それでも良い方は第十二話をお楽しみください。
鍵を開けて中に入り、大妖精が入ったのを確認してドアを閉めて鍵をかける。カーテンを締めて外からこの家の中が見えないようにした。
ようやく一息つくことができて、私は椅子に座り込んで嘆息を漏らす。
「……適当に座ってくれ…大妖精」
あまり家などには入ったことがないのだろう。おどおどしている大妖精に言うと、大妖精はとりあえず机を挟んだ向こう側の椅子に座る。
「……大妖精……何かこの異変について知っていることはないか?」
席から立ち上がり、棚から無くなった爆発瓶やマジックアイテムを取り出してポーチの中に適当に放り込んでいく。
「……私が知っていることなんて何もないですよ?…ぴかっと光ったと思ったら、その光を見たチルノちゃんに襲われたんです」
大妖精が私にそう呟いた。
「……そうか…」
大妖精の血まみれの格好から見るに、チルノにかなり手ひどくやられたらしい。
「……そう言えば…。光が見えたって言ったよな?」
「う、うん」
「……それを誰がやったのか…わかるか?」
私が聞くが大妖精は顔を横に振る。
「すみません。わからないです……でも、…何かにつながるかわかりませんが……一昨日は村に命蓮寺の人が向かって言っているのを見かけたんですよ……」
大妖精が思い出したことを私に伝えた。
「命蓮寺の連中が村に…?めずらしいな……それ、誰がいたかわかるか?」
「……えーと…たしか聖さんだったと思います…」
「聖が…?……一人だったか?」
「……はい、一人でした」
なぜ、村なんかに聖がいたんだろうか。自分たちの宗教を広めるためだったとしたらタイミングが良すぎる。もし、そうだったとしても、あの村の状況から見て聖たちもおかしくなっているのは間違いない。
「……また厄介な奴が……」
私は呟き、深いため息をついた。
「…魔理沙さんはこれからどうするんですか?」
大妖精が私に言いながらこちらを見た。
「……異変の解決をするために動くぜ…霊夢もおかしくなって奴らの側にいるんだ。なんとか霊夢を元に戻すまでは残った私たちが異変を解決するために動くしかない」
私は言いながら机の上に散乱しているマジックアイテムなどに目を落とした。普段客人なんて来ないから散らかってしまっている。片づけておけばよかった。
「……私も…異変解決を手伝わせてもらってもいいですか?」
大妖精が霊夢が光でおかしくなってしまっているということに驚きながらも、それでも私に言った。
「……大妖精?」
大妖精は温厚で、あまり戦闘などを好まない。だがらその提案に少しだけ驚いた。
「足手まといになると思いますが、…どうしても手伝いたいんです…願いします…!」
大妖精もさっき見た通り、チルノに襲われていた。そのチルノを元に戻したいのだろう。
「……いいぜ、こちらこそよろしく頼むぜ、お前の能力はかなり便利だ……おまえが使いこなせればかなりの戦力になるだろうしな…」
「ありがとうございます…!…できるだけ足手まといにならないように頑張ります」
大妖精が力強く意気込みを見せてくれた。
「ああ、頼りにしてるぜ」
私が言うと、会話が途切れて沈黙が訪れる。
「………。魔理沙さん……聞いてもいいですか?」
ボーっとしてしまい、さっきのアリスのことを思い出してしまい、涙が溢れそうになっていたのを大妖精が声をかけてきたことによりなんとか涙をこらえて大妖精の方を見た。
「…どうしたんだ?」
「……魔理沙さんの髪の毛とか…どうしたんですか?」
「あー……話せば長くなるぜ……それに、信じられないようなことだから話しても、時間の無駄だと思うぜ」
壁に立てかけてある鏡の方を見ると、見慣れぬ自分が私を見返している。
白髪に赤い瞳、それだけ見ればアルビノと呼ばれる遺伝子の病気のようにも見えた。
しかし、私の肌の色は以前変わらず黄色人種特有の色だ。まあ、私はもともと白っぽくてますますアルビノっぽく見えるわけだが。
「……そう、ですか…」
大妖精が呟く。あんなこの世とあの世の境にいるアトモス君とアトラスの話なんかしても、どうせ誰も信じてくれないだろう。私だって信じない自信がある。
「…それと、あの天人の方はどうしたんですか?」
「……あいつは…」
「まさか、魔理沙さんが倒したんですか…!?」
大妖精は目をキラキラと輝かせながら私に言った。
「いや…私は何も……」
名前も教えてもらえる暇もなかった”彼女”の存在をどう伝えるか、どう表現したらいいかわからないから、とても困る。
「な……なんだか、よくわからないやつが現れて倒していったぜ」
私はだいたいあっている説明をした。
「…天人を倒せる人ってことは、かなり強い人ですよね?そんな人がいるなら、私たちにもまだ勝機はあるってことですよね?」
大妖精が真剣に考え始める。
「そう…だな……。とりあえず…命蓮寺に向かおう。大妖精が村に向かう聖を見たってんなら何かつながりがあるかもしれないぜ」
私はそう呟いた。
「はい、わかりました」
そう意気込む大妖精に向けて私は家から出る前に忠告した。
「初めに言っておく、私が異変を起こした連中に勝てない可能性の方が高い……だから、私が負けたら私に構わず逃げろ…いいな?」
「…えっ……でも…」
「でもじゃない…絶対にそうすると約束しろ……私について行かないといけないわけじゃない。その時は逃げてチャンスを待つんだ」
私がそういうふうに大妖精に伝えると、大妖精が覚悟を決めた目でこちらを見た。
「……わかりました。じゃあ……魔理沙さんも約束してください…私は死んでも生き返るので…私が死んでも無理をして死体を回収しようとしないでください」
大妖精がそう言って私を見上げてくる。
「………わかった」
仲間を切り捨てえるという覚悟は今回の異変には必要なことだろう。戦いでは死の可能性というものは常に付きまとう。片方が倒れ、もう片方が助けに行けば下手をしたら共倒れになってしまうこともあるだろう。
こいつを絶対に守り切れる保証はどこにもない。だからこれは必要なことだ。
私はそう自分の考えをいいように正当化して椅子から立ち上がった。
「…命蓮寺に行くとしようぜ、大妖精」
「…はい!」
私と大妖精はドアをあけ放ち、外に飛び出した。
木製の天井や壁、カーペットなどが敷いてある床を炎が這う。
炎がついていた乾いた木がパチッとはじけ、火の粉が散らばってそれらが火種となって炎が燃え広がっていく。
「…ぐっ……!」
力が入らず震える手足に鞭を打って自分の胴体を持ち上げた。
呼吸をするとむせ返すような熱気にせき込んでしまう。
「げほっ…!!」
私はせき込みながらも、口元を押さえて熱気を吸い込んで肺や器官を火傷しないように体を持ち上げて歩いた。
炎で焼けて炭化した棚の土台が棚自体の重量とぎゅうぎゅうに詰め込まれた本の重量に耐え切れずに砕け、勢い良く倒れた。
燃えていた本も燃えていなかった本も投げ出されて炎で燃え盛る床に散らばり、炎の薪となる。
棚が倒壊したことによる衝撃で発生した温風に私は顔をしかめた。
ゴォォ……。
その風に乗って飛んできた火の粉が私の服に着き、燃え移る。
「…うっ……!?」
私は手で燃え移った炎をはたき消した。
「………くそ……」
私はそう呟きながら服が燃え移った時に少し火傷した手首を少ない魔力で回復させながら歩く。
住み慣れた家が焼けていく。長い間住んでいるうちにできていたたくさんの思い出が消えて行く。
「…おまえは弱すぎる……いらないねぇ」
私の後方の低い位置から声をかけられた。
「……っ!」
弱すぎる。その言葉に私は歯噛みする。
大切な人のために全力で戦った。でも、彼女には手も足も出ずに蹂躙された。
その圧倒的な力の差に私は絶望するしかない。
「恨むんなら、お前の聞き分けの悪い主人を恨むことだな」
そいつはそう言いながらいつものように酒を煽る。
「…そもそも、……お前たちがこんなことを始めなければ…こんなことにはならなかった
……!私の主人が悪いだと…!?……悪いのはお前の方だろう…!!」
至近距離であれば、近接戦闘術の方が弾幕よりもはるかに速い。私は振り向きながら彼女に殴りかかる。
「…本当にそうかな…?」
私の全力の拳をまるでキャッチボールでもしているかのように奴は受け止める。
「……っ!!」
「お前がもっと強く、私を倒せることができていたなら…こんなことにはならなかっただろうなぁ……すべてを守ることのできなかったお前が悪い……つまり、恨むんなら自分を恨めってことだ」
彼女は私を掴んでいた方とは逆の手を突き出し、私を吹き飛ばす。
ただ押した。そんな簡単な動作なのに私の体は浮き上がり耐久力の無くなった棚を砕いていき、最後は壁に背中を打ち付けてようやく止まった。
「ぐあっ……!?」
私は叫び声をあげながらまだ燃えてはいない床に倒れこんだ。
「そこで大人しくくたばんな」
奴はそう言いながら私の主人や上司を連れて歩いて行く。
「…ま……て………!!」
私は地面をはいずって奴を追う。
ぶつかった時に頭を切ったのかドロリと血が流れてくる。右目にそれが入り、オレンジ色だった視界を赤く染める。
私が壁にぶつかった衝撃で建物がその形を維持することができなくなってしまったのだろう。
私に向かって炎に包まれた大量の建材が降り注ぐ。
怒りや憎悪で包まれる私は、それを血で赤く染まる視界で見ていることしかできなった。
黒い黒煙があちこちから立ち上っている。
「けほっ…」
周りに漂うその火事の匂いに私はせき込んでしまう。
「…大丈夫ですか…?魔理沙さん」
大妖精が周りを不安そうに見まわしながら私に言った。
「……大丈夫だ…」
私は口元を押さえながら呟く。
でもその行為は煙を吸わないようにするためではない。
「………」
私と大妖精はきっと真っ青な顔でこの光景を眺めていることだろう。
「……遠くからみえていたから……多少は予想していたが……」
どこを見ても死体だらけの命蓮寺を私は歩く。
「……これは……酷いですね…」
大妖精もこれ以上ないぐらい真っ青な顔で私についてくる。
「……くそ…」
私は吐き気を無理やり抑え込み、知り合いがいないかを確かめながら歩く。
「……大妖精、きついなら外で待っててくれても構わないぞ」
私は後ろを無理やりについて来ようとする大妖精に言った。
「……す…すみま…せ………」
大妖精が不自然なところで言葉を切り、ふっとその姿が消え失せた。
限界だったらしい。大妖精を馬鹿にはできない。私もいつまで我慢できるかわからない。
「……」
どの死体もバラバラのぐちゃぐちゃで損傷が激しい。
潰れて千切れた手足、潰れた胴体、砕かれた頭から飛び出した視神経が付いたままの眼球。
真正面から見れたもんじゃない物がたくさん転がっており、私は吐きそうになって地面に崩れ落ちる。
だが、なんとか吐き気を抑え込み、マラソン直後のように肩で息をして息切れしながら立ち上がる。
頭をたたきつぶされた寅丸星、ズタボロの村紗水蜜、腕と下半身を吹き飛ばされている雲居一輪、壁に叩きつけられてぐちゃぐちゃに弾けているナーズリン。
どいつも顔なじみの奴だ。ほかにも、命蓮寺に通っている人間もまるで体内で爆弾が爆発したように弾けていたり、潰れていたりしている人間の死体がたくさん転がっている。
大量の血がさまざまなところに飛び散っていて、どこにいても血の匂いがねっとりと纏わりついて気分がさらに悪くなる。
「……」
縁側に上がり、私は命蓮寺の中に入った。
私が一歩進むごとに床に使われている古い木の板がきしむ。
黒い煙が命蓮寺の中から出ている。出火元は恐らく台所だろう。煮物にでも火をかけているときに光を見たか襲われてそのまま放置され、中身の水が蒸発してしばらくしてから出火したため今頃になって火事になっているのだろう。
火はかなり広がっているが、生きている奴を探せないほどではない。今のうちに探して助け出さなければならない。
障子や天井に赤黒く変色した肉や脳漿がこびりつき、異臭を放っている。
私は急いで周りを見ながら走っていると血だまりに足を突っ込んでしまい、血が大きく跳ねた。
もう、だれも生きている人間もしくは妖怪はいないのだろうか。
ここで諦めたらもし生きている奴がいた時に助け出せず、聞けることも聞けなくなってしまう。私はあきらめずに生存者を探す。
しかし、それをあざ笑うかのようにあるのは死体、死体、死体。
庭にいなかったため生きているのではないだろうかと思った奴の死体を廊下の端で見つけた。
両手と両足を叩きつぶされているぬえの死体だ。下半身がつぶされていて血反吐を吐いた跡が口元についていた。
庭にいた寅丸たちもそうだが、人間は別としても魔力操作をできる妖怪なんかを一方的に叩き潰すことのできる奴なんてそうそういない。いても限られてくる。
鬼、もしくは花の妖怪、風見幽香。可能性として聖だ。
大妖精は二日前の異変が起こった日に村に聖が来ていたと言っていた。そこで例の光を見ておかしくなった聖が命蓮寺の連中を殺したとも考えられる。
人間や妖怪も例外なくおかしくなるこの現象。わからないことが多くて正解なのか間違っているのかわからないが、おかしくなった霊夢や文を見ていて思ったことがある。
本人たちの感情が影響しているのだろうか。
だが、リグルやミスティアはそういう感情に左右されている感じではなかった。
「……」
もう少しそういう連中と戦って様子を見るしかなさそうだ。
食堂は既に炎で埋め尽くされており、広間を歩くがやはり潰れた死体しかない。
あらかた見回って命蓮寺の中には生きている奴はいないということが分かった。
私は燃える命蓮寺の障子を蹴り破り、そこから庭に出て避難した。
私が命蓮寺に入っていた数分間の間、たったそれだけの時間でかなりの範囲を炎が燃え広がっている。火事とは恐ろしいものだ。
私は命蓮寺の庭を見回して違和感を感じた。どの死体も体のどこかの部分が欠損もしくは潰れているのに、水蜜だけが体を切り裂かれたり殴られて死んでいるのだ。体が潰されていたり、欠損はない。
水蜜の体に触れて起こすが、既に死んでいて冷たくなっている。
「……」
開いたままの目と視線があう。彼女のよどんだ瞳から目をそらして私は瞼を閉じさせて地面に寝かせた。
さっきまでたっていて気が付かなかったが、水蜜を起こすためにしゃがんだため、命蓮寺の床下が見えた。
「お前………響子……だよな…?」
床下で箒を抱えて震えている少女に私は語り掛けた。
たぶん明日も投稿すると思います。
駄文ですがよろしくお願いします。