もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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もう一つの東方鬼狂郷 第十三話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第十三話 茨木華扇

「……響子……だよな…?」

 背を向けて頭を抱えガタガタと震えて座っている響子にそう語りかけた。

「…ひっ…!?」

 びくりと響子の体が震え、おそるおそるこちらを赤く腫れた目で見た。

「……大丈夫か?」

 響子の精神状態はあまりよさそうには見えない。できるだけ刺激をしないように私は優しく語り掛ける。

「……っ!!」

 しかし、響子が私と目が合うと怯えたような顔になり、床下の奥に逃げていてしまう。

「響子待て!そっちに行ったら命蓮寺が崩れた時に巻き込まれる!」

 私の言葉が聞こえていないのか一心不乱に響子は私から逃げていく。

「…くそ……」

 おそらくというか百パーセント私の赤く変色した目を見ておかしくなった連中と同じだと勘違いしてしまったのだろう。

 今私が追っても逆効果だ。

「大妖精!聞こえるか!?」

 私が大声で叫ぶと、少しの間だけ間をあけて大妖精が瞬間移動をして私の元にやってくる。

「魔理沙さん、どうしたんですか?」

「大妖精…縁の下に響子が逃げちまったんだ…私の目が赤くなってるから、奴らと勘違いしたらしい……今私が行っても逆効果だ…説得してきてくれないか?」

 私がそう伝えると、大妖精がうなづいて縁の下に入っていく。

「命蓮寺が崩れる前にできるだけ早く頼む…!……無理そうなら諦めてくれても構わん」

「……わかりました」

 大妖精が返事をしながら影の中に消えて行き、明るいこちら側からは見えなくなった。

「……」

 そわそわと大妖精が早く出てこないかと待つ。

 ギギギっ!!

 命蓮寺の骨格となる骨組みなどが燃焼による炭化で耐久性が衰え、命蓮寺全体の重量に耐えられなくなってきているのか、今にも崩れそうな嫌な音が響く。

「大妖精!やばいぞ!早く!」

 私はいつまでたっても出てこない縁の下に潜ったままの大妖精に叫ぶ。

 せっかくの生き証人が死んでしまえば得られる情報も得られない。しかし、それで大妖精に死なれても困る。

 命蓮寺の火を消そうかとも思ったが、火はかなり燃え広がっていて木をだいぶ炭化させているように見える。そこに大量の水を召喚したらその衝撃や重量でバキッと行きかねない。

 そう思って歯噛みしているとき、私は気が付いた。誰かが後ろからゆっくりと近づいてきている。気配を消して忍び寄る感じ、仲間とは言えないだろう。

「……っ…」

 体を魔力で強化し、私は攻撃をするため手をかざしながら後方に振り返る。

 すると目の前には真っ白な拳があり、頬にそれが当たると頭が千切れると思うほどの衝撃に私の体は浮き上がり、後方に私の体は流されていく。

 炎でオレンジ色に光る命蓮寺の中に転がり込んだ。

 さっき入ったときとは比べ物にならないほどの強い熱気を感じ、私は体を魔力で強化した。

「……華扇…!」

 背が高く、いつもは見上げている華扇のことを今回は見下ろして私は言った。

「……」

 華扇が包帯で作られた手を下げて私を見上げる。

 炎が生み出す熱気のせいで陽炎のように大気が揺らめき、華扇の表情や目が見えない。

 しかし、どうするか。歌仙は仙人でもあり、天人並みとは言わないがそれぐらいの体の頑丈さはある。

 それに加えて天子の場合は緋想の剣を持ていたのと彼女がいたのが大きい。私は一人でこいつに勝てるのだろうか。逃げるという手もあるが、大妖精が下にいる。私だけ逃げるわけにはいかない。

 私は立ち上がる前にこっそりとポーチの中に手を突っ込み、その手さ触りや形などからビー玉程度の大きさの煙玉を割り出してつかみ取った。

 魔力を煙玉にこめ、いつでも投げられるようにして立ち上がる。

「……」

 立ち上がったことにより、陽炎の揺らめきが少し収まり、華扇が無言で赤く光る眼を私に向けているのがよく見えた。

「…まさかとは思ったが…やっぱりか……」

 私は独り言をつぶやき、床に向けて煙玉を投げつける。真っ白な煙が煙玉を中心に私と離れてた位置に立っていた歌仙までも包み込む。

 これで時間稼ぎにはなるだろう。

 こちらから見えなければあちらからも見えない。この状況ならば近づかれなければ見えはしないだろう。

 そう思っていたからこそ、攻撃を受けた私は心底驚いた。

 すでに移動していた私を真っ白で何も見えない煙越しに華扇は弾幕を放ってきた。完璧な球形の赤っぽく光る魔力で形成されたエネルギー体が私の背中に命中し、弾ける。

 魔力で体を強化して覆っていても防御できないほどの威力に、念力で浮かされているような浮遊感の後に赤く燃え盛る骨組みだけとなった障子を破壊し、大広間に転がり込んだ。

「う……ぐ……っ…!!」

 今来た方向を振り返ると、煙玉の煙が炎の熱による上昇気流でほとんどが上に飛んでいき、こちらにゆったりと歩いてくる華扇の姿が見えた。上昇気流で煙が上に行ったことにより、私を視認できたから弾幕を当てることができたのか。

 オレンジ色で埋め尽くされているこの場所でも瞳が赤く揺らめいているのがはっきりとわかる。

 ほとんど酸素が無くなってきているのか、入ってきても片っ端から使われて行っているのかわからないが、ものすごく苦しい。今までの人生でたぶん一番苦しい。

「…くっそ……」

 頑丈さや生命力がいつもよりも高いと言っても、精神力はいつもと同じであり、このやばい状態にすでにどうしていいかわからなくなっている。

「………っ……」

 私に近づいてくる華扇が何かぶつぶつ呟いているのが聞こえる。

「……?」

 私はズリズリと下がりながら聞き耳を立てた。炎が揺らめく音や乾いた木がはじける音、炭化した木が重量に耐えて歪む音にまぎれてそれははっきりと聞こえた。

「……あなたの右手を返せ…!!」

 ピンク色の鮮やかな髪の毛の奥で赤く揺らめく瞳の炎が揺らめき、寒気すらする憤怒の表情を私に向けた。

「……っ…!!」

 血の気が引く、とはこのことだろう。血管が収縮し、血行が悪くなって顔色が悪くなる。

 そんな私のことなど関係なく華扇は純白ともいえる真っ白な包帯の手を私に向けて伸ばしてくる。

 魔力で体を強化し、近づいてきた華扇の足を思いっきり蹴飛ばした。

 その衝撃で私の背が床を滑り、華扇から少しの距離だけを離れて体勢を立て直す。

 右腕をよこせ、華扇はそう言った。華扇のない右腕に関係していることは間違いがない。そこで私は考えるのお一度止め、魔力でさらに体を強化していつでも飛び出せるようにした。

 何にせよ、この場所で戦える時間などそう長くはない。炎によって活動範囲がどんどんなくなっているのと屋根がいつ落ちてくるのかがわからないという意味でだ。

 炎の熱で私は汗を流すが、すぐにその熱気で蒸発して無くなる。

「……」

 華扇の能力がどういったものなのかは私は知らない。以前に何度か仙術というものを体験したことはあるが、どれも対人でも戦闘向きの物ではない。

 人に対してどのようなことができるかわからないが、天子並かそれ以上に不味い状態だ。時間制限もある。

「……右手を……返してもらうわ………」

 華扇の姿が周りの炎の生み出す陽炎にまぎれて消えて行く。

 今まで、幻影という奴を見ていたのか。

「……っ!?」

 私が周りを見回そうとしたとき、後ろの壁を突き破って現れた華扇に私は殴り倒された。

「がっ………ああ……!!」

 ずきずきと殴られた頭が痛む。だが、痛みに悶えている暇はない。

「……」

 黙って私を見下ろす歌仙を持っていた箒を強化して、素早く立ち上がりながら頭をぶん殴った。地面を掃くためにまきつけられた木の枝などが折れて散らばる。

 箒で殴った衝撃で華扇の顔が少し傾くが、それだけだ。

「……」

 箒で殴った私の手の方が痺れるとはどういうことだろうか。箒を床に落としそうにあるが、何とか握りしめて華扇から逃れようとしたとき、華扇が床の木の板を踏み砕きながら私に接近した。

「…っ…!!」

 強く肩を掴まれた。歌仙が私の胸に掌底を食らわせる。

「あ……かぁ…っ……!?」

 掌底の衝撃が体を突き抜ける。

 確かに掌底打ちされた時はその衝撃に息が詰まった。でも、私にダメージを与えたのは別の物だ。

 体の中にある内臓がかき回される。そんな表現しかできないような気分の悪くなる不快な感覚に私は叫び声をあげた。

 華扇の技で体内をめぐる魔力が大きく乱され、私は乱された魔力が元に戻るまで一時的に行動が不能になっていた。

 足から力が抜け、倒れそうになるが、もう一度私の胸に華扇が掌底を食らわせた。

 ドンッ!!

 さっきよりも強くて重い一撃により、私の体はくの字に折れて後ろにゆっくりと倒れていた。

「く……ぁぁ……っ!?」

 体中のあらゆる筋肉が変に緊張して体の自由が利かず、起き上がることも悲鳴を上げることもできない。

 投げ出された私の右手が動かないように華扇が右手を左足で踏みつけた。

「…う……ぁっ……!!」

 指一本すら動かすことのできないような状態で華扇が右足で私の二の腕のあたりを踏みつける。

「……な……に…を……」

 私が呟いた時、華扇が右足を上げて私の二の腕を強く踏みつけた。

 ゴギッ…!!

 魔力で強化された華扇の踏み付けは、私の途中半端に強化された腕を簡単にふみ潰し、砕いた。

 メキメキ……ベギッ!!

 右腕から異音が鳴り響き、腕とひじの間の二の腕が砕かれる。歌仙に押さえられていなければ変な方向に折れ曲がっていることだろう。

「ああああああああああああああああっ…!!」

 筋肉が変に緊張している今、本当に叫んでいるかもわからないが、私は神経を伝って伝わって来た激痛に叫んでいた。

 ドン

 ドンッ!

 ドンッ!!

 回数を増やすごとに強くなっていく華扇の踏み付けは、二の腕の骨が砕けて肉が潰れても続き、踏みつける音に少しずつ水気が含まれ始めている。

「………あ……ぐ……!?」

 そのころになるとすでに右手先の感覚など無くなっていて、指を曲げるどころか腕の全ての感覚が死んでいる。感覚がマヒしているのか痛みをあまり感じない。アドレナリンのせいだろうか。

「……」

 華扇がしゃがむと私の右腕を掴んだ。掴まれた感覚がないため、私は右腕の方向に顔を傾けた。

「…っ…!?……う…腕が……!!」

 辛うじて動くようになっていた左手を華扇に延ばすが、華扇はそれを手で払いのける。

 血でまみれ、華扇の足で拭きつぶされて千切り取られた私の右手を華扇はじっくりと眺める。

 腕にしか興味はないのか、私のことを抑え込まなくなった華扇から私はやっと動くようになってきた体で逃げる。

 這って逃げていたが、ある程度離れたところで私は立ち上がった。

 千切り取られた右腕を見ると、やはり二の腕が潰されてなくなっている。右腕を失ったという現実に、私は強いショックを受けていた。

「……っ…!」

 ぐちゃぐちゃにつぶされた傷口から絶えず血が漏れているため、失血死しないように私は傷口を強く押さえて止血する。

 バキッ!!

 そんなときに私のちょうど真上の木が折れて私に向かって炎で包まれる木材が落下してくる。

「うあっ…!?」

 飛びのくことで間一髪で私は避けることができた。

 そろそろ命蓮寺は時間切れのようだ。私は左手を床について体を持ち上げて立ち上がり、炎の熱気に顔を歪ませながら外に出ようとしたとき、また何かが折れる音がした。

「…っ…」

 また自分の上の木が折れたという可能性もあるため上を見上げるが、天井が倒壊する様子はない。それどころか木が落下して何かが落ちたという音自体がしない。

「…?」

 視線を下げた時、音の正体が分かった。

 華扇が物凄く怒った剣幕で私のことを睨みつけ、千切り取った私の右腕を握りつぶしているのだ。

「……私の……私の腕を返せ……!!」

 華扇が私を睨みつけてそう呟く。

「待てよ…華扇……おまえの腕のことなんて知らないぜ……」

 無駄だと分かっていても私は歌仙の濡れ衣に言い返した。

「かえせぇぇぇぇっ!!」

 華扇が私の折れた腕を投げ捨ててこちらに向かって飛び込んでくる。

「知らないって言ってんだろうが!!」

 私は歌仙に向けて左手を向け、最大出力でレーザーをぶっ放す。

 だが、華扇にレーザーがあたると華扇のすがたが徐々に薄くなり、消え失せる。

「またかよ……!!」

 そう呟いて私が周りを見回そうとしたとき、隣に立っていた華扇にわき腹に拳を叩きこまれた。

「~~~~~~っ!!」

 私の体が浮き上がり、天井に背中を打ち付け、床が炎に包まれる場所に落ちてしまう。

「あああああっ……!!」

 炎に焼かれるという痛みは今までに体験したこともないもので、生きたまま焼かれるというのは、恐ろしいものだということを私は身をもって知った。

 私は苦手は水の魔法を使い、自分の頭から水を大量にぶっかける。

 じゅぅぅぅぅぅぅっ!

 高温の炎が低温の水によって消火されてさっきの煙玉のように白い水蒸気の煙を上げた。

 熱い水蒸気の熱に私はせき込む。

 体中が炎に焼かれたのと舞い上がる煤によってところどころ煤だらけで黒くなっている。

 ギッ…ギッ…!

 華扇が床に座り込む私に向かって歩み寄り、私の髪の毛をむしり取る勢いで掴んだ。

「うっ……」

 私の頭皮を掻きむしるようにして華扇が持ち上げた。

 華扇が、拳を握りしめて私に振り下ろした。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。

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