紅摩へと向かって踏み込むのと同時に、隻眼の鬼が反応した。それとは違う方向へと痴女が跳躍し、広い廊下を二分する様に戦場が交わらず、分断された。握りしめた斧を持ち上げ、紅摩へと向かって跳躍する様に踏み込みながら、一気にそれを振り下ろす。わずかに体を横へとズラしながら回避する紅摩の動きには野生の本能の様なものが見え隠れする―――鍛え上げられた人間の武ではなく、人間を超える上位種としての最も効率的で、自然なふるまい方だった。天然の鬼武とでも表現するべきだろうか、
紙一重をすり抜けた鋼の肉体が拳を作り、それを破壊する様に此方へと向けて振るってくる。所詮は使い捨ての武器、迷う事無く手放しながら、体を伏せる。そのまま空間と召喚の魔術で新しく斧を呼び寄せ、伏せた頭上に呼び出す。それは振るわれる紅摩の拳とぶつかり合い、召喚された斧の方が砕けた。頭上を越えて行く紅摩の拳、そこにダメージを感じさせない。
ならば、それはそれで良し。
伏せた状態から横へと滑りながら弓を取り出して速射、跳躍した紅摩が壁を蹴り、天井へと移動し、それに合わせ此方も弓を捨てながら斧を取り出し、床を蹴って廊下を蹴りながら移動する。天井を蹴って加速する紅摩と、廊下を蹴って天井へと向かおうとする此方で、交差する様に拳と斧がぶつかり、火花を散らしながらすれ違う。そのまま天井と壁を蹴り、廊下の奥へと向かって移動を繰り返しながらも跳躍を連続で、足場を縦横無尽に駆け抜けながら交差し、互いの武器をぶつけて行く。
「は―――ははは、どうした紅摩
「……」
「なんだ、少年って呼ばれるのが不服か? 俺の半分も生きてない上に未熟者であるならばガキ呼ばわりも道理だろう!」
笑いながら斧と拳がぶつかり合う。大分、式との戦場が離れた所で床を足場に足を止め、両手で握った斧が紅摩の拳とぶつかり合い、一瞬の停滞がお互いに生まれる。それを互いに、一瞬だけ筋力を強化する事によってお互いに後ろへと押し込み、距離が空いた瞬間に迷う事無く
「む」
受け流しながら腕を滑らせるように素手を走らせ、紅摩の腕を引っ張りながら外へと少しずつ押し出し、伸ばしながら硬直させる。そのまま逆側の手を掌底に紅摩の首を砕くように押し込む様に持って行く。その動きを紅摩が膝を折りながら体を下げて腕に余裕を作る事で回避しながら、そのまま、鋼鉄さえも粉々に粉砕する足を振るってくる。
「
その動きは既に読めていた故、掴んだままの紅摩の伸びきって硬直した腕を足場代わりに片手で体を持ちあげ、倒立しながら逆の手に斧を持ち出し、刈り取る様に反対側に落ちる様に体ごと、斧を下ろした。首を断つように振り下ろされた刃を紅摩が残った片腕で強引に押し出しながら、それを回避する。フリーハンドスタイルだと対応が早いと思いつつ、斧を放棄しながら後ろへと一歩―――つまりは紅摩の背に自分の背を押し付けるような形で密着しながら、武器を抜いた。形状は斧の刃をもっと複雑にしたもの。刃の部分だけを取れば、
「さて、
背中合わせのまま、時間もなく出現した
直後、熱を感じた。
―――あ、やべっ。
……本気にさせちゃったわねー。
「そうだなぁー……」
脳裏に流れる愛歌の声に言葉を出して答えた。
そして、
背中にやけどするほどの熱を感じながら前転しながら逃亡を企てれば、先ほどまで存在した位置が炎で包まれるのが視えた。筋肉がある上に鍛えており、戦闘経験と殺害経験あり、戦いや殺害に忌避感がない上に接近戦に持ち込んだ場合、確実なカウンターを決める為の武器がある―――現代人の準紅赤朱としてはほぼ完成されている戦闘力と呼べるかもしれない。少なくとも、人間というカテゴリーとしては最上位の一つだろう。
「まぁ、何とかなるだろう」
自分が負けるとは欠片も思わない。故に斧を手に取った。大戦斧を右手に、そして新しく大戦斧をもう一つ左手に。二斧スタイルにシフトしつつ、燃え上がる様な赤に変貌した紅摩の髪と目の色を見て、早めにケリを付けないと調子に乗りそうだな、と思い、後ろへと一気に引いた。直後、爆発するような熱量と共に灼熱が舞った。廊下が一瞬で炎の海に飲まれ、酸素が燃焼され始める。その中で、一気に紅摩が踏み込んでくる。その足が正面、懐へと踏み込んでくるのと同時に、
―――泥の剣が足を貫いた。
「あら、ごめんなさい」
灼熱が泥を蒸発させようとするが、それよりも愛歌の握る黄金の盃から零れる泥の方が多く、紅摩が飛びのいた。直後、紅摩の跳躍した方向へと向けて、まるで追尾する様に大地から剣の道が一気に生え伸びる。それを前に足を床へと叩き付けた紅摩の正面、灼熱が連続で爆裂しながら剣群と衝突し、泥を弾き飛ばす。その瞬間に踏み出す様に一気に飛び込んだ。踏み込みから対応へと紅摩が動き出そうとした瞬間、
―――紅摩の片足が吹き飛んだ。
「なっ―――」
「最初から最後まで、全力で叩き込んで行くぞォ―――」
タネは単純に剣が紅摩の足を貫いた時、その一部が足に付着したまま、という事実だった。それを爆発させて紅摩の足を奪った、それだけの事実である。だがそれで今、ほぼ行動不能に追い込み、そしてこの男が現在、再現された存在であるというのなら、殺さない理由はない―――心は無事らしいが、それがこの後歪まないとも限らない。
「さ、存分に滅びなさい?」
「一つ―――」
床を砕きながら奥義と挟み込む様に振り下ろし、大戦斧が蒸発した。同じように逆の大戦斧を振り下ろしながら、次のを引き出す。そしてそれもまた、振り下ろされる途中で新しいのを引きずり出す様に次の準備をする。
「二つ、三つ、四つ、五つ、六つゥ―――!」
繰り返して何度も振り下ろし、原形を消し去る様に何度も何度も逃げ場もなく、ミンチを通り越してジュースに変える様に殺す様に振り下ろし続ける。だがそれは十一回目で、武器の消費数的に燃費が悪くなる為、抑え込む様にマウントを取っていた足を解放しつつ、
「うぉぉぉぉ、ラストォ!」
「さようなら……覚えてたら来世で逢いましょう? いえ、この場合は人理修復したら、かしら」
泥がその姿をマンションの廊下の外へと、弾き出した。その姿へと向けて斧を一回転させながら出力を抑え、対城規模で斧を蒸発させながら半ば、力を投げ飛ばすような形で振り落とした。
「
床を触れた箇所から浄化による消滅を行い、消し去りながら廊下を飲み込んで消し去り、既に死に体近かった紅摩の投げ出された姿を飲み込んで一瞬で昇華して消し去った。完全に紅摩が消え去ったのを確認してから閉じていた掌を開き、それを軽くひらひらと振り、
「森の
「完全に野生動物扱い」
文明を捨てて俗世と交わらず、成長や発展を望まずひたすら引きこもって森の隠者を気取るなら一生筋肉だけのゴリラだ。自分から成長しようという考えのない奴は好きじゃないので、一生ゴリラでもチンパンジーでもなんでもいいから、好きに引きこもってろと言いたい。自分から未来を閉ざす奴はほんと興味ない。それはともあれ、紅摩の始末が終わったので、視線を戻して式の方へと向けた。紅摩との戦いの余波で派手にあっちこっちが崩壊しているが、式の方にまでが届いていなかったらしく、其方は比較的に平和な姿をしていた。
とはいえ、痴女の様な鬼は既に体がバラバラのパーツに解体されており、頭に至っては首を跳ね飛ばしてから真っ二つに割られている。これでは頭だけになって動いても、噛みついてくる事は出来ないだろう―――大江山の酒呑童子が源頼光公にやった様な不意打ちは到底不可能だろう、これでは。それに既に魔力の粒子となって散り始めている、完全に勝利したらしい。
「そっちは大分派手にやったみたいじゃないか」
「そっちも結構派手に解体したな」
「ん? あぁ、これ見よがしに神便鬼毒酒なんてもんを持ち出すからな。それに縁のある鬼なんて一つだろ? となると念には念を入れて
「あー……」
まぁ、アルトリアを見たり、暴君ネロを見たり、破壊の大王アルテラとか、後はオリオン&オリべえだろうか? そこら辺を見ていると、伝承ってなんだっけ? お前ら節穴か何か? って思いたくなるような事は多々ある。ただ最近はもう、そういう所に関しては諦めている部分がある。今度実は女性だったんだよ! というパターンを見ても驚かない自信がある。そもそもアーサー王が実は女性だったって誰か気づけよ。どう見てもあのケツは女のそれだろう。割とエロいんだぞ、あのケツは。
「……」
無言でニコニコと笑みを浮かべてくる愛歌が地味に怖いのでこの思考は切り上げよう。それはそれとして、戦いが終わったところで扉を抜けて、レンとフォウが出てくる。凄まじい惨状と戦場の様子にレンが呆れた様な表情を浮かべた。
「あの二人に勝てたのね……まぁ、だとしたら私達が勝てなくて当然だったわね」
「鬼種のコンビ、悪くはないけど俺達の相手には片手落ちだな」
「片方は人間を見下して遊んでいて、もう片方は鬼に心がなり切れていないもの。そんな不完全な混じり物じゃ勝てる訳がないし、人も鬼も関係なく平等に殺す魔眼の前では鬼がどれだけ硬かろうが一撫ですればおしまいなのだから意味はないわ。つくづく運が悪かったわね」
酒呑童子は人間を舐めてる―――というよりは独自の価値観で
紅摩に関してはもうちょっと面倒だ。全力だし、力の限りは尽くす。だが根底として彼はどれだけ鬼に近づこうが、人間であるという事に変わりはない。そして本人が人間的な意識を強く持っている。踏み外して鬼の方へと落ちれば更に強くなるだろうが、その精神力でそれを否定しているのだ―――それが逆に彼を弱くしていた。
どちらにしろ、鬼コンビは両方共、自身の事でオチがついた。
やや、不完全燃焼である。
「……」
―――屋上にいる存在の気配、ここから感じるんだよなぁ……!
びんびんと、ここにいるぞ、と物凄く主張する様に、濃い気配を感じる。ここまで来たらもはや間違える事は出来ない。屋上で待ち受けるラスボスが誰なのか、それを予想できてしまった。ほんと、察しがいいのってクソだな、と思いつつ、憂鬱な気分をなんとか蹴り飛ばす。
「ん? どうしたんだ里見?」
「いや、なんでもない。楽に終わる楽しい仕事がしたいって思ってただけ」
「なんだそりゃ。これも中々いいセン行ってると思うけど……まぁ、確かにどこか、役者に不満を感じる点はあるな。もうちょっと、こう、英雄っぽいのを出してくれると個人的には殺りがいがあって嬉しいんだが」
英雄からほど遠い連中しかこのマンションには出現できない。そういう怨念がここには漂っている。一階の竜殺しの大英雄に関してはこの際、見なかった事にしておく。ともあれ、
「先に進むか」
「ま、夜が明ける前に終わらせちまおうぜ―――明ける夜があるなら、って話だけどな」
今更ながらそれが怪しいんだよなぁ、と頭を抱える話だった。
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基本的に欠片も容赦という概念を見せないさとみー。そんな彼の装備する概念礼装はきっと2030であた。☆出して集めて殴り殺せ(マウントパンチ
オガワハイムも終わりが見えてきた代わりにラスボスも見えて来た。オガワハイムは地獄よー