もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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今回だけオリジナルキャラクターが出てきます。

それでも良い方は第十一話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第十一話 授けられた能力の使い方

 ボッ!

 何かが小さく爆発するような音が薄っすらと聞こえた。意識が瞬きする間だけ消え、気が付くと私と私に食らいついていたチルノちゃんは空中に投げ出されていた。

 見えない場所に瞬間移動するのに壁の中でないだけましだろう。

「なぁっ!?」

 私でもチルノちゃんの声でもない。子供のような声ではなく、もう少し大人っぽい声がする。

 声の方向に顔を傾けると、箒に乗った魔理沙さんが止まることができずに全速力で私たちに迫ってきていた。

 

 ボッ!

 炎が点火したときのような音がして、何もない私の進行方向の空間にいきなりチルノと大妖精が現れた。大妖精の能力で間違いはないだろう。

 よく見えなかったが、二人とも血まみれで襲われていたのだろうか。二人に当たらないように減速をしようとしたが、飛んでいる魔女は急には止まれない。

 ガツン!!

 二人に正面衝突し、バランスを崩した二人を巻き込んで私も地面に転げ落ちることとなる。

 かなりのスピードを出していたため、少し長い距離を転がった。

「ぐっ…!」

 地面に転がり落ちた時、体中いろいろなところを打ち付けたのかズキズキと痛む。痛みが引かない肩を左手で押さえ私は立ち上がる。

「……おい…大妖精に…チルノ…大丈夫か?」

 私は足を引きずりながら倒れている二人に近づいた。

 チルノと大妖精がもみ合いになっていて、私は二人が喧嘩しでもしているのかとのんきに思っていた。

 だが、地面に押さえつけられている大妖精の悲鳴に私は戦闘態勢に入る。

 大妖精に覆いかぶさるチルノの背中をレーザーで撃ち抜いた。

「あがっ!?」

 正面しか見ていないチルノがそれをかわせるはずもなく、心臓を撃ち抜かれたチルノしばらく苦しんだ後に力が抜け、ぐったりと地面に横たわった。

「大妖精!…大丈夫か!?」

 私は倒れたチルノを大妖精の上からどかした。

「ま……魔理沙…さん……すみません……」

 初めはいつもと違う私の姿に怯えを見せたが、おかしくなっていないとわかると少し安心したようにつぶやいた。

 大妖精の怪我はチルノ以上にひどく、体の一部を損傷している。

「…大丈夫…じゃないな…」

 私は治療を促進させるマジックアイテムを取り出し、ふたを開けて中身の液体を大妖精にかけようとしたとき、チルノの体がビクンと震える。

 胸に当てたレーザーは対した威力ではない。チルノの再生がすでに始まったのもうなずける。

 今頭を吹き飛ばせば多少なら時間が稼げるかと思ったが、魔力の無駄だ。死んで回復しているときに追加でダメージを負わせてもあまり効果がなかったのを思い出したのだ。

 ビギギッ!!

 チルノの胸に空いた穴が再生を始める。

「……予想以上に早いな……」

 治療を一度中断し、私は大妖精を背負った。

「…大妖精!…揺れるぞ!……しっかり掴まっておけ!」

 私はチルノから逃げるように走り出す。もともとあまり体力のない私はすぐに息が上がって速度が落ちるが魔力で体を強化して走る。

 大妖精が振り落とされないように私の肩をできるだけ強く握りしめる。

 大妖精の血が地面について追跡されるようなヘマはできるだけ犯してはいない。だが、大妖精の出血量が多く、徐々に地面に血痕を残し始める。

 近くに川があればそれを利用してどこに行ったかわからなくさせることができるが、近くに川など流れてはいない。

「…はぁ……はぁ……大妖精……大丈夫か?」

 私は走りながら背負っている大妖精に話しかけた。

「…………」

 大妖精は答えない。

「……大妖精?」

 私は振り返ろうとしたときに気が付いた。さっきまで赤子のような握力で私の肩を掴んでいた大妖精の手から力が抜け、さらにその手は肩から離れて重力に従ってゆれている。

 ぐったりとした人形のような大妖精の体がゆっくりと冷たくなっていく感覚が服越しに伝わり始めた。

「………」

 こいつが妖精でよかった。死んでよかったというのは大妖精に悪いが、それでもこいつは一回休みで生き返ることができる。そうでなければ私は泣き叫んでいたかもしれない。

 友人が殺され、死んでも生き返るとはいえ知り合いが無残に殺されたのだ。悲しくないはずがない。

 しばらくすると大妖精の無くなった右手が再生をはじめ、冷たくなっていた体から熱が発生し始める。

 もうじき大妖精も目を覚ますだろう。その前に誰にも見つからない安全な場所に逃げ込みたい。そうして一度体勢を立て直したい。

 だが、そう簡単に事は進まないだろう。周りにこちらに殺意を向けている奴がいる気配を強く感じる。

 二人分の足音、長く森で生活していたためどれだけの人数で動いているなどは反響していてもある程度はわかる。

 一人一人で別々に行動している、仲間ではないだろう。一人は私が向かっている方向からくる。

 あと三十秒もすれば奴らの姿を視認できるだろう。

 もし、昨日のような濃霧が発生していれば、やり過ごすことも可能だったかもしれないが、それはそれでデメリットもある。

 私から見て後ろ、今来た方向からくる奴の方が早い。おそらくチルノだ。

 背負っていた大妖精を下ろして木に背を預けるようにして寝かせた。

 小さな鏡をポーチから取り出し、木の幹から少し出して反射を利用してチルノの姿を確認した。

 こちらに向かって一直線で進んできている。

 私はすぐさま手のひらにレーザーを撃つために魔力を集中させ、目線に重なるようにできるだけ配慮して鏡の中のチルノに向けてレーザーをぶっ放す。

 レーザーは鏡で反射し、こちらにまっすぐ進んでいたチルノに命中した。だが、持っていた手がズレていたのか、目線と同じように撃てなかったのか、定かではないがチルノを戦闘不能にするほどのダメージは与えられなかった。

「っち…!」

 私は舌打ちしながらチルノが来ている方向とは逆方向を向き、太い木の幹を蹴り折りながら突っ込んでくる天子に鏡を分投げた。

 天子の額に当たった鏡は弾かれて回転しながら地面に落ちて転がる。

 足止めにもならない。

 私は身体を力で強化し、脳を活性化させ一つでも多くの情報を視覚から収集する。

 チルノも氷の剣を作り、天子と挟み撃ちになるように剣を振る。

 同時に振られた二つの剣のうち天子の緋想の剣を避けることはできた。しかし、チルノの氷の剣が私の肩に突き刺さった。

「ぐっ……!!」

 体を捻って耐久性のない氷の剣を壊し、天子の二撃目を食らわないように大妖精のそばに下がった。

 大妖精を守れる位置に陣取り、天子とチルノにレーザーを放つ。チルノが横にさけ、天子がレーザーを食らいながら突っ込んでくる。

 地面を這うように低い位置から緋想の剣が私の頭めがけて下から振りあげられる。

「……っ!!」

 剣が帽子を掠め、冷や汗を掻く。持っていた箒を振りかぶって天子の頭に叩きつける。

 箒を強化していても折れるのではないかと思うほどに弓のように箒が曲がった。

 チルノにレーザーで牽制をしながら天子から少しだけ距離を取る。天子の狙いは私であって大妖精ではない。チルノにさえ気を付ければ大妖精は天子に襲われることはないはずだ。

 鋼のように固く、ダメージの通りにくい天人とは戦いにくいことこの上ない。私がやりあいたくないやつの一人だ。それに、天子だけでもやばいというのに、大妖精を守りながら戦わなければいけない。そんな状態でこいつらに勝てるのか。

 初めから敗色濃厚のこの戦い。逃げたいところだが大妖精も連れて行かなければならない。逃げ切れる可能性はかなり低いし、他の連中とも会ってさらに数が増えるのも困る。こいつらはこの場所で倒さなければならない。

 私はそれらの負の感情を振り切り、右手の手のひらに魔力を集中してどちらが先に来るか睨みつけた。

 レーザーを撃つ寸前にして淡く光らせ、天子たちをわずかに警戒させる。

 チルノがじれったくなったらしく迂回するようにして私に接近し、氷のつぶてを私に浴びせかける。

私は集中してそれらを必要最低限の動きで避け、チルノの胸に光る右手で掌底突きを食らわせた。

 それ自体にダメージがあるわけではない。右手にためた魔力を一気に放出。しかしそれはレーザーとしてではなく、爆発のように放出させた。

 爆発的に体積を増やした魔力の粒子の衝撃にチルノの姿が消え失せる。

 爆弾と同じだ。体積が一気に増えればその分衝撃波もすさまじい。近くにいればいるほど。でも、私にダメージはない。魔力操作で正面だけに出したり、バックブラストの要領で衝撃を逃がした。

 チルノがどこまで吹き飛んだかわからないが、二対一の状況から一対一の状況に持ってこれたのは大きい。

 そう思ったとき、回り込んできていた天子が私の胸に緋想の剣を突き刺した。

「な…っ……!?」

 後ろにある木に体を縫い付けられてしまった。

 地面に座っている大妖精には当たっていないようで安心したが、緋想の剣に当たっている私が大丈夫ではない。

 根元まで突き刺さっている緋想の剣を掴んで引き抜こうとしてもピクリとも動かない。緋想の剣は天人にしか扱えない。私がこうやって抜こうとしても一切動かなくなってしまうのだ。

 まるで物語に出てくる選ばれし者しか扱うことのできない剣にこうやって縫い付けられてしまっては、全く身動きがとることができないというか物凄く痛い。

 痛みで失神してしまいそうだ。

「うぐぅ……っ!!」

 接近している天子に苦し紛れにレーザーを撃とうとしたが天子に跳ねのけられた。

 天子が掴んだ緋想の剣を上に動かし始める。そのまま行けば私の頭を両断して私は殺される。

 だが、腹を切られる激痛に私は苦しむことしかできない。

 ここまでなのか。私が意識を失いかけた時、私の体が自然に動いた。天子の腹を強化した体で思いっきり蹴飛ばしたのだ。

 天子の体が後ろによろけ、それと同時に天子が握ったままの緋想の剣が私から引き抜かれた。

「……せっかく私が来たというのに、能力を使う前に死ぬことは許さん」

 話したのは私ではない。しかし、いつもの聞きなれた声が頭の中に響く。

 何が起こっているのかわからず、私は困惑する。私が声を出そうとしても声が出せないのだ。

「…安心しろ。アトラスに能力の使い方を教えてやれと言われているのだ。教えたらすぐに帰る」

 いつもの私とは違う凛とした話しかた。周りから見たら私が独り言を話しているようにしか見えないだろう。しかし、私はそんなことに気が回らない。

「…貴様は思うだけでいい。それで伝わる」

 なるほど。とりあえず、あんたは何者なんだ。

「貴様が持った能力を元々使っていた。いわゆる前任者だ」

 口調が男らしい。男性なのだろうか。男の人でも自分のことは私というし、でも、アトラスは”彼女”と言っていた。女の人なのか。

「…私は女であっているぞ」

 本当に考えただけで伝わるようだ。しかし、変な感覚だ、視覚や聴覚、痛覚はいつも通りなのに体が動かない。

「……さてと、あのゴミクズ野郎をぶちのめせばいいのか?」

 コキコキと首を鳴らしながら彼女がいった。

 意外と口が悪い。

 ああ、殺さない程度に頼む。

「初めに、この能力は血を使うことによって使用することができる」

 そう言いながら”彼女”は手を口の位置にまで持っていき、親指に噛みついた。犬歯が皮膚を切り裂き、痺れるような痛みが広がる。

 傷口から溢れてきた血をなめとり、血液を嚥下した。

 魔力で親指の傷を治して今まさに緋想の剣を振り下ろそうとしている天子に向き直る。

 ドックンと心臓の鼓動が高鳴り、体の奥底から何かが湧き出てくる感覚がした。

 私ではかわせないだろうというほどの速度で振られた緋想の剣を”彼女”はしゃがむことによってかわした。

 パァン!!

 何かを蹴ったような鋭い音がする。しゃがんだ状態のまま彼女は天子の足を払ったのだ。天子の体が宙を舞う。その隙だらけな天子に拳を振りぬく。

 拳が当たった天子の顔が苦悶に歪み、吹き飛んだ。ダメージがあったということだろうか。

  十数メートル浮いた状態で進んでいた天子の体は木にぶつかることでようやく止まった。

「ふむ。かたいな」

 魔力で強化した手が赤く腫れている。

「…ははは……あははははははははははははっ」

 天子が楽しそうに笑い始める。

「…あと、この能力は時間制限付きだ……量によって使える時間などが変わる」

 そうか。でもそもそも、この能力はどんな効果があるんだ?

「力を倍増する能力だ……魔力量だったり、力だったり防御力だったり…いろいろなものに使える」

 なるほど。

 私がうなづいた時、天子が緋想の剣を上段にかまえて私に切りかかってくる。

 体が横にズレ、緋想の剣は私を切り裂くことなく地面に突き刺さった。私の手が握りこぶしを作り、天子に殴りかかる。

 ドゴォッ!!

 しかし、天子の能力で地形が変形。私がいる位置が陥没し、天子がいる位置が上がって私の手が地面にめり込んだ。

「っち…」

 手を引き抜こうとしたとき、天子が緋想の剣をこちらに向けた。緋想の剣の炎が増幅し、火炎放射器のようなレーザーが放たれた。

 この場所では袋の鼠だ。オレンジ色以外何も見えなくなった。

 魔力で強化した体がレーザーで焼かれたと感じたのはつかの間、オレンジ色の炎がかっ消えた。

 ドンッ

 視界が凄いスピードで動き、跳躍したのだと場所が変わってようやくわかった。

 天子の横に着地すると同時に天子に殴りかかる。

 天子がこちらに緋想の剣を振り、私の拳と当たらずにすり抜けるようにして私の手を切り裂いた。

 剣で切り裂かれた右手に激痛が走り、ズキズキと痛む。

「…おい、あの剣はなんだ?すり抜けたぞ?」

 聞かれた私は緋想の剣について知っていることを”彼女”に伝えた。

「…なるほど、あいつらしか使えない剣と来たか」

 ”彼女”はそう呟き、切りかかってきた天子の緋想の剣を避けた。

 がッ!!

 膝を後ろから蹴り、天子の膝を地面に打ち付けさせた。そのうちに緋想の剣を持っている天子の手を掴み、捻って緋想の剣で天子自身に自分を切り付けさせた。

「がっ………あぁぁっ!?」

 天子が叫び声をあげ、倒れそうになった時に”彼女”が天子を蹴飛ばした。

 天子が地面を転がり、しばらく痙攣していたがそのまま動かなくなる。

「能力の時間は量によって変わる。時間に気を付けろ……それとこの体になったということは生命力が上がったということだ。ちょっとやそっとのことでは死ななくなるから、あとは頑張れ」

 そう言うとこちらの了解も聞かずに彼女の存在が私の中から消えた。すると、体が自由に動くようになる。

「………おい、あんた……まだ聞きたいことが山ほどあるんだが……」

 私が話しかけても返事は帰ってこない。本当にいないようだ。

「……はぁ……」

 ため息をつきながら私は大妖精の方向を見ると、もう傷が治っている。そのうち目が覚めるだろう。

 私は周りを見回して魔法の森のどの場所にいるか割り出した。この場所から自宅まではそう遠くはない。箒を拾い上げて大妖精の方向に向かった。

 まだ眠っているため、大妖精を背負って私は箒に乗り、空を飛んだ。

「……」

 大妖精のさっきまでぐったりとしていて重かった体が軽く感じる。大妖精が体重移動をしているらしい。

「……起きていたのか?大妖精」

「…今起きたんです……すみません魔理沙さん…」

 大妖精の小さなつぶやきが聞こえた。

「…大丈夫だよ……」

 私は見えてきた自分の家の庭に着地し、大妖精のことをその場で下した。

「…一度、私の家で休むことにしようか」

 大妖精を家に招き入れた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。

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