もう一つの東方鬼狂郷と書かれていますが、前作とは関係がありません。
魔理沙や小悪魔の性格が原作とは違います。
それでもいい方は第九話をお楽しみください。
早苗の提案を断りながら、私は咲夜に分けてもらっていた紅茶を一口すすった。
「…何でですか?…二人ならばある程度の敵なら倒せるじゃないですか…!」
早苗が提案を断った私に食って掛かる。
「……主に二つ、断る理由がある」
私は言いながら紅茶が入ったカップを受け皿に置き、机の上に置いた。
「…なんですか?」
「……一つは目的の違い。私は霊夢を助けたい。お前は諏訪子と加奈子を助けたい。情報が入ればすぐに分かれることになるだろう。今回、私は霊夢を助けるために寄り道をするつもりはないからな……どうせ分かれるなら初めから一人で行動していた方がいい」
もう手遅れかもしれないが、私は霊夢が人を殺す前に助け出したい。だから、周りに構っていられない。自分勝手かもしれないがこれが本心だ。
「じゃあ、情報が何か見つかるまでは一緒に行動しましょうよ!」
「…だめだ」
「なぜですか…!?…こんな状態の幻想郷を一人で出歩いていたら命がいくつあっても足りないですよ!」
「……二つ目の断る理由は一つ目の続きだ。それは、時間がない」
「…時間…?」
早苗ではなく、それにはレミリアやパチュリーも反応した。
「どういうこと?魔理沙」
パチュリーが読んでいた魔導書を机に置いて私に言う。
「簡単なことだ…この異変が起きてから、この中で誰か首謀者を見たやつはいるか?聞いたでも構わん」
私に質問に、その場にいる全員が押し黙る。
「一日たっているのに、まだこの段階……異変の目的、理由、動機、そして誰が……それを現時点でどれもわかっていない……私たちは異変を起こした奴らに一日分の遅れをとっているんだ」
「……つまり、いつ異変が完了してもおかしくないから…手分けして探した方が効率的だと…そう言うことで間違いないですか?」
小悪魔が私に言った。
「ああ」
「…っ…わかりました…」
早苗は渋々といった様子で引き下がる。
「…あんたが急いでいる理由はわかったわ。…でも、今日ぐらいは休みなさいよ」
レミリアが言った。
「…ああ、そうさせてもらう」
私はそう言いながら、渋々と言った表情の早苗をちらりと見た。
しばらくして、咲夜に個室に案内された。
「………」
常に気を抜けなかった。いや、気を抜くことが許されなかった状態から解放されて私は気を休める。
咲夜から寝間着を借りて、それに着替えてベットに横になった。
精神的に疲れていたのだろう。眠気が襲い、目を閉じるとすぐに眠りに落ちてしまった。
「……予想以上に狂っていないやつが多いな」
作戦会議のように円形の机の椅子に何人か座っている。中の一人がそう呟いた。
「まあ、地霊殿の連中はもともと残る予定だったわけだから、少し増えたぐらいだろう……支障はないんじゃないか?」
そう言いながらそいつは机に肘をついてだらける。
「…何人か集まっていないようだが何をしてるんだ?」
「さあね、出たくないとか、めんどうくさいとかじゃないの?……もともと接点もあんまりなくて、気ままな連中も多い……一枚岩でないのは覚悟の上でしょう?」
「……そうだな…まあ、邪魔になるようなら消すだけだ……おまえたちも例外じゃないからな……そこのところよく理解しておけ」
そう彼女が言うと、今までだらけていたり、ふざけていたやつらに緊張が走る。
「……そう言うなら、お前も邪魔になったら消される覚悟があるんだな?」
さっきの発言が気にくわなかったのだろう。一人がそう言った。
「私抜きでこの作戦は成功しない」
「…博麗の巫女はこっちにいる……あいつよりも強い奴なんてこの幻想郷中探してもいない…つまり、お前の役目はもうないってことだ」
反論した女性が言った。
「……本当にそうか…?……じゃあ聞こう。もし、その考えが間違っていたとしたら?」
「……どういうことだ?」
「…さあ、なんだか嫌な予感がするんでね」
彼女がそう言うと、反論をした女性は腑に落ちないようだ。まあ、感などという根拠も何もないのが理由であればそうだろう。
「まあ、お前らがかかってきても私は一人を処理するのに一秒もかからないだろう……襲ってくるならそこのところをよく覚えておくといい」
「……。わかったよ……でも、なんでさっさと始めないんだ?だいぶ時間もたってて準備も終わっただろう?」
一人が言った。
「…念のためだよ。用心のし過ぎはわるいことじゃあないだろう?」
朝日が昇り始めたころ、私の顔に日差しがあたってその明るさによって脳が覚醒して、私は夢から逃げるように叫びながらソファーから転げ落ちる。
「……はぁ…はぁ……!」
胸を押さえて動機を鎮めようとする。冷や汗が止まらず、手が震える。
脳裏にべったりと張り付く霊夢の狂気の笑顔を振り払おうと震える頭を抱えた。
視界が歪み、みっともなく涙を流してしまう。
「…う……くっ……」
誰かとの相部屋でなくてよかった。こんなみっともない姿見られたくはない。
「…はぁ……はぁ……」
まるで全力疾走でもしたかのように息が切れる。こういうことを見越して咲夜は私を個室に案内してくれたのだろうか。
私はいつの間にか机の上に置いてある。タオルをつかみ取り、汗を拭いた。
咲夜から借りた寝間着を畳んで机の上に置き、いつもの服を着て支度を済ませた。
窓から見える外の景色、またあの地獄のような世界に身を投じなければいけない。私は目を閉じて腹をくくる。
「…」
私は気の抜けた頭の中を切り替え、部屋を出た。
入口に向かって歩いている途中、レミリアが壁に寄りかかって立っている。
「……世話になったな」
私がレミリアに礼を言いながら目の前を通り過ぎた。
「…魔理沙、何かあったら戻ってきなさい……たぶん私は紅魔館にいるわ」
黙って歩き続ける私にレミリアが静かな声で呟く。
「………その時は、頼む」
私はそれだけを言い残して館を出る扉の方に向かった。ドアを開けて外に出ると、大きな門が前方に見ええる。そっちの方向に歩いて行くと、誰かが立っているのが見えた。
「………」
「…おまえはいつから門番になったんだ?」
門の近くの壁に寄りかかった小悪魔に私は言う。
「……メイドの妖精たちだけの見回りではちょっと不安なので、私も見回りをしていただけです……門が破壊されれば止めるすべがないですからね」
小悪魔が私を殴った手の赤い腫れをポリポリと搔きながら呟く。
「……そうか」
私はその横を通り過ぎ、門を開けようとした。
「…どうするつもりですか?」
「…?…何がだ?」
私は一度門から手を放し、反対側の左手に持っていた箒を肩で担いで小悪魔を見る。
「わかりきってることですけど…相手はあなたに合わせてくれるほどやさしくないですよ?」
小悪魔が寄りかかっていた壁から離れて、私の隣にまで歩いてきて言った。
「…そうだな…この状況でわざわざ弾幕で挑んでくるもの好きもいないだろうしな…」
「…まあ、せいぜい頑張ってください」
「…私に超期待しているんだろう?このツンデレめ!」
私が冗談を言うと小悪魔が鼻で笑い飛ばしていった。
「そうですね……期待度的には…本気の天狗と子供が競争して子供が勝つぐらいには期待してますよ」
つまり、全然期待していないと。
「…酷い言われようだな」
私は手で門の扉を押し、ゆっくりと開く。おふざけはここで最後だ。
「…門を閉じるのはよろしく頼むぜ」
私が門を開けたことによりその音に反応して狂った妖怪、妖精たちが私の方向を向く。
即座に箒にまたがり、妖怪たちが私の元にたどり着く前に全速力で引き離し、森の中に逃げ込んだ。鬱蒼と覆い茂る木々が妖怪たちから私への視線を切ってくる。と思い突っ込んだが、うまくいってくれたようだ。無理に追いかけてくる奴はいないようだ。
今はとにかくなんかしらの情報を集めなければならない。
\\そう思ったとき、一人の女性が思い浮かんだ。
魔法の森には魔法使いの住人がもう一人いる。もしかしたらアリスも助かっているかもしれない。
私は魔法の森の方向に方向転換し、高度を上げた。できるだけ上空からの奇襲を防ぐためだ。
その高さともなると幻想郷中を見渡せる。周りを見合わすと、博麗神社や半分以上が倒壊した家屋がある村が下に見える。
そういえば、慧音はどうしたのだろうか。一番大きな村つまり、今私が見下ろしている村にいたはずだが、このありさまだ。奴らの仲間入りしていると考えるのがふつうである。
村から目を放し、博麗神社を見た。
神社に人は見えない。前日、咲夜たちが神社で死んでいる私のところに来て無事だったということは、霊夢はいなかったということだ。
「……」
昨日のことを思い出してしまい、箒を握りしめる私の手がわずかに震えた。ズキリと右目が痛む。これ以上昨日のことを思い出すと、殺されるという恐怖にきっと動けなくなってしまう。そのため私は記憶を脳の隅に追いやり、目先のことを考えることにした。
もうすぐ魔法の森につく位置にまで安全に移動することができた。
半日前まであった霧はすっかりと晴れていて、アリスの家の屋根が木々の間から見える。
私はゆっくりとアリスの家の庭に着地した。
「……」
警戒しながら窓に近づき、私は家の中を覗き込んだ。
中にアリスの姿はない。寝室にいるのだろうか。
がらりと窓を開けていつものようにアリスの家の中にお邪魔した。
「アリス、いるか?」
私がアリスの名を呼ぶも何の反応もない。でも、いつも通りの部屋に見える。
「……っ」
だが、そう思っていたのもつかの間、部屋の中を見回すと机の上に食事をしていたのか皿や食べたものが残っている。潔癖症並みの綺麗好きで常に部屋が片付いているアリスが洗い物を残して放っておくはずがなく、嫌な予感というものを感じた。
そう思ってから今まで見ていた景色の捉え方が変わり、陰になっていて見えなかったが、よく見てみると机の下の床に敷いてあるカーペットの上に陶器製のコップが割れていて、その破片があちこちに散乱している。
「……」
痕跡から見るに、アリスは食事中に襲われたのだろう。机の上に並べられた食べ物や食器などに触れると、冷たくなっていて、やはりだいぶ時間が経っているのがわかる。
私は机に箒を立てかけ、アリスの寝室に続くドアに向かった。
勝手に人の部屋に入るのは気が引ける。だがこの部屋の状態を見るに、緊急事態だ。
「…アリス…いるか?」
私はドアノブをまわしてドアを押し開けて寝室に入った。
この時まだ私は現実逃避をするようにアリスは無事なんじゃないかと甘い考えを持っていた。しかし、
カーテンが締まりきり、薄暗い部屋。鉄と血の独特な匂い。アリスの人形を操るためのワイヤーが切れて部屋中に広がっている。中身のワタがまき散らされているアリス人形がたくさん床に落ちていて、乾いた茶色い血がこびりついている。
それを見てしまった私は、自分の考えの甘さを思い知る。
「…………………嘘だろ…」
私はいつの間にか床に崩れ落ちていた。私の視線の先には頭の無いアリスの死体が壁に寄りかかっている。
首の断面から勢いよく血が噴き出したのだろう。血液が壁や服、床にこびりつき、色が変色している。
何かと戦い、敗れて殺された。自殺ではない。アリスの人形は全て破壊されているからだ。
首の切断面は綺麗に切断されていて、力技で千切られたり、レーザーのような熱線で蒸発させたりしたのではない。鋭い包丁や剣などの刃物で切り裂かれているのだ。
しかも、切断面から察するに、一撃でアリスの首を掻っ切ったのだ。相当な熟練者でなければできない芸当だろう。
「嘘だと言ってくれよ……アリス」
私はか細く震えて声でアリスに近づいていた。
「アリス…!」
私は大切な友人の冷たく、死後硬直で固くなっている死体に触れた。
「……」
視界が歪み、私は涙を流す。つまらないことで笑い、一緒に戦って中を深めた。それでも当然喧嘩だってした。しかし、喧嘩をした後に私を許してくれる時に見せる微笑みも、笑ったときの表情も、もう見ることも見せてくれることもない。
「…くそ……!…くそっ!!」
私は床を叩く。手が痛くて痺れても関係なく床を殴る。
ビギッ!!
そんな時、私の耳に何かが壊れるような、そんな音がアリスの死体の方向から聞こえてきた。
「……え…?」
ドォッ!!
私が俯いていた顔を上げるとアリスが背中を預けている茶色と白の壁を中心にヒビが広がり、こちら側に向かって壁が盛り上がり、爆発した。
たぶん明日も投稿すると思います。
駄文ですが、よろしくお願いします。