子で私を見ている。

 まだ私をおかしくなっているのではないかと疑っているのだろう。

「……」

 いくつかの肋骨が折れ、胸骨も完全に砕けている。右腕はくっつけようにも右腕は崩れた命蓮寺の中だ。魔力で治そうにも傷を塞ぐのが精いっぱいだろう。私はため息をついて右腕を見る。

「…あ…れ…っ…!?」

 実にゆっくりだが、私の体が再生を始めている。既に右腕が肘のあたりまで再生を完了させている。彼女が言っていることを思い出す。生命力なんかが上がっていると言っていた。 

 なくなった器官の再生。これも彼女が言っていたことの部分に該当するのだろう。

 胸の痛みもほんの少しずつ引き始める。骨も再生を始めていて、胸の血も止まって服の上からでも折れた骨によって歪んで見えた私の胸の骨格が元に戻っている。

「……華扇は…?」

 私は私を倒れないように支えていてくれた大妖精に話しかけながら大妖精から離れた。

「……脱出できたというところは見てません……なのであの中でつぶされているんじゃないでしょうか…」

 大妖精が燃えている命蓮寺を指さした。

 あいつは仙人だ。あの程度で簡単にくたばるとは思えない。折れた肋骨と胸骨は完璧に再生したらしく、痛みが無くなったので再生途中の右腕をかばうようにして立ち上がる。

 少し体のバランスが悪い。通常は人間の体は左右対称でできていて、バランスが良く作られている。しかし、一つしかない胃や肝臓などは右や左にズレていて重量分それでバランスがとられている。

 だが、右腕を失ったことによりなくなった右腕の重量分左に重心がズレる。

 でも、それもすぐに治るだろう。

「……逃げるか…立ち向かうか……どうする?」

 私が大妖精に聞くと、私に聞くんですか!?と驚きおどおどしながらもきちんと聞き返してくれた。

「……おかしくなっている華扇さんから情報を貰えるとは思えません。……それに、倒して押さえつけることもできるかわからないです」

「……戦っても、割に合わないか……じゃあ、今のうちに逃げんぞ」

 私は左手で持っていた。箒に乗り、命蓮寺を囲う塀よりも高く飛び、巨大な焚火のように燃え盛る命蓮寺から離れる。

 その後ろを少し遅れて大妖精と響子が付いてくる。

「響子…少し話を聞かせてもらいたいんだが……いいか?」

 私が聞くと、響子は口ごもりながらうなづいた。

「……命蓮寺で……何があった?」

 私が言うと、響子は少し下に顔を傾けてうつむいた。

「……なんだか……ピカッと光が見えたんですよ……」

 響子が今まで聞いてきたとき同じような出だしでゆっくりと語り始める。だが、命蓮寺の方向から小さな破壊音がして響子の言葉を遮った。

「…話を振っておいて悪いが、話はあとだ……来るぞ…!」

 私がそう呟くと、後方の崩れて燃える命蓮寺が爆発したように見えた。小さな木片から大きな木片がまでもがあらゆる方向へまき散らされ、業火の炎で揺れる炎の中からピンク色の髪をなびかせ、特にけがを負った様子もない服に少し煤のついた歌仙が立ち上がり、私たちの方向を見た。

「……くそ…!全速力だ!!」

 私は言いながらさらに加速し、それに続いて二人も遅れてスピードを上げる。

 肩越しに後ろを振り返り、華扇の方向を見ると辛うじて壊れていない屋根に魔力を流し、強化して持ち上げたところだった。

「……っ!!」

 華扇が持っている巨大な屋根をこちらに向けて投擲した。

 ずいぶんとゆっくりと飛んできていると思った矢先、何十メートルも離れていたはずなのにまばたきするあいだにすでに私たちの元に到達している。

 いますぐに行動を起こさなければ弾丸と化した巨大な屋根に押しつぶされ、ひき肉にされた挙句炎で焼かれるだろう。原型すら残るかもわからない。

 私が大きく減速すると、後ろを全速力で飛んでいた大妖精と響子が私に向かって進んでくる。場所をうまく調節して横に並んでいる響子と大妖精の間に体を滑り込ませ、響子を左手で掴み、大妖精をまだ手首のあたりまでしか再生していない右腕で肩を組むようにして掴み、無理やり九十度方向転換させた。

 無理矢理に横を向かせてそちらに行くための推進力を発生させたが、今まで進んでいた方向にはまだ運動エネルギーがあり、正面に向けて十数メートル進んでしまい、木に肩をぶつけながらも雑木林の中に入ることができた。

 飛びなれていないというのと、木々の間隔が狭いあげく、速度は全速力であったため木の枝にひっかがってしまって地面に落ちた。

 抱えた二人がけがをしないように体の位置を変え、木の幹に背中をぶつけた。

「…がっ……!!」

 私が地面にゆっくりと落ちたころ、華扇が仙術で体を加速させて十数メートル先に現れたのが見える。

 ここまで移動速度を加速することができるとは思わなかった。

「くそっ……!!」

 抱えた二人を左右に投げ捨てた。それと同時に華扇の掌底が私の胸にめり込んだ。

「か………っ!?」

 まじかで見る華扇の姿は私の爆発瓶が食らったのと、命蓮寺の倒壊に巻き込まれたため、服などにかなり焼けた跡などがある。

 ドッグン…!!

 また、私の体の奥に波のようにゆっくりと衝撃が届き、呼吸が止まりかける。筋肉が硬直または弛緩し、体が痙攣して動くことができなくなる。

「あっ………ぐ……!!」

 魔力の流れが元に戻るまであと数秒はかかるだろう。だが、何度か食らってさっきよりも動けなくなる時間は短い。

 苦しくて胸を掻きむしるようにして押さえた時、華扇が第二撃を私に繰り出そうとしている。

 華扇が拳で私の頭を勝ち割ろうと拳を握り、剣や銃以上の危険な凶器となった拳が私の頭に向かって振り下ろされる。

「っ…!!」

 多少なりと頭を動かせるようになっていて、私は頭を何とか傾けてギリギリで華扇の二撃目を何とかやり過ごした。

 だが、それはあまり意味がなかったようだ。歌仙がわきから私の頭を岩のように固い拳で殴る。

「が…あっ…!!」

 華扇の拳で側頭部寄りの額の皮膚が裂けて血が流れ始める。

「う……あっ……!!?」

 そのすさまじい衝撃に、くらくらして私の意識は飛びかけた。だが、私は強化していた体を最大まで強化して華扇の肩を掴み、腹を殴って脛を蹴りつける。

 本当に当たったのかと言いたくなるほどに華扇の体は微動だにせず、逆に私が華扇の拳で沈められた。

「……っ!!」

 相変わらず体の芯に響く容赦のない攻撃に私が倒れ、華扇が倒れた私に向けて追撃をしようとするが、大妖精が瞬間移動で私の目の前に現れて横から歌仙に触れた。

 華扇の姿が小さな破裂音のようなものが発せられると同時に消え失せる。少し離れた位置の地面に華扇の両足がうまった状態で現れた。

 水が含まれる粘土に近い粘着質の土が圧縮されて硬くなり、華扇が抜け出しずらくなる。でも、何十秒も時間を稼げるものでもない。数秒と考えるべきだ。

 大妖精が私の手を掴み、肩を貸すようにして私を立ちあがらせてくれた。響子が大妖精に触れると大妖精が瞬間移動を使い、場所が漫画でも見ているように切り替わった。

 意識が無くなって運ばれたような感覚に不快感を感じながら連続的に大妖精が瞬間移動を使う。

「響子、華扇の居る位置をお前の能力でかく乱してくれ……闘争の時間稼ぎをする」

「わかりました…やってみます」

 響子が音を反響させる程度の能力を応用して様々な方向から反響させて私たちがどの位置にいるかを攪乱する。

 響子は山彦などをしていたときの御経を呟き始めた。

 気休め程度であまり効果はないだろう。そう思っていたがいつまでたっても追ってくる気配はなく、意外にも逃げ切ることができた。

 




この頃忙しいので、二日か三日に一度のペースになると思われます。

ご了承ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。