もう一つの東方鬼狂郷   作:albtraum

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今回、原作にはないオリジナルの設定が存在します。

それでも良い方は第十話をお楽しみください。


もう一つの東方鬼狂郷 第十話 比那名居天子

 盛り上がって爆発した壁の破片が大量にこちらに向かって飛んでくる。その中でいくつかは私にもあたった。

「あぁっ…!?」

 爆発の衝撃と爆風に煽られて私の体は浮き上がり、後ろに吹き飛んだ。

 後ろの締まっていなかったドアを飛び越え、机の上を転がって床のに落ちてようやく止まった。

「…なんだっていうんだ……!?」

 私は頬を伝う涙を拭い、アリスの寝室の方向を見た。

「…ふふふっ」

 そう笑う女性はアリスの死体を乗り越えて私の方向に歩いてくる。

「…おまえもかよ……ちくしょうが…!!」

 私は吐き捨てるようにつぶやいて横に飛びのき、爆発の衝撃で倒れていた箒を乱暴に掴みとって窓を体で突き破りながら箒の上に立ち、空を飛んだ。

「…っち…」

 私は舌打ちしながらポーチの中に手を突っ込む。

 ポーチの中に入っている爆発瓶やミニ八卦炉などのマジックアイテムをどかし、ポーチの奥から瓶を取り出した。瓶の表面には私しか読むことのできない小さな閃光瓶だと表すラベルが張られている。

「……」

 私はアリスの家を見下ろし、ドアを蹴り破って出てきた人物を眺めた。

「…比那名居天子……!」

 緋想の剣を片手に天子は私を見上げる。

 赤い瞳の周りを紅い炎のようなオーラが揺らめいているのが遠目で見ていてもわかる。

 あの天人すらも狂っているとは思ってもいなかったが、よくよく考えれば霊夢すらも狂ってしまっているのだ。可能性はあっただろう。

「…」

 天子の体は咲夜のナイフすらも跳ね返すほどの頑丈さを誇るのだ。私のレーザーが通るかわからないな。

 こいつは相手にしない方が利口だろう。私は閃光瓶に魔力を注いで閃光瓶を強化し、投げようと瓶を握りしめた時、

 ドォッ!!

 投げるモーションに入っていた私に向かって天子が跳躍した。

「はやっ…!?」

 私は予想以上の速さに驚くが、何とか反応することができた。

 緋想の剣が私に向かって振りきられる。だが、当たる寸前に私は後ろに体重移動をして体をずらす。炎の剣が鼻先を掠め、かすった部分がチクリと痛む。炎の形をした剣なのに不思議と熱を感じない。

 私は目と鼻の先にある天子に目を閉じて瓶を叩きつけた。

 瞼の上からでもわかるほどの真っ白な光が視界を埋め尽くし、鼓膜を爆発音が刺激してそれ以外の音が全く聞こえなくなる。

 天子から急いで離れようとしたとき、天子に胸倉を掴まれて私は移動することができなくなっていた。

「なっ……!」

 光が収まり始めた時、白色で埋め尽くされる視界の中に私を掴む天子の姿が薄っすらと見えた。

「ふふっ…!!」

 天子が笑いながら緋想の剣の剣先を私に向ける。

「っ!!」

 見た目は柔らかそうな剣なのに、炎の剣は私の胸を切り進み、背中まで貫通した。

「…かはぁっ……!?」

 異物が自分の皮膚を筋肉を骨を内臓を貫く不快感に耐えがたい激痛。筋肉が硬直して私は叫ぶこともできない。

 そんな私から天子は緋想の剣を引き抜き、薙ぎ払うようにして回し蹴りをしてきた。

 剣を引き抜く激痛にも硬直していた私は避けることなどできるわけもなく、蹴りをわき腹に食らう。

 ミシッ!

 と肋骨が嫌な音を立て、始めの爆風の時よりも私の体は地面と平行に進み、木に突っ込んだ。

 枝をへし折りながら私は地面に転がり落ちる。

「…うぅ……くぅ…」

 胸の激痛にうずくまる。だが、私は自分の手のひらを眺めて驚いた。血が全く出ていないのだ。それどころか服も切られていない。

 ずいぶんと長いこと天子と戦っていなくて忘れていた。天子の緋想の剣は肉体にダメージは与えない。イメージで言うならば、魂を斬ると言ったところらしい。

 死ぬことはないらしいが、普通の剣と変わらない攻撃力を持っている。

「ぐ……くそ…!」

 私は胸を押えながら立ち上がった時、空気の流れを感じた。いつもならば感ずくことのない僅かな違和感。私は上を見上げる。

 天子が私に向かって緋想の剣を振り下ろした。

 ザシュッ!!

 私の右肩から左わき腹まで緋想の剣は簡単に切り裂いた。

 私に突き刺した時と同様に緋想の剣は私の体に物理的なダメージを与えずに通り過ぎ、魂にダメージを与えた。

「あああぁぁぁあぁぁぁっ!!?」

 全身に激痛が走り、私は倒れそうになる。だが、天子が私の頭を掴んで後方の木に押し付けた。

「ぐぅ…!?」

「…くくっ」

 天子の指の隙間から天子が笑うのが見え、私は天子の腹を蹴った。しかし、岩を蹴ったような硬い感触に足が痺れる。

「…くそが……!」

 私は天子の顔手のひらを向けて、威力重視のレーザーをぶっ放す。

 白色のレーザーが天子の顔を包み込むが、私の頭を掴む手の力が抜ける様子は全くない。

「ぐっ…」

 ギチッ

 私の頭を握る天子の手にさらに力が込められた。

「クスクス……ほら…もっと本気で来なさいよ…私を楽しませて」

 そう天子が呟いているうちに私はポーチから爆発瓶を取り出し、魔力で強化しながら天子の後ろの地面に投げつけた。

 瓶が砕け散って真っ青な光が炸裂し、大爆発を起こす。

 爆発の炎と炎の高温で膨張した空気が広がり、爆風となって私と天子を吹き飛ばしていた。

「ぐうっ…!」

 天子の体で爆風や瓶の破片などが私の体に直接あたるのを避ける。投げ割った瓶が右側だったため、私と天子は左方向へと投げ出された。

 天子は前転をするようにして転がって受け身を取り、すぐに立ち上がる。

 私も地面に着地し、天子に手のひらを向けてレーザーを放つ。レーザーは天子の体を貫くことができず、天子の体に当たると、川にある大岩に当たる水のように天子を避けていく。

「っち…!!」

 このようすではマスタースパークでもきちんとした効果は望めないだろう。

そう思った直後、白い光の中にオレンジ色の光が見えた。

 オレンジ色のレーザーは私のレーザをかき分けて進み、かっ消した。

 私はすんでのところで横に転がってかわし、緋想の剣から出ているオレンジ色のレーザーを避けた。

「っ!」

 私が立っていた場所のさらに奥に生えていた木にレーザーが木に当たり、木の幹を貫いた。ギギギと嫌な音を立てながら木がゆっくりと地面に倒れた。

「…なんて威力だ……!!」

 私が顔を上げると目の前に天子が走ってきている。

「ふふっ…」

 天子が緋想の剣を振りかぶり、私の頭をたたっ切ろうとする。

「くっ…!」

 とっさに私は地面に手をつき、地面の中にあるマジックアイテムを埋め込んだ。

 それに魔力を注ぎ、私はすぐに手をどかす。すると、地面に埋め込まれた種が瞬間的に成長。種が根を下ろし、幹が太くなる。

 私が改造を施した種が巨大な針のような木へと成長した。

 ドゴォッ!!

 天子の体がくの字に折れ、私に向けて振っていた緋想の剣の軌道がそれて私の髪の毛を掠る。

 それと同時に木の衝突の衝撃で天子の体が後ろに吹っ飛ぶ。天子が無抵抗に飛んでいき、地面を転がる。

 ダメージが少なからずあったのかと期待したが、すぐに笑みを浮かべると、天子は上体をそらして立ち上がりはじめる。

「…!」

 私はさかさず立ち上がろうとしている天子に向けてレーザーを放ち、バランスを崩させた。

 私はアリスの家の方向に向かって走る。箒に乗ってとんずらするのだ。今の私に天子を撃破するだけの火力などあるわけがない。

 体を強化して走るスピードを上げ、上を見上げながら私は箒を探す。

 何かが空気を切り裂く音、霊夢がお祓い棒を振った時のブオンという音に似ている。私がとっさにしゃがむと、その頭の上を回転しながら緋想の剣が飛んでいく。

 私は冷や汗をかく。

 あぶない。もししゃがんでいなければ胴体をぶった切られていたかもしれない。

 私は後ろを向きながらポーチの中からマジックアイテムの煙玉を取り出して、魔力で強化してから地面に投げつける。

 ボフッと地面から大量の白色の煙が噴き出し、私の周りを覆って天子から見える視界を遮る。

 私はジグザグに走りながら木々の合間を抜けてアリスの家にようやくつく。

 箒はアリスの家の屋根に絶妙なバランスでひっかがっていて、私がジャンプして届くか届かないかぐらいの高さに箒が傾いている。

「くそっ」

 私は罵りながら手を伸ばしてジャンプした。しかし、あと数センチというところで指が届かない。

 何度かジャンプしてみるが、同様に届かない。私は魔力で体を数秒間だけ浮き上がらせて屋根から箒を取った。

 急いで箒に乗って逃げようとしたとき、横からさっき天子が投げた緋想の剣が回転し、唸る音を上げながら私の腹のあたりを切り裂いた。

 電撃が体を駆け巡るように切断面から痛みが発生する。

「かあっ…!?」

 鋼でできた普通の剣であれば、私の上半身と下半身がわかれるように切断されていただろう。

 私は腹のあたりを押えながらうずくまった時、緋想の剣が飛んで行った方向から緋想の剣をキャッチする音が聞こえる。

「ぐっ……!」

 脳ではわかってる。動かないといけないことぐらいわかってる。でも、激痛がそれを邪魔して私の足は動かない。

「ははっ…!」

 ブーメランのように飛んで私を切り裂いた方向とは逆方向から走って来た天子が私の胸のあたりを切り付けてくる。

 血は出ない。出るのは喉が張り裂けそうになるほどの絞り出したような絶叫だけだ。

 肉体的なダメージはない。だが本当の鉄の剣で切り付けられたような激痛が私を蝕み、動くこともできずに私は地面に座り込む。

「これで、終わりね…」

 天子がつまらなさそうに呟き、緋想の剣を私に向けて構えた。

 緋想の剣がいくら肉体を傷つけなくても、頭を斬られればそりゃあ死ぬ。

 私は勝ち誇って油断している天子が振る緋想の剣に向けてレーザーを放ち、振る速度をできるだけ減速させて私は力いっぱいジャンプして緋想の剣をかわした。目の前に立つ隙だらけの天子に目がけて力いっぱい拳を叩きつける。

 魔力で強化した私の体は常人の数倍の攻撃力を誇る凶器となるが、普段から近接戦闘などをして戦っている物からしたら、人間と大差ないだろう。だが、いくら防御力が高くても強い衝撃に地面に踏ん張ることのできなかった天子は後ろに飛んでいき、木に背中をぶつけた。

「いっつ……」

 人を殴れば自分も痛いのは当たり前だ。しかし、岩でも殴ったようなこの感触にダメージはほとんどないと思った方がいいだろう。

 赤くはれてきた右手の握りこぶしを見てそう思い、傍らに落ちている箒に足をのせて空を飛んだ。

「……」

 空中で箒に座り、全速力でアリスの家から離れる途中、肩越しに後ろを振り返ると小さく見える天子がオレンジ色に輝いた。

 マスタースパークとは言わないが、私を包み込むには大きいぐらいの炎のようなレーザーが私に向かって放たれた。

 弾幕戦ならば私の得意分野だ。方向転換して天子に向き直る。

 天子のレーザーが私の真下で薙ぎ払われて木々をなぎ倒す。私はすれすれでそのレーザーをかわしながら四つの光の球体を生成。左右に展開してそれぞれからレーザーを撃つ。

 レーザーを撃つために止まっている天子に向けてありったけ撃ちこむ。

 天子は上下左右に巨大なレーザーを動かすが、私にはかすりもしない。そのため、天子は私にレーザーを撃つのを諦めてこちらに向かって跳躍する。

 飛んでくる天子の姿を見て私は違和感を感じた。天子の手には緋想の剣が握られていないのだ。

「…!?……いったいどこに!?」

 私は周りを見回した時、先ほどのようにうなりながら緋想の剣が後方から私に目がけて突っ込んできた。

「………っ!!」

 たてに回転しており、このまま何もしなければ頭を両断されて私は死ぬ。左右どちらかにかわそうとしても移動している間に死んでしまう。

 距離を取っていて完全に油断していた。緋想の剣がここまで届くとは思ってもいなかった。

「…!」

 動けない。

 でも、バランスよくほうきにまたがっていたわけだが、体が自然に動いてバランスの重心を大きく前に移した。

 空と地面が交互に視界に映し出され、グルンと私の体が一回転したのだと分かった。

 そのうちに私の上を緋想の剣が通り過ぎたらしく、正面方向を緋想の剣が天子に向けて飛んでいくのが見えた。

「…な……なんだ?」

 奇跡、にしてはできすぎている。

 思い当たるものと言えば一つしかない。アトラスが言っていたことを思い出す。アトラスはやり方なら彼女に聞いてくれと言っていた。もしかしたら、アトラスの言う彼女という人物が私に影響しているのだろうか。

 私は考えながら天子にレーザーを放ち、距離を取る。わざわざ相手の得意分野の領域に行くことなどない。

 私はポーチからマジックアイテムを取り出し、手の上で転がした。大きめのビー玉ぐらいの大きさの黒い球体に小さな黒い球体が無数に埋め込まれている。

 見た目は気持ち悪いというのが、実際のところだ。

「……」

 魔力でそのマジックアイテムを強化し、地上を走る天子に向けて私は投げつけた。

 天子がそれに気がついて撃ち落とそうとするが、目標が小さくて手こずっているようだ。

 だが、いつ撃ち落とすかわからないため、私は早急に命令を下した。

「爆発しろ」

 私がそう命令を下すと、中心の一番大きな爆弾が爆発。小さな球状の球体が四方八方にまき散らされる。私は念のため急いでそのマジックアイテムから距離をとる。

 私が使ったマジックアイテムは外の世界で言うところのクラスター爆弾というものと似ている。模倣してみたが、かなりの威力だ。

 本来はたくさんいる標的に使うものだが、確実に当てたかったため天子に使うことにしたのだ。

 地上が見えなくなるほどの大量の爆発が起こっていく。木の表面や地面が爆破され、砂煙が上がる。

 少なくとも、一発以上は天子に当たったはずだ。

 私は全速力でその場を離れた。

 あのようすじゃあ、天子からは情報を得ることはできないだろう。天子から私の姿が見えないように私は低空で空を飛んだ。

 

 怖い。怖いよ。

 こんなに怖い体験をしたのは生れて始めてだ。

 私は暗い洞窟の中で震えていた。ガタガタと手が震えて、その震えが止まってくれない。

 いままでにも敵意を向けられたことは何度もあった。同種から、妖怪から、人間から、でもどれも敵意であって殺意ではなかった。

 そう思いながら震えを抑えようと華奢な手を押さえるが余計に震えてしまう。

 カランッ……

「っ……!!」

 石が転がる音に私はビクリと大きく体を震わせ、洞窟の入り口の方向を見た。

 この洞窟はL字がたになっていて、私がいる奥は曲がっていて見られていない限りわからないはず。なのに、なんでチルノちゃんがこの場所にいるの?

 顔を出すと、すぐ目の前にいたチルノちゃんが私の二の腕を強くつかんだ。

「ひっ…!!」

 チルノちゃんの青い瞳が赤色に光る。

「…チ……チルノちゃん…!」

 私は掴んだチルノちゃんの手をとっさに振り払おうとした。でも、チルノちゃんの握りつぶすような握力に私は振り払おうこともできない。

「いぎっ…!!」

「……大ちゃん」

 恍惚とした表情のチルノちゃんが抵抗することのできない私にのしかかってきた。

「チルノちゃん……やめ…!」

 私がチルノちゃんを引きはがそうとしたとき、チルノちゃんが私のことを動けないように固定した。

「…大ちゃんは……なんでアタイから逃げるの?」

 チルノちゃんがまっすぐに私を見つめて呟く。

「…チルノ…ちゃん……!…だって…!」

 私が怯えたような表情を見せると、チルノちゃんが怒った顔になり、口を開けて私に近づいてくる。

 ズグッ!

 チルノちゃんの白い歯が私の首筋に触れ、食らいつく。

「あああああああああああああああっ!!」

 生暖かい血が切り裂かれた血管からあふれ出て、私の体とチルノちゃんの口元を汚していく。

 チルノちゃんの歯が私の骨を嚙み砕き、肉を引き裂く。

「…くあ…………あ…ぐ……っ!」

 私は耐え切れずに痙攣する手でチルノちゃんの頭を掴んで無理矢理に自分から引き離した。

「……お願いだから………止めて……チルノちゃん……!!」

 口元を血で汚すチルノちゃんは頬に触れる私の手に手を伸ばして掴んだ。チルノちゃんが食いちぎった肉を咀嚼もせずに飲み込み、私の伸ばした右手に今度は食らいついた。

「~~~~~~っ!!?」

 私の腕をチルノちゃんが食らい始める。

 またこうなるのか。びくびくと痙攣する体、私の体の一部を一心不乱に食べ続けるチルノちゃん。私はまた食い殺され、そのあと一回休みで私は生き返り、また食い殺される。

 何回目だろうか。

 ビシャッ!

 手を丸ごと食い尽くされた。その断面から骨が飛び出している手から私の血液が漏れて、顔にかかった。視界の半分以上が血によって赤く染まる。

 どうしようもないぐらい体のあちこちが痛んでいて、私は絶叫していた。こんな痛みには耐えられない。とにかくこの場所から逃げたい。私はとっさに能力を使おうとした。

 瞬間移動は私に触れている物と物を同時に運んでしまう。でも、逃げ切れるきっかけになるかもしれない。

 しかし、瞬間移動は見えている範囲でないと地面や壁に埋まってしまう。

 そう思っていたが、どうせ死んでまた食われる運命だ。最後に悪あがきといくことにした。

 私は瞬間移動を使った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。

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